IS〜world breaker〜   作:山嵐

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11:ベッドの下はもう常套手段なので使われない

 俺はシャルロットから一夏がどうやって秘密を知ったかある程度聞き、わなわなと震えていた。理由? うらや……ごほん。

 とにかく結論。

 一夏、あとでぶん殴ってやるよ……。

 そんなこと思っているとは露らず、シャルロットは楽しそうに話を続ける。

 

「二人とも本当に優しいんだね。僕なんかのためにこんなにいろんなことしてくれて……」

 

「なーに言ってんだ。もっと甘えていいんだよ、シャルロットは」

 

「……うん……」

 

 そうだ。シャルロットは誰かに甘えていい。

 こんなに頑張って、辛いことに耐えてきたんだから。

 でも……。

 

「あ、あー……ところでな、シャルロット……いきなりそういうことするんじゃなくてな、その、なんだ……段階というものを踏んでだな……」

 

「……信? 何言ってるの?」

 

「へ? いや、さっき一夏がシャルロットに覆い被さってたから……」

 

「……」

 

 あ……れ? この沈黙は何?

 

「ふ、深読みし過ぎ……た?」

 

「……信のえっち……」

 

「なっ!」

 

 さすがにひどくないか。あんな体勢見たら誰でもそう思うぞ……きっと。

 なんとか弁解しなければ。

 

「俺はエロくないぞ」

 

「そうなの?」

 

「……嘘です」

 

 そりゃそうだろう。男ってそういうもんだ。むしろそれが男だ。

 

「ふふっ、信のえっち」

 

「か、からかうなよ……」

 

 嘘をつくことから解放されて気が楽になったようで、その笑い声はなんだかいつも以上に優しく響いた。

 

「僕ね、信と一夏に合えてよかった……本当に二人には感謝してるよ」

 

「なんだよ、急にかしこまって。だからもっと楽にしていいんだって。ほら、俺に甘えていいからさ」

 

 すると、シャルロットがこっちを向いた。 布団で顔は半分覆われていて目しか見えないが、何かしてほしいと訴えかけている。

 う……そんな目で見るなよ。なんか、ほっとけなくなる。

 

「どうした?」

 

「えっとね……その……なんかね、体が寒いんだ……だから、温めて……」

 

「は?」

 

 何言ってんの? レンジでチンしろってか?

 ……んなわけねーよな。

 

「どゆこと?」

 

「だ、だから! あ、あのときみたいに……だ、抱き締めて……ほしいな……」

 

 言葉の意味を理解し、顔が熱くなる。

 い、い、いやイヤいやイヤいいいいやややや。ダメでしょ、ダメだろ、ダメなの?いや、絶対ダメだ。何言ってんの? ほんと何言ってんの?

 もう一度? シャルロットを!? 抱き締める!?

 それはまずいだろ!

 

「ば、バカ言うな! あれは不可効力でな……」

 

「嫌なの?」

 

「い、嫌じゃない! と、というかだなシャルロット! 落ち着け! 落ち着くんだ!」

 

「ぼ、僕だって恥ずかしいんだよ? せっかく、甘えようと頑張ったのに……」

 

 甘えるのって頑張ってやるもんじゃないぞ。そこ勘違いするな、シャルロット。

 しかしそれを口に出すのはあまりにも憚られた。

 理由は単純。シャルロットの強力な美少女オーラ。

 ぐっ……! そりゃあ俺だって男なんだから、こんなかわいい子にお願いされたらなかなか断れない。

 しかし羞恥心というのもある。

 うー……でもなぁ……やはりシャルロットがここまで言ってるんだから、これは恥を忍んで叶えてやるべきなのか?

 必死に頭を働かせているとシャルロットがベットから立ち上がり、俺の隣に来る。

 

「ね? 一回だけ……」

 

 服の袖をつまんでねだってくる。しかも上目使い。

 これは……やばい。主に俺の理性が。

 

「こ、後悔しないのか? あとで訴えたりしないよな?」

 

「するわけないでしょ」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙。

 だあぁぁぁぁ! もう!仕方ない、気合いだ、気合い! これはそういうんじゃない、断じてそういうんじゃないからな! 勘違いするなよ、俺!

 

「い、一回だけだぞ……」

 

「できるだけ……長く、ね?」

 

「えぇっ!? ……どっ、努力はしてみる……」

 

 そう言って、シャルロットの肩に震えながら手を回す。

 ピクリと動いた体に驚きつつ、出来るだけ優しく抱き寄せようと頑張ってみる。うまくできたかわからないが、シャルロットは満足したようで、俺の胸に顔を押し付けて背中に手を回してきた。

 女子特有の柔らかい体の感触がとても……攻撃力というか、破壊力抜群だ。

 なんとか耐えろよ、俺……。

 これは……あれだ。あれしかない。無だ。無の境地に入るんだ……。

 ……ダメだ……心臓がバクバクいってる。まぁ……意識するなっていう方が無理だな……かといって意識しすぎると……あー……頭がくらくらしてきた……やばい、すげーいい香りする……あれ? なんか眠たくなってきた……。

 

「……んっ……」

 

 はっ!? や、やばい! 無意識に力が入って……! し、しっかりしろ、俺! 自分を見失うな、気をしっかり持て!

 でも……! もう……げ、限……界……!

 

「あ、あのさ、もうそろそろ……」

 

「……もうちょっと……もうちょっとだけ」

 

 離れたくないと言わんばかりにますます力を入れるシャルロット。

 チラッと顔を見たら、すごく嬉しそうだった。あんまり幸せそうだからこっちまで幸せになってくる。

 母親がいなくなってから、ずっと我慢してたのかな……。

 きっと、甘える相手がいなくて無意識に耐えていたんだろう。頭を優しく撫でてやると、シャルロットはくすぐったそうに体を縮こませた。

 

「……頑張ったな」

 

「うん……」

 

 小さく返事をして顔をうずめてくるシャルロットがとてもかわいくて、いとおしくて。

 しかし、そんなひとときも一瞬で終わりを告げた。ガチャ、とドアが開く音が聞こえたからだ。

 

「「!?」」

 

「ただいま~……」

 

 素早く離れて互いに距離をとる俺とシャルロット。 その速さといったらそれはそれはすごいものだった。もしかしたら瞬時加速を超えたかもしれない。

 入ってきた一夏が見たのは別々のベットに横になっている俺たちの姿。まさかさっきまでとんでもなく距離が近かったなんて夢にも思うまい。

 

「お、お、お疲れ一夏……」

 

「め、飯は?」

 

「もらってきたけど……」

 

「そ、そっか、サンキュ! じゃ、おやすみ!」

 

 食事を受け取り、さっさと部屋に戻ろうとする。しかし、強い力で引き戻された。

 

「待てよ信……シャルルのこと、知ってたのか?」

 

 シャルロットの分の夕食をテーブルに置いて、一夏が俺に話しかける。

 真面目な話だ。声の調子ですぐわかった。

 

「……初日からな」

 

「何で俺に言わなかったんだよ」

 

「シャルルが決めることだからだ。俺たちに決定権はないし……気軽に相談できることでもないだろ」

 

「……」

 

「なんだよ。間違ってたか?」

 

 一夏はいつもより真剣に俺を見つめていた。

 こいつが今思っていることは本気だ。

 俺が間違っていると判断した場合は、たとえ仲違いしても俺を殴るという覚悟がある。

 

「いや、間違ってない……だけど、俺にも少しは相談してくれよ。俺だって誰かの力になりたいんだ。ならなきゃ、気がすまない」

 

「……はぁ……お人好し」

 

「お前もだろ」

 

 二人でニヤリと笑みを交わす。

 

 

 コンッ

 

 拳を合わせたあと、シャルロットが何やら苦戦してるのに気付く。すでにテーブルの夕食と向き合っているのだが、様子がおかしい。

 

「くっ……ふっ……」

 

 スカッ、スカッ、ポロッ。

 

「何だよ、箸使えないのか?」

 

「練習してはいるんだけどね……」

 

「あ……悪い、気付かなかった。スプーンとフォークもらってくるよ」

 

 そう言い、一夏が再び食堂へ走っていった。忙しないやつだ。

 そしてまた二人きり。なんか……居づらい。

 

「……信」

 

 ……なんでそんなに『何かしてほしい』みたいな声を出すんだ。ここは振り向いたら負けの気がする。というか俺の理性はもうボロボロなんです。休ませて。

 

「じゃー部屋に戻るから。おやすみー」

 

「待って!」

 

 ぐあ! 手を捕まれた。

 これはまずい。とてつもなくまずい。

 そんな気がする。

 

「そ、その、ね……」

 

「……何だよ今度は」

 

 ……覚悟を決めよう。今日は『シャルロットに甘えさせてやろう記念日』なんだ、きっと。そうに違いない。そう思わないとやってけない。

 

「信が食べさせて……」

 

「……一夏がスプーンとフォーク取りに行っただろ……って言ってもムダなんだよな……」

 

 やっぱり、シャルロットの顔を見たら断るに断れない。早く早く、と顔に書いてあるし。

 これは期待を裏切れないよなぁ……。

 

「一夏が戻ってくるまでだぞ。いいな?」

 

「うん!」

 

 結局、スプーンとフォークが到着するまで四分の三くらい食べさせたあと俺は部屋に戻った。

 一夏が夕食の減りぐあいを疑問に思っていたが、なんとか誤魔化した。

 シャルロットがやたら満ち足りた顔をしていたので、それは良かった……のか?

 

 

 

 

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「で、部屋に戻ってきたわけだが……」

 

「すー……すー……」

 

「なんでお前がここにいんだよ……鈴」

 

 なぜか俺のベットに鈴がいる……。

 でもこんなに気持ち良さそうに寝ているのに無理矢理起こすのも気が引ける。

 ふとテーブルを見ると、何か弁当箱のようなものがあった。

 

「残さず食べなさいよ……むにゃむにゃ」

 

 随分とまぁ命令口調の寝言だ。鈴らしいって言えばそれはそうなのだが。

 とりあえず弁当箱を開けるてみることに。

 そこには……。

 

「……酢豚?」

 

 味見しろってか。

 見たところとてもうまそうで、味見なんてするまでもなさそうだ。ま、もともと家が中華料理家だから当たり前か。

 料理上手の嫁をもらうチャンスを逃した一夏にはほとほとあきれ返る。

 俺は美味しくいただくことにしよう。

 一夏にもらってきてもらったやつに加え、鈴の酢豚というコラボレーションを果たした夕食を完食したあと、シャワーを浴びて服を着替えた。幸いなことに、いや、不運なことにかもしれないが、シャワーの水音にも鈴が起きることは全くなかった。

 さて、問題はここからだ。

 

「ベット減らすんじゃなかった……」

 

 入学早々、俺は部屋を広々使うためにベットを一つにしてもらった。だって一人に対してベット二つとか、何の役に立つんだ?

 そう思っていた先日の俺だが、今この状態にいる俺にはまったくそうは思えない。

 それはそうだろう。残ったベットを鈴が使っているため俺の寝床が無いのだ。もう一つあれば……と考えるのが自然だ。

 さて、俺に残された選択肢は二つ。

 床で寝るか。

 それとも鈴と寝るか。

 後者を選んだあかつきには高校生活を変態の烙印を押されて生き抜くことになるのは明白。そんなつらい生活は嫌だ。

 ……てか、その前に鈴に殺されるな、絶対。

 

「床で寝るか……」

 

 一日ぐらい安眠出来なくても大丈夫だろう。安易な考えでベットの隣に横になる。

 いろいろ慣れないことをしたせいか、すぐに眠りに落ちた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 真っ白。どこもかしこも、どの人も。

 

「肉体損傷は?」

 

「皆無です。あり得ないですね……あれだけの爆撃をピンポイントで受けたのに…」

 

「システムはうまく作動してるみたいね。まったく、とんでもない天才がいたものね」

 

 二人が話していると、もう一人の男が部屋に入ってくる。

 

「どうだ、調子は?」

 

「ええ、良好よ。このまま行けば、次のステップへ進めるわ」

 

「次って何するんですか?」

 

「それは――」

 

 

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 ドサッ!

 

 

 

「いでっ!?」

 

 強烈な痛みに反射的に声が出る。

 なんだ?

 寝起きでぼやけた視界で辺りの様子を探る。カーテンの隙間から日が差し込んでいるところを見ると、すでに朝らしい。

 うわぁ……嘘だろ……全然眠った気がしない。

 それに、随分と半端なところで夢が切れてしまった。もったいないというか、なんというか。

 ま、ろくな内容じゃなさそうだったからいいか。

 上半身を起こそうとすると、体の上を何かが滑り落ちるような感覚が。

 

「おっと!?」

 

 

 

 ムニッ。

 

 

 え……? なにこの感触。柔らかい……。

 戸惑っていると、ようやくハッキリとしてきた視界がとんでもないものをとらえた。

 

「んっ……し、信……! どっ、どこさわってんのよ……!」

 

「り、鈴……!」

 

「それに……な、なんであたしがあんたに抱き締められてるわけ?」

 

「い、いや、多分……お、落ちそうだったから、かな……」

 

 あはは、と口をひきつらせる。

 鈴は真っ赤な顔でこちらを見ていて、今にも爆発しそうだ。しかもちょっと涙目。

 そして、やっと理解した。何がどうなったのかを。

 つまりこういうこと。

 鈴はベットから俺の上に落ちてきて、俺は鈴の尻をわしづかみにしてる。

 ……殺される!

 い、いや! 落ち着け! こういうときはいつも通りだ。何事もなかったかのように……!

 

「お、おはようございます……」

 

「もっかい眠れぇぇぇぇ!!」

 

「へぶっ!?」

 

 強烈な右ストレートにより、俺はもう一度床に沈められることになった。

 しかし、鈴も混乱してたんだろう。結局数分後、また鈴に叩き起こされた。

 まったく人騒がせなやつだ……でも酢豚はうまかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「嘘ついてないでしょうね?」

 

「本当だって! 月末の学年別トーナメントで優勝すると、織斑くんか真宮くんと付き合えるの!」

 

「ちなみに織斑くん派と真宮くん派は五分五分ぐらいだよ!」

 

 月曜日の朝、俺と一夏とシャルロットが教室に入ると、女子がまた集まって何やら話し込んでいた。

 あれ? 鈴もいるじゃないか。二組なのに。

 

「なんの話?」

 

 シャルロットが笑顔で話しかけると、女子たちはみな悲鳴をあげて散らばった。

 

「またなんか隠し事……もうしないぞ」

 

 周りの女子たちからチラッと『また嘘ついてるか確かめるの?』という雰囲気が出ていたので、釘をさしておく。みんな嘘つきだっていうことがこの前わかったからな。

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから」

 

「わたくしも自分の席につきませんと」

 

 そさくさと逃げるようにその場を離れる鈴とセシリア、あと他の女子。

 

「信、どう思う?」

 

「さぁ……? シャルル、わかるか?」

 

「全然。一夏は?」

 

 質問が一巡してしまった。

 三人揃って首をかしげていると、箒が目に入った。

 む? あいつ、なんか悩んでるな。あとで聞いてみよう。

 そして今日もまた授業が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんでこのようなことに……)

 

 箒の悩みの種は例の噂。『学年別トーナメントの優勝者は織斑一夏、もしくは真宮信と交際できる』という内容だった。

 

(なんで信まで巻き込まれているのだ! だいたい、優勝したら一夏と付き合えるのは私だけのはずだ!)

 

 あのとき箒は確かにこう言った。

 

『学年別トーナメントで優勝したら……つ、付き合ってもらう!』

 

 しかし、その宣言は何故か歪みに歪んで学校中に広まってしまった。しかも内容に信を+αしたパワーアップバージョンが。

 

「はぁ……」

 

「幸せが逃げるぞ、箒」

 

「!?」

 

「もう横にいるよ」

 

 後ろから声に振り向く前に、右側に信がいた。

 なんだろう。

 悩み事や頼み事など、助けてほしいときに信が現れる気がする。

 それはなぜなのか聞いてみたら、顔に書いてあるよ、と信が笑った。ニヤリとした笑いが妙に子供っぽい。

 

「どうしたんだ? ま、予想はつくけど」

 

「……なんだと思う?」

 

「一夏だろ、一夏。『付き合ってるのに自分だけ特別に扱ってくれない』ってことだろ?」

 

「……」

 

「……あ、あれ!? 違うの!?」

 

「ひとりで話を進めるな……はぁ……実はな、信――」

 

 

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「なるほど……つまり『学年別トーナメントで私が優勝したら付き合ってね、一夏』が『学年別トーナメントで優勝したら付き合えるね、一夏』になって、さらに『学年別トーナメントで優勝したら一夏と付き合える』という図式で箒はまだ一夏と付き合ってないわけか」

 

「そういうことだ……」

 

「……」

 

 事のあらましを伝えると、信はガッカリしているようだった。というより、あきれている。

 

「お前さぁ……もう『私と付き合って、一夏!』でいいじゃないか。俺はもうてっきり……」

 

「し、仕方がないだろう……」

 

「こうしている間にも着々と一夏を狙うやつは増えてんだ。どうすんだ?」

 

「う、うるさい……」

 

「なんでそんなに怖がるんだよ。箒みたいな美人に告白されて嬉しくないやつなんかいないぞ?」

 

「なっ……!」

 

 突然『美人』と言われて照れてしまう。

 しかし、ここでにやけては……!

 

「怖がってたらずっとこのままだ。それだけは間違いない」

 

「な、ならば、お前から一夏に言ってくれ。わ、私がすすす、す……!」

 

「好きだって?」

 

「~~……!」

 

 

 箒の言わんとしていた言葉を引き継いだ信がニヤニヤしている。コクコクとうなずくのが精一杯だった。

 

「バーカ。そんなんでお前が納得するのか? 本当にそれが一夏に告白したことになるのか? 箒が一番わかってるだろ」

 

 確かにその通りだ。そんなやり方で自分が納得するとは思えない。

 

「それにな、こういうのは第三者が介入するもんじゃないんだ。話がややこしくなるからな。俺は中立の立場で温かく見守らせてもらうさ」

 

(すでにややこしくしているではないか……あの噂にはお前も含まれているのだぞ……)

 

「なに考えてんだ?」

 

「信……自分のことには鈍いのだな……」

 

 純真無垢に首をかしげる信に、多少あきれが混ざったため息を吐く箒であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 タッグマッチも近づき、水面下で女子たちの争いも始まっていた。

 IS学園、生徒自由演習用開放アリーナ。

 

「あら?」

 

 声に反応して鈴が振り向くとセシリアがこちらに向かってきていた。

鈴は眉をつり上げて少し笑みを浮かべる。

 

「奇遇ね。あたしはこれから学年別トーナメント優勝に向けて特訓するんだけど」

 

「わたくしもまったく同じですわ」

 

 二人がいがみ合い、バチバチと見えない火花が互いの間で飛び散る。

 

「この際どっちが上かはっきりさせるのも悪くないわね」

 

「よろしくてよ。どちらがより強く優雅であるか、この場で決着をつけてさしあげますわ」

 

 どちらも自分のほうが強いという点で譲らない。いや、譲れない。

 

「もちろん、あたしが上なのはわかりきってるけど」

 

「弱い犬ほどよく吠えるとは本当ですわね」

 

「どういう意味よ?」

 

「自分が上だってわざわざ大きく見せようとしているとこなんか、典型的ですもの」

 

 鈴の中の何かにスイッチが入った。

 

「その言葉……そっくりそのまま返してあげる!」

 

 鈴は専用IS『甲竜』を、セシリアも同じく専用IS『ブルー・ティアーズ』を展開する。

 すぐさま戦闘が始まるはずだったが――

 

 

 

 

 ヒュッ……ズドォォォォン!!

 

 

 

 

「「!?」」

 

 砲弾が二人の目の前を通り過ぎ、アリーナの壁面に当たって爆発する。

 

「な、なんですの……?」

 

「ああ、悪いな。うっかり手が滑ってしまった」

 

「「!?」」

 

 鈴とセシリアは一旦休戦ということでうなずき、先程『うっかり手が滑ってしまった』少女と向き合う。

 

「ドイツ第三世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』……」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

 鈴とセシリアがそれぞれ表示された敵機の情報を確認する。

 ラウラは不適な微笑を浮かべていた。

 

「どういうつもり!? いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない!」

 

「中国の『甲竜』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。データで見たときの方がまだ強そうだったな」

 

 二人がラウラの挑発にぴくぴくっと口元をひきつらせる。

 

「何? やるの?」

 

「り、鈴さん? あんなかた相手にする必要はありませんわ。先ほど言ったでしょう? 弱い犬ほどよく吠えるのですわ」

 

 鈴は完全に怒りに燃えていたが、セシリアは何とか平静を保とうとしていた。

 

「貴様たちのようなものが私と同じ第三世代型専用機操縦者とは……数だけが取り柄の真似事大好きな国と、古いだけが取り柄の国は、余程人材不足と見える」

 

 鈴が最終安全装置を外す。

 セシリアは踏みとどまったが、そろそろ冷静さを失いかけていた。

 

「この人、スクラップがお望みみたいよ!」

 

「そ、そうですわね……」

 

 ギリギリ。まさに極限だった。

 それでもなんとか理性を保てるのはセシリアの育ち方がよかったのだろうか。

 しかし。

 

「ふん……二人がかりで来たらどうだ? 下らん種馬を取り合うようなメスに、この私が負けるものか」

 

 ついにセシリアも安全装置を外す。何もかもが吹き飛ぶほど、この候補生に腹が立った。

 

「セシリア、まずは軽くウォーミングアップしましょうか。あの実力知らずのアホ女で」

 

「……そうですわね。準備体操にもなるかどうか不安ですが」

 

「ふぅ……もう喋るな。バカがうつる」

 

 鈴とセシリア、二人のISが同時に戦いを挑む。

 ラウラは冷ややかにそれを迎え撃つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……めんどくさいなぁ……」

 

 俺はゆっくりと自分の席から立ち上がった。

 本当ならこのまま一夏とシャルロットと一緒に寮に戻って休みたいのだが、2人はすでにいない。先にアリーナに向かったからだ。

 なにがなんでもタッグマッチでラウラを倒したいらしい。あれだけ盛大に喧嘩を売られた手前、逃げるわけにもいかないんだろう。

 練習あるのみ、と気合いは入っていたが、『信! 今日こそISのこと教えてくれよ!』などと言われる俺の身にもなってほしい。

 あのコーチ三人を押しやって一夏に何かを教えるなんて無理ですから。

 残念。

 それでも一応顔出すくらいはしようと思い、指定された第三アリーナへのろのろと歩を進める。

 

「はぁ……教えるの面倒だなぁ……」

 

 だが頼まれては嫌とも言えず、はいはいとうなずいてしまった。できるだけ教える時間を短くするために教室で暇を潰していたが、そろそろ行かないとまずい時間になった。

 のろのろと歩っていると、女子数人が慌ただしく廊下を走っていった。心配そうな表情もあれば、驚いたり、興味津々の顔もあった。

 

「……? あ、鷹月さん」

 

「あっ、真宮くん!」

 

「そんなに急いでどうした?」

 

「大変なの! 第三アリーナでボーデヴィッヒさんが戦ってて……詳しいことはわからないけど大変なの!」

 

 それじゃと鷹月さんは全力で廊下を駆け抜けていった。

 第三アリーナでボーデヴィッヒが戦闘……? 

 教室でのシャルロット言葉が頭に響いた。

 

『それじゃ、僕と一夏は先に行ってるね。第三アリーナにいるから、間違えないでね?』

 

 嫌な予感しかしない。俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思った通りだ。

 ラウラは嫌悪に顔を歪める。

 弱すぎる。こんなやつらが国の名を背負うだと? 呆れを通り越して同情の念すら沸いてくる。

 ワイヤーブレードで鈴とセシリア、双方に牽制をしつつ、肩に装備したレールガンで攻撃を加えていく。

 

「鈴さん! 前に出すぎですわ!」

 

「はぁ!? あんたがヒビって前に出なさすぎんのよ!」

 

「遠距離型が近距離で戦闘をするわけないでしょう!?」

 

 吐き気がする。

 実践の場において味方同士の信頼関係すら気付くことができていないとは。これならまだ一対一の方がいい勝負になる。

 もっとも、それでも自分が負けるなど微塵も思わないが。

 長く伸びた二本のワイヤーブレードの切っ先が交差し、鈴とセシリアにヒットする。痛みに顔をしかめる二人。

 ラウラの冷たい目にはその姿がどうしようもなく無様に映った。

 

「それで終わりか? ザコが」

 

 そのとき始めてラウラは笑った。この学園に来てから始めて。

 ただそれはひどく残酷な笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん……だよこれ……!」

 

「信! 鈴とセシリアが……!」

 

 観客席につくと、一夏とシャルロット、そして箒がアリーナの内部を眺めていた。そこには信じられない光景が広がっている。

 鈴とセシリア、国家代表候補生二人がボーデヴィッヒに圧倒されていたのだ。数的有利などという言葉はどこにも見られない。

 いや、それだけならまだよかった。

 ボーデヴィッヒの攻撃はすでに学生の練習の域を脱していた。

 放たれた細長いワイヤーはしなやかに曲がりくねり、素早く獲物をとらえる。喉元を締め付けるさまはまさに蛇のようで、鈴とセシリアの必死の抵抗を寄せ付けない。本気で命を奪いかねない残酷で容赦のないそれは、絶対防御のあるISといえど長く耐えきれるものには到底見えなかった。

 ボーデヴィッヒが一方的に拳を叩き込み、甲龍とブルー・ティアーズに鈍く重い一撃が入るたびに装甲の破片が宙を舞い、地面にばらまかれる。

 アリーナのいたるところに設置されたリアルタイムで戦闘情報を伝える端末には、すでにその二機が操縦者生命危険域(デッドゾーン)に入っていることを俺たちに伝えていた。

 二人の苦悶の表情とボーデヴィッヒの愉悦に口元を歪めたのを見て、余計な考えは吹っ飛んだ。

 隣で白式が展開されるのを感じた俺は、瞬光を呼び出しながら叫んだ。

 

「鈴とセシリアを頼む!」

 

「ああ!」

 

「いくぞ!」

 

 アリーナを取り囲むバリアーが二ヵ所、音を立てて破壊された。

 反省文を書かされようがグラウンドを走らされようが構わない。そんなことはあとでどうにでもなる。

 裂け目から出るのと同時に、俺は瞬時加速でボーデヴィッヒの目の前に突っ込む。これには相手も驚いたようで、半歩ばかり後ずさりしていた。

 

「っ!? 貴様はっ……!」

 

「退け。最終通告だ」

 

「誰にものを言っている!!」

 

 ボーデヴィッヒが俺に対応するため、ワイヤーブレードを戻し、鈴とセシリアを解放する。甲龍とブルー・ティアーズの両ISは淡い光の粒子に代わり、消えた。

 恐らくもう展開状態を保てないほどのダメージを受けていたのだろう。

 

「一夏! 二人を運べ! あとは俺がやる!」

 

「わかった!」

 

「私の前で他人の心配をしている余裕があるのかっ!」

 

 ボーデヴィッヒは両手のプラズマブレード、さらにワイヤーブレードを器用に使って攻撃をしかけてくる。

 刀の状態に展開した朧火でなんとか受け流す間も、一瞬気を抜けば殺されそうなほどの強い敵意が俺に向けられ続ける。

 

「貴様のような三流に時間を割く暇はない! 邪魔だ!」

 

 ビタッと俺の動きが止まる。見えない力で全身が押さえられているようだ。

 

「AICか……」

 

「知っていようがいまいが、おまえに防ぐ手だてなどないがな!」

 

 ラウラは嘲笑うかのように鼻を鳴らした。

 アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。慣性停止能力とも言い、通称『AIC』。

 第三世代型の武器として紹介されていたのを前に見ていた。

 なるほど、確かに身動きを封じられると厄介だな。

 

「所詮貴様も――」

 

「いいのか?」

 

「何?」

 

 言葉を遮り、聞く。自分でも驚くぐらい、冷たく黒い感情が心にある。そして落ち着いている。

 ボーデヴィッヒも絶体絶命のわりに、あまりにも不自然な俺の様子から本能的に察したのだろうか。怯えの表情が現れていた。

 

「停止したのは俺だけだぞ? 思い出せ。あのとき……お前の喉元に武器がとどいたとき、俺は動いていたか?」

 

 ほんの一瞬だっただろう。だが、ボーデヴィッヒが俺の右手に視線を移すのが非常にゆっくりに見えた。

 今度は完全に恐怖の表情を浮かべた目の前の眼帯少女はすぐさま回避行動を取ろうとする。

 その時には朧火はもう俺のイメージを反映し、光の粒子が動いていた。次の瞬間、鋭い切っ先がいくつも右腕から弾け飛ぶように展開された。

 朧火は今までで一番大きく、広く、そして禍々しく形を変えていた。

 俺の右腕から伸びたそれは一本ではなく何本とボーデヴィッヒの首や心臓、両手両足に突き付けられている。更にはボーデヴィッヒの周りにも槍状の朧火が展開され、槍がたまたま刺さらなかった、というよりは、ボーデヴィッヒが槍の展開される場所にたまたまいなかったという方が正しい。

 針山地獄。

 この状況はまさにそれだった。

 AICで身動きが取れないながら、俺は冷ややかにボーデヴィッヒを見つめていた。

 相手は苦虫を噛んだように唇を固く結び、俺を睨み返している。

 横目で織斑先生がこちらに歩いてくるのを捉えたが、俺たちはそんなことお構いなしで互いに敵意を向け続けていた。

 

「真宮、ボーデヴィッヒ。その辺にしておけ」

 

 その目と声には有無を言わせぬ強制力がある。

 しかし俺もボーデヴィッヒも、互いに無言で武器を納めようとしない。

 織斑先生はいつにもまして険しく眉をつり上げ、俺たちを睨んだ。

 

「聞こえなかったか? やめろといったんだ……三度目はないぞ」

 

「「……」」

 

 AICが解除されたのを感じ、俺も朧火を解除する。

 だがISは展開したままで、織斑先生がいなくなればすぐさま戦闘が開始されてもおかしくないピリピリした空気は、未だとかれていなかった。

 

「納得がいかないのであれば……決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか。これ以上この場で騒ぎを起こされては困る」

 

 織斑先生の声の調子はいつもと変わらないが、先ほど以上に強制力があった。

 

「……教官がそうおっしゃるのなら」

 

「……俺もそれでいいです」

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 織斑先生の声がアリーナ中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「な、何よ? さっきからジロジロ……」

 

「そ、そうですわ……お、落ち着かないのですが………」

 

 俺から見て右手に鈴、左手にセシリアがそれぞれベットに寝ている。二人とも怪我をしていて、包帯が巻かれていた。見てるだけでも痛々しい。

 二人ともすぐさま保健室に運び込まれたので、まだISスーツのままである。

 部屋には付き添いとして一夏、シャルロット、そして俺。

 人数が人数なので、それなりに広いはずの保健室がなかなか狭く感じられなくもない。

 とりあえず命に別状はないようだが、助けに入った俺たちは今現在かなりピンチだ。

 なぜならば。

 

「……一夏と俺とで合計百枚オーバーの反省文書かされることになっちゃったんだけど。百枚ってなんだよ。もはや反省文の域じゃねぇよ」

 

「た、大変そうね……頑張って……」

 

「お、お気の毒に……おほほ……」

 

「……まぁ一夏が全部書いてくれるらしいんだけど」

 

「うおぉい!? 初耳なんだけど!? 逃がさないぞ!? 逃がさないからな!?」

 

 冗談だって、と一夏をなだめ終えると、もう一度鈴とセシリアに向き直る。そしてため息をついた。

 

「貸し一つだからな。ちゃんと返せよ?」

 

「……ありがと……」

 

「……ありがとうございました……」

 

 妙にしおらしい鈴とセシリアはなかなか新鮮で、別人のようだった。なんか普通の女の子って感じがして思わず笑みがこぼれそうになったが、なにがおかしいんだとかツッコまれそうだから堪えた。

 

「それにしても……なんであんなことになったんだ?」

 

「うんうん。一夏の言う通りだぞ。なんかあったのか?」

 

「うえっ!? そ、それは……」

 

「とっ、特には……なにも……」

 

「何もないわけないだろ。なんだよ。別に隠すことでもないだろ?」

 

 俺が言い寄ると、とたんに二人は目を泳がせ始めた。

 わかりやすっ。絶対なんかあったな。

 さらに言い寄ろうとしたとき、シャルロットがクスクスと笑いながらお茶を持ってきた。

 

「もう。一夏もそうだけど、信も鈍すぎるよ。もうちょっと自分のことも考えたほうがいいんじゃない?」

 

「へ?」

 

 シャルロットは怪我人二人にお茶を手渡しながらニコニコと笑みを崩さない。面白くもあり、しょうがないという気持ちもあり、はたまた嬉しいとも感じでいるようだった。

 

「鈴もセシリアも、信のことが大好きだもんね?」

 

「「!?」」

 

「え? 俺が何?」

 

「別にー?」

 

 ニコニコ。

 なんだ? 変なやつ……。

 笑顔満開のシャルロットとは対照的に、鈴とセシリアは顔を真っ赤にしてなにやら焦ったようにわたわたしていた。

 

「しゃ、シャルロットさん!? な、ななな、何を言ってらっしゃいますの!?」

 

「そ、そうよ! で、デタラメ言わないでよねっ!」

 

「?」

 

 なんで俺のほうをチラチラ見てるんだ? ……あ。昼に食ったカレーが制服についてる、とか?

 やばいな。あれ時間経つと結構頑固な汚れになるんだよ。部屋帰ったら洗濯しよう。

 

「信……何を考えてるか知らないけど絶対に違うからね?」

 

「え?」

 

 違うのなら洗濯の手間が省けてそれはそれでいいんだが。

 ホッとしていると、体が細かい振動を検知した。

 

「……? なんだ? 地震?」

 

「いや……なんか足音……みたいな?」

 

「……近付いてきてるよな?」

 

「……ああ」

 

 ドドドドドと何かの大群が押し寄せてくる音はもうすぐそこまで迫っている。部屋中の全員がドアのほうに目を向けた。

 そして。

 

 

 

 

 バァァン!!

 

 

 

 

 突然、ドアが勢いよく開いた。

 

「織斑くん!」

 

「真宮くん!」

 

「デュノアくん!」

 

「「「「「「「「「「これ!!」」」」」」」」」」

 

 雪崩れ込んできた女子の大群に気圧されていると、バン!と目の前に何かの案内が突き付けられる。

 あっけにとられつつ、俺はそれを読み上げた。

 

「今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする……」

 

「ルール変更?」

 

「「「「「「「「「「そう!!」」」」」」」」」」」

 

「ちょ、静かにし――」

 

「私と組もう、織斑くん!」

 

「私と組んで、デュノアくん!」

 

「私は真宮くんがいい!」

 

 ここ保健室……。

 静かにしてくれよ。

 そんなにペア探しに困ってるのか?

 俺たちの誰かしらが首を縦に振るまでは騒ぎはまったく終息しそうもない。うーん……仕方がない。ここはひとつ……。

 

「俺は――」

 

「悪い! 俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

「あっ!? お、おい!?」

 

 ぐあぁぁ!? シャルロットを一夏に取られた!

 俺の『すべての処理は一夏に押し付けてしまおう』という計画がっ!

 

(悪いな、信。すべての処理はおまえに押し付ける!)

 

(くっ……! あとで覚えとけよ……)

 

「そ、そうなの?ま、まぁ……他の女子と組まれるよりは……」

 

「じゃ、じゃあ! 真宮くん! 真宮くんは?」

 

「お、俺か? えーと、俺はだな……」

 

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ……うーん……頭捻れば何か出るはず……出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ……出たっ!

 

「お、俺が入ると人数合わないから、織斑先生に一人で出場しろって言われてるんだ」

 

 ……どうだ?

 女子たちの顔色をうかがう。

 

「お、織斑先生が言うなら……」

 

「そうね……まだ私たち若いし……死に急ぐことはないわよね……」

 

 さっすが、効果抜群だぜ。

 女子たちは肩を落としつつ保健室を立ち去っていった。ドアが閉まるパタンという音がかなり間抜けに聞こえたあと、俺たち三人はほっと胸を撫で下ろす。

 なんだあれ……まさに嵐のようだったな……。

 

「信……今の本当か?」

 

「嘘に決まってんだろ……」

 

「じゃあどうすんだよ?」

 

「案内に『当日までペアが決まらない生徒は抽選』って書いてあったから、それでいいよ。はぁ……俺もシャルルとペアがよかった」

 

「えっ!? ほ、本当?」

 

「ああ、そりゃもちろん」

 

 一夏との戦いを見る限り、実力はかなりあるし、何より優しい。俺がミスしても難なくカバーしてくれそうだ。是非ともペアになりたかったぜ……うんうん。

 独り頷く俺の隣で何やらシャルロットがもじもじしていると、そこに怪我人が割り込んできた。右腕に鈴、左腕にセシリアが自分の腕を絡ませてくる。

 うっ……あの~……ISスーツだとなかなか隠しきれない色々な感触が……。

 仕方ない……また無だ。ここは無心だ。

 

「だったら信! あたしと組みなさい!」

 

「いえ、信さん! わたくしとぜひ!」

 

「お、お前ら怪我人だろうが。そして離れろ。離れてくださいお願いします」

 

「真宮くんの言う通りですよ」

 

 おお。我らが副担任、山田先生。

 いいタイミング……って、あれ? どこにいたの? あと、いつからいたの?

 まぁ……この際どうでもいいか。

 

「凰さんとオルコットさんのIS、ダメージレベルがCを越えています。トーナメント参加は許可できません」

 

「「で、でも……」」

 

「……? だからなぜ俺を見る?」

 

 結局二人は最終的に渋々ながらもトーナメント参加を断念することになった。その際、なぜだかわからないが必ず優勝してこいと念を押しまくられた。

 応援されるのは嬉しいんだけど、なんか変だな。人生がかかっているんだ、ぐらいの気迫だったんだが……よくわからないけど頑張るか。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――

――――――――――

 

 

 

「いやー……疲れたな今日も」

 

「そうだなー……」

 

「反省文書かなきゃなぁ……」

 

「そうだなー……」

 

「「はぁ……」」

 

「ふ、二人とも元気だして? ぼ、僕も手伝うからさ……ね?」

 

 俺たち三人は保健室から寮へ戻る途中、いろいろと他愛もない話をしたり、ペナルティの反省文について落ち込んだりしていた。

 

「あ……そうだ。俺、職員室から用紙もらってくる」

 

「そうか? じゃあ頼む」

 

「僕も一緒に行く?」

 

「いや、大丈夫だ。二人は先戻っててくれ」

 

 回れ右をして、帰寮方向とは逆に歩き出す。

 そして、しばらくしてから歩を止めた。辺りに誰もいないことを確認し、右側の茂みに向かって話しかける。

 

「……出てこいよ。何の用だ?」

 

「……」

 

 無言でボーデヴィッヒが現れる。保健室を出てから感じていた視線は、案の定こいつのものだったようだ。

 

「……聞きたいことがある……」

 

「なんだよ?」

 

「なぜお前は強いのだ?」

 

「いやいや……それはお前の勘違い――」

 

「嘘をつけ! 私は軍属だぞ!? 敵の実力を見謝るほどぬるくはない!」

 

「……あーもー……勝負しろ、とか言うのか?」

 

「当たり前だ!」

 

 ボーデヴィッヒは強い。戦い方は非常に気にくわないが、実力は間違いなく一年生トップクラスのはず。なにせ同じ代表候補生である二人を圧倒するくらいだ。これで弱いわけがない。

 だから、多少自信があるのは仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが、かといって見境なく喧嘩を仕掛けるのはいただけない。

 

「……なにが気に食わないのか知らないけどさ、みんなと仲良くしたほうがいいんじゃないか?」

 

「仲良く、だと?」

 

「そ。ここにいる生徒とな。もちろん、一夏も込みで」

 

「……それが、お前の強さか?」

 

「知らん」

 

 キッパリと言い切った。こいつ、何がなんでも俺を強い人にしたいらしい。やめてくれよ……。

 

「そうえばさ、お前なんで一夏と仲悪い――」

 

「……ない……」

 

「は?」

 

「……私は、認めない……! 人と馴れ合うものが強さを持つわけがない……!」

 

「お、おい?」

 

「次に戦うときは容赦しない……貴様を全力でねじ伏せてやる……!」

 

 銀髪をサラサラとなびかせ、ボーデヴィッヒは茂みの向こうに消えた。ちらりと見えた瞳の中には、怒りの炎が巣食っていた。

 なんか知らないが、怒らせてしまったらしい。

 

「なんでかなぁ……」

 

 残された俺はただただ、天を仰ぐばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一夏には悪いけど、信とペアになりたかったな……)

 

 シャルロットはそんなことを考えながら、着替えを始めた。

 彼女は今、一夏に気を使って、自分の部屋を出て別なところにいる。

 その別なところとは。

 

「信ってこのベットで寝てるんだ……」

 

 隣の部屋、つまり信の部屋である。

 まだ信は帰ってきてないので、さっさと着替えてしまえば問題ないだろうと判断したのだ。

 ところがいざ入ってみると信の部屋に一人きりということで、いろいろと気になる点が出てきてしまった。

 

「ベットの下……」

 

 ちょうど下着の状態になったときに、その隙間が気になってしまった。

 

「……お、男の子ってこういうところにそういうの隠すんだよね……」

 

 しばらくじーっと見つめたあと、ついに好奇心に負けた。キョロキョロと辺りを見回し、耳を澄ます。

 誰もいないし、足音も聞こえない。

 

「た、確かめるだけ……確かめるだけだよ?」

 

 よつん這いになってベットの下に手を入れて、動かしていると。

 

 

 ガチャ。

 

 

 ドアが開く音が聞こえた。反射的に顔だけ出口に向けると、ちょうど部屋に入ってきた信がいた。

 

「ふぁ……ねむ――」

 

 信と目か合う。

 ここでシャルロットは気付いたのだが、まだ自分は着替えの途中で、胸を隠すための男装用コルセット、下は淡いピンク色のパンツのままだった。

 しかも四つんばいでお尻をつき出すような格好だったので、パンツがきゅっと食い込んでいる。

 

「よ、よぉ……」

 

「お、お邪魔してます……」

 

「あ、ああ、ごゆっくり……」

 

 非常に滑らかにドアが閉まった。

 

(う、うわああああぁぁ!? ど、どうしよう!? こっ、こんな格好……! あっ……でも信なら別に……はっ!? なに考えてるのさ!!)

 

 あたふたといろいろ考えを巡らしていると、外から信の声が聞こえてきた。

 

『しゃ、シャルロッ――シャルル……』

 

「な、何?」

 

『い、いろいろと言いたいことはあるんだけどさ、とりあえず、早く着替えてくれ……』

 

「そ、そうだね! すぐ終わらせるよ!」

 

 ぱばっと着替えて、ドアを開ける。

 

「どうぞ……」

 

「いや、俺の部屋なんだが……」

 

 そのあと、信は洗面所で着替え、シャルロットはその間ベットに座ったままだった。

 信が着替え終わり、自分の隣に座る。怒っている様子は無い。

 

「……何してたんだ?」

 

「ふえっ!? そ、それは……その……あれだよ!? ペンダント! ペンダント落としちゃって……」

 

「嘘つけ」

 

「うう……ごめんなさい」

 

「わかればよろしい。それに、俺は別に怒ってないし、やましいものも隠してないからな?」

 

 ポスッと頭に手が乗せられた。ちょっと顔を上にあげて信の顔を見ると、優しく微笑んでいた。

 少しだけ鼓動が早くなる。

 赤くなった顔を見られたくなくて、またうつむき気味になってしまう。

 

(鈴とセシリアにはああ言ったけど、本当は……ぼ、僕もなんだよね……)

 

 だから、わかる。

 信の笑顔には到底逆らえないし、逆らわない。ただ流されるだけ。

 見つめてほしくて、見つめていたくて。

 

(でも……!)

 

 やられっぱなしではいられない。意識させるんだ、自分を。

 だから、ちょっとだけ大胆に反撃してみたり。

 

「じゃ、じゃあ……し、信は女の子に興味ないの?」

 

「え? そ、それは……」

 

「興味あるの? ないの?」

 

「え、えーっと……あ、あるよ、そりゃあ……」

 

「本当に?」

 

「も、もちろん!」

 

「本当の本当に?」

 

「もちろん!」

 

「ふーん……じゃ、じゃあさ……ぼ、僕にも興味ある……ってことだよね?」

 

「もちろん! すごく興味あるに決まっ……あれ? はぁ!? いや!? いやいや!? 別に今のはそういう意味じゃなくて!」

 

「信……今、変なこと考えたでしょ……?」

 

「へっ、変なことって何だよ!?」

 

「僕の……はっ、裸のこと……とか」

 

「そ、そんなことっ……!」

 

 もとはと言えばそれが狙いなのだが。

 シャルロットはほんのりと顔を赤く染めながら、できうる限り怒っているような顔を作り、体を抱き抱えるように腕を交差し、非難の目を向けてみる。

 

「だ、だから! それはつまりアレがこうなって、いわゆるそれにこう……」

 

 それを見た信はそれはそれはひどく慌てて、なんとか弁解の言葉を紡ぎだそうとしていたが、なにやら訳のわからないことを言うばかりだった。

 

「……えっち」

 

 シャルロットは信に向かって小さく舌を出したあと、パパっと荷物をまとめると、去り際にニッコリ笑って信に手を振った。

 なにがなんだかわかっていないながらも、信は手を振り返して笑った。その顔はいつもより間違いなく赤く、それはつまり自分のことを女の子として見てくれたということだ。

 それが嬉しくて、恥ずかしくて。

 シャルロットは思わずにやけてしまう。

 

 そして、その日の夜は一夏に不思議がられるくらい、真っ赤な顔のまま過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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