IS〜world breaker〜   作:山嵐

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2:やるべきことなんて考えればいくらでもある

 

「織斑先生、何か考えでもあるんですか?」

 

「いや、何もない」

 

 『ええぇぇ……』と心の中で突っ込む。山田真耶と織斑千冬は職員室までの道のりを歩いていた。

 

「だって事実上、真宮くんがシード扱いじゃないですか? 普通一番強い、オルコットさんがシードではないんですか?」

 

「普通はそう考えるのが妥当だ。しかし勝ち抜きというものは、勝者が疲労していく状況でどれだけ戦えるかをはかるための設定だ」

 

(つまり、不利な状況でも勝てる人が本当に強い……と言うこと?)

 

 真耶は自分なりに納得し、自分より少し背の高い千冬に目をやる。

 

「あと、先生」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「オルコットは一番強い『かもしれない』んですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……先が思いやられるな……」

 

「初日からこうじゃな……」

 

 ならんで歩く、二人の男子。後ろには女子の大群。俺は学校の授業を終え、なんとか帰路――IS学園にある寮までの道――についていた。

 その間、セシリア(やっと覚えた)との対戦をどうか考えていた。

 

「そういやさ」

 

 ふいに、隣にいる信が俺に質問する。

 

「窓際のポニーテールの女の子? あれって、一夏の知り合い? ほら、休み時間に……」

 

「ああ、箒のことか。あいつは俺の幼なじみ」

 

「へー」

 

 本当に興味あったのか? 

 そのあっさりした返事には、それ以上の説明を催促するようなつもりはなさそうだった。

 

「青春だね~」

 

「……? まぁ、それはさておき……どうする?」

 

 今度は俺から信に質問。

 どうする、とはもちろんセシリアとの対戦についてだ。

 

「ま、一夏はまず基礎知識からだな。何も知らずに戦うのはキツイだろ」

 

「だよなぁ……」

 

「俺は……どうしよう、ホント……」

 

「「はぁ……」」

 

 二人揃って腹の奥底から深いため息。

 結局、部屋に着くまで具体的な特訓方法や解決方法、勉強方法など、役立つアイディアは出なかった。

 

「じゃ、俺ここみたいだから」

 

「おう」

 

 信は鍵をあけて、部屋のなかに入っていった。

 

「俺は……ここか」

 

 なんだ、信はお隣さんじゃないか。これは心強い。困ったら助けてもらおう。

 

 

 

 ガチャ。

 

 

 

 ドアノブを回して、部屋に入る。

 まさか、今日からいきなり助けが必要になるとは思わずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前、スゲーな!!』

 

 あの一言でどれだけ周りの空気が変わったことか。あれがなきゃ、また一人だったろう。

 俺はベッドに横たわって、今日という人生最大の受難の日を振り返っていた。

 

(あいつに恩返ししなきゃな……)

 

 織斑一夏。本当に凄いのは、あいつだ。 一瞬で周りの人と打ち解けられるのは、『こいつはいいやつだ』と、他人が無意識に認識するからなのだろう。そういう雰囲気があり、実際、いいやつだ。

 そんなやつだからこそ、ほとんどの女子が一夏を熱の籠った目で見つめていた。つまり初日からモテモテだ。

 特に、あのポニーテールの箒とか言う美人の女の子。あの女子は、他よりずば抜けてあいつに惚れてる。断言できる。幼なじみだって聞いたときはもう何も言えなかった。納得しすぎて。

 俺は『見たものを一瞬で記憶し、忘れない』から、少しの変化も見逃さない。

人の表情やしぐさ。それも例外じゃない。膨大な記憶の中から、似たような記憶を探し、どういうときに、どういう行動をとるか、結論を導き出せる。行動から気持ちを察することもできるし、気持ちから行動を察することもできる。おおよそだけどな。

 流石に似た記憶を辿って予測するので、完璧に当てるのは難しい。ただ、察したい本人の表情やしぐさを多く知っていれば、ほぼ100%で当てられる。

 今回の一夏の幼なじみは初見とはいえ、かなり照れ隠しの兆候があったし、休み時間に連れ出すし、そうえば一日中一夏を見ていたし。そんな感じで99%一夏に惚れてると判定した。

 

「あいつが困ってたら、今度は俺が助けてやらないとな……」

 

 ポツリとそんなこと呟いて、俺はシャワーを浴びに立ち上がる。

 余談だが、俺は一人部屋だ。本当ならこの寮は学生同士の親睦を深める意味も込めて2人部屋らしいが……。

 ん? 待てよ……?

 

(一人部屋以外だと、相部屋……相部屋だと、女子と一緒……?)

 

 女子と一緒……。ということは、同棲……? この学園の女子と……?

 ゴクリ……。

 

「って! 考えるな考えるな! まずい! それはまずい! ないない! 一緒はない! ねぇよ、絶対ねぇよ!」

 

 でも一緒になったら……女子が同じ部屋で寝てるのか……いいなぁ、それ……。

 あ、いや!? いいけども! 道徳的にアウトだろ! 

 そういうことは互いの許可があってこそでだな……いや、そういうことってあれだ。まぁ、あれだな……うん。

 まずシャワーを浴びよう。そうだ、それがいい。

 俺はなぜか妙にドキドキして脱衣所に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、一夏はというと……。

 

「ほ、ほ、箒」

 

「いっ、いち、一夏……?」

 

 バスタオル一枚で前だけ隠した幼なじみと対面していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うおおっ!?』

 

 ん? 何だ? 今、叫び声が聞こえたような……? 気のせい……あれ……? 廊下が騒がしくなってきたような……?

 俺が手をとめて耳をすまそうとすると、ドンドンとドアを壊さんばかりに強く叩く音が部屋に響いた。

 はて、誰だ……?

 

「うーい」

 

「わっ!? し、信!」

 

「ほぉ、ほうひた?」

 

「た、助けて……!」

 

「ふぁ?」

 

 いきなり俺の部屋に転がり込んできた一夏を見て、ドアノブに手をかけたまま唖然とする。

 ちなみに俺は今、歯を磨いている途中だったので、歯ブラシをくわえている。そのため、喋り辛い。

 とりあえずドアを閉めて事情を説明してもらおうとしたとき、何やら慌てたような、楽しいような、そんな声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には俺の目の前にどこから湧いたのかわからない数の女子が。

 

「隣に逃げ込んだわ!」

 

「みんな、こっちよ!」

 

「黙って私についてこーい!!」

 

「カメラ! カメラをここへ!」

 

「隊長ぉー! 発見しましたぁー!」

 

「なになに!? なんかあったの!?」

 

 そして、ドアの前の俺と目があった。

 俺も何となく見つめ返す。一瞬時が止まる。

 そして、女の子たちの驚愕の声を号令に、再び流れ出した。

 

「「「「「「「「「「えっ、えっ、えーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「ま、まま、真宮くん!?な、何!?そ、その格好!?」

 

「はひって、はんふはへほ?(何って、パンツだけど?)」

 

 ポリポリと頭をかきながら、事実を述べた。さっきシャワー浴び終わったばっかりだから、とりあえず下半身の必要最低限の装備品だけつけて、あとは何も身に付けていない。

 非常に聞き取りづらい説明になったと思ったが、通じたらしい。

 

「は、破廉恥なっ!」

 

「だ、ダメだよ! そんな格好!」

 

「そ、そうだよ! 反則だよ!」

 

「そういう格好は私だけに見せて!」

 

「ぬ、抜け駆けは許さないわ!」

 

「ええい! 早くキャメラを!」

 

「そんなの必要ないわ! 心のフィルムに焼き付けるのよ!」

 

 おい、後半のやつ、なに言ってんだ?

 口々に不平不満(?)をいいながら、みんな大体ポーズは同じ。両手で顔を覆いながら、目だけは覆わないようにしている。それ、意味ないんじゃ……。

 ここで仕方なく、歯磨きを中止。

 

「だってこの格好、海パンと同じじゃないか」

 

「「「「「「「「「「違ーう!!」」」」」」」」」」

 

 全員一致かよ……。

 まぁ確かに、女の子の前でする格好ではないのかもな。これは俺に非がある……はず。

 

「わかった、わかった。今度から気を付けるよ」

 

 軽く謝罪をして、女子を追い払った。少し残念そうな顔をしている人もいた気がするが、気のせいか。

 しばらくカメラを持った女の子が居座ろうとしていたが、なんとか説得して帰らせることができた。

 そんなこんなで慌ただしく過ごした十五分弱が過ぎてから、俺は部屋の奥に隠れていた一夏を引っ張り出す。そして、動き易い服装――黒に黄色のラインが入っているジャージ――に着替えて、俺は突然飛び込んできた男にその理由を問うのだった。

 

「まったく……一体どうした?」

 

「いや、それが……」

 

 

 

 かくかく、しかじか……。

 

 

 

「……」

 

「と、いうわけだ」

 

「お前……ずるいな」

 

「はぁ!? 何が!?」

 

 はぁ……こいつ、鈍すぎる……。好きでもない男にそんな姿みせて『みっ、見るな!!』なんて言うセリフ女の子がいうわけないだろ。叫び出すのが普通のはずだ。

 

「もーなんかさぁ、ノロケにしか聞こえない。いいなぁー。幼なじみかぁー。俺も欲しいなぁ!」

 

「何言ってんだ!? 危うく殺されかけたんだぞ!?」

 

 でもまぁ、微笑ましい限りだ。仲がいいってのは。

 俺は必死になる一夏をどうにかなだめた。

 

「はいはい。わかったよ。もし、お前が本当に困ったときは、俺に言え。必ずお前を助ける」

 

 俺はそう言いながら、握った右手の拳を前につき出す。

 

「ほ、本当か!? よろしく頼む!!」

 

 一夏も同じように拳を突き出し、コンッと互いの拳と拳をあわせる。

 

「で、さっそくなんだけど……どうやって部屋に戻ればいいかな?」

 

「心配すんな。おーい、入っていいぞー」

 

 俺は扉に向かって話しかける。正確に言えば、扉の外にいる聞き耳立ててた誰かに話しかけた。扉の向こうから心臓が飛び上がる音が聞こえた気がしたかと思うと、静かに例のポニーテール少女が現れた。

 そして、一言。

 

「……一夏、帰るぞ」

 

「ほ、箒……」

 

「じゃ、また明日な。二人とも」

 

 むすっとした顔で片手に竹刀を持っている剣道着の女の子にもヒラヒラと手を振る。

 

「同室のものが迷惑をかけた。すまない。いくぞ、一夏」

 

「あ、ああ……」

 

 そして、さっさと一夏と二人で行ってしまった。

 再び静かになった部屋で、呟いた。

 

「一夏……理性を保てよ……」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 太陽が容赦なく降り注ぐ。周りには瓦礫しかない。

 

「はぁ、はぁっ……くそっ!」

 

 後ろからしつこく追ってくる奴らに手榴弾投げつける。

 

 

 ドンッ……!

 

 

 後ろで爆発。よし、これで――

 しかし、背中側から飛んできた銃弾が耳元を掠めるのとほぼ同時に、ほんの数メートル右から爆風が俺を吹き飛ばした。黒い煙が辺りに広がる。

 まだ残ってるやつがいたか……! どうする?

 決まっている。前に進むしかない。後ろにいるのは、敵だけだ。

 思い切り地面を蹴って、大きく一歩を踏み出す。しかし次の瞬間、自分の失敗に気付く。あらかじめ調べておいた情報を焦りで忘れていた。

 

(ここは、地雷ポイントか……!)

 

 足元にある、爆弾が炸裂した――

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「うわっ!? はぁ、はぁ…、はぁ……」

 

 荒い呼吸が自分のものだとわかるまで、しばらくかかった。

 今のは、夢……? だよな?

 体をもう一度ベッドに預けて、目を閉じる。

 

「またか……」

 

 俺はため息をついた。

 ISに初めて触ってから、昔の夢を見る。小さい頃の。

 俺は小さい頃、研究所で実験された。何の実験だったのか、覚えていない。ただ覚えているのは『実験された』という事実と、研究所からなんとか逃げ出したということ。

 今見た夢は、逃げている途中のものだと思うのだが、それが本当に正確な記憶か、思い出せない。そしてなんやかんやでたまたま育ての親である、父さんと母さんに引き取られた、ということ。

 

(何で、今ごろ……)

 

 まるで、何かを思い出せと言われているかのようだ。最近は、夢の中の自分が地雷を踏んで夢から覚める、というパターンが当たり前のようになっていた。

 

(まったく、嫌になるよな……)

 

 今度はいい夢見ようと気持ちを落ち着かせ、また、眠りに落ちようとしたのだが。なんとなーく嫌な予感がして、壁の時計をちらりと見た。只今7時24分。

 ああー……意外と寝てた……。

 本当は8時ぐらいまで寝たいとこだが、それだと遅刻する。渋々心地よい布団から這い出し、目を覚ますためシャワーを浴びることにした。

 それが終わってちょうどよい時間になると、身支度をして朝食を食べに食堂に行く。すると、朝から隣に座っている女の子に怒られている一夏を発見した。

 

「なあ、箒――」

 

「名前で呼ぶなっ!」

 

「……篠ノ之さん……」

 

「ふんっ」

 

「はぁ……」

 

 へぇ……。あの子の名字『篠ノ之』っていうのか。束博士の知り合いか?

 ISを作った天才、篠ノ之 束博士。珍しい名字だし、同じってことは親族かな?

 

「よ。おはよう」

 

「あっ、信。おはよう」

 

「……」

 

「篠ノ之さんも、おはよう」

 

「……ああ」

 

 ニコッと笑顔で篠ノ之さんに挨拶するが、相手はむすっとした顔のままだ。うーん、強敵だ……。

 

「真宮くん、織斑くん、隣いいかなっ?」

 

 声のした方を見ると、女子が2人、トレーを持って立っていた。

 

「ああ、別にいいけど」

 

「おう」

 

「「よしっ!」」

 

 後ろで答え待ちしてた二人がハイタッチ。そんなうれしいのか? 失礼しまーすと、三人がススッと席につく。

 すると、俺のとなりに座った女子がトントンと肩を叩いてきた。

 

「あ……そ、その……真宮くん、昨日はごめんなさい」

 

「ん? 昨日の……? ああ、あれ? 別に俺は気にしてないぞ。むしろ俺があんな格好しててごめん」

 

 互いに謝罪し合う。どうやら向こうはかなり気にしていたらしい。まだ申し訳なさそうだ。

 

「あ、あんな格好って、ど、どんな?」

 

「昨日聞かなかったの? 実は……」

 

「ええっ!? 私も見たかった!!」

 

 後ろでなにやら言ってるけど、気にしない。

 昨日のことというと、俺のパンツ一枚の姿を見たことしかない。確かに、目の前の女の子には見覚えがあった。大勢集まった女子の後ろの方で、背伸びして必死にこっちを見ようとしてた子だ。

 真面目だなぁ。別に気にしなくていいのに。男に謝るなんて、この女尊男卑の世の中で珍しい。

 

「わざわざありがとな」

 

「ひぇっ!?」

 

 ぽんと軽く女の子の頭に手を置いて、撫でてみる。おお、すげぇさらさらの髪だな。女の子って全員こうなのか?

 

「「「「「「「「「「ああーー!? いいなーー!!」」」」」」」」」」

 

「うおっ!? ど、どうした!? 何がいいんだ!?」

 

「わ、私もごめんなさい!!」

 

「すいませんでした!!」

 

「私もです!」

 

「昨日部屋に押し掛けなくてごめんなさい!!」

 

 いやいや、押し掛けなくてよかったんだよ。心のなかで、最後の女子にツッコミを入れる。

 わーわー、キャーキャーという言葉にならない言葉で埋め尽くされ、一気に食堂が騒がしくなる。

 

 

パン!!

 

 

 突然、手を叩く音。

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よくとれ! 遅刻したものはグラウンド十周させるぞ!」

 

 織斑先生の声で女子たちは一斉に自分の席に戻り、食事を再開する。誰かが言っていたが、織斑先生は一年生の寮長だとか。恐ろしい。世界最強の寮長。

 

「……織斑、私は先に行くぞ」

 

「あ、ああ。また後でな」

 

 篠ノ之さんと一夏のやり取りを見て、さっき頭を撫でた女の子が俺に小声で質問してくる。

 

「ねぇ、織斑くんと篠ノ之さんって……」

 

「ん? あいつら? 幼なじみだってさ」

 

「そうなの!?」

 

「ああ。青春だよなぁ~……って、どうした? 顔、赤いぞ?」

 

「あ、え……ちっ、ちょっと風邪気味で……」

 

「……嘘だろ」

 

「そ、そんなこと……」

 

 相手の手首をつかみ、目と目を合わせて、もう一回。これで表情と目線の動きがよーく分かる。俺はちゃんと嘘ついてるの分かるんだぞ?

 

「う・そ・だ・ろ?」

 

「あ、あの……その……」

 

 じーー……。

 自分の顔が相手の瞳に映る。それがわかるくらい、互いの顔が近い。

 

「おい、真宮。朝から女子を口説くんじゃない」

 

「えっ?」

 

「手を止めるな。食事をしろ。しないなら追い出すぞ」

 

 なんという理不尽!

 俺は仕方なく女子から手を離す。まぁ、あんまり言いたくなさそうだったから深追いはしないでおくか。

 

「あっ……」

 

「え?」

 

「う、ううん! なんでもない!」

 

 それだけ顔が赤いのになんでもないわけないのだが……。

 不思議に思いつつ、俺はささっと食事をかきこんだ。うん。うまい。最後の一口を充分堪能してから胃に送る。一夏もちょうど手を合わせて食事を終了したので、一緒に教室に行くことにしよう。

 

「行こうぜ、一夏」

 

「おう」

 

 俺たちはトレーを持って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐変木の双龍(ダブルドラゴン)

 

 

 

 

 

 そのうちつくことになる、彼らの異名だ。

 信は自分のことをほとんど気にしない。他人の前でパンツ一丁でも『海パンと一緒だろ?』で済ますほどに。だから、自分が異性からどう思われているかわからないのだ。

 問題はそこにある。

 IS学園に入学してきた男子は二人揃って、周りから見れば『カッコいい』のだ。しかも、かなり。

 だかしかし。二人とも自分の容姿もわかっていない。

 女子はみんな彼らと友達に、もっと言えば恋人になりたいと思っているのに、それに気付かない。

 一夏も鈍いが、信も自分に関して相当に鈍い。他人から他人(女子→一夏)に対しての意識の変化には敏感でも、他人から自分(女子→信)への意識の変化には気付かないのだ。

 

 

『鈍感』

 

 

 この共通点を持つからこそ、打ち解けるのも早かったのかもしれない。

後の彼らの男友達はそう語るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三年間女子だらけ生活 二日目。今は昼休みだ。

 午前中の授業は、山田先生がうっかり『ブラジャー』とか言っちゃって微妙な雰囲気になったり、やっぱ篠ノ之さんは束博士の親族(実は姉妹だった)と言うことがクラス全員にばれたり、本人はそれをよく思っていなかったり、いろいろあった。

 だか、一番のニュースは俺と一夏のISのことだろう。

 お前らは事情が事情だから、データ収集のため専用機が用意される。準備ができるまで待っていろ、だってさ。

 そんなことがあったから、教室ではセシ……オルコットさんが一夏にまた余計なことを言っている。

 

「まぁ? 訓練機では勝負が見えてしまいますから、フェアではありませんものね。専用機は本来選ばれしエリート中のエリート、正にこのイギリス代表候補生セシリア・オルコットのような――」

 

 

 

ペラペラ、ペラペラ、うんぬん、かんぬん……。

 

 

 

 またかよ……。

 あーあ……やっぱりまたややこしいことになってる。

 

「あなた、馬鹿にしていますの?」

 

「イヤ、ソンナコトハナイ」

 

「だったらなぜ、片言なのかしら……?」

 

「何でだろうな、箒」

 

 何でさらにややこしくするんだ。ほら、睨まれてるじゃないか。

 あ。なんかセシ……オルコットさんも睨まれた。セシ……オルコットさんは怯んでうごけない。

 と思っていると、ふんと鼻をならしてすぐに立ち去って行った。さすが代表候補生。

回復が早い。風をきってきびきびと歩くたび、優雅になびく金髪が美しい。なんか、モデルみたいだな。スタイルもいいし。もう少し謙虚になればもっと美人なのに。もったいない。

 

 

ぐぅ~……。

 

 

 ここで俺の腹が食事を求める。

 時刻は昼過ぎ。朝食のエネルギーがそろそろ消費され尽くす時間帯である。

 一夏は今度は篠ノ之さんともめてるし……お前らカップルか。もうなんか腹立つからほっとこう。

 俺は席を立って足を学食へ向けて踏み出す。ぼーっとしながら廊下を歩いている途中、ふと思った。

 

「俺のISってどんなだろ……」

 

 つーか届いたって俺が使いこなせなきゃ意味ないよな……。届くまで、何か練習するか……? いや、練習って何をすれば……? 基礎と理論は完璧に理解したし……。

 となると、やっぱ経験か。うーん……。

 

「……あ」

 

 突然、いいアイディアが浮かんだ。

 

「経験した『つもり』になればいいのか!」

 

 だとすればやることは決まった。よしっ! 今日からやるぞ! ようやくやるべきことがわかった。

 なんかやる気出てきたぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を遡ること、三日前――

 IS学園の職員室は入学式前日とあって、忙しく人が動いていた。

 

「えっ!? ほ、本当ですか!?」

 

 そんな中、電話機に向かっている山田真耶が、驚いた声を出す。職員室に響き渡った声で全員が飛び上がる。

 

「はい、わかりました。よろしくお願いします……」

 

「どうした?」

 

「い、いや……男子生徒の専用機ができたのでそちらに送ると……」

 

「……!」

 

「えっと、真宮信くんの専用機らしいんですが……どうしますか?」

 

「……いつ届くと?」

 

「あ、明日か明後日だそうです」

 

「……わかった。格納庫の準備の手続きをしておこう」

 

 千冬はそう言って、職員室を出ていく。

 頭には真宮信の事前報告書の内容が浮かんでいた。IS委員会が独自に調査したかなり細かいものだ。年齢、体重、身長はもちろん、過去の学業成績や健康状態。全ての数値がずば抜けていて、他を寄せ付けないものだった。

 ここに入学するには本来、必ず筆記テストと実技テスト、および面接を行うはずなのに、信は全て免除された。『彼はなにも問題ない』で委員会は押し通した。もちろん免除に反対した人もいたが、信のIS適性のランクがその全員を黙らせた。

 先天的なISとの相性を見るそのランクで、こともあろうに信はSランクだったのだ。

 最も優れていて、最も希少なランク。世界中でも両手で数えるほどしかいない。ここまで恵まれているなんて、おかしい。極端に言えば、異常だ。

 それだけでも奇妙だというところに、加えてこの専用機の準備期間の短さ。『最初からわかってたので、準備してました』という感じだ。

 あり得ない。

 そう、あり得ないのだ。何もかも。

 まるで……。

 

「まるで、ISに乗るために生まれたみたいじゃないか」

 

 格納庫の扉を開く頃には、千冬はすでに教師の顔ではなく、戦士の顔になっていた。

 これから起こる、波乱を感じて――

 

 

 

 

 

 

 

 

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