終わりのリリィ 柊真昼、十六歳の転生(リインカーネーション)   作:志祈月織

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やっとヒロイン登場です。


高校生活のハジマリ

 海岸線を走る、一台のリムジン。その車内から、気だるげに窓の外を見ている少女が、呟く。

 

「あれが、百合ヶ丘女学院ですか」

 

 それは、とても美しい少女だった。まだ幼さが残りながらも、確かに大人へと成長途中の、可憐な容姿。長く伸びた赤みを帯びた、流れるような髪。モデル顔負けの、均整の取れたスタイル。

 

 彼女の名前は、楓・J・ヌーベルと言った。

 

 楓は、海岸線の向こうに姿を映す目的地、百合ヶ丘女学院に視線を向ける。

 海岸に面した地形を利用して、周囲の市街地を守るための天然の要塞。そういう前評判だったが、なるほど、と楓は頷く。

 

「守に易く、攻めるに難い──か。さてさて、立派なのは立地だけでないといいのですけれど」

 

 楓の言葉に、運転手が何事かと、視線を向ける。楓は手だけで何もないということを告げると、再び、窓の外へ目を向ける。

 

 そして、これから始まる三年間の学園生活での計画を検討する。

 なにせ、リリィが十全に力を発揮出来るのは、10代までとされており、それ以上は徐々にマギの力が衰え、CHARMを満足に起動することすらできなくなる。そうなれば、リリィとしては、死んだも同然。

 

 そのくせ、中学まではどんなに力があっても、ほとんど前線には出してもらえない。

 

 それはたとえ、中等部時代に所属していたレギオン予備隊を、世界最高評価のレギオンとしても変わらなかった。

 

 そんな、つまらない慣習に縛られた中学も終わり、やっと高校生活、リリィとして、真の戦場に出る時がやってきた。

 楓の、真の目的を果たす時がやってきたのだ。

 

 だというのに、だ。

 

(まさか、最初の一歩で躓くとは)

 

 楓はもともと、中等部まで所属していた聖メルクリウスインターナショナルスクールではなく、違う高校に進学するつもりでいた。

 

 第一希望は、東京のエレンスゲ女学園だ。あの学園は、新進気鋭のCHARM開発メーカー「アウニャメンディシステマス社」を経営母体に持つという、実家が世界一のCHARM開発メーカー「グランギニョル社」である楓にとっては、心情的には、進学しにくい学園だ。

 だが、それ以上に、年齢に関係なく実力主義で評価されること。

 

 そして何より、親G.E.H.E.N.A.主義のガーデンであることが、魅力的だった。

 

 なにも、G.E.H.E.N.A.という組織に対して、強い敬意を抱いているわけではない。むしろ、G.E.H.E.N.A.の黒いうわさが、まさしく真実であることを知っている楓にとっては、嫌悪の対象でしかなかった。

 

 だが、楓の目的のためには、G.E.H.E.N.A.に近づく必要があった。それがたとえ、楓の主義に反する、美しくない手段だとしてもだ。

 

 だというのに、幸か不幸か、楓の意志に反して、進学先は百合ヶ丘女学院となった。遺憾なことに、楓が関与しないところで、複数の学園が楓の進学先の権利を賭けで、様々な交渉が行われたらしい。

 

 楓が気が付いた時には、もう手遅れ。楓の計画は、始まる前に変更を余儀なくされた。

 

「まったく、他人のシナリオで動かされるのは、嫌になりますわ」

 

 だが残念ながら、今の楓に他人のシナリオを飛び出す力はない。なら、他人のシナリオを利用してでも力を手に入れるしかない。

 

 考えてみれば、百合ヶ丘女学院は悪くない。百合ヶ丘女学院はエレンスゲ女学園とは逆に、反G.E.H.E.N.A.主義を掲げるガーデンだ。学園のレギオンには、G.E.H.E.N.A.に対抗するための、特務レギオンがあるとも聞く。ならばこそ、楓が求めるG.E.H.E.N.A.の一般には公表できないような、そういう情報が手に入れられる可能性もある。

 

 世界的な評価に関しても、エレンスゲ女学園よりも上位で、より高度な教育を受けられるだろう。あの伝説のレギオン、アールヴヘイムを始め、世界的に名高いレギオンやリリィも数多く在籍し、自分の力を高める機会も多そうだ。

 

 多少遠回りとなるが、その分メリットもある。なら、計画を見直して、その中で最短の道を進む。

 自分の中に湧き上がる、この想いを遂げるために。

 

「お嬢様、到着致しました。いま、ドアをお開け致します」

 

 気が付けば、百合丘女学園に到着していた。運転手が動く前に、自らドアを開ける。

 

「ドアくらい自分で開けます。今日からは自分の面倒は自分で見なければならないんですから」

 

 そして、車から降りると、一人の女の子が立っていた。

 楓より、背は小さい。なかなか可愛らしく、楓の欲情をそそる子だ。

 なるほど、過保護な父親が、楓のために用意した使用人、というところだろうか。

 だが……、

 

「貴女、もう帰っていいですわ」

 

 そう、にべもなく告げるのだった。

 

 

「なるほど、同じ新入生だったのですね。失礼しましたわ」

 

 聞いてみると、彼女は楓と同じ新入生で一柳梨璃というらしい。

 うっかり付き人と間違えてしまったことを謝罪しながら、隣り合って校内を進む。

 

 どうも、一柳梨璃は素直な少女の様だ。感情が顔にすぐ出て、見ていて飽きない。

 そして、憧れのリリィを追いかけて、この学園まで来たらしい。そんな、好感が持てる少女だ。

 

「あら?」

 

 しばらくすると、人だかりができていることに気が付いた。

 様子を見ると、どうやら中心にいるのは、二人の生徒のようだ。

 

「なんでしょう?」

「大方、血の気の多いリリィが誰かに突っ掛かっているのでしょう」

 

 リリィ同士がCHARMを向けあうことに、抵抗を示す梨璃。

 一方、楓は冷静に、その様子を観察する。

 

 中心人物二人の顔には、覚えがある。事前に調べた、百合ヶ丘女学院の中でも、特に有力な生徒リストに名前があった。

 

 一人は楓と同じく、今年一年生となる遠藤亜羅椰。歴代でも屈指のフェイズトランセンデンス使いと言われるリリィだ。

 

 そして、もう一人は白井夢結。伝説のレギオン、アールヴヘイムのヘッドライナーとして様々な戦場で戦果を挙げ、また御台場迎撃戦では第1部隊に所属し多数のギガント級ヒュージを撃破したという、百合ヶ丘を代表するリリィの一人だ。

 

「さて……」

 

 この状況、静観するのも悪くないが、いい機会でもある。

 この場のイニシアチブを握れば、このガーデンでは外様である自分の存在をアピールすることができる。この学園で、上位のリリィに駆け上がるためには、多少強引な手段をとるのも、悪くはない。

 

 楓の隣で、うろたえている梨璃をその場に残し、一人渦中へと飛び込んだ。

 

「お待ちになって。このわたくしを差し置いて、話を進めないでいただけますか」

「……貴女は?」

「ごきげんよう。わたくし、楓・J・ヌーベルと申します」

 

 訝し気な夢結に対して、優雅に一礼する。

 

「夢結様にお会いできたこと、光栄に存じます、しかしまずは、そちらの無礼者の非礼、お詫びいたしますわ。この場はどうか、穏便に収めていただけないでしょうか?」

「まさか、その無礼者って、私のことではないでしょうね?」

 

 楓の背後で、怒気をはらんだ声がする。眉にしわを寄せる、阿頼耶だ。

 

「あら、そう聞こえませんでしたか? 入学式というハレの日に、いきなり上級生に喧嘩を売るような方、無礼者で十分ですわ」

 

 そう、挑発するように笑う。

 

「貴女、もしかして喧嘩売っている?」

「ふふ、まさか。喧嘩というのは、同じレベルの者の間でしか発生しないものですもの」

「……なるほど。とりあえず先に、貴女から叩き潰すことにしますわ」

 

 そういって、阿頼耶がCHARMを構える。

 ここまでは、楓の計算通り。好戦的な阿頼耶を焚きつければ、目標が夢結から楓に移るのは明らかだ。そして、ここからが本番。阿頼耶との立ち合いで、この学園での楓の立ち位置が決まる。

 

 この観衆の目前で、大口を叩いておいて、無様に負けでもすれば、身の程知らずの目立ちたがりという最悪のレッテルのもと、三年間を過ごすことになる。

 だが逆に、阿頼耶という実力あるリリィを華麗にあしらうことができれば、まずは自分のこの学園での立場を、確立することができるだろう。

 

「さて、わたくしの力は、このガーデンで通用するのでしょうか」

 

 楓は、そう呟いてから、微笑を浮かべる。通用するか、ではない。そんな、弱気な考えでは、真昼の目的は果たせない。この程度の壁は、軽く飛び越えなければならないのだ。

 

「夢結様、この場は、わたくしがお預かりしてもよろしいかしら」

「好きにして。もとから、私には関係ないわ」

「結構ですわ。では、始めましょうか」

 

 楓は、肩にかけたケースのカギを開けると、中のCHARMへと手を伸ばす。その中から、愛器であるジョワユーズのグリップを掴もうとする。

 

 だが気が付いたときに掴んでいたのは、細くて柔らかい腕だった。

 

「え?」

 

 そう呟いたのは、誰だったか。

 楓は掴んだ腕を引っ張り、影から近づいていた人物の背後に回り込む。そして、スカートの下、太ももに固定した、取り回しがしやすいダガータイプの第一世代CHARMに、空いた手を伸ばす。

 

 そこで、気が付いた。

 

「り、梨璃さん!?」

「い、痛い……」

 

 顔を歪める梨璃を見ると、楓は慌てて掴んだ腕を離した。

 いつの間にか接近して、楓の腕を掴もうとしていた梨璃を、逆に掴んでしまっていたのだ。

 

「すみません。ですが、CHARMを抜こうとしたところに近づいたら、危ないではないですか」

「うぅ……だからだよ、リリィどうしでCHARMを向けあうなんて、いけないよ」

 

 弱々しくも、そう主張する梨璃。その姿に、楓は納得する。

 どうも、梨璃は敵意や害意を持って楓に近づいたのではなく、純粋に争いを止めようとしていただけなのだ。

 だから、楓もその接近に、触れられる直前まで気が付かず、反射的に手荒い行動をしてしまったのだ。

 

 楓が望んで身に着けた訓練の成果が出たことを喜ぶ半面、相手も確認せず、むやみに力を振るってしまったことを反省する。

 

「……はあ、水を差されましたわね」

 

 どうにも、気が抜けてしまった。不完全燃焼ではあるが、阿頼耶との立ち合いも仕切りなおす、という気分ではない。それでは、この場をどう締めるか、と楓は頭をひねる。

 

 

 そんな時だ。校内に、チャイムの音が響き渡る。

 それは、学園をヒュージが襲撃した合図だった。

 

 

 

「これは、好都合ととらえるべきか、悩みどころですわね」

「なにか言ったかしら、ヌーベルさん?」

「いえ、別に。取るに足らない、戯言のようなものですわ」

 

 少し前を歩く夢結に、楓は肩を竦めながら答える。

 どうやら、校内を襲撃したというヒュージは、学園で研究用に捕獲していたヒュージが脱走したためのものだった。

 ずさんな管理をしている、とも思うが、ただ、先ほどまでの出来事を有耶無耶にできたのは悪くない。

 

 結局、あの場を収める都合のいい理由が思い浮かばなかったのだ。

 

 ──自分から挑発しておいて、気分でなくなったのでやめましょう、なんて、さすがに言えませんもの。

 

 そして、不完全燃焼をヒュージ討伐という形で発散できるのも、悪くはない。

 場を仕切り直し、ヒュージを倒すことで、自らの力を示す。

 

 だが、不安要素もある。

 

 一つは、夢結だ。

 百合ヶ丘女学院三役「ブリュンヒルデ」出江史房の命令で、ヒュージ討伐は夢結と組むことになった。

 目的のヒュージは周囲の環境に擬態する、という厄介な性質を持っているらしい。なら、不測の事態に備え、チームを組むことは悪くない。だが、史房の言葉が気になる。

 

「あなたには、足手まといが必要でしょ?」

 

 足手まとい扱いに、不服があるわけではない。楓は、この学園では何の実績もない新入生だ。だから、史房の評価は正当だし、楓もそれがわかっている。

 

 だけど、夢結に対して、なぜ足手まといをつけようとしたのか、わからない。

 

 ──そういえば、と事前調査で確認した、夢結のプロフィールを思い出す。

 

 ある時期から、夢結は無謀な単独行動を好むようになった。そして、精神的な疾患を患っている可能性もある。

 

 つまり、楓に求められているのは、夢結の暴走を抑えるための足枷ということだ。

 

 なるほど、白井夢結というリリィは、評判通り優秀ではあるが、優等生ではないというわけだ。

 

 そして、もう一つの不安要素。

 

「これ、全部ヒュージがやったんですか?」

 

 楓と夢結の少しあと、ヒュージによって廃墟となった街並みを見まわしながら歩く梨璃だ。

 役に立ちたい、と言って、楓と夢結についてきたのだ。

 

 山間に入ったあたりで、夢結から、周囲の特徴的な地形について歴史的講義を受ける梨璃を見ながら、楓は考える。

 

 梨璃は楓と同じく、高等部からの編入性だ。それも、二年前にリリィを目指し始めた補欠合格生。つまり楓とは違い、別のガーデンで中等部時代にリリィとしての教育を受けたわけではないということだ。なら、個人的にリリィとしての教育を受けた、ということだろうか。

 自分で考えて、楓は自らその考えを否定した。ヒュージに対して唯一の対抗手段であると言っても過言ではないリリィを一個人が独占して、専任教師にするなど、かなりの資産家でなければ難しい。意地の悪い言い方になるが、地元から始発電車で学園まで来る梨璃が、楓に匹敵するほど裕福とは考えにくい。

 

 そして何より、立ち振る舞いだ。近くにヒュージが潜んでいる可能性があるというのに、緊張が感じられない梨璃が、訓練を受けているとは考えにくい。

 

「……ねえ、梨璃さん」

 

 ふと、気になり楓は梨璃に声をかける。

 

「あなた、CHARMとの契約は、済ませているのですよね?」

「ほえ?」

 

 気の抜けた返事をする梨璃に、楓は不安を増大させる。

 

「だから、CHARMは起動できるのですわよね?」

「どうなの、一柳さん?」

 

 楓と夢結から疑惑の視線を向けられると、梨璃はうつ向いて、小さく答えた。

 

「その……ごめんなさい」

 

 嫌な予感が当たってしまった。

 楓は、大きくため息を吐きそうになるのを、ぐっとこらえる。

 

 本当は、CHARMも満足に動かせずによく戦場に来たな、と文句の一つも言いたいところではあるが、その可能性に気が付かなかった楓にも落ち度はある。

 

 しかし、どうにも今日は運がない。物事が、すべて楓の意図しない方へ向かっている。これが運命だというのならば、どうやら楓は運命の女神にとことん嫌われているらしい。

 

 だが、嘆いてばかりはいられない。今この瞬間も、ヒュージに襲われる可能性があるのだ。

 

「夢結様、一度学園に戻りましょう。満足に戦えない梨璃さんがこの場にいるのは、危険です」

「ええ、そうね」

「そん、そんな! 私だって、戦えます!」

 

 そう、必死に訴える梨璃に、冷たく夢結が言う。

 

「CHARMも起動できないで、どうやって戦うの? 今の一柳さんは、足手まといどころか、お荷物でしかないわ」

 

 非情だと思うが、正論だ。そして何より、梨璃自信を守るためである。

 

「……はい」

「理解したなら、早く学園に戻りましょう」

 

 歩き出す夢結に、楓が続く。だが、少し歩いたところで、周囲の違和感に気が付く。楓のレアスキル、レジスタの恩恵の一つでもある俯瞰視野が、その違和感を見逃さなかった。

 

 近くに、ヒュージが潜んでいる。

 

「みなさん、警戒を──」

 

 言い終わる前に、CHARMを起動して楓は走り出した、

 

 夢結の言葉にショックを受け、未だ動けずにいる梨璃のすぐそばに、ヒュージがいたのだ。

 ヒュージに気が付いた梨璃はCHARMを握るが、当然起動しない。

 

 ヒュージの凶刃が迫り、梨璃は反射的に目をつぶる。

 

「失礼しますわ!」

 

 その梨璃の腕を掴むと、楓は全力で引っ張った。無抵抗の梨璃と入れ替わる様に、楓がヒュージの前に躍り出る。

 

 楓はCHARMでヒュージの刃を受け流すが、体勢が悪い。楓の右腕に、熱のような痛みが走る。

 楓は歯を食いしばり、その痛みをこらえるとCHARM、ジョワユーズを振るう。

 

 ジョワユーズを巧みに操り、射撃と斬撃を使い分け、ヒュージと対抗する楓。

 

「ヌーベルさん、下がって!」

 

 夢結の声に、楓はヒュージの攻撃をジョワユーズで受けると、その反動を利用して大きく後ろへ飛んだ。

 そして、閃光がはじけた。夢結が目くらましを行ったのだ。

 

「一時撤退よ」

 

 梨璃を抱えて立つ夢結の後ろに、楓は傷口を抑えながら頷いた。

 

 

 ヒュージから逃げるように安全な場所まで移動すると、楓は手持ちのハンカチで、傷口を固く縛る。雑な応急処置ではあるが、しばらくすれば、出血は止まるだろう。

 

 ──けど、これは傷が残るかもしれませんわ。

 

 そんなことをぼんやりと考えていると、目元に大きな涙を浮かべた梨璃が頭を下げた。

 

「ごめんなさい、楓さん!」

 

 楓がケガをしたことに、責任を感じているのだろう。

 

「別に、気にしなくていいですわ。リリィをしていれば、多かれ少なかれ、怪我はつきものですもの」

 

 梨璃の隣に、夢結が立つ。

 

「ヌーベルさん、ごめんなさい。私も、不注意だったわ。上級生として、私がもっと気を払うべきだった」

 

 そう言って、夢結も顔を伏せる。場を、重い空気が支配した。その空気に、楓は耐えられなかった。

 

「ああ、もう。二人して、なにお通夜みたいな空気を出しているんですの! ここは戦場ですのよ! もっと気を敷きしめてください!!」

「でも、私がしっかりしていれば……」

「じゃあ、次はしっかりすればいい。ただ、それだけのことですわ」

 

 そう、楓は当たり前のように言った。

 

「梨璃さん、今はヒュージとの戦闘中ですわ。公開や反省なんて、後回し。ただ、次にするべきことだけを考えて、動けばいいのです」

 

 別に、梨璃に不満がないわけではない。けど、そんなことは些細なことだ。梨璃をかばったのは、楓が自分で選んだこと。その結果、楓がケガをしたのは、自身の実力不足。すべての失敗は、楓の責任だ。その責任を他人に押し付けるつもりなど、微塵もない。

 

「夢結様も、上級生だというのなら、ちゃっちゃとこの場を仕切ってください! 次にわたくし達がどう動くのか、支持してくださいな」

「──そうね、今はこの場を乗り切ることを考えましょう。ありがとう、ヌーベルさん」

「この程度のこと、感謝されるまでのことはありませんわ」

 

 そして、しばしの作戦会議の後、結論としては、三人でヒュージと戦うことを選んだ。周囲の環境に擬態するというヒュージの性質上、遠くに逃がしてしまえば、次に発見するのは難しい、なら、多少は無理をしてでも、近くにいるうちに討伐することにしたのだ。

 

 ただ、やはり戦闘能力のない梨璃が問題となる。なので、この場で梨璃とCHARMの契約を行うこととなった。

 その補佐を夢結が行い、楓はヒュージの発見、逃げられないようにヒュージと戦い、梨璃と夢結の造園を待つ。そういう作戦だ。

 

 負傷している楓が危険な役目を引き受けることに、梨璃と夢結は反対したが、レアスキルにより感知能力に優れる楓の方が適任だと、意見を押し通した。

 

 ──怪我人扱いするのもされるのも、いい気分はしないものですわ。

 

 そして楓はレアスキル、レジスタを発動し、走り出す。

 レアスキル、鷹の目までとはいかないが、高い俯瞰視野を手に入れた楓は、周囲の些細な違和感も見逃さない。

 

 そして、すぐに楓は目的のヒュージを見つけた。

 

 そのヒュージは、すでに討伐されていた。

 

「え?」

 

 楓がたどり着いた場所にいたのは、すでに朽ち果てたヒュージと、百合ヶ丘女学院の制服を着た一人のリリィ。

 

「なるほど、これがヒュージか。思ったより、手ごたえがなかったなぁ」

 

 どうやら、そのリリィがヒュージを討伐したようだ。だが、楓はそんなこと、どうでもよかった。

 楓は、そのリリィから目が離せなかった。

 

「あれ? 他にもこのヒュージを狙っている生徒がいたんだ。でも早い者勝ちってことで、許してね」

 

 そう言って、そのリリィは振り向く。

 

 それは、やはり見間違いなどではなかった。最後に会った時から十年は経過しているが、まちがいない。

 どんなに成長しても彼女のことを見間違えるはずなどない。

 

 楓は、そのリリィの名前を呼んだ。

 

「真昼!!」

 

 楓が十年間、再会を望んでいた最愛の恋人。柊真昼が、そこにいた。

 




本作のヒロイン、楓・J・ヌーベル登場でした。
アサルトリリィで一番好きなキャラで、楓の活躍が見たくてこの小説書き始めました。
楓の魅力を出していけるように、頑張ります。
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