「お前またなんかやったのか?」
「やってねーよ!」
俺は一夏と一緒に廊下を歩いていた。
あのラウラ・ボーデヴィッヒの強烈な自己紹介のあったあと、殴られる心当たりがまったくないので、一夏は相当腹が立っているようだ。
というか立っている。間違いなく。もう土曜日になるというのにまだイライラしているので、なかなか対応に困る。
「ま、後でその事はボーデヴィッヒに聞くとして……だ。一回怒るのやめろ。訓練なんだろ?」
「……そうだな……カリカリしてたら、全部うまくいかなくなるよな……」
俺たちはISの特訓をすべくアリーナに向かっているのだが、なぜ放課後特訓のない俺が一夏と一緒にアリーナに向かうはめになったのかというと。
「でもなぁ……あの三人の説明じゃわかんないんだよ。だからさ頼むよ信。通訳してくれ!」
と、いうことである。
通訳って……どんな言語で説明してるんだ? 古代文明の今は失われし言語とかか? 悪いがさすがにそれだったら無理だ。
アリーナに着くと更衣室でさっさと着替えて、すでに待ち構えていた例の三人――箒、鈴、セシリア――のところに行く。
「なんだ、信も来たのか」
なんだとはなんだ、箒。
「なに? あんたもあたしに教わりたいわけ? ふふん、いいわよ。そんなに言うなら教えてあげる」
鈴、まだ何も言ってないぞ。
「なにを言っていらっしゃるのかしら? 信さんはわたくしに教わりに来たに決まっているではないですか。鈴さんは自意識過剰ですわね?」
人のこと言えないぞ、セシリア。
「えっと……俺は一夏のサポート係だ。というよりは見学者だな。俺に気にせず一夏を鍛えてやってくれ」
ちなみに箒はただ一緒にいたいから、セシリアは実力のなさにほとほと呆れて、鈴は友達のよしみ……という理由から一夏の特訓をつけている。
そしてさっそく噂の特訓が始まったのだが……。
「ズカッ、ドカッ、ガキーン! という感じだ!」
「……」
「何となくわかるでしょ? 感覚よ、感覚。はぁ!? 何でわかんないのよ、バカぁ!」
「……」
「防御の時は右半身を斜め上前方へ五度、回避の時は後方へ20度ですわ!」
「……じゃ、頑張れ一夏」
ぽんと肩を叩いて去ろうとすると、ガシッと腕を捕まれた。
(信! 何のためにお前を呼んだと思ってんだ!)
(ムリムリムリ! 通訳とかそういうの必要ないって! もう立派な日本語じゃないか!)
(じゃあお前意味わかるのか!?)
(わかるわけねーだろ! どういうことだ!? これって説明って呼んでいいの!? 説明の定義を俺に説明しろ!)
(なんで俺がお前に説明の説明しなきゃいけないんだよ! それを説明しろ!)
(なんだよそれ! じゃあ俺は説明の説明の説明の説明を要求する!)
(意味わかんねーよ! ややこしすぎるわ!)
小声でしばらくやり取りしていたら、三人に気付かれた。
「ちょっと、お二人とも! わたくしの説明を聞いていますの!?」
「あたしのすばらしい説明がわからないなんて言わないわよね?」
「二人とも、私のズバッとした説明が一番だろう?」
なんなんだこいつら……。
説明ってわからない人にするものだぞ。『わかってない他人』を基準にして話さなきゃならないんだ。『わかってる自分』を基準にしてどうする。
……と、言いたいところだったが、三人が三人とも『自分が一番!!』と考えているところがまた難しい。
さて、どうやってかわそうか……。
「一夏、信」
シャルロット、ナイスタイミング!
すでに専用ISを展開させていたシャルロットが俺たちに声をかける。
「どうした? シャルル」
「ちょっと相手してくれる? 白式と瞬光と戦って見たいんだ」
理由もまたすばらしい。これなら三人も文句は言えまい。
「そうか、俺たちはオッケーだぞ。なっ、一夏」
「ああ! というわけだから、また後でな」
『むむむ……』と何か言いたそうにする三人。
おいおい、そんな顔すんなよ。
「じゃ、一夏からな。俺はまず見学」
「わかった」
「僕もいいよ……じゃあ行くね、一夏」
「おう!」
戦闘開始とともに一夏がいきおいよく飛び出す。
手には雪片弐型。
シャルロットはそれを左手のシールドで防ぐ。
ガキン、ガキンと金属同士がぶつかりあい、アリーナに独特の高い音が響いた。
シャルロット、うまいな……よく相手の出方を見てる。ここらへんがやっぱり代表候補って感じ。
「お~!」
一夏の剣撃を盾で受け流し、体勢を低くして下から突き上げるように腕を伸ばす。その左手にはすでにマシンガンが握られていた。
銃を展開するのに一秒もかかっていない。自分の装備を熟知していないと、あれだけ早く的確に武器は展開できないだろう。
とっさに後退をしたものの、銃弾の雨は白式のエネルギーシールドを容赦なく削る。一夏も逃げればいいのに無理矢理間合いを詰めようとするものだから、余計にエネルギーがみるみる無くなっていった。
おいおい……ただでさえ雪片弐型がエネルギー食ってんのに何やってんだ。なんであれを真っ正面から受け止めようとするかなー。
一夏はバカ正直にひたすら近付こうとするが、シャルロットの射撃がそれを許さない。
近接特化型の白式は懐に入れば強いが、入れなければ実力が発揮できない。
それを理解してるのはわかるが……あーあ……瞬時加速のタイミングも読まれてるし……。
結局、何にもいいとこ無いまま一夏が負けた。
それもそうだ。あんなやたらに突っ込んでたらそうなるよな。
俺の隣に降りてきてガックリと肩を落とす一夏にちょっとだけアドバイスし、背中を軽く叩いてやった。
「そうガッカリすんな。今回は相手が悪かったんだって」
「うう……」
「強くなりたきゃ、練習あるのみだ……さ、シャルル」
「うん、準備万端だよ」
一夏を軽く励ましたあと、シャルロットと向かい合う。
あの武器の高速呼び出しは厄介だな……気を付けないと。
俺は右腕に朧火を展開、剣のイメージを伝えて体の前に持ってくる。
「よし、こい!」
「じゃあ遠慮な――」
「ちょっと! あれ見て!」
誰かが大きめの声で叫んだのが聞こえた。
俺もシャルロットも、ちらっと名も知らぬ女子の方を見る。そして、その指差す方向をたどってみると、例の銀髪の少女……ラウラ・ボーデヴィッヒがISを展開して俺たちを見下ろしていた。
「えっ!? アレってドイツの第三世代型ISだよね?」
「確か、本国でのトライアル段階って聞いたけど……」
周りで始まった女子の小声の会話が耳に入る。
結構距離的には離れているので、ラウラには届いてないのだろう。腕を組んだまま微動だにしない。
「なんだあいつ……」
「信、あんまり見ないほうがいいよ?」
「おう……」
そうは言われても……なんだか気になって集中力がいまいち……。
シャルロットも同じだったんだろう、少し残念そうに肩をすくめて構えを解いた。
「……でも見られてると思うとなんだかちょっと戦いにくいね。またあとでにしよっか?」
「……そうだな」
「それじゃあ僕は一夏にアドバイスでもしにいこうかな。信も暇だったらお願い」
「おう」
シャルロットが一夏に事情を説明しにいく間も、ボーデヴィッヒは全く動かない。
あまり気にしないようにはしたいのだが、やっぱり気になる。
俺はなんとなく居づらくなったので、シャルロットと一緒に一夏を鍛えることにした。普通にしてれば難癖つけられることもないだろ。
近くに寄ると、ちょうど一夏がシャルロットに射撃についての説明を受けているところだった。
「一夏が勝てないのは単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」
「そ、そうなのか? 一応わかっているつもりだったんだが……」
「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦ったときも間合いを詰められなかったよね?」
「うっ……確かに……瞬時加速も読まれてたしな……」
「つまりね、直線的すぎるんだよ。一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ」
「なるほど……じゃあどうしたらいいんだ……?」
「うーん……じゃあ射撃武器の練習をしてみようか? 一夏は習うより慣れろって感じだって信が言ってたし」
「そうかな? 勝手な思い込みだろ、信?」
「んなわけないだろ。むしろそれ以外の訓練してないだろ、お前は」
シャルルに手渡された五五口径アサルトライフル『ヴェント』を構える。
通常は他人の武器の使用は不可能なのだが、所有者が使用許諾すれば、登録してある人全員が使えるらしい。シャルルが話してくれた。
「構えはこれでいいのか?」
「えっと……脇を締めて。それと左腕はこっち。わかる?」
「お、おう……」
ちょっと笑いそうになった。多分『うわ、すげぇいい匂いだ……はっ!? だが男だ!! 男だ!! 男なんだ!!』とか心の中でやってるんだろうなぁ、一夏は。
残念!
やっぱり女だ!
ひとりそんなこと想像していると、一夏が一度大きく深呼吸をして、引き金にぐっと力を込めた。
バンッ!
予想よりも大きく響く火薬の炸裂音に俺も一夏も驚く。
すぐさま別の的が表示され、一夏はそれに合わせて体の向きを変えて、また引き金を引く。
数回表示された的を撃ち抜くと、スコアが表示された。
評価は「C-」……まぁ、標準レベルってとこか。
「どう?」
「お、おう。なんか……とりあえず『速い』って感想だ」
「うん。やっぱりブレードとは感覚は違うでしょ? あ、信もやってみる?」
「え? いいのか?」
「もちろん! いくら見てわかるって言ったって、銃の感覚確かめた方がいいよ?」
「そうだな……じゃあ俺もやってみるか」
一夏からライフルを受け取り、すぐに銃を構えてそれとなく照準を合わせてみるとハイパーセンサーにカーソルが現れた。俺が銃を持ったことでプリセットプログラムが発動したらしい。なるほど、さすがだ。
「こうだよな」
「えっと……うん、そうだね」
「よし、いくぞ!」
的の中心を狙って引き金を連続で引く。やってみると、案外音が大きいだけで、衝撃はそれほどでもなかった。瞬光が勝手に相殺してくれたんだろう。ISって便利。
「ふぃ~……こんな感じか」
そして俺の評価は……うん。初めてで『A+』はなかなか優秀じゃないか?
「うわぁ~……! 全弾命中かよ!」
「すごいね! 初めてでこんなに正確な射撃ができた人なんて見たことないよ」
「シャルルの撃ち方見てたしな。お手本が上手かったおかげだ」
「くっそー! 俺ももう一回! シャルル貸して!」
「うん、いいよ! はい」
「俺だってせめて『A』ランクを……!」
「はっはっは。取れるもんなら取ってみろよ~」
「ちくしょー! 見てろよ信!」
そんな和やかな雰囲気になって来た頃。
冷たい声がアリーナに響いた。
さして大きくもないが、弱い声でもない。一瞬でそれは俺たちの間を駆け抜けた。
「織斑一夏」
ラウラ・ボーデヴィッヒは冷ややかにこちらを向いていた。
一夏もなにかしら感じていたのだろう、これ以上は無視できないとばかりに短く息を吐いた。
「……何だよ」
「今の射撃はなんだ? 下手すぎて吐き気がする」
「……」
「これで貴様も専用機持ちだとは……我慢ならない。私と戦え」
「待てよ。そんなに一夏に突っかからなくてもいいだろ?」
たまりかねた俺はついに口を開いた。
ボーデヴィッヒからは純粋な敵意しか感じられないのだが、一体なにが気にくわないのだろう。うまくいけばその理由が聞けると思ったのだが。
「黙れ。貴様には関係ない」
完全に俺を見下している。察するに、雑魚には用はないって感じか。腹立つな、まったく。
「とにかく、お前と戦う理由がない。いやだ」
「貴様にはなくとも、私にはある」
「今でなくたっていいだろ。もうすぐクラス
一夏の言う通りだ。別にすぐ戦いたいわけでもない相手とここで戦ったって意味がない。それならば意味ある戦いの場で決着をつけた方がお互い納得がいくだろう。
が、ボーデヴィッヒは違うらしい。
「そうか。ならば――」
刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。
着弾するまでの間に素早くシャルルが二人の間に割り込み、シールドを構える。
しかし、そこへ俺が更に割って入り、敵に向かって朧火を伸ばしつつ、飛んできた砲弾はただ単に左手を使って弾く。
鈍い衝撃が装甲を通して腕の骨を伝わった。
はじいた砲弾がわきに転がるのと同時に、朧火の槍がボーデヴィッヒの喉元で止まる。
まさか雑魚がこんなことするなんて思っていなかったのか、相手は面くらっている。
「……!」
「止めとけって。そんなに他人を見下してると足元すくわれるぞ」
「貴様……!」
「真宮信だ」
「余計な真似をす――」
『そこの生徒! 何をやっている!』
言葉を遮り、アリーナにスピーカーからの声が響く。騒ぎを聞きつけてやって来た担当の教師だろう。アリーナには毎日教師が一人割り当てられ、もしもの時に備えているのだ。
まさにこういうときのために。
俺たちはしばらくにらみ合っていたが、ボーデヴィッヒがISを解除する。
「ふん……今日のところは引いてやる」
「最初っからそうすりゃいいんだよ」
俺の言葉を無視し、アリーナゲートへと踵を返し去っていくボーデヴィッヒが変に絵になった。
孤高の戦士。
題をつけるならそんな感じ。
きっと今までああいう風に生きてきたんだろうな。誰にも頼らず、自分だけを信じて。
銀色の髪が見えなくなるころ、一夏とシャルロットから声をかけられた。
「信、助かったよ……正直ひびって足が……」
「気にすんな。言ったろ? 『お前が困った時は俺が助けてやる』ってさ」
拳を握り、前へつき出す。条件反射のように一夏も拳を握り、俺のと合わせる。
「シャルルもな」
「えっ!? い、いいの!?」
「いいに決まってるだろ。ちゃんと守ってって言われたしな」
「う、うん……あ、ありがと……」
コツンとシャルロットとも拳を合わせ、俺は微笑む。
さて、これからどうするか……一夏は精神的に疲れたみたいだし、シャルロットやその他の面々ももう訓練したいような雰囲気じゃない。
となれば。
「今日はもう戻るか?」
「そうするか……あ~……なんか疲れた……」
「うん。それがいいね」
「じゃあ箒たちにも……って」
「もういるぞ」
「なに? 影が薄いとか言いたいワケ?」
「信さん! わたくしのことを忘れるなんてひどいですわ!」
気付くと『一夏専属コーチ三人衆』が近くに来ていた。
そうえば練習らしい練習出来なかったな……まぁ、あの説明じゃ……無理か……。
「じゃあ、悪いんだけど先に帰るよ」
「わかった……今日はもう休んだほうがいい」
「二人とも! あんなやつ気にすんじゃないわよ」
「そうですわ! ああいうのは三流と昔から相場は決まってますわよ!」
三人とも俺たちを心配してくれているのがよくわかる。だが、その心配をおおっぴらに見せて不安を煽るようなことを絶対にしないところがありがたい。
「ありがとう。さて、着替えに行くか。一夏、シャルル」
そして、俺たち男子三人は更衣室に向かって歩き出した。
……あ、シャルロットは女か。
あれ……?
そうだ、シャルロットは女だった。一緒に着替えるというのは道徳的にまずい。
(おい、いっつもどうしてるんだ?)
(え? なにが?)
(着替えだよ、着替え。一緒に着替えるつもりか?)
(そ、そんなわけないでしょ! 先に部屋に戻るよ)
そんなことを話している間に更衣室に着いた。俺たち男子だけの貸し切りなので、無駄に広い。
「じゃあ、僕は先に部屋に戻ってるね」
「何だよ、ここでシャワー浴びてかないのか? お前いつもそうだよな」
シャルロットの隠し事を知っている俺としては『そりゃそうだろう』ということなのだが、一夏にとっては不思議なことであるのは間違いない。 男子同士だったら何も隠す必要は無いのだから。
だが、シャルロットは女だ。
「たまには一緒に着替えようぜ」
肩を組んで何とか一緒に着替えようとする一夏。正直、俺から見たらただの変態高校生だ。
ああ……『ぐへへ、いいじゃねぇか少しくらい』とか吹き出しつけたらぴったりな構図。
シャルロットがめちゃめちゃ困ってる。これは助けるべき!
「あっ! そうだ、シャルル。射撃武器の特性教えてくれよ。俺も部屋でシャワー浴びるし、一緒に行こうぜ」
一夏からシャルロットを引き離し、手を握る。 多少強引だが仕方ない。事情が事情だ。
「じゃーなー! お先にー」
「あっ、おい!」
なるべく駆け足で更衣室を出て、そのまま部屋まで戻ってきた。一応周りに誰もいないのを確認し、名前を呼ぶ。
「ふー、危ねぇ……大丈夫か、シャルロット」
「う、うん。ありがと、信。でも、そ、その、手が……」
手? あ、そうえば繋いだままだった。表情はうつむいてて見えなかったが、離せってことか。
「ああ、ごめん。気付かなかった」
「あっ……」
ぱっと手を離すと、シャルロットが顔をあげてこちらを見た。
「え? 何か残念か?」
「へっ!? い、いや! そんなこと……」
「なんかそんな顔した気がしたんだけど……」
「きっ、気のせいじゃない? あ、あはは……」
「だったらいいんだけど……」
「あの、信……ほんとにいろいろありがと……」
「またかよ。気にしなくていいって。あんまり俺に気を使うな」
まったくシャルロットは真面目過ぎるな。もう少し不真面目でいいのに。
優しくぽんぽんと頭を撫でてやると、シャルロットは柔らかく微笑んだ。
「うん……えへへ、信の手って大きいね」
「なに言ってんだよ。それじゃ、また 」
男装なんかしないで、普通の女の子になればいいのに……。
シャルロットの後ろ姿を見送りながら、そんなことを思った。
性格からして、嘘をつき続けるのはきっと苦しいはずだ。
自分の部屋に入る前に、シャルロットが手を振ってくれた。それも眩しい笑顔つき。
魅力的すぎるだろ! やめて! 照れてにやけちゃうから!
あれ男の子じゃねぇよ。完全に女の子だよ。
あんな男なんてこの世に存在するわけないだろ、バカヤロー。
本当にシャルロットが女の子でよかった……素直にかわいいと思えるぜ……。
ここで気付いた。
「一夏! お前また可愛い女子と相部屋じゃねーか!」
◇
シャルロットはシャワーを浴びながらずっと信のことを考えていた。
「また信に助けられちゃった……本当に僕のこと守ってくれてるんだ」
顔が赤くなる。
「の、のぼせちゃったかな? でもこういうのぼせかたなら大歓迎かな……なんて……えへへ」
シャワーを止めて、ドアを開ける。バスタオルは外に置いてあるのだ。
ガチャ。
ガチャ。
「シャルル、ボディーソープきれてるだろ? 替えの――」
同時に洗面所のドアが開く。 そこに立っていたのは一夏だった。
「………」
「………」
お互い状況がわからなくて、無言。いや、絶句と言ったほうが正しいかもしれない。
そして、シャルロットは当然裸なのだ。
「うわぁっ!?」
我に返ったシャルロットがとりあえず大事なところを隠す。
ど、どうしよう……み、見られた……。
「えっと……これ……」
未だ混乱している一夏は手に持っていたボディーソープを渡してくる。
「う、うん……ありがと……」
「あー……それじゃあ、な……」
ぎこちない動きで一夏が出ていく。必死で状況の理解をしようとしているのだろう。
「……ばれちゃった……よね?」
シャルロットは小さく独り言を言った。
◇
俺はベットに体を投げ出してぼんやりしていた。ちらりと時計を見れば、すでに夕食時だった。
……腹へったな。一夏たち誘って食べに行くか。
ベットから立ち上がり、部屋の出口に向かう。ドアを開けて一歩外に出て、すぐ横に方向転換。そこから二歩で一夏とシャルロットの部屋。
近いな。非常に楽で助かる。
「一夏、シャルル。入るぞー」
ドアノブを回して部屋に入ると、寝ているシャルロットに覆い被さるように一夏が布団をかけていた。
「お、おー。信。どうしたんだ?」
「……いや、夕食一緒に行かないかなってさ」
「ほ、本当か? で、でもなー? シャルルが風邪っぽいから心配でさ」
「ごほ、ごほっ!」
「そうなのか? なら仕方ないな。じゃあ俺が飯をもらって来――」
「い、一夏、ごほっ! 一夏が、ごほっ! もらって、ゲホッ! もらってきて! ごほごほっ!」
「「え?」」
「一夏がもらってきて、げほげほっ! お願い、ごほごほっ!」
「え、いや、でも……」
「いいから! 早く行ってきて!!」
「は、はいぃ! わかりました!」
ドタドタと焦って部屋を出ていく一夏の背中に敬礼。
不憫だな……だけどこれも天罰だよ、一夏……織斑先生の鉄拳よりましだろ?
「さてと……シャルロット?」
「……うん。わかってる……」
「もうちょっと演技力は磨けよ……」
「そこなの!?」
「冗談だよ……ばれたんだろ?」
「……うん」
シャルロットはため息をついた。
あれだけ一夏が動揺してればそれくらい察しはつく。
あいつは遂に気付いた。
シャルルが、いや、シャルロットが女の子だと。