ボールで行く宇宙世紀 ~MSがなんぼのもんじゃい~ 作:ゴールド龍
ドックに辿り着き、指示を受け取った俺とアムロ君は予備部品やデータの破壊を完了し艦へと帰還していた。今回の戦闘での損傷や消耗は正直あまり無いが、念の為に母艦に帰投し補給を受けていた。
「中尉、下部スラスターの件なんですけど少し歪んでいるんですけど、何かしましたか?」
「──ん、ああ。済まない、色々と現場の確認や開発ブロック内の破壊で機体を直接地面に着陸させててな。多分そのせいだ」
「成程、そういう事ですね。まぁこの位でしたら戦闘には正直支障は無いですけど、念の為交換しておきますね」
「余計な作業を増やしてしまってすまん、頼んだ」
作業に戻る整備班に、そう言い俺は一度艦長に報告に行かないといけないので艦内へと戻る。早く報告を済ませ、ホワイトベースがドックを出た後の戦闘に備えないといけない。
俺が奴らだったら、脱出する瞬間を狙う。逃げられるとかこれで終わりって思った瞬間は、人は油断しやすい。それが敵にとって一番狙いやすい状況だからだ。
「──·····以上が、今回の戦闘の概要となります」
「·····そう、か。なんと言えばいいか·····仕方ないとはいえ、少年を戦場に出さねばならんとはな」
「·····その時は俺の出番です。その為の護衛ですし、大人として、子供は守らないといけないものですから」
「·····ああ、そうだな。それでは頼むぞ中尉·····軍人としての矜持、発揮して来い」
「──はっ、全力を以て任務に当たります。それでは、失礼します!」
そう言い残し、俺は艦長室を後にする。その後、俺の乗機に戻ろうとした途中何か用があったのか、ルイスと鉢合わせした。一体何の用だろうか、そう思いながら俺はルイスへと話をする事にした。
「·····どうした、ルイス。何か俺に用か?」
「·····えと、はい。直ぐに伝えないといけないことがあるんです」
「一体どうしたんだ?」
「はい、その·····先程レーダーで確認したんですけど、サイド7から出てくる機影を確認したんですよ。それで、その機体番号なんですけど·····」
そこまで言うと、少し言いづらいのか言い淀むルイス。正直言い淀まれても、時間が無いので早くして欲しい。そう思ってから直ぐに、ルイスは口を開く。そして、言い放たれた言葉に俺が愕然とする答えが帰ってきた。
「──·····確認された機体番号はMS-06SザクIIなんですけど·····データベースの登録されていたものでは、その機体の波長は、あの“赤い彗星”のデータだったんです·····」
赤い彗星、この二つ名を知らない連邦兵はいないだろう。その二つ名の名を持つ男──シャア・アズナブルは、かのルウム戦役ではこちらの戦艦を5隻沈め、更に護衛に出ていた戦闘機も数多く撃ち落としているジオンの誇るエースの1人だ。
あのルウム戦役では、俺も参戦していた。戦場で見た奴の動きは、常軌を逸していると思うくらいに規格外だった。まだ開発されて間も無い新型機を手足の様に操り、足を使ってこっちの戦闘機を蹴り潰したり、戦艦を足場として利用し戦場を縦横無尽に駆け回っていたのだ。
正にその二つ名に恥じぬ暴れっぷり。彗星とはよく言ったものだと本当に思う位、シャアの実力はすば抜けていた。ルウム戦役の時とは違い俺の乗機はセイバーフィッシュからボールへと変わっているとはいえ、あの男と戦うとなると真っ向からは戦うことは出来ない。
あくまでも俺の戦法は奇襲からの一撃離脱戦法。何度も言うが、ボールには真っ向からMS相手に戦う力は持ち合わせていない。精々機動性を活かした撹乱位だろう。
「·····冗談キツイぞマジで。あの“赤い彗星”相手に戦わねえといけないのかよ·····。しかも、こっちの位置はバレていて、奇襲なんて出来やしないときた」
「──·····やっぱり、先輩でも難しいんですか?」
「そうだな·····真っ向から戦闘ってなると、良くても撃退が精々だろうな。更に言うと、撃退するってなっても相当難しいし、普通に俺達が全滅する可能性が高い。·····それほどの腕魔を持ってる化け物なのさ、シャア・アズナブルってのは」それほどの腕を
俺のその言葉にルイスは落ち込んだ表情を見せる。·····何故かルイスは俺の事を過大評価してる節があるんだよな。俺なんざ唯の運のいいボール乗りってだけで、正直エース相手の戦闘なんて瞬殺されて当然な腕前しか持っていないんだがな。
「·····まあ、俺達パイロットはどんな状況でも戦うしか出来ない。“赤い彗星”相手にどれだけやれるか分からんが、精々足掻いてやるさ」
「先輩·····」
「なーに、そんな顔してんじゃないよ。俺はこう見えても運がいい方だ、シャア相手でも何とかなるかも知れないぞ?」
「·····分かり、ました。なら私は、自分の仕事をしっかりとこなして見せます!」
「おう、その意気だルイス。それじゃあ行ってくる·····帰ってきたら、軽いものでいいからいつもの祝杯を用意しといてくれ!」
「はい、行ってらっしゃいです先輩! 料理作って待ってますから!」
その言葉に軽く手を振り返し、俺はボールへと向かう。コクピットまで辿り着くと、もう既に整備は終わっており、後は出撃に備えるだけだ。
と思っていたが、どうやらもう奴さん達は来るらしい。ホワイトベースから通信が入り、敵MSの確認報告が入ってきた。エンジンに火を入れ、直ぐに全速でぶっ飛ばせるように用意をする。
『中尉、バッチリ仕上げときました。今回も無事に帰って来て下さいよ!』
「おう、いつもありがとな。じゃあ行ってくるぜ!」
『──ご武運を!』
「ああ──アレックス・ベイカー、ボール。レイピア1、
艦体に取り付けられているロックを外し、フットペダルを踏みホワイトベースの方へと向かう。この後の対応等は俺に一任されているので、即興ではあるがアムロ君との連携を取りシャア率いるMS隊との戦闘に入る。
あの後ガンダムが所持している·····というか、ガンダム用に開発されている装備一覧を確認した所、かなり強力な兵装が用意されていた。
その武装の名は──ビームライフル。エネルギーCAPを使用したビーム兵器で、1発1発が戦艦の主砲並の火力を誇る射撃兵装だ。エネルギーを使用するので射撃回数には制限があるが、十分の火力を持っているので問題は無い。
そして、今回の戦闘で早速その兵装を装備して来るように、ホワイトベースの整備班に要請した。時間があまり無い中ではあるが、しっかりと仕上げてきてくれた整備班には感謝だ。
「──アムロ君、聞こえるか? 今から作戦概要を説明する」
『──はい、聞こえています。それで、一体どんな作戦で行くんですか?』
「ああ、先ずはこっちに向かってきているのは、ザクが2機だ。しかし2機だがらって言って油断はするな。片方の赤い方はエースだ。油断すれば一気に食われちまうからな。それで、作戦だが先ずは俺が先行する。こいつの機動性だったらある程度だったら翻弄出来るはずだ。そして、その隙をついてアムロ君にはビームライフルでの狙撃を頼む。そいつの火力は一級品だ、一撃でザクを撃破できるだろう」
『そんな、無茶ですよ!? ボールの装甲じゃあザクマシンガンに耐えれるかどうか·····』
どうやらこの短時間で俺に乗っているボールについて調べてきたのだろう。ある程度は理解出来ているようで何よりだ。しかし、まだまだ甘いな。
「なーに、問題は無い。第一、アムロ君が調べたボールのデータはおそらく正式量産型の方さ。こいつの装甲はそっちのボールより厚い。1発や2発位、どうって事は無いさ」
『え、そうなんですか?』
「ああ、そうだ。それに、俺の腕前だったら幾らでもやりようはあるさ」
あまり腕前には自信はないが、ここは虚勢でもそう言い張る。俺がアムロ君を支えてやりゃあいい、まだまだ戦闘経験が浅い新兵の様なものだ·····とは言ったが、つい最近まで一般人だったんだが。
兎に角、今は安心させてやる事が重要だ。どんな事でも言えるが、心に余裕さえ持てば大体は何とかなる。これは俺の今まで生きてきて学んだ教訓でもある。
『·····分かりました。では、気を付けてくださいよ。僕なんかでどれくらいやれるかは分かりませんけど、頑張りますから!』
「·····ああ、その意気だアムロ君。それじゃあ作戦開始だ。──レイピア1、
先ずは敵に俺の存在を意識させる。照準は適で構わない、警戒をさせるのが先決だ。引鉄を引き、二、三発敵機の付近に撃ち込む。これで俺に多少は意識が行く筈。
そこからは俺の度胸と腕次第だ。全速力を出す為にフットペダルをベタ踏みする。これにより俺のボールは音速並の速度で飛ぶ事ができる。
そして、そのまま敵機に対し真正面から突っ込み、そのまま後ろへと突っ切り直ぐに上方へ反転、敵機の視線を釣り上げ、俺に攻撃させるように仕向ける。
これで俺の方へと機首を向けるはず·····よしっ、2機とも向いた! そのまま俺に対し敵機は、ザクマシンガンを撃ち、120mm砲弾をばらまいてくる。回避は左右に機体を細かく振るランダム機動で予測を付けにくくする·····が、この機動は横G等が激しくかかる為、そう長くは出来ない!
「ぐぅ·····おぉおおお!!? 当たっ、て·····たまるかよ!! ──よしっ、今だ·····アムロ君!!」
俺の合図で、アムロ君にガンダムはビームライフルで射撃を開始する。流石に“赤い彗星”は俺の思惑に気づいたのか、ビームライフルによる狙撃は難なく避けられてしまった。しかし僚機のザクは対応出来なかったらしく、コクピット部分にビームが直撃、見事撃破に成功する。
しかし、“赤い彗星”の名は伊達では無い。すぐさま反転し、アムロ君の乗るガンダムの方へと機体を反転、即座にスラスターで急接近する。おそらくあのガンダムの装甲について報告を受けているのかもしれない。接近戦でヒートホークでも使われたら、きっとガンダムの装甲でもひとたまりもないだろう。
「くそったれ、やらせる訳にはいけないんだよっ!!」
もちろん俺は座して待つつもりなんて毛頭ない。機体に取り付けられているサブスラスターを起動、シャアの乗るザクの方角へと回頭、全速力で接近する。
「やらせるかよおおおおおっ!!」
何とかシャアの前へと躍り出ることが出来た俺は、即座に180mmキャノン砲を向け、発射する。しかし、即座にシャアはスラスターを吹かし、横へ逸れてしまったので砲弾は命中しなかった。
そして、シャアは俺の機体が邪魔だと言わんばかりに主脚で俺の機体を蹴り飛ばした。
激しく金属のひしゃげる音、被害を伝えるアラーム、そして派手に蹴られたせいでコクピットの一部が破損、部品が散乱する。不幸中の幸いだが、蹴られたにもかかわらず、俺の体には大怪我を負うことはなかったし、エンジンが暴走して爆発する事も無かった。しかし思い切り蹴られた為、機体は激しく揺れ、吹き飛ばされる。
「うぐっ、あぁああ!?」
『アレックスさん·····って、うわぁ!?』
一部が壊れたモニターの端で、ガンダムが思い切りシャアのザクに蹴られたのが見えた。何とも足癖が悪い奴だ、と戦闘中にも関わらずそんな考えがぽつりと浮かぶ。
しかし、惚けている場合じゃない。あちこちが痛む体を無視っし、生き残っているスラスターを点火し即座にシャアのザクへと回頭。また180mmキャノン砲をぶち込む。
しかし、また砲弾は難なく避けられた·····が、何かあったのかは知らないが、何故かシャアは機体を方向転換。何処かへと飛び去って行く。·····どうやら、何とか撃退に成功したみたいだ。
「──·····何とか、なったって事か。よく無事に生き残れたもんだ」
『アレックスさん、大丈夫ですか!? 機体が酷く歪んでますよ!?』
酷く動揺した様子で声をかけてくるアムロ君。それもその筈、コクピットは奇跡的に一部が壊れただけで何とかなったが、メインフレームは激しく歪み、蹴られた部分のマニピュレーターは脱落。交通事故にあった車の様な酷い状態だ。
「はは、運が良いみたいだ。体には大怪我は無いし、爆発もしてないんだからな」
『そう、ですか。無事だったら良かったですよ。·····にしても、あれがエース、ですか』
「あぁ、“赤い彗星”の名は伊達じゃねえ、ってか? 俺達が生きてんのも偶然だな。あのまま攻撃を続行されていたら、確実に俺は死んでるだろうな」
『──これが、戦い·····。これからあの“赤い彗星”の様なエースとも戦わないといけないんですよね·····』
「──ああ、そうだな。もしかしたらもっとヤバい奴だって来るかもしれねえ。だけど、これだけは言っとくぜ·····絶対に、生きるのを諦めるなよ。戦争ってのは諦めた奴から死んでいくものだからな」
俺がそう言うと、強く頷くアムロ君。·····さて、早く戻らないとな。まだまだ護衛は続いている·····整備班のヤツらには申し訳ない事をしてしまったが、生きているだけでも儲けもの。何とか次の戦闘までに修理してもらわねえとな。
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「·····あれが、連邦の新型か。あれは後々厄介な敵になるだろう。──そして、あの黒いボール、あれもなかなかのやり手と見える。·····しかし、次こそは必ず仕留めてみせる」