ナーヴギア(SAO同梱版)約13万円は中学生には金額的にキツいです…… 作:山田ヘイタロウ
幼い少年の目に飛び込んだのはぎらつく鋭利な刃物の姿だった。
時代は平成。
どうあっても刀など終生、お目にかかれないであろう時代であった筈だと言うのに。彼のご先祖はどうにも江戸、慶長の時代の刀鍛冶なのだと。
祖父は鍛治の仕事を継いで、その息子である彼の父は家を出た。そして幼い少年が生まれ数年が経つと、彼と妻は事故に遭って死んでしまった。
祖父は家を出て行った息子を嫌ってはいなかった。時代錯誤な刀鍛冶をしている自らを自嘲する程の人間であったのだ。
息子が愛した孫というものを、祖父である自らも愛そうと、一人になってしまう孫を引き取った。
彼の引き取った子供は奇妙な物だった。
子供には似つかわしくない、聡い目をしていた。
幼児は神であるという教えは確かにあったものだが、それをよく理解した。
「怖い」
刀を見て、孫はつぶやいた。
感想としては純粋な物で、刀を見て怖いと言うものを子供ながらに理解していることに驚きを覚える。
そこで祖父は自らの至らなさも理解した。
この孫であるからこそ良かったものの、もし好奇心旺盛な幼児であったのならば徒に刀を弄り、手を切っていたやもしれぬ。
鞘に収め、厳重に保管するべきか。
「
「うん……」
「儂が悪かった。刀は蔵にでもしまっておこう」
「うん」
祖父は刀を丁寧に持って蔵まで運び歩く。手の触れられる範囲に刀は置くべきではない。そんな当たり前の事を忘れていたのだ。きっと祖父は人との関わりなど殆ど無かったから。
「(刀、こっわ……)」
家の中から幾本かの刀を持って出て行ってしまった祖父の背中から、未だ家屋に残る刀剣へと視線を移す。
「や、流石に止めとこ」
一時、触れてみようかとも思ったが、惣弥はその考えを振り払った。
四歳の彼には抜き身の刀など危険すぎると考えたためだ。彼はこの先に起こることなどを理解しているわけではないが、そこらの子供よりもよっぽど知恵があった。
それもこれも彼が前世の記憶というものを持っているからだ。
とは言っても、満足に悔いなく歳を食って死ねたかと言われればそうではない。悔いはあった、だからこその二度目の好機なのかも知れない。
「これは……」
惣弥が視線を彷徨わせていると一つの刀が目に入った。
「違う……」
「何が違うのだ?」
「爺ちゃん!」
「ああ、それか……」
「これだけ歪なんだ……」
技量が足りていない。だが、それは侵し難い神聖さのようなものもある。心に訴えかけてくる感覚だ。
祖父がこの刀を大切にしていると言うことがよく伝わる。
「惣弥。それはお前の父が鍛えた剣だ」
「父さんが?」
「ああ。その一本だけだったがな」
「悲しく無かったの……?」
「それはお前の方だろ、惣弥……」
「爺ちゃん、父ちゃんのこと好きだったんじゃないの?」
「……わかるか」
「父ちゃんに鍛治の仕事継いで欲しかったんじゃないの?」
「流石にそれは望まなかったの……」
今の時代、自由に生きるべきだ。
生きる道など自らで決めるべきであると言うよりは、息子の選択を受け入れた。
結果的に息子が死ぬと言う結果になってしまったことに彼の悲しみは尽きない。
鍛冶場の熱が浮かぶ涙を干上がらせる。
息子が結婚をすることも子をなすことも、鍛治とは離れた場所で幸せになっても、全て受け入れた。
「お前も自由に生きろ」
「うん(刀こえーしな)」
「儂は強制せん」
「うん……。でも」
父の打ったという刀の前に立って柄を小さく柔らかな右手で握る。
「この刀が欲しい……」
「そうか。構わん、儂が持つよりもお前が持っている方がいいかもしれん……」
「……爺ちゃんには俺が新しく刀を鍛えるよ」
「良いのか?」
「うん、まだまだ先になるけど。それに一本だけ」
刀は怖いが、それでも惣弥は刀を作るべきであると考えたのだ。父がそうしたように。息子である自分も刀を鍛える事が誠意であると思ったから。
刀に関する知識を惣弥はスルスルと吸収していく。
持てる技術を叩き込む。見て盗ませる。
祖父の知識を手にして、刀を鍛える。彼の一振りが完成したのは実に十年後であった。
「できた……」
何度も失敗を繰り返した。
納得が行かないと思うと、再び作り始める。その間、鍛えた刀数五十を超える。
彼の目に映る歪は段々と消えていく。
邪心なく、ただ鍛えた。
銘はない。
ただ、祖父に送る一振りを、彼の満足のできる一振りを。彼自身が求めた故に。
「爺ちゃん……。出来たぞ」
「待たせおって」
「間に合って良かったよ」
祖父の姿は弱々しく、今は床に臥していた。この十年、相当に祖父は老いた。
もう、そこまで長くない。
目もどれほど見えているのか。ただ、惣弥は刃の煌めきを見せた。
「良い刀だ。実にいい……」
「そう言われると照れるな」
「ははは」
「天国に持ってけよ」
「物騒すぎるわい」
「……ごめんな、試し斬りしてねぇんだ」
「大丈夫だ。これなら問題ない」
これ以上話しても、祖父に悪いと思ったのか惣弥は刀を鞘に収めてから部屋を出る。
「爺ちゃんも、死ぬんか……」
初めて家族の死を見たのは、前世の祖父だった。
どこか他人事のようにしか思えなかった前世の祖父の死を体験し、ただこうしてある二度目の生に、一度目の死が遠く感じてしまう。
「…………」
寂しくなる。
惣弥のこの思いに嘘はない。生活はきっと何とかなるだろう。ただ、家族が全員居なくなってしまうという事が問題だったのだ。
「一人か……。どうしたもんかな」
学校には問題なく通える筈だ。
思えば、今は2022年。
年号は変わらずに進んでしまった。十四歳の彼は未だ何も知らぬ、三月のことだ。
それから二ヶ月。
ナーヴギアと呼ばれる最新のゲーム機器が発売されることとなった。
「は? SAOの世界かよぉ……」
病院で祖父は死んでしまい、彼は本当の意味で一人になってしまったのだ。
この時、惣弥は一つの選択を迫られていた。SAOの世界に飛び込むか否かである。SAOの世界に飛び込んで仕舞えば、命を賭けたデスゲームに参加することとなる。
それ以前に。
「ナーヴギア買う金なんて勿体無くて出せねぇよ」
SAOソフトが同梱されているものでおおよそ十万円ほどの大金が必要となる。そんな物を買う余裕などない。
特に、これから生きていく上でどんな場面で金が必要になるかも分からないと言うのに、だ。
「よし、他のゲームでもやって気を紛らわせよう……」
惣弥は早速、電化製品店に向かうことに決めた。
どこを見ても、ナーヴギアと言う最新ゲーム機器の名前を見るが、SAOのサービス開始まではその機能を十全に活かしたフルダイブVRMMOは存在しなかった筈だと、惣弥は思い出す。
まあ、だから何だと言う話ではあるが。
ナーヴギアの名前を見て、惣弥は一度立ち止まるが直ぐに去ろうとする。
「携帯ゲーム機が最強だろ」
VRゲームは性質上、家でしか出来ないが、携帯ゲーム機であれば持ち運びができる。つまり、携帯ゲーム機も衰退はしていない筈なのだ。
「ま、携帯ゲーム機買った所でって話なんですけどもね」
SAOが発売される事が分かりきっているというのに。
友達と始めると言っても、SAO、ナーヴギアの購入は中学生という身の上、一つのハードルとなるだろう。
「親にねだって買うってのは二次創作でよく見るけど。ねだる親も居ないからな……」
それに十万など生活必需品でなければまず出すことはないだろう。
惣弥の頭の中には原作主人公の家って凄いんだなと言う、余りにも適当な感想が浮かんだ。