Re:incarnation.ゼロから始めるデイウォーカー   作:興梠 すずむし

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わぁいしんさくだぁー


異世界で新たな生活を始めよう

「おーい、大丈夫か?え、これヤバくない?おーい」

 

────熱い、熱い、熱い、熱い

 

酷く熱を感じる中で、気の抜けた声がかかるのを何とか聞き取る。

 

口の端から絶え間なく自分の命を支える血液が溢れ出ているのを感じる。目の前は既に自分の血で真っ赤に染まっている。

 

「なあなあ、我の血、いる?ほれほr───かぺっ」

 

声の主を思い出したが、場違いな声掛けに少々苛立ちが募る。

 

自分の視界に入るよう目の前に手首を出して指でつついていた人物が、不意に言葉を途切れさせる。

 

ごとり、と目の前に少し前に出会った同じ境遇の顔見知りの顔が落ちてきた。否、それは頭だった。

死にゆく中で、最後まで呑気に声をかけていた人物が死んだ事を知覚した。

 

「痛いが!?」

 

「あら、ごめんなさいね?でも、あなたが───?」

 

ここらで、声が聞き取れなくなってくる。

目の前にある頭の人物の声が変わらず聞こえた気がしたが、気の所為かもしれない。

意識が混濁してきた自分にはどうにも判別出来なかった。

 

まだ、やりたいことが。やりたいと思えたことが出来たというのに。ここで自分は死ぬのかと。

 

「あな─たち─にを─いるの!?」

 

「うぇ!?我チ─ウ!!ヤ──ナイ!!冤ざ──ん対!!」

 

「あら……」

 

自分の血溜まりを踏み散らして、黒い靴が通り過ぎていく。

 

最後に、心残りになった、銀色を見て。

 

「……俺が、必ず────」

 

救ってみせる。

 

その意思の発露を最後に、意識が暗転した。

 

✄--------------- キ リ ト リ ---------------✄

 

「んぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーーーーーーーっ!!眩しい眩しい灰になるぅーーーー!!?かげ、かげ!!日陰ぇーーーー!!!」

 

1文無しに途方に暮れていた少年、ナツキ・スバルが耳にしたのは、どこか風鈴を連想するような澄んだ声を酷く汚く発した少女の声だった。

 

声のする後ろへ振り返ると、綺麗に染め抜かれた黒い着物がのたうち回っていた。

 

どうやら日陰を探しているようだが、生憎と今は日がそれなりに高く昇っているため、あまり物陰はなさそうである。

 

「あ、あー……。おーい?そこの黒い塊してるちっこいの、大丈夫か?」

 

あまりの暴れっぷりに心配になったスバルは、少女らしきものに近づいて声をかける。

 

「ひ、日陰!!」

 

「ッて、オイ!?」

 

なんと、あろうことかスバルの足元に影を見た少女が、躊躇うことなくスバルのデリケートゾーンへ突っ込んで来た。

 

「チクショウ、なんてことしやがる!もっと慎み持てよ、乙女だろ!?俺もうお婿にいけない!」

 

当の少女は、スバルの股の間に挟まって話も聞かずに日陰を堪能していた。ひどく落ち着いた表情がなんとも腹立たしい。

 

「なあ、あのさ。そろそろどいてくんない?俺、この絵面を誰かに見られたらあらぬ誤解を受けると思うんだ」

 

「まぁまぁ、よいではないかよいではないか」

 

「いや良くねぇよ!?他人事だからって雑にまとめ過ぎじゃね!?」

 

酷く適当な返事でもって返答を返す少女にスバルのツッコミが突き刺さる。

 

足の間に異物が入り込んで歩きにくい中、何とか屋根のある場所まで移動して少女を解放した。

 

「んで、股ぐら少女。お前、名前は?」

 

スバルの呼びかけに、股ぐら少女と称された当人は酷く不服そうな顔をしながらも返答する。

 

「股ぐら少女とは失敬な。我にはれっきとした高貴な名前があるのだぞ?」

 

ほとんどない胸を張りながら、少女は誇らしげに顔を歪める。ドヤァ、という擬音がとても似合ういい表情をしている。

 

「へいへい。じゃあ、その高貴なお名前は?」

 

「名前を聞くならまずは自ら名乗れ小悪党顔め」

 

「名前聞いただけでそこまで言う!?」

 

尊大な態度で少女はスバルに名前を促した。少女からの不当な扱いに渋々名乗る。

 

「俺の名前はナツキ・スバル!無知蒙昧にして添加不滅の無一文!」

 

「クソみたいな肩書きだな」

 

「お前さっきから酷くねぇ!?」

 

真顔でサラッと毒を吐かれ、ついにスバルは涙目になった。対して少女は自己紹介に移ろうと言うのか、目を瞑ったまま声の調子を整えるために咳払いを数度する。そしてカッと目を開き、名乗りを上げる。

 

「我が名はぁ"っ、ぐっ、ぇえ"っほえ"ほ!?ゲェホゲホゲホゲホ!!クァ……っ!ぐぇほっげほ!!ォェ」

 

「おーけーわかった落ち着け少女。深呼吸しようぜ深呼吸」

 

上げられなかった。肝心の名前が出る前に盛大にむせてしまい、なんとも締まらない。

未だ苦しそうにしている少女の背中をさすり、落ち着くまで待つことにした。

 

「ふぅ……。すまんな。世話になった」

 

「いやま、いいけどさ。結局のところ、名前は?」

 

「うむ、では名乗ろう!我が名はイニュラ・ベルガモット・アルバローズ・ムスクシード・ヘリクリサム・マジョラム・スイート!!癒しと解放を善しとする吸血鬼よ!!人には難解であることも承知している故に略称を呼ぶことを許す!!ニラと呼ぶがよいぞ!!」

 

「いや、ニラはやめとけ!?なんか臭いがキツいやつみたいになってるから!」

 

「な、何おぅ!?我が友から授かりし略称だぞ!?」

 

「だとしたらその友達ぜってぇ性格悪いぞ!?」

 

「え。あ、いや……。確かに、その、お世辞にも性格が良いとは言えぬがな……?で、でも根は良い奴なのだぞ?」

 

「自信無くなってんじゃねぇか……。もっと、こう、他にあるだろ?」

 

しばらく友達から貰ったというとても夜に飲み会などで食べてきて翌朝家族に嫌な顔をされる罪作りな野菜のような名前をどうするかを悩んでいた少女だったが、取り下げる決心をしたようだ。

 

「ふむぅ……。致し方ないな。すまん、ユフィ。お前の日頃の行いのせいだと思っておいてくれ」

 

「たぶん気にしないと思うぞ、ソイツ」

 

「否定出来ん……。そうだな……では略称だが、アルバはどうだろうか」

 

「なんでそんな属性過多なリーゼントドラゴンみたいな名前になっちゃったの!?ピンポイントでダメなところに向かいすぎじゃね!?」

 

「な、なんぞそのドラゴンは……?見たことも聞いたこともないぞ?」

 

「絶対落ちるヘリを作ってる偉大なゲーム会社が作った最高のハンティングアクションゲームに出てくる伝説のドラゴンだ。色んな属性攻撃をしてくるぞ」

 

「わけが分からん」

 

困惑しきりな少女であるが、よくよく見てみればなんとも綺麗な顔をしている。

 

髪は腰まで癖なく伸びた澄んだ血のような透き通った紅色をして怪しげな雰囲気を纏い、藍色の組紐で毛先から10cm程のところでまとめられている。

肌は暖かみのある雪のようで、シミのひとつもない。

彼女が身につける金の刺繍が施された黒い着物は着崩されており、その白い肌をよりいっそう引き立てている。

瞳は曇りない空を写したような青色をしており、静かな湖畔をイメージさせる。本人にはそんな落ち着いたところは一切ないが。

足には紅色の花緒の付いた底の厚い草履を履いている。

 

思わず異世界の残念美人に見惚れてしまったと考えたスバルは、はたと違和感を感じた。

 

はたして、この異世界の西洋チックな街並みの中で、彼女のような和服の少女がいるのだろうかと。

 

「おい、スバル。我では思いつかん。ヌシが考えよ」

 

思考の沼に沈みかけたスバルを、やたらと長い名前の少女が引き戻した。とりあえずは浮かびかけた疑問はさておき、少女の要望に応えようとした。

 

「よぉし任せろ!名付けに関しちゃ一過言あるんだぜ、俺」

 

なお当社(スバル)比のもよう。

ちょいと待ってろよ、とスバルは唸り声を上げながら必死に頭を捻る。

 

「ほれ、早うせい」

 

割とワクワクした様子で促す少女に、スバルは。

 

「……なぁ、ごめんなんだけど名前書き出してくんない?さすがに覚えきれねえわ」

 

自らを吸血鬼と宣った彼女は、古典的な漫画のようにずっこけた。

 

「ぬ、ヌシなぁ……。ほれ、これで良かろ」

 

口の端を牙で噛み切り、滲んだ血がふっと口から吹かれた息でサラサラと浮き上がり、カタカナでフルネームが表示される。

 

「おぉー!?血が浮いて文字に!初めてのファンタジーに触れて俺ちょっぴり感動してる……!」

 

「良いから早うせい!?話が進まんだろうが!」

 

促され、何かいい案がないものかと考えを巡らせる。そこで彼女の名前に「ベルガモット」があることから、その名前には共通してアロマが関係していることに気がついた。

これはなんの偶然か、天体とアロマは占い的に関係が強いのだと何かで読んだスバルは、どのアロマがどの天体と、関係が強いかを絞り出した。

そこで、ローズは金星に属していたはずだと思い出す。

 

「パッと閃いたぜっ!ローズと金星!金星、もといヴィーナス!もじってヴェナでどうよ」

 

「原型がないではないか」

 

「あれ、お気に召さない!?」

 

割と渾身の名前だっただけに、ちょっぴりショックを受けた自分を自覚した。

 

「しかし、ふむ。ヴィーナス、か。ふふっ。まぁ、その名前、受け取ってやろうではないか!せっかくない頭を捻って考えてくれたのだしな?」

 

ニヨニヨと頬を緩ませながら満足気に頷き出したスバルは素直に受け取れない少女、もといヴェナ(仮)に茶々を入れる。

 

「名前貰う側の態度にしちゃぁデカすぎねえ?」

 

「……。」

 

じっとコチラを見つめて無言になりだした吸血鬼、改めヴェナ(仮)。

軽く放った最後の言葉がいたく気に入らなかったのだろうかと不安になってくる。

 

「おい、何か言うことがあるだろう」

 

「え?あっ、ごめんなさい……」

 

「違う違う違う。そうじゃ、そうじゃない!」

 

ぐっと親指で自分を指し示して主張する。彼女が何を求めているのか、察しのついたスバルは口の端を吊り上げて、オマケにサムズアップしながらしっかりと口に出した。

 

「これからよろしくな、ヴェナ!」

 

「うむ!よろしくされてやるぞ、スバル!」




略称じゃなくてあだ名になったけど気にしない気にしない。
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