ボールで行く宇宙世紀 ~MSがなんぼのもんじゃい~ 作:ゴールド龍
予定通り、俺達はルナツーへと向かいホワイトベースを待つ事となった。いやー、護衛先を待たないといけないってなんか面倒だよな。かと言って地上に降りたら俺のボールは全然使えないから護衛すら出来ないから待つしか無いんだけど。
とりあえず着いたら先ずは基地司令に挨拶に行く。もちろん艦ごと停泊する事になっているので、うちの艦長と俺は挨拶に行かないといけない。
確かここの基地司令はワッケイン少将だったかな? 確かルウム戦役でも名前を聞いた事があるが·····正直会ったことも見たことも無いから分からないな。第一俺はパイロットだからよっぽどな事が無いと上級士官の人なんかとは会わないしな。
「サラミス級“デカート”の艦長を務めさせてもらってます、アンドルフ・ワグナー少佐であります。こちらはうちの艦のエースのアレックス・ベイカー中尉です」
「アレックス・ベイカー中尉であります。出発する迄短いの間ですが、どうぞよろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む。私はワッケイン、少将でこのルナツーの基地司令を務めさせてもらっている。アレックス君、君の事はよく知っているぞ。あのボールで幾つものMSや敵艦を沈めたことがある腕の立つパイロットだと聞いている」
「いえいえ、それ等は腕の立つ良い整備士達のお陰ですよ」
「なに、謙遜する事はない。·····所で、君がここにいる間でいいから頼みがあるのだが、いいかね?」
·····俺に? 一体なんだろうか。
「頼み·····とは?」
「ああ、良ければなんだがうちの守備隊に教導を頼めないかと思っていてね。君程の腕前を持ったパイロットと接すれば、うちの守備隊の練度も向上するだろうからな。一日の短期の教導だが·····どうかね、やってはくれないか?」
ふーむ、守備隊の教導ねえ。教えるってのが俺に出来るかどうかだけど·····まあ、これも良い機会だ。これを通じて腕のいいボール乗りを育成出来るかもしれんし、この戦争が終わってもまだ連邦軍に勤めるって時に教官って選択肢もあるしな。
「──分かりました、役に立てるかは分かりませんが全力でやらせてもらいます」
「そうか! それではよろしく頼むぞアレックス中尉」
「はっ!」
「──それでは、これで。失礼しました」
艦長はそう言い、俺と共に部屋を後にする。さてと、教導は初めてだがやってみるかね。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アレックスの教導が始まってから凡そ30分程、シュミレーターを用いた訓練をアレックス達は行っていた。
「───脇が甘い、これで終わりだ」
「うわぁ!?」
1つ、また1つとアレックスが乗るボールにルナツーの腕利き達が落とされていく。流石にセイバーフィッシュ等の戦闘機では、ボール程の小回りが効かないのであっという間に撃墜されてしまっている。
更にいえばボール乗りもある程度いるが、卓越したアレックスのボールの操縦っぷりに、ルナツー守備隊のボール乗り達は赤子も同然に簡単に捻られていった。
「うへぇ·····これがボールかよ。全く違う機体に見えたぞ」
「確かアレックス中尉が乗ってるボールって、ありゃ先行量産型だったよな。良くもまああんな機体でやれるよなあ·····」
「俺、アンカーのあんな使い方なんて初めて見たぜ」
「·····あんなボールの操縦、俺に出来る気しねえなぁ」
「おいそこ、まだ訓練は終わってないぞ。直ぐに交代して模擬戦に入るぞ」
アレックスがそう言うと、ルナツー守備隊の隊員は各々が思い思いの事を呟きながらシュミレーターへと入って行く。
ここでこのルナツー守備隊についてだが、決して腕が悪い訳では無い。現在宇宙で残されている唯一の基地である為、当然腕の優れた戦闘機乗り等が招集されている。
(ふむ、戦闘機とボールとは言えかなりやれる奴が多いな。上手くやれば戦闘機でもあのザクを撃墜出来る腕前を持っているやつも居るし、伊達にルナツー守備隊やってるだけは有るな)
訓練の結果を確認しながら、アレックスはそう率直な感想を心の中に漏らす。もしかしたら俺を超える奴がいるかもしれない·····そう考えていると、シュミレーターから出てきたパイロット達の中から、新米のパイロットがアレックスの方へとやって来る。
「アレックス中尉、少し良いでしょうか」
「ん、ああ、どうかしたか?」
「いえ·····その、個人的な質問、アレックス中尉について聞きたい事が有るんです」
「俺か? 別に良いけど何を聞きたいんだ?」
そうアレックスが聞き返すと、新米パイロットは少し考えを纏めていたのか、間を空けて質問をする。
「──アレックス中尉は、どうしてボールで戦おうと思ったんですか?」
「何でボールで戦うか、だって?」
ボールの操縦のコツや、戦闘機でのMSの落とし方等経験のある事を聞かれると思っていたが、想像していた考えとは違う質問がきたアレックス。少し疑問の表情を浮かべながら、新米パイロットへと聞き返す。
「はい、最近聞いた話では先行量産型ですが連邦もMSを開発してるって聞いてます。そこで中尉程の腕があれば、きっとMSでも戦えると思うんですよ。なのになんで
「·····確かに、ボールは戦力として考えるなら他の奴らからしたら自殺行為にしか見えんだろうな」
「あっ、いえ、決してボールを馬鹿にしてる訳じゃないんですよ!?」
慌てた様子で言葉を返す新米パイロット、それを見たアレックスはあまりの慌てぶりに声を上げて笑った。
「あっははははは!! いやー悪い悪い、別に怒ってるって訳じゃねえよ。お前さんの慌てぶりがちょいと面白くてな? ──·····んで、なんでボールで戦うかだっけか」
「は、はい」
うーむ、と考える様子を見せるアレックス。アレックスが何故ボールで戦うか·····それはただ単純な事1つだが、こんな理由で納得するだろうかと少し話す事を躊躇う。
しかし、質問には誠実な答えで返すというのがモットーとしているのが彼だ。少し間を空け、ゆっくりとだが口を開く。
「──·····えーっと、その質問なんだが、凄い馬鹿にしてると思われるかもしれないけど、純粋にボールに乗るのが楽しいってのがあるんだよ。なんというか、戦闘機とはまた違った乗り心地って言うか、宇宙を飛ぶ感覚がなんか癖になってな」
「なるほど、戦闘機とは違う感覚だからボールに乗るのが楽しい、ですか? ·····それはまた、なんと言いますか───」
「·····済まない、期待通りの返しでは無いだろうけどこれが俺がボールに乗り続ける理由なんだよ。あ、言っておくが戦う事が楽しく感じる
「──·····いえ、なんか納得しました」
新米パイロットのその言葉に、ほ? と少し惚けた表情を見せるアレックス。自分が思っていた返事では無い、という事より何故か自分が返した理由で納得した新米パイロットの様子に、疑問に感じたからだ。
そのアレックスの様子を感じ取った新米パイロットは、何故そう感じたのかについてを話し始める。
「──えっと、これは士官学校時代のときにあった事なんですけど、教官で戦車乗りや戦闘機乗りの方とお話させて頂く機会があったんです。それで、先程の質問をその教官達に聞いてみたんですよ」
「·····ふむ、それで?」
話を次に進めてくれ、と促すアレックス。少し間を空けて新米パイロットは話し続ける。
「──どの人も、同じ様に答えたんです。“好きだから、乗りたいから”·····と」
「──ははっ、なるほどねぇ?」
「以上で終わりです·····質問に答えていただきありがとうございました、アレックス中尉。それでは続きへ行ってきます!」
「おう、頑張りな。───好きだから、乗りたいから·····ねぇ。俺と同じ様に考える奴らがいるなんてなあ·····よっし、とりあえず教導の続きに入りますかね?」
そう言いながら、アレックスはシュミレーターへと足を向け、訓練の続きを始めるのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「うわぁー!! おっきい艦ですね、先輩!!」
「だなぁ。·····これがペガサス級強襲艦、ホワイトベースか」
あれから1日を経て、地球からホワイトベースが到着した。全長は俺達が乗っているサラミス級よりも大きく、全幅に至ってはサラミス級が4隻から3隻分位の大きさを誇っている。
あの作戦·····ビンソン計画とは別に進められていた作戦、V作戦の作戦用母艦として運用を考えられている艦であり、連邦軍初のMSの運用する為の母艦として開発された艦とされている。
確かに両舷にはMS用らしきデッキ兼格納庫が取り付けられているし、かなりの数を運用出来るくらいの大きさだ。ボールなんて10機は軽く運用できそうだ·····まあ、MS用だからボールを積むことは考えられてなさそうだけど。
「·····ねえ、先輩。これで戦況は変わるんでしょうか?」
横でホワイトベースを見ていたルイスが、俺にそう尋ねてくる。普通に考えたら戦艦1隻と、MS数機で戦況が変わるかって言えば、正直難しいが·····どうなるんだろうか。俺はそう考えながら、ルイスへと返答する。
「どうだろうな。正直戦艦1隻とMS数機で戦況を変えるってなると、難しいだろうな。·····まあ、腕のいいエースパイロットと熟練の戦艦クルーとかが揃えば、かなりの戦力にはなり得るかもしれんな」
「そうですか·····まあ、やっぱりそうですよね。·····早くこの戦争を終わらせないと、ですね」
「·····確かにな。もうかれこれ9ヶ月間戦っているが、ここらで攻勢に出れれば変わるかもな。まあとりあえず今は、あの艦を無事にサイド7に送り届けねえといかないけどな」
俺がそう言うと、「はい、頑張りましょうね!!」と元気よく返事を返してくるルイス。·····相変わらず元気な子だ。
「さて、そろそろ俺は艦長室に行かないといけないからもう行くわ。んじゃ、後でな」
「·····あー、先輩ってこの艦でのパイロット代表ですから、挨拶に行かないとですもんね。分かりました、それではまた後で!」
ルイスのその言葉を聞いてから、俺は通路へと移動し艦長室へと向かう。大体5分もしない内に艦長室に着いた俺は、ある程度身嗜みを整え、艦長室のドアをノックする。
「アレックス・ベイカー中尉、入ります!」
少しすると「ああ、入ってくれたまえ」と艦長の声が聞こえたので、ドアを開けて艦長室へと入る。そこには艦長の他に、ホワイトベースの艦長を務めているパオロ中佐が席に座っていた。
確かパオロ大佐は士官学校での教官を務めた後、ホワイトベースの艦長に就任したんだっけか。そんな事を考えながら、そのまま俺はパオロ艦長の前に移動し敬礼をし、官姓名を名乗る。
「サラミス級“デガード”の、ボールのパイロットを務めて頂いている、アレックス・ベイカー中尉です。お初にお目にかかります、パオロ大佐」
「ああ、よろしく頼む。君の噂はかねがね聞かせてもらっているよ。サイド7までの間だが、頼みにしているよ」
「はっ、恐縮です」
「·····では、下がって宜しい。その後は機体の調整を確認しつつ、待機していてくれ」
「了解しました、それでは失礼しました」
そう言うと、俺は敬礼を解きドアを出る前に一礼してから退出する。いやー、やっぱり上官相手だと緊張するなあ。とりあえずさっさとボールの確認して、出番が無いことを祈りつつ待機しないとな。
───そんな事を考えていたが、まさかあんな事が起こり、今までの戦闘からより苛烈になっていくとは、この時の俺は知る由もなかった。