IS〜world breaker〜   作:山嵐

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15:遊びだからって気を抜くな

 

 

「海っ! 見えたぁっ!」

 

「やたーーー!! キターーー!!」

 

「あ! カモメだよ! ほら!」

 

「わぁ! キラキラしてるね~!」

 

 トンネルを抜けたバスの中で、女子たち数人が歓声を上げる。

 臨海学校の初日、見事な快晴でまさに海で泳ぐのにぴったりの天気だった。みんなのテンションが上がるのは自然なことである。

 

「ふわぁ……!」

 

「おいおい。随分眠そうだな」

 

 通路を挟んで隣の一夏が俺に声をかける。

 

「昨日は楽しみ過ぎて眠れなかったんだよ」

 

「……子供だな」

 

「うっせー」

 

 なにせ海で泳ぐのは初めてなので、わくわくして朝方まで眠れなかった。その代わりバスでひたすら寝続ける計画だったのだが、やれお菓子交換だ、やれ恋バナだでまったく寝る暇がなかった。

 ちなみに俺はポッキーゲームや王様ゲームなど明らかに危ない香りのするに誘われたりもしたが、無論丁寧に断った。一歩間違うと学園での社会的地位が危うくなりそうだ。

 一夏の隣の席に座っているシャルがひょっこり顔を出し、俺に微笑みを向けた。

 

「信ってたまに子供みたいなとこあるよね~」

 

「シャルだって人のこと言えないだろー」

 

「ふふっ。そうだね」

 

 シャルは楽しそうに微笑む。

 やれやれ……言ってるそばから笑顔が子供っぽい。

 ふと、俺の目がシャルの右腕にとまる。

 

「あっ。それつけてくれたのか?」

 

「うん! どう? 似合ってる?」

 

「ああ。よく似合ってるぞ」

 

「本当? ありがと~♪」

 

 昨日、買い物に付き合ってくれたお礼に白いブレスレットをシャルにプレゼントした。俺のと色違いでお揃いのやつ。わざわざついてきてくれたんだから、お礼ぐらいはしないとな。

 シャルは白いブレスレットをしている手を俺に見せ、ニコニコしている。

 まぁ厳密に言えば、俺のは瞬光の待機状態のものなので、シャルに買ってやった市販のやつとデザインはちょーっと違うが。それでもこれ以上ないってくらい似てるものを選んだつもりだ。

 全身から幸せオーラが出ているところを見ると、よっぽど気に入ってくれたらしい。プレゼントを送った側としては嬉しい限りである。

 

「よかったよかった……あ、そうだ。そうえばラウラも泳ぐの初めてじゃないか? 楽しみだよな、海」

 

「……」

 

 朝からずっと無言のラウラ。一体どうしたというのだろう。

 いつもはもっと冷静さのある沈黙なんだが、今日はそわそわと落ち着かない沈黙だ。

 なんだ? 俺の隣がそんなに居づらいのか?

 

「聞こえてますかー?」

 

「……」

 

「……ていっ」

 

「ふぐっ!? な、何をする! ち、近い!」

 

「ぐぇ」

 

 頬を人差し指で突いたら顔を思いっきり押し戻された。

 こちらに向けた顔は怒りというよりも緊張の色が多く含まれ、そのせいだろうか、わずかに赤みがかっていた。

 

「どうした? 何か不安なのか?」

 

「な、なぜだ!?」

 

「いや……そんな顔してたから……」

 

「そ、そそそ、そんな、そんなわけないだりょ!」

 

 なんかめちゃくちゃ動揺してるな。噛んだし。ラウラらしくない。

 でも、恥ずかしがってうつむく姿はとてもかわいらしい。これはこれでいいのかもな。

 

「ずるいですわ……シャルロットさんだけプレゼントなんて……ずるいですわ……」

 

 真後ろの席ではセシリアが若干むすっとした顔で文句を言っている。

 ごめん、セシリア……俺に聞こえるように出発してからずるいずるい連呼してたけど、本当は最初っから聞こえてた。でも寝たかったんだ。許してくれ。

 結局寝れなかったけど。

 まるで今気付いたかのように俺は振り返る。

 

「セシリアも何か欲しいのか? それじゃあ、この前のお礼もしてないし、今度なんか買ってやるよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ」

 

 セシリアは『今から楽しみですわ!』と顔を輝かせた。眩しい。その希望に満ちた顔が眩しい。

 喜んでくれるのはいいのだが、流石にブランド品とかは無理だな。セシリアはお嬢様だから、あとでちゃんと言っておかないとまずいことになりそうだ。金額的に。

 どれくらいの額までなら買えるか、ひとりシュミレーションを重ねるなか、一夏が前方の席に座っている箒に話しかけているのが聞こえた。

 

「向こうに着いたら泳ごうぜ。箒、泳ぐの得意だったよな」

 

「そ、そう、だな。ああ。昔はよく遠泳をしたものだな」

 

 遠泳て……。

 俺が苦笑いしていると、振り返っていた箒と目があった。

 が、しかし。

 慌てて目をそらされた。

 何となくだが、多分俺に知られたくないような何かがあるんだろう。そんな感じだった。

 これは怪しい。そして面白そうだ。あとでやんわりとからかってみよう。

 叩けば埃がでるかもしれない。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

 織斑先生の言葉が騒がしいバス内に響き、全員がさっとそれに従う。この辺は流石と言うべきだろう。

 言葉通りほどなくしてバスは目的地である旅館に到着。

 IS学園一年生がわらわらと出てきて整列する。

 

「ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の方々の仕事を増やさないように注意しろ」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」」」」」」

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 きっと旅館の女将さんだろう、上品で清潔な着物を来た女の人が丁寧にお辞儀をして出迎えてくれた。お辞儀ひとつとってもなんだか品があって、こういうのを大人の女性と言うんだろうなぁとしみじみ思ったり。

 

「あら、こちらが噂の……」

 

 顔を上げた女将さんが俺と一夏を見て、織斑先生に尋ねる。

 ていうか噂になってたの? なんか恥ずかしいな。

 

「ええ、まぁ……今年はこいつらのせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな。それにいい男の子たちじゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

「感じがするだけですよ」

 

「またまた~。本当は生徒を誉められて嬉しいくせに――っと!」

 

 俺が話に割って入ったら織斑先生の鉄拳が横から飛んできた。

 だがしかし、織斑先生をからかうならばこの程度の反撃は予想の範疇である。素早くしゃがんだ俺の頭の上を拳が飛んで行く。

 そして。

 

 

 

 ガン!!

 

 

 

「痛っ!?」

 

 悲しいかな、俺に当たるはずだった鉄拳は無実の一夏にヒットした。

 ごめんな、一夏。別に狙ったわけじゃないんだ。ていうか織斑先生、止めようと思えばできたでしょう?

 ……あ~。空振りするのが恥ずかしかったのか。そんな顔してる。

 最近は織斑先生の表情も見慣れてきたので、何となく気持ちを察することもできるようになってきた。

 

「危ない危ない……あっ、真宮信です。よろしくお願いします」

 

「いって……お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 俺が挨拶をすると一夏もそれにならい、頭を擦りながらお辞儀をする。

 

「うふふ、仲がよろしいんですね。当旅館の女将をしています、清州景子(きよすけいこ)です」

 

 またまた丁寧なお辞儀をする女将さん。やっぱり女将だったか。

 一夏が変な気をきかせて『いや~!若女将かと思いましたよ~』と言ってまた織斑先生に殴られた。

 ……あとで飲み物でもおごってやろう。

 

「まったく……見苦しいところをお見せしてしまいました。申し訳ない」

 

「うふふ……いえいえ。賑やかでなによりですよ。それじゃあみなさん、お部屋の方へどうぞ」

 

 女将さんに促され、わらわらと旅館の中に入る女子たち。

 そして、部屋の鍵を受け取りしだい、初日の自由時間を無駄にはできないと素早く散っていく。

 

「ね、ね、ねー。おりむ~、みーやん」

 

「……その呼び方やめないか?」

 

「俺も信に賛成だ」

 

「えー? 意外と呼びやすいよ~?」

 

 のほほんさんがいつも通りの眠たそうな顔で近付いてきた。

 この子は充分な睡眠を取れているのか……? 毎日毎日、なぜそんな眠たそうな顔なんだ……。

 

「それよりさ~、ふたりとも部屋どこ~? 一覧に書いてなかったよ~?遊びに行くから教えて~」

 

「別にいいけど……」

 

 ……あれ? 周りの女子がなんか急に静かになったな? どうした? 気のせいかな……?

 

「俺の部屋は……」

 

 えーと……そうえば、知らされてない。

 

「……一夏、俺の部屋ってどこだ?」

 

「知らねーよ。俺だって自分の部屋知らねーからな」

 

「だってさ」

 

「え~? そうなの~?」

 

((((((ガクッ……))))))

 

 心なしかガッカリしたのがのほほんさんだけでなかったような気がするんだが。気のせいだろう。そうなんだ。そう思おう。

 

「織斑、真宮。お前らの部屋はこっちだ。ついてこい」

 

 織斑先生からお呼びがかかる。早く行くかないと。

 のほほんさんに『じゃ、あとで』と手を振り、一夏と一緒に駆け足で織斑先生についていく。しばらくして、先生の足が止まった。

 

「お前はここだ、真宮」

 

「はい」

 

 指差された部屋のドアを開ける。どうやら二人部屋らしい。広々として快適そうだ。

 

「で、織斑。お前はあっちだ」

 

「え? 信と一緒じゃないんですか?」

 

「お前は私と一緒の部屋だ。真宮は一人部屋になるな」

 

「おお! やったぜ!」

 

「ええー! どうして信だけ……」

 

「最初はお前らをまとめる予定だったのだがな……それだと絶対に就寝時間を無視した女子が大量に押しかけるだろうということになったのだ。結果、お前より真宮のほうがしっかりしていそうだからこういう部屋割りになった」

 

 お、さりげなくしっかりしてると誉められた。

 

「いいじゃないか、あとで遊びに来いよ一夏」

 

 『そんなぁ……』と肩を落とす一夏に励ましの言葉をかける。たまには家族水入らずで過ごすのもいいと思うんだが。

 

「そうえばさっき聞かれたんですけど、俺の部屋って教えていいんですか?」

 

「……お前は私の話を聞いていたのか?」

 

「聞いてましたよ。就寝時間を無視させなければいいんですね?」

 

「……はぁ……わかった。ただ騒がしくするな。苦情が来る」

 

「え? いいんですか? 冗談のつもりだったんですけど……」

 

「ああ。だが変な気は起こすなよ?」

 

「変な気って……何を今さら」

 

 その妙にニヤニヤした顔は何ですか?

 ていうか、ここで起こすぐらいならもうすでに学園で起こってますよ……。

 あ、いや。俺が女子に対してそういう気を起こせないようなアブノーマルなわけではなくてですね。やっぱりそういうのは双方の同意の上で成り立つべきで。片方だけがアレだといろいろ問題になりますから。俺も健全な男なわけですし、そういうときもありますけど、さすがに無理矢理とかは犯罪なんで。

 えーと、つまりですね……。

 グッと拳を握って、俺は結論を述べた。

 

「彼女ができたらそういう気を起こしますから大丈夫です!」

 

「そんなこと私の知ったことか」

 

「ですよね~」

 

 むしろ同意されても困るから、良かったと言えば良かった。

 

「信、これから海に行くだろ? 荷物置いたら迎えに行くからな」

 

「わかった。じゃ、また」

 

 織斑先生に軽くお辞儀をして扉を閉める。さて、俺も準備をするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうえば信って海に来るの初めてなんだっけ? 泳げるのか?」

 

「安心しろ。昨日、世界水泳のビデオ見ておいたから」

 

「お前なぁ……」

 

 俺は信と男子更衣室を目指し、並んで歩いていた。

 だがここが結構苦難の道のりだ。

 と言っても、別に横から槍が飛び出してきたり、落とし穴があったりなど、忍者屋敷のようなトラップがあるわけではない。

 ただ、精神的に堪える。なぜなら思春期青春真っ盛りの女子の話し声が筒抜けだからだ。

 

『ほほーう? 美香ちゃーん、相変わらずいいからだしてるわねぇー? にひひ……じゃあ失礼して……』

 

『へ!? う、うひゃ!? あははは!! ま、待って……あはは! く、くすぐった……』

 

『ティナの水着って大胆だね! 露出多いのって恥ずかしくないの?』

 

『別にアメリカでは普通よ? 日本が控えめすぎるのよ』

 

『ちょっとちょっと~? なーに興奮してるの~?』

 

『な、なにが!? でっ、デタラメ言わないでよっ!?』

 

『でもここがこーんなに……』

 

『ひゃん!? そ、そこはぁ……!』

 

 一番奥の男子更衣室にたどり着くまで、女子更衣室からとんでもない会話が耳に入ってくる。

 耳を塞ぎたいけど塞ぎたくない。

 そんな矛盾を抱えて、そして必死にいろんなものを堪えて一歩ずつ目指すゴールへと向かう。

 

「「……」」

 

 ちらっちらっ。

 

「な、なんだ? 興奮してんのか?」

 

「そ、そんなわけないだろ!」

 

 何とか男子更衣室までたどり着き、さっと着替えて海に出る。すると、丁度山田先生の声が聞こえた。

 

「今、11時でーす!夕方まで自由時間、夕食に遅れないよう旅館に戻ること!いいですねー!?」

 

「「「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」」」

 

 山田先生に女子たちが元気よく返事をする。

 と、いきなり俺たちは女子に囲まれた。

 何? カツアゲ? そんなわけないか。

 

「あたし、おりむーたちと遊びたーい!」

 

「ビーチバレーしようよ!」

 

「ああ、いいぜ。なっ、一夏?」

 

「おう!」

 

 信の問いかけに答えてさっそく準備体操を始める。

 

「お前真面目だなー」

 

「なんだよ、準備体操しないと怪我するぞ」

 

「大丈夫だっ――」

 

「信っ! そりゃっ!」

 

「うわ! な、なんだ!?」

 

「おー! 高い高い。やっぱ遠くまでよく見えるわ~」

 

 信に飛び乗ってきたのは鈴だった。

 昔は俺がこの飛びつきの被害にあっていたのだが、どうやら背の高い信にターゲットを変えたらしい。

 ちなみに、鈴が着ている水着はスポーティーなタンキニタイプ。オレンジと白のストライプで、へそが出ているやつ。

 動きやすそうだ。

 

「ばっ……おま……! と、とりあえず下りろ!」

 

「えー? いいじゃーん」

 

 そう言って信の目を隠す鈴。

 現在、信は鈴を肩車しているような形になって右往左往している。手に木刀を持って前方にスイカが置いてあれば絵になったろうに。

 

「いいなー! わたしもやりたーい!」

 

「その次あたし!」

 

 のほほんさんを筆頭に、信の周りに人が集まってきた。

 あーあ、やっちまったな。女子というのは一度騒ぎ出したらいろいろ巻き込んで事を大きくしてしまう生き物。事態が潔く収集することはまったくない。

 ていうか、私もってことは鈴のやってるやつを自分にもやれって言ってるのか? あれだけ男女の体が密着したら普通だと当たってはいけないところが当たるんだぞ。この女の子たちはそういう自覚がないのだろうか?

 信はよく理性を保って……ん?

 あ、ああ~……忘れてた。鈴にはそれがない。どことは言わないが。

 目の前が見えないながらも、集まってくる声の数に危険を察知したのか、信がまさかの一言。

 

「あっ!? 一夏がやってくれるってさ」

 

「はい!?」

 

「織斑くんが!? やった!!」

 

「よろしくお願いします!!」

 

 さっそく女子たちが反応する。

 くっ! ここは逃げとくか……?

 俺が駆け出そうとしたとき、ちょうど旅館の方からセシリアが手にパラソルを持ってやって来た。

 

「ちょっと鈴さん!? な、何をしていますの!?」

 

「見ればわかるでしょ? 移動監視台ごっこ」

 

 鈴がえへへっと笑って信にしがみつく。

 信……大変だな。

 

「せ、セシリア!? その声はセシリアなのか!? ちょっと助け――」

 

「信さん!!先程の約束を忘れました、のっ!」

 

 ざくっ、と地球を貫いてしまうんではないかという勢いでセシリアがパラソルを砂浜に刺す。

 なんか怒ってるぞ。怖っ。

 一方、そろそろ飽きたのだろうか、やっと鈴は信を解放した。

 やっと両目の自由が帰ってきて、信は外の眩しさに目をパチパチとやっている。

 

「おい、約束って……」

 

「え? ああ、サンオイル塗ってくれって……ところでサンオイルってなんだ?」

 

「知らないのかよ!?」

 

「いや、聞いたことはあるんだが……食用油かなんかか?」

 

 そんな会話をしているうちに、セシリアは準備を終えていた。

 しゅるりとパレオを脱ぎ、首の後ろで結んでいたブラの紐を解くと、水着の上から胸を押さえてシートに寝そべる。キレイな背中が妙に輝いて見えた。

 セシリアはサンオイルを手に持って、信に見せた。

 

「さぁ……どうぞ?」

 

「……一夏、辞書持ってきてくれ。もしくは『サンオイル』という項目にこういう使用方法であると明記してあるのか見てきてくれ」

 

「信、諦めろ」

 

 何をするかわかったらしい信は最後の抵抗を試みるが、俺に一蹴されてあえなく観念した。

 

「信さん? レディとの約束を違えるなど紳士のすることではありませんわよ?」

 

「ぐっ……! わ、わかったよ……やればいんだろ、やれば……」

 

 信はサンオイルを手にひろげ、さっそくセシリアの背中に触れる。

 

「ひゃっ! し、信さん、サンオイルは少し手で温めてから塗ってくださいな」

 

「そ、そうなのか? 悪いな、よくわからなくて……」

 

 言われた通り、信は手に垂らしたオイルをハンドクリームのように自分の手に馴染ませて温めた。

 

「よ、よしっ。いくぞ……」

 

「んっ……! いい……ですわ……はぁ……んん……!」

 

「サンオイル塗られてるだけでなんでそんないやらしいのよ……しかも妙に嬉しそうだし」

 

 鈴のいう通り、セシリアは心なしか嬉しそうだ。

 信もなるべく早く終わらせたかったのだろう、一分ぐらいで背中にまんべんなくサンオイルが塗られた。

 

「よし……これでいいよな?」

 

「い、いえ、せっかくですし、手の届かないところは全部お願いします。脚と……その……お、お尻も」

 

「は、はぁ!? そ、それは無理だ! え、えーと……あっ、鈴! バトンタッチ!」

 

「はいはい! あたしがやったげる~。ふふふ……」

 

 信の言葉を待ってましたとばかりに鈴が割り込み、セシリアの体にサンオイルを雑に塗っていく。

 うわぁ……強引だなぁ……。

 

「あはは、ははは! く、くすぐった……! り、鈴さん! いい加減に――」

 

 怒って体を起こすセシリア。そうすると体から離れていた水着が離れてそのまま下に落ちて――

 

「「うわあ!?」」

 

 男子二人が突然の出来事に固まってしまう。

 

「きゃああっ!?」

 

「へぶっ!?」

 

 信がISを部分展開したセシリアの文字通り鉄拳をくらう。しかも鉄拳は未だ収まるところを知らず、このままでは俺の身も危ない。

 ということで。

 

「お、俺は見てないぞ!? 見てないから!!」

 

 俺はさっと立ち上がり、一目散に海にかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてて……俺のせいじゃないだろ、あれ……」

 

「あーらら。逃げ遅れちゃったのー?」

 

「もとはといえば鈴のせいじゃないか……ったく」

 

 信は鼻の辺りを擦りながら涙目で、鈴はお気の毒ねとニヤニヤ笑いながら海に浮いている。

 きっと信は鼻の痛みが消えるまで少し休みたいだろうが、しかし鈴は休む暇を与える気はない。

 せっかく二人きりになれたのだ。ここはとことん構ってもらわなければ。一分一秒も惜しい。

 

「信! 向こうのブイまで競争するわよ! 負けたらかき氷奢んなさいよ!」

 

「は? ちょ、なんで――」

 

 信の反論を聞かず、鈴はザブンと海に潜ってさっそく目標に向かって泳ぎ始める。

 セシリアには悪いことしたけど、今回は譲ってもらおう。充分スキンシップも取れただろうし、文句なんかないはず。

 最近はシャルロットやラウラなど強力なライバルも増えたのもあり、鈴はこの夏でのアピールに燃えに燃えていた。

 あの三人はもちろん、他の誰にだって負けてられない。

 鈴は気合いを入れて、ついつい足で水を蹴るのにも力が入ってしまう。

 しかし、それがいけなかった。

 

(むぐっ!?)

 

 突然、鋭い痛みが足を走る。

 今まで蹴りあげていた水が仕返しとばかりに鈴を飲み込むようにまとわりつき、海底へと引きずり込んていく。

 それでもなんとかもがいてもがいて、肺が足りない酸素を欲しているのを感じながら、鈴は海上に顔を出す。

 

「ぷはっ!? あ、足、がっ……つって……!」

 

 一瞬海上に頭を出したのち、なすすべもなく再び海中へ引き込まれる。 反射的に手を伸ばして助けを求めるが、その手をつかんでくれる人はいない。だんだんと意識が薄れていく。僅かに残っていた空気もすべて吐き出してしまった。

 急に眠くなったような感覚が襲い、抵抗する気力すらもなく、鈴はゆっくりと目を閉じ始める。

 最後に海面から射し込む光が見え、そして次の瞬間、何かに遮られた。

 

 

 

 

 ガシッ!

 

 

 

 

 誰かに伸ばしたままだった手をつかまれる。

 大きくて、温かい。すべてを包んでくれる、優しい手。これは、信の手だ。

 失いかけていた意識が再び戻ってくる。導かれるままに、海面へと浮上した。

 

「ぶはっ! はぁ……はぁ……! お、おい、鈴! 大丈夫か!?」

 

「げほ、げほっ……だ、だいじょ、ゲホッ、大丈夫……な、なんとか、ね……」

 

 少し飲んでしまった海水を吐き出して何とか言葉を発する。

 すぐ真上から降り注ぐ太陽の日差しがやけに懐かしく感じられた。生きてる、なんて当たり前のことに感動している自分がいるのが少し不思議だった。同時に、国の看板を背負うほどの人間が何をやってるんだと恥ずかしくもあったが。

 

「まったく……急に沈み出すから本気で焦ったんだぞ……」

 

「ご、ごめん……」

 

 ふぅ、と安心したようなため息が頭にかかった。

 がっしりとした信の腕が鈴の体を支えてくれているので、足の痛みが引くまでまた沈むことはないだろう。

 しかしこの体勢、丸っきり抱き締められている構図なので、嬉しかったり恥ずかしかったり。まだ痛みが消えない振りをして一、二分たっぷりとこの状況を満喫した後、鈴は弱々しく口を開いた。

 

「は、離れなさいよ……」

 

「ダメだ。離さない」

 

「ふぇっ!?」

 

 『離さない』なんて言われると、顔が赤くなった。胸がドキドキする。

 

「足がつった後ってまたつりやすいんだぞ。このまま泳いだら今度こそ……」

 

「あ、あー……そ、そうね……」

 

 なんだ、普通の理由か。

 多少なりとも『ずっとこうしていたい』と言ってくれないかとは思ってたが、やはり現実はそう甘くない。

 

「なんでがっかりしてるんだ?」

 

「な、何も!?」

 

「……? ま、いいや。ほら、背中に乗れ。俺が運んでやるよ」

 

「だ、大丈夫よ、これくら――」

 

「乗れ」

 

「わ、わかったわよ……乗ればいいんでしょ、乗れば……」

 

 しぶしぶ、背を向けた信に後ろから首に手を回す。

 信の背中に身を預けると、なんだかとても安心できた。すべてを受け止めてくれるような、そんな大きな背中だった。男は背中で語るとはよく言ったものである。

 やがてゆらゆらと波に揺られて漂っているのをやめ、信は砂浜へと泳ぎだした。

 

「そうえば鈴、泳ぐ前にちゃんと準備体操したのか?」

 

「し、してない……」

 

「おいおい……」

 

「だ、だってさぁ……こんなことになるはずないって思ってたし……も、もしもの時は、その……し、信が……助けに来てくれるかなって……」

 

「……え? もしもの時が何だって?」

 

「……わざとやってるの?」

 

「なにが?」

 

 本当に都合のいい耳を持っているやつだ、と鈴は苦々しく思う。背中側からでは果たしてどんな顔をしているか垣間見ることはできないが、きっとキョトンとした顔をしているのだろう。

 

「あんたっていつもそうよね……」

 

「はぁ?」

 

「ううん。何でもない……」

 

「……もしもの時助けに来てくれるったって、俺がいつも鈴の近くにいられるわけじゃないぞ。あんまり当てにすんなよ」

 

「ち、近くにいてくれないの……?」

 

 不安そうな声を信は笑い飛ばした。

 

「そういうことじゃないって。できるだけ鈴の側にいてやるけど、たまにいないときもあるってことだ」

 

「……そ、それじゃあ、できれば……できれば、ずっと……側にいてね……」

 

「おう」

 

 きっと伝わった意味は少し違うんだろうなぁと、鈴は苦笑する。

 いつか素直に言える日はくるんだろうか。そのとき信はどう受け止めてくれるんだろうか。

 いや、考えるのはやめよう。過去より未来より、今のことが大事だ。

 と、いうことで。

 

「それはそうと……さっきのあれ、やっぱり聞こえてたわよね?もしもの時は助けに来てやるって、普通にさっき言ったわよね?」

 

「……ど、どうだかな~?」

 

「苦しいわよ」

 

「い、いや、その……まぁ、なんていうか……改めて言われると鈴が頼ってくれてるんだなって、嬉しいような照れくさいようなでさ……」

 

 信の耳は少し赤みを帯びていた。

 どうやら本当に照れくさいらしい。

 鈴は楽しげに微笑んだ。

 なーんだ。ちゃんと伝わってた。

 

「ばーか……」

 

 少し抱きつく力を強くしてみる。満ち足りた気持ちで、信の背中に体を預けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 砂浜に到着すると、一夏が駆け寄ってくる。俺の背中に乗っている鈴の元気がないせいか、不安そうだ。

 遅れてセシリアと、その他近くにいた女子も何事かと数人集まってきた。

 

「二人ともどうした? 何かあったのか?」

 

「いや、実は鈴が溺れかけて……」

 

「そ、そうなのか!? おい鈴、大丈夫か!?」

 

「本人は大丈夫って言ってるんだけど……」

 

「ほ、本当に大丈夫……ゲホッゲホッ……だって……」

 

 心配させまいと振る舞っている鈴だが、やはり大丈夫そうには見えない。溺れかけたことに自分でもビックリしてるのだろう。

 すると、話を聞いていたセシリアが一歩前に出る。

 

「鈴さん! 災難でしたわね! わたくしが旅館までお送りしてさしあげますわ」

 

「そうだな。一回休んだ方がいいぞ?」

 

 一夏もセシリアに賛同する。

 やはり少し休憩をはさんだほうがいいというのが客観的な意見だろう。

 もちろん、俺も賛成だ。

 

「え? い、いや、待って! あたしは――」

 

「鷹月さん、ちょっと手伝っていただけませんこと?」

 

「わかった! 手伝うわ!」

 

「え? ええ!?」

 

 両方の腕をつかまれ、もがく鈴。

 しかしいつもと違って元気がない今の状態ではがっちり組んだ腕からは逃れられないのは明白だった。

 ずるずると浜辺に引きずられる後を残しながら、鈴は旅館へと連れていかれる。

 

「た、助けてーー! しーーんーー!」

 

 もう助けてやっただろ。ゆっくり休め。

 俺はヒラヒラと手を振って鈴を見送った。

 

「あっ、信! ここにいたんだ!」

 

 振り向くと、シャルと全身をタオルで包んだ人(なのか?)が立っていた。

 ミイラ男ならぬタオル男………あ、いや、俺と一夏以外男はいないから、タオル女か。

 

「な、なんだよそれ!? 誰だ!?」

 

「ラウラだろ? な?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「こんなときでも眼帯つけてるし、間違いない」

 

「本当か……?」

 

 一夏はまだ半信半疑である。

 しかしよくもまぁこんなに隙間なくタオルを巻けたものだ。息できてるのか?

 

「ふふ。だってさ、ラウラ。ほら、出てきなってば。大丈夫だよ」

 

「だ、大丈夫かどうかは私が決める……」

 

「せっかく水着に着替えたんだし、信に見てもらわないと」

 

「わ、私にも心の準備が……」

 

 なかなかタオルの繭から出てこようとしないラウラは変な感じだ。いつもと違って優柔不断だからだろうか。

 揺らしても叩いても姿をさらそうとしないラウラに、シャルは意地悪っぽくささやいた。

 

「ふーん。じゃあ僕だけ海で信と遊んじゃうけど、いいのかな~?」

 

「そ、それはダメだ! ダメ、だが……」

 

 もう一押し。

 そう言わんばかりのシャルが俺にアイコンタクトしてくる。

 なるほど……了解です。

 大きめの声でいかにもわざとらしく、そしてどんな反応が返ってくるか楽しみでニヤニヤとしながら、俺は棒読みで思い付きのセリフを並べた。

 

「よーし。じゃーラウラ以外のみんなで遊ぶかー」

 

「な、なにっ!?」

 

「いこーぜー。シャルー」

 

「ま、待て!! そ、それなら私も!」

 

「ん? ラウラーどこだー? 声しか聞こえないぞー」

 

「う、うぅ……わ、私はここだっ!」

 

 数枚のタオルを投げ捨て、ようやくラウラがその姿を現した。

 身に付けているのはもちろん水着。しかも黒。ラウラの小柄な体にしてはやけに大人っぽくて、一瞬それが下着のように見えてドキリとした。

 いつも長く下ろしている髪を両サイドで結び、アップテールというのだろうか、そういう髪型にしている。黒の水着は白い肌とよく調和し、銀髪も夜に輝く星のごとく美しい。

 だがそんな特徴はどうでもよくなるほど、かわいらしかった。

 恥ずかしがることなどないはずなのに、ラウラは胸の前で落ち着かなそうに手をいじり、目線を反らす。

 その仕草がまたかわいくて、俺は少しドキドキしてしまう。

 

「わ、笑いたければ笑うがいい……」

 

「おかしなところなんてないよね? 信」

 

「お、おう。に、似合ってるぞ……」

 

「……しーんー? もっと感想はないの?」

 

「しゃ、シャルロット……!」

 

「か、感想? そうだな……かわいい、と思う……」

 

「なっ……! そ、そうか……わ、私はかっ、かか、可愛いのか…そんなこと言われたのは初めてだ……」

 

 顔を赤くしてうつむくラウラの隣で、シャルは満足げに微笑んでいた。

 シャルは本当に誰にでも優しいな。

 そう言いかけたが、なんだかこの場にはもっとふさわしい言葉がある気がして、ぐっとこらえた。ちょっとだけ、0.1秒ほど考えると、その言葉はすらっと出てきた。

 

「シャルもかわいいぞ。すごく」

 

「そ、そう? えへへ、嬉しいな……ありがとう、信」

 

「おう……あれ? そうえば一夏は?」

 

 いつの間にか俺の隣から一夏の姿が消えていた。

 話に混ざれなくていじけたか? やれやれ忍耐力のないやつだ。

 独りぼっちのかわいそうな男子がいないかどうか、まわりを見回そうとしたとき。

 

「真宮くん! さっきの約束、ビーチバレーしようよー!」

 

「ほら、信! ボール!」

 

 なんだ、一夏。そこにいたのか。

 ポーンと飛んできたボールを受け取る。

 一夏はすでに手足をぶらぶらさせて臨戦体勢である。

 シャルとラウラを誘い、俺はコートに入った。

 

「俺と一夏は別のチームの方がいいよな? どうする?」

 

「このまま俺がこっちにいるよ。ほら、のほほんさんいるだろ?」

 

 一夏が指差した方向には、なにやら水着とは思えない狐の着ぐるみのようなものを身に付けたのほほんさんが。

 熱くないのか?

 なんにせよ、間違いなく動きにくいはず。

 苦笑していると、のほほんさんが楽しそうに手を振ってきたので、俺も小さく手を振り返した。

 

「見ての通りだから、戦力になるかどうか怪しいんだ……」

 

「だな。ま、3対4ならそんなに差は出ないだろうし大丈夫だろ」

 

 その後、簡単なルールを設定し、チーム決めも滞りなく進んだ。試合と言っても勝ち負けは関係なく、遊びでやるので本気でやる必要はないと言われたので、軽めにやろう。

 肩の力を抜いて気楽に、気楽に……。

 

「織斑くんしっかり~!」

 

「真宮くーん!」

 

 女の子の声援に軽く答え、試合開始。

 

「ふっふふ……! 7月のサマーデビルと呼ばれたこのあたしの実力を見よ!」

 

 よっし、見てやろうじゃないか。

 意気込んで一挙一動に目を凝らす。

 さすがIS学園の生徒とあって、いきなりジャンピングサーブ。たかだか遊びだというのに……世のバレー部諸君が見たら何て言うだろうか……。

 

 

 

 

 バシッ!

 

 

 

 お、おお!? 予想より速い!? だてにIS乗ってないってことか!

 この距離は間に合わない……!

 

「頼む!」

 

「任せて!」

 

 俺の声に応えたシャルが、うまくレシーブでボールを上げる。

 優等生は何をやらせてもうまいなぁ。

 っと……感心してる場合じゃなかった。

 勢いを殺されて、俺の真上を浮かぶように飛んでいるボールは『どうぞ向こうのコートにぶち込んでください』と言わんばかりである。

 

「いただきっ!」

 

 手のひらがボールにヒットし、乾いた音が鳴り響く。

 これは先取点もらったか?

 

「ほっ! 甘いぜ!」

 

 しかし、一夏が俺のアタックを地面すれすれで拾った。

 ふむ……一夏もなかなかやるな。

 高く上がったボールはちょうどネット前に落ちてくる軌道を描いて、まさにナイスボール。

 

「ナーイス、織斑くん! ほっ! アターック!」

 

「っと! ラウラ! そっちに行くぞ!」

 

「か、かか、かわ、かわい……」

 

「お、おい!? ラウラ!?」

 

「ふ、ふぁ……? は、はっ!?」

 

 やばい。

 そう思ったときにはもう遅いのが世の常。

 ラウラが慌てて作ったレシーブの体勢はちょっとばかり不格好で、その手首の辺りに当たったボールは跳ね返るというよりもつるっと滑った感じに向きを変えた。

 

 

 

 

 ベチッ!!

 

 

 

 ほとんどそのままの勢いで受け流されたようなボールは、ラウラの顔面にヒット。

 うわぁ……あれは痛い……。

 そして、ラウラはぽてっと仰向けに倒れてしまった。

 

「ら、ラウラ!? どうしたの!?」

 

「おいおい……なんだかラウラらしくないな……」

 

 俺とシャルが小走りで近付き、顔を覗きこむ。

 少し赤くなった鼻の辺りが衝撃の強さを物語っていた。

 大の字で倒れているラウラはどうにも変な感じで、さっさと起こしてやろうと俺は手を差し伸べた。

 

「ほら、立てるか?」

 

「……う……」

 

「う?」

 

「うわぁーーーー!!」

 

 ラウラは叫び声を上げると、海に駆けていってしまった。

 えーと……これはどういうことだ?

 伸ばしっぱなしの腕を何だか持て余してしまう。

 仕方なく、その手でラウラの飛び込んだ辺りのまだ白い泡のたつ海を指差した。

 

「……追いかけた方がいいかな?」

 

「え? そうだなぁ……ほっといてあげた方がいいと思うよ」

 

 シャルが言うならそうなのだろう。ほっとくか。

 ラウラに謝ろうとこちら側にわざわざ来てくれた女子をもとのコートに返していると、山田先生が近くにニコニコしながらこちらに向かってきた。

 

「ビーチバレーですか……楽しそうですね!」

 

「そ、そうなんですよ。楽しいんですよ!」

 

「真宮くんどうしたんですか? 目が泳いでますよ?」

 

「え!? いや! 実は流し目の練習を……」

 

「?」

 

 なんというか、水着がどうこうじゃなく胸がでかい……い、いやいやいや! 見ちゃダメだ! 耐えろ! 耐えるんだ!

 

「せ、先生も一緒にどうですか? あはは……」

 

「本当ですか? それでは……あっ、織斑先生」

 

「え? あ……あ~……」

 

「なんだ真宮。私の格好がそんなにおかしいか?」

 

「い、いえ!?」

 

 振り返った先に現れた織斑先生は、かっこよさと美しさを兼ね備えた、まさにモデルのようなたたずまいで見るものを魅了した。

 黒の水着は織斑先生にピッタリな感じで、選んだ張本人なのに思わず見とれてしまう。

 そのままだともう何秒か見続けたかもしれないが、ちょっと不機嫌そうなシャルに腕をぐいっと引っ張られて、強制終了させられた。

 

「ど、どうした?」

 

「信ってさ、織斑先生がタイプなの?」

 

「タイプ? いや、別にそういうわけじゃ……ただ美人だなーと思って……」

 

「そう……そうなんだ……」

 

「な、なんだよその奥歯にものが詰まったような言い方……」

 

「はぁ……ライバル多いなぁ……そこに織斑先生まで入って来るなんて……」

 

「……? ライバル? 誰が? 何の?」

 

「……それよりもまず信が一番強敵だね……」

 

 なんだそれ。あれか? 一緒のチームでよかったってことか?

 

「いや~それほどでも」

 

「誉めてないからねっ!」

 

「ぐふっ!?」

 

 思いっきり脇腹を突かれた。

 そんなこんなしてるうちに、山田先生がこちら、織斑先生はあちらのチームに加わっていた。

 あ……織斑先生もなかなか大きいな……じゃなくて!

 ……はぁ……なんかもう……もういいや。これは周りが女子だらけだからだ。男として目がいってしまうのは仕方がない……割りきろう……。

 

「サーブ、来ますよ!」

 

 山田先生の優しい声が聞こえる。

 サーバーは織斑先生だ。

 くそっ! 集中、集中! 頑張れ俺!

 

 

 

 

 バシッヒュッザシュッ!

 

 

 

 

 あれ? ……入っ……た?

 振り向けば砂浜に描かれたコートラインの内側に刻まれた丸い窪み。浜辺を転々と転がるボール。

 うん、一点取られた……え? ええ!?

 

「……は、速すぎ……ませんか?」

 

「ふっ……今日は不調か? 言っておくが、今のは肩慣らしだぞ?」

 

「ボールを打つ音と風を切る音とコートに入る音がほぼ同時に聞こえたんですが!? 肩を慣らす必要性を感じないんですが!?」

 

「気のせいだ。次、いくぞ。悔しかったらとめてみろ」

 

「え、ええ!?」

 

 こうして、遊びだったはずのビーチバレーがどんどん本格的なものになるのであった。

 

 

 

 

 

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