キングダム×人智統合真国シン 作:飛信隊
多分全部で五話とか。
「
男がそう叫ぶと、朱色の矛は大男の体を確かに切り裂いた。
誰もが望んだ結末。
誰もが夢見た大団円。
一生倒せないのではないかと思われていた男、龐煖が討ち取られた瞬間がまさに眼下で広がる。
その場に居合わせた者はみんな、そのあまりにも荒唐無稽な事実に驚嘆の表情を隠せずにいた。
「信が、信がっ!! 龐煖を倒したァァ!!」
「信殿、信殿っ」
「ああ、ああ……」
「あの王騎将軍も、麃公将軍も勝てなかった……あの龐煖を……」
「俺たちの信が討ち取ったぁぁ!!」
「ウォォォォォ!!」
あまりの感動に咽び泣く者。
いまだ事実を受け止めきれず放心する者。
大きすぎる武功に有頂天に達する者。
その誰もがこの偉業を成し遂げた男、飛信隊の信へと声をかける。
その声たちに絶望はない。あるのは溢れかえるほどの幸福感のみ。
ここが戦場だということすら忘れてしまいそうなほど、その場は幸せで満ち溢れていた。
「隊長? 隊長、大丈夫ですか?」
しかしその幸福感も束の間。
ある部下が、龐煖を討ち取ったのに何も言わない信を不思議に思い、そっと顔を覗き込んだ。
「あっ……」
そして気付いてしまう。
龐煖を討ち取った代わりに、大切なものがなくなっている事実を。
あの男を殺すために差し出してしまった、その対価の重みを。
周りがそれに気付いた瞬間、信の体は静かに地面へと吸い込まれていった。
*
男は気がつくと見たこともない空間にいた。
あたりを見回しても草木一つ生えていない荒野。空は鈍色に光り、地面からは生命を感じない。殺風景という言葉がひどく似合いそうな風景に、ただ一つだけ存在するのは天を貫く紅い階段だった。
男はボーとそれを眺めながら、なんとなしにその階段を登ってみることにした。
別に登らなければいけないわけじゃない。かといって、登ってはいけないわけでもない。
ただなんとなく、男はその階段に引き寄せられている気がした。こっちに行けば何かありそうな、そんな曖昧な感覚に誘われて、男はフラフラっと階段に足をかける。
「信。お前の行くところはそっちじゃないぞ」
が、その瞬間聞き覚えのある声が聞こえた。
一体誰が話しかけてきたのか。
男は気になって、ゆったりとした動作でその声が聞こえた方向へと振り返る。
「……漂? あれ? 何で?」
そこには死んだはずの友がいた。
ともに何かを誓い合った家族がいた。
もう会えるはずのない存在が、男の前で確かに立っていた。
それなのに彼は全く感動する様子もなく、ただ淡々と己に課せられた役割を告げてくる。
「よ。案内しにきたぞ。お前が今から行くところはその階段じゃないからな」
そうやって指さされたのは小さな小さな穴だった。
人が1人通れそうなくらいの真っ暗な歪みだった。
穴の向こう側はこちらから見えない。ただ向こう側には何かあるということだけが伝わってくる。
有り体に言えば不気味でしかないその入口に、男は思わず踏鞴を踏んだ。
「なんだよこれ、気味悪ぃな−。それ入るくらいなら俺はこっちをのぼるぜ」
男はそういって、階段をもう一段上がろうとする。意味のわからない穴を潜るくらいなら、なんとなく呼ばれてる気がする階段を上がった方がマシだと考えたのだろう。
けれどそんな男を漂は予期していたのか、颯爽と男の肩を掴んでそれを止めた。
「……そう言えば信。あのあと、秦の国の王様とは会えたか」
漂からの唐突な質問に男は虚な目をして考える。
秦の王様。秦の王様……。
何度か頭の中でその言葉を反芻してみるが、全く該当する人物が脳内からアウトプットされない。詰まるところ、男は秦の王様にあった事がないのだと判断した。
「そうか、まあこの場で思い出せないのも仕方ないな……」
そんな中、彼はどこか寂しそうに男を見つめた。
まるで期待していたものが手に入らなかった時のような子供の目。
男はその瞳に見つめられるのが怖くなり、咄嗟に顔を俯かせ視線をそらす。
けれど男が視線を逸らしたのは悪手でしかなかった。
「はっ?」
「かかったな」
男が彼を視界から外した瞬間、階段の方へ踏み出していた足を蹴られ、そのまま穴へと蹴落とされてしまったのだ。
まさに策士。男が行うであろう一挙一動全てを予想し、それを巧みに利用した彼の手腕は見事としか言えない。
「なっ、この、漂!! テメーふざけ———
「ここからだ、お前はここからなんだ、信」
「っ!?」
文句を言おうとすれば、彼は勝ち誇ったかのように穴へ落とされていく男を見ながらにかっと笑った。
「お前が羽ばたけば俺もそこにいる。だから俺を連れて行ってくれ」
それはどこかで聞いた覚えのあるセリフ。
彼が死の直前、男を奮い立たせるために告げた言葉。
男は彼に向けて吐きそうになった悪言をグッと堪え、次に来るであろう彼からのセリフに耳をそばだてる。
———いいな、信。確かに託したぞ。
何を託されたのか。何をしなければいけないのか。
そんな答えの出ない疑問を持ちながらも、男の意識はゆっくりと、深い深い闇の底へと沈み込むのだった。
ぐだおかぐだ子 どっちにしようかな。