IS〜world breaker〜   作:山嵐

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35:姉妹とか兄弟の性格ってすごく似てるかまったく似てないかの二択

 学園祭も近付き、各クラスが慌ただしくなってきた。

 今年は珍しく、すべての学年すべてのクラスに出し物があるらしい。楯無さんが嬉しそうに言っていた。あと、『きっとみんな信くんが来るのが楽しみなのね♪』とかも。

 俺は手に持った予定表を見つめて、苦笑いした。何の予定表かというと、例の『学園祭期間中真宮信助手制度』の割り当てのものである。

 まったくめんどくさい……。

 というかハードスケジュール過ぎ。分刻みどころか秒刻みだし。もうデススケジュール。

 ちなみに『学園祭期間中』は準備から貸し出されるらしく、悲しいかな、明日からの俺の自由時間はおよそ四時間。うち二時間は楯無さんの地獄の特訓、もしくは自主トレ。

 

「ちょいちょーい……」

 

 一人でツッコむのがいつも以上に虚しい。

 今日、明日は安息日なのだが、だからこそしたいことがあった。

 

「もう一回、IS乗ってみるか……」

 

 それはつまり、もしかしたらという儚い希望であり、まあダメもとの悪足掻きだった。でもその悪足掻きこそが俺に足りないもの。広く見れば、これも訓練の内に入っているのだ。

 そういうわけで、ISがおいてあるアリーナの格納庫へと今まさに足を踏み入れたわけだが……。

 

「あー!? 真宮くんじゃない!?」

 

「えっ!? 嘘っ!? わわっ、本物だ~!」

 

「こんなところで会えるなんて! これって運命!?」

 

「あ、いや……」

 

 捕まった。何にも悪いことしてないのに、捕まった。数名の女子たちにあっという間に取り囲まれ、その団体から発せられる矢継ぎ早の言葉に俺はたじろいでしまう。

 逃げ場は……ないらしい。

 

「え、えっと……皆さん、2年生の方々ですよね?」

 

「うん。ま、詳しく言うと2年整備科の方々ってとこ」

 

「整備科の先輩方がここにいるってことは……ISの整備実習の後片付けとかですか?」

 

「惜しい。正解は実習の準備、だよ」

 

 目の前の先輩は手に持った道具をヒラヒラと見せてくる。各人がそれぞれの道具を持っているので、恐らく道具箱の整理でもしていたのだろう。

 

「あれ? 真宮くんじゃん! じゃ、みんなで写真を一枚!」

 

「「「「「「イエーイ!」」」」」」

 

「あ、イエーイ」

 

 

 カシャリ。

 あ……思わずポーズをとってしまった……。

 ま、減るもんじゃないから別にいいんだけど。

 

「黛先輩も整備科だったんですね」

 

「まぁ~ね~」

 

 カメラ片手にニカッと笑う新聞部写真係。『あとで人数分配ってあげるから~』と周りの女子に手を振ると、先輩方は満足げに去っていった。

 俺と写真とって何が嬉しいんだろう? 謎だ……。

 

「で? 今日はどうしたの? ISの自主練?」

 

「ま、そんなとこです」

 

「あ~……じゃ、ここじゃなくて隣の整備室ね。明日のためにそっちに全機体運んじゃったから」

 

 なるほど。通りでこざっぱりしてると思ったらそういうことか。何ともタイミングの悪い。

 

「そうですか。じゃあそっちに行ってみますね」

 

「そう?ごめんね~。写真、あとで焼き増ししとくから」

 

「楽しみにしてます。でも、先輩たちも大変ですね。俺たちはまだ一年なんで、そういう実習は無いですから」

 

「もともと整備科は2年生からできるからね。でも1年生でも希望者は個別に指導を受けられるっぽいわよ? 確か本音ちゃんが受けてるって言ってたわね……」

 

 のほほんさんが? しっかり整備できるのか?

 なんか『あー!? このネジ閉め忘れてたー!』とか言ってバタバタしてそう。

 あくまで俺のイメージだけど。

 

「あ、そうそう。たぶん整備室には更識さんもいるはずよ」

 

「楯無さんが?」

 

「あー、違う違う。たっちゃんじゃなくて、たっちゃんの妹さん」

 

「え? あの人に妹なんていたんですか?」

 

「そうよ。でもね、これがまたちょこーっと色々あって……」

 

「色々?」

 

「ま、そこは私も知らないんだけど」

 

 知らないんかい。

 それにしてもあの生徒会長の妹ってどんなのだ? 似てたらヤバイな。もう手におえない。

 ……でも似てそう。二人で悪巧みしてそう。怖い……。

 

「とにかくね、なんか姉妹仲悪いみたい。妹さんの話になるといっつもため息ついてたわ、たっちゃん」

 

「あの人はため息つかせる側の人間なんですけどね」

 

「うふふ。そうね。生徒会長だからあんまりそういうとこ見せないようにしてるみたいだけど、本当は困ってるんじゃないかなぁ……」

 

「……」

 

「何にせよ、家族なんだから二人とも仲良くしたいんだろうけどね」

 

「……なるほど」

 

「あ!? 今の話は内緒ね! たっちゃんに怒られちゃうわ」

 

 俺は誰にも口外しないことを黛先輩に誓い、格納庫をあとにする。目指すはIS整備室。

 目的はISの自主練……だけではなくなった。

 楯無さんには両親の件もあるし、俺なんかでも多少は役に立つだろう。

 ていうか、楯無さんの妹ってどんなのだよ。個人的にはそこが一番気になるんですけど。

 そういうことにちょっとワクワクしているのは、否定できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 少女は淡々とデータを入力している。

 IS学園に入ってからというもの、この整備室を訪れない日はなかった。夏休みだってどこにも遊びに行かず、ただひたすらに機体の作成に時間を費やした。

 そのかいあってか、最初に比べたら性能は上がっている。ただ、それでも3割ほどしか完成していない。

 

 

 

 

 ――システムエラー。コード950318

 

 

 

 

 彼女の努力虚しく、うるさい警報音が短く鳴り響いた。

 空中ディスプレイに詳細な情報を呼び出し、エラーの原因を探して目を滑らせる。

 

「どうして……? エネルギーを機動力に割り振り過ぎなの……?」

 

「いや、多分その逆。もう少し割り振っても……」

 

 突然の横やりに体を飛び上がらせ、少女は勢いよく後ろを振り向く。

 そこには腰を折って体勢を低くし、ディスプレイを興味深そうに見つめる男子の姿が。

 

「多分あと5、6%……いや、思いきって10%ぐらい……」

 

「……邪魔、しないで……ください」

 

「え?」

 

「……」

 

「あ、ああ! ごめん! すごく頑張ってたから、つい!」

 

 男子は慌てて一歩下がる。

 再び作業を開始するべく、少女は彼に背を向けた。

 

「えっと……更識さん?」

 

 後ろから遠慮がちな声が聞こえた。

 

「……」

 

「……あ、人違い?」

 

「……何? ……ですか?」

 

 今度は振り向かずに声だけで反応する。

 

「い、いや特にはなんでも……イメージと違うな……」

 

「……用がないなら、帰って……下さい」

 

「あー……ここにあるIS、一機貸してくれる? ちょっと練習したくて……」

 

「……私のじゃないから、別に構わない……です」

 

「そ、そっか~、じゃあそこのラファール借りるね~……あはは~……」

 

 申し訳なさそうに頭をかきながら、少年は隣においてある『ラファール・リヴァイブ』に乗り込む。

 さして興味はなかったが、横目でついその様子を追ってしまった。

 

「ふぅー……よし! うおおぉぉ……! う、ご、けぇぇ……!」

 

 少年は恐らく全力を尽くしているのだろう。

 しかしISはピクリとも動かない。

 数秒間気合いで踏ん張ったあと、少年はがっくりと体を前に倒した。

 

「はぁ……ダメか……」

 

「……何、やってるの……ですか?」

 

「ん? ISを動かす練習。くっそ~、やっぱ動かないな~……」

 

「普通、みんなそんなことしない……女の子は、誰でも乗れるし……真宮くんも……」

 

「あ、俺のこと知ってた?」

 

「……知らない方が、おかしい……です」

 

 そうかな、と少年は困ったように笑う。

 それを見て、少し心が温かくなったのは気のせいなのだろうか。

 

「じゃ、改めて……俺は真宮信。よろしく」

 

「……更識 簪《さらしき かんざし》……です」

 

 礼儀として簪も自己紹介を返す。

 

「更識さんは1年生だよね?」

 

「うん……1年4組……です」

 

「じゃあさ、敬語はやめようぜ。同い年だし」

 

「……わかった」

 

「ところで、それって……」

 

 信が簪の目の前にある機体を顎で指す。

 ISのあらゆる場所から配線が川のように床を伝い、簪のデータ入力機器に繋がれていた。

 信は乗っていた『ラファール・リヴァイブ』からひょいと降りると、簪の隣でその光景を見つめた。

 その専用機の痛々しいまでの姿は、未完成であり、完成にはまだまだということを示すには十分すぎるものだった。

 

「……私、日本の代表候補生だから……一応、専用機」

 

「そうなの!? すげー……こいつ、なんて名前?」

 

「……『打鉄弐式』《うちがねにしき》……」

 

「へ~……『打鉄』って訓練機にもあるよな? それの強化版ってこと?」

 

「うん……でも、防御よりは機動力を伸ばす……つもり……」

 

「『つもり』? どういうこと?」

 

「……まだ、プログラミングとか、装甲の軽量化とか……問題が、ありすぎて……なかなか上手くいかない……」

 

「え? そういうのってどっかの企業がやってくれるんじゃないの?」

 

「……後回しにされた、から……自分で作ってる……」

 

「えっ!? 『自分で作ってる』!? あ、ISを!? 一人で!?」

 

「あ……う、うん……」

 

 呆然として信は簪を見つめる。

 一方、簪は自分に向けられている視線にどう対処すればいいかわからず、うつむくばかりだった。

 

「うわぁ~……ますます凄いなぁ……」

 

「……別に、凄くない……全然上手く、いかないし……」

 

「いやいや! 凄いって! 更識さんは努力してるじゃんか! 俺はそういうこと出来ないからさ……」

 

「……嫌味?」

 

「ん? ……あ……ああ! ち、違う違う! ただ純粋に尊敬の念を込めているだけで! 俺も更識さんみたいになれたらなって! そ、そういうことだよ! 気分悪くしたならごめん!」

 

「焦りすぎ……」

 

「はい……ごめんなさい」

 

 隣でがっくりと肩を落としている信は聞いていた印象と随分違かった。

 たとえ組が離れていようとも、IS学園の男子の話は簪にも届いている。小耳に挟んだ情報にから、簪なりに真宮信という男子の想像はしていた。

 

 優しくて、強くて、困ったときには助けてくれる、そのうえじゃんけんで負けなしの完璧超人。

 

 聞いた言葉を繋ぎ合わせると、こんな感じ。なんだか途方もなく遠い存在に思える。

 でも、憧れずにはいられない。

 それは、まるで――

 

(まるで、ヒーローみたい……)

 

 簪は目の前で拝み倒している少年を見ながら、クスリと笑ってしまった。

 ここまで腰の低いヒーローなんていないだろうに。

 信がその笑い声に気付き、顔を上げる。

 

「なんで笑ってるの?」

 

「べ、別に、なんでもない……」

 

「もしかして怒っては……いない?」

 

「怒る理由……ないもん」

 

「な、なんだ~……よかった~……」

 

 ホッと胸を撫で下ろす信。どうやら相当焦っていたようだ。

 しかし、本当にイメージと違う。目の前にいる少年は思い描いていたものとは異なり、簪は少し戸惑った。

 きっといざ目の前にしたら、恥ずかしさと緊張のあまり黙りこんでしまうと思っていた。

 

 それなのに、まったくその逆。

 

 優しい笑顔に促されるように、スラスラと言葉が出てきた。なんだかすごく気持ちが楽になった。

 何でだろうか?

 簪が不思議に思って、まじまじと信の姿を見ていると、視線に気付いた信がにっこりと笑った。ふいに見せたその笑顔は人懐っこく、心が揺れた。

 

「さっきまで難しい顔してたからさ、笑ってくれてよかったよ。俺は更識さんの笑顔のほうが好きだな」

 

 突然。

 あまりに突然で、簪はその意味を理解するのに数秒かかってしまった。しかし理解が終わるとすぐ、自分の心拍数が上昇し、顔が赤くなっているのを感じた。何か叫びたかったが、何を叫んでいいのかわからなかった。

 口をパクパクさせていると、信は腕を組んで一人納得するように語りだした。

 

「いや、俺の持論なんだけどさ。かわいい人ってやっぱり笑顔が一番かわいいと思うんだ、うん」

 

「な、な……何、言ってるの……!? わ、私、かわいくなんかないっ……!」

 

 簪は真っ向から否定する。

 体の前で両手を震えるように横へ振りながら、視線を下に落とす。

 生まれて初めて異性から『かわいい』なんて言われて、簪の頭は沸騰していた。今にも吹き零れてしまいそうなぐらい。

 そんな簪を見ながら、信は純真無垢な子供のように、真顔で言い放った。

 

「そうかな? 絶対かわいいけど」

 

「~~!!」

 

 その偽りのない真っ直ぐな瞳に、言い返す言葉もなく。

 真剣な顔でそんなことを言われてしまってはどうしようもない。

 とりあえず睨み付けようかとも思ったが、少し目を合わせただけで吸い込まれてしまいそうで、とてもそんなことはできなかった。

 結局、真っ赤になった自分の顔を見せまいと、簪は背を向けるだけだった。

 信はよほど様子が気になるらしく、回り込んで簪の顔を覗いた。

 

「……? どうしたの?」

 

「な、なんでもないからっ……! ち、近いよっ……!」

 

「……更識さんって面白いね」

 

「ど、どこが……! ばっ、バカにしてるの……!?」

 

「してないって……あっ! そうだ!」

 

「な、何……?」

 

「俺も手伝うよ。『打鉄弐式』の組み立て」

 

 火照った体が一気に冷えた。簪は心地よい夢から急に覚めたような、そんな気がした。

 この機体を独力で組み立てるのは、自分が自分である唯一の証明なのだ。『あの人』が誰かに頼ったことなんて一度もない。だから、自分も誰かに頼るわけにはいかない。それは、簪にとって譲れないものであり、守るプライドとでも言うべき決意。

 急激に冷凍された体と頭で、簪は冷静にというよりも、突き放されたような嫌な気分だった。

 唇をぎゅっと噛んで、再び信と向き合う。

 

「……いい……一人で、作らなきゃダメ、だから……」

 

 今度はきっちり信の目を見据えて、それなりに強い口調で話す……………つもりだったが、やはり目が合うとすぐにそらしてしまう。

 それでも、信は簪の気持ちを組み取ってくれたようだ。一拍おいて、すぐに優しげな微笑みを浮かべながら『わかった』と言ってくれた。

 安堵のため息が知らず知らずのうちに出ていた。

 

「じゃ、またここに来てもいいか? もしかして、他に何か力になれることがあるかもしれないし」

 

「そ、それは……」

 

「あー……やっぱダメ?」

 

「……来るだけ、なら……いいけど……」

 

「そっか。じゃ、更識さんに会いに来るよ」

 

 それじゃ、と手を振って立ち去っていく信の姿をきょとんとして簪は見つめる。

 『会いに来る』? 今の言葉はどういう意味だろうか。

 

(そ、それっ、て……!)

 

 思わず考えてしまった、ありえない想像で顔が熱を帯びていく。

 ありえない、ありえない。そんなことは絶対にない。

 簪は心のなかで何度も繰り返し言い聞かせる。

 そんなはずはない。今日初めて会ったばかりだし、そういう意味で言った訳がない。

 

(で、でも、それじゃあなんで……?)

 

 ここに来てもすることなんかないというのに。大体、自分なんかと話をして何が面白いと言うのか。でもそう言ってくれたのを嬉しく感じているのも事実だ。

 閉塞的なこの空間が明かりに照らされたような気がした。温かな陽射しのようであり、穏やかな月明かりのようであり。

 また来てくれる。彼が、また来てくれる。

 

「あ、あのっ……!」

 

「ん?」

 

 信が振り返る。

 何をやっているんだ、と内心思うがもう遅い。信は少し離れたところで次の言葉を待っている。こっちはそんなこと考えてないというのに。

 

「わ、わたっ……私っ……!」

 

「?」

 

「わ、私もっ……た、楽しみっ……!」

 

 精一杯の勇気を振り絞り、簪は何とか最後まで言い切る。

 二人の間に沈黙が漂う。

 その時間がたまらなく恥ずかしくて、簪はまた顔を真っ赤にした。

 もしかしたら変な人だと思われたかも……。

 だが簪の不安を吹き飛ばすように、信は大きな声で返事をした。その時に見せた信の嬉しそうな顔は、簪の心拍数を急激に上げ、痛いほどに顔を熱くした。

 

「また来るからな! 絶対! 差し入れ何がいい?」

 

「えっ……? あっ……えと……! ぶっ、ぶどうジュースっ!」

 

「了解! 楽しみにしてろよ!」

 

 信はそのまま、整備室を出ていく。残された簪は、真っ赤な顔で立ち尽くしたままだった。

 外はすっかり暗くなっていたが、心には新しく日が上っているのかもしれない。

 少しだけ微笑んでいたことに、本人を含めて誰も気付なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。日曜日の早朝とあって、学食には人がほとんどいない。いつもの面々が広々と席をとって、割りと大声で話せるのもそのお陰である。

 

「ところで嫁……あー……こほん。例のジャンケンとやらはどうなのだ?」

 

「そうよ! まさか負けてなんかいないでしょうね……!」

 

「ん? なんでそんなこと気にするんだよ。ていうかまだ42回しかしてないし」

 

「すでに充分だと思うのだが……」

 

 箒のツッコみが小さな声で入った。

 変なやつだな、と首をかしげて信はカツカレーを一口。ちなみにカツは食堂のおばちゃんに一個おまけしてもらって、二個皿の上に乗っている。

 最近では食券を渡す前から『あぁ~!カレーね!』みたいなやりとりになっているほど、信のカレー好きは厨房でも有名らしい。

 

「も、もう! 信は鈍すぎるの! 誰かがもしも信に勝っちゃったら……そ、その……」

 

「そ、そうですわ! もしも信さんが負けてしまったら……き、キキキキキ……」

 

 急にモジモジしだしたシャルロットと、妙に勇気を振り絞ろうとしているセシリア。

 今日はみんな変だな、と信は思いつつ、また一口カレーを頬張った。

 

「みんなあれだろ? 信のファーストキスがどうとかが気になるんだろ?」

 

「いっ、一夏!!」

 

 箒がとっさに一夏の口を封じるも、ばっちりその声は食堂に響いた。

 四人の顔が真っ赤になったが、幸い信は一夏の方を見ていたので、みんなの顔をよく見ずに済んだ。

 なんだそんなことか、という表情で、信は手に持ったスプーンをブラブラさせる。

 

「あー……あれ? 会長の悪い冗談に決まってんだろ? たぶん、生徒会長補佐官の存在を認識させるデモンストレーションみたいなものだろうから」

 

「『生徒会長補佐官』? なにそれ?」

 

「俺の役職。こう見えても生徒会の役員なんだぜ? ……あれ? 会長から聞かなかったのか?」

 

「「「「聞いてない!!」」」」

 

「な、なんだよ……一夏より先にお前らが驚くことないだろ……」

 

 予想外の方向からの叫び声に信はたじろぐ。

 

(嫁が私以外の女の下に付くだと……! ならん! 絶対に!)

 

(それってあの美人の右腕になるってことよね!? てことは必然的に信の一番近くにあの生徒会長が……!)

 

(し、信が生徒会に入っちゃったら一緒にいられる時間が無くなっちゃうよ~……)

 

(側にいる女性と恋に落ちる……あり得ますわ……! いけませんわね……!)

 

(一夏に勝るとも劣らない鈍さだな……)

 

「……どうした? 悩みごとでもあるのか?」

 

 お前が原因だよとは言えず、女子一同は口を閉じる。

 男子たちは顔を見合わせて肩をすくめたあと、再び食事の手を動かし始めた。流石は唐変木の双龍、相も変わらず絶好調である。

 

 やがて一夏が最後の一口を飲み込み、手を合わせる。ちなみに、食べ終えた焼き鮭定食はピリッと塩辛でご飯が進む、一夏お気に入りの朝食メニュー。

 余談だが、何度かふざけてカレーをかけられそうになったこともある。その他、悪ノリした女子ズに異国の食材をかけられそうになったこともある。なんとも多難な由緒正しき日本の朝食の定番。

 一夏が満足していると、ふいに話題が浮かんだ。女子たちはなぜか黙っているし、信も話し出す様子もないので、なんとなしに口を開いた。

 

「そうえばさ、昨日面白いニュース見たんだよ」

 

「お前の面白いというニュースは果たして本当に面白いのか?」

 

「あー……ま、面白いっていうか、興味深いやつだな」

 

「『老後によく効くストレッチ』とか言うなよ?」

 

「言わねーよ。確か題名は……」

 

 うーんと考えだす一夏。

 忘れるぐらいなら大したこともないだろうと思い、信はカツカレーを平らげたのち、水をごくごくと飲み始める。

 

「あっ! そうだ! 思い出した!」

 

 その直後、頭に電球が点灯した一夏が叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『今度の騎士は黒かった!! 黒騎士登場!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶふっ!?」

 

 信が盛大に水を吹き出す。テーブルに虹がかかった。

 

「うわっ! ど、どうした!?」

 

「ゴホッ、ゴホッ!! ……な、何だよその特撮ヒーローみたいなニュース……」

 

 シャルロットが慌てて持ってきた布巾でテーブルを吹きながら、信は青くなって聞き返す。

 

「何だっけな……確かどこだかの山中でISの戦闘があって……片方のISが白騎士のシルエットそのままだったんだと。色は黒いらしいんだけどな」

 

「あ、そのニュースなら私もティナと見たわ。互いのISが所属する国家も一切不明だって。それに、その黒騎士とやらは誰かを助けに行ったとか……」

 

「そうそう! それで何だったっけ……今まで行方不明だった博士が2人、救出されて……だよね? ラウラ?」

 

「うむ。そのISはその後忽然と姿を消したらしい。正に白騎士の再来だな」

 

「でも物騒ですわね、IS同士の戦闘なんて……」

 

「そうだな。世界の均衡を崩れることもあるやもしれない。まったく、何を考えているんだか……」

 

「はい、すいません……」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「あ、いや! な、何でもない……えーと、そのニュースってどのくらいの認知度なん――」

 

 

 がやがや。

 

 

『ねーねー黒騎士って知ってるー?』

 

『見た見たー! 昨日のニュースでしょー?』

 

『なんかかっこよくない!? ミステリアスな感じで!』

 

 

 がやがや……。

 

 

「……ぐらいの認知度」

 

 ちょうど後ろを通り過ぎた女子の一団を目で追いながら、一夏は肩をすくめる。

 

「けっ、結構な認知度だな~……と、ところで……黒騎士? だっけ? だ、誰なのかみんな知ってるのかなー……なんて~……」

 

「「「「「「さぁ?」」」」」」

 

「だ、だよね~!! そうだよね~!! あ、あはは……よかった……」

 

 急にほっとしたような声を出して笑う信を不思議に思いながらも、女子たちは食事を終える。

 まさか目の前に張本人がいるとも知らずに。

 

 その時、信の携帯がメールの着信を知らせた。

 

「ん? ……!」

 

「なになに? 『待ち合わせはタワー前――」

 

「わっ!? か、勝手に覗くんじゃねぇよ!」

 

「何だよ……読んだの最後の文だけだったろうが。あっ!? もしかしてデートか~?」

 

 日頃のお返しだ、とでも言いたそうに一夏がニヤニヤと信をからかう。

 

「ちっ、違うっつーの! じゃ、じゃあな!」

 

「あ、待てよ! おーい!」

 

 逃げるように学食から立ち去る後ろ姿は、とても焦っているように見えた。

 引き止めるために伸ばした手はもはや意味がないので、一夏はかわりにやれやれと頭の後ろに持っていく。先程見たメールの内容を数秒考えたのち『ま、いっか』で片付け、お茶でも飲むか~ぐらいの気構えで席に戻ろうと振り返る。

 

 が、しかし。

 

 それでは済まない方々が約四名。そこから発せられるあまりのオーラに後ずさりしてしまう。

 

(これは……逃げ!)

 

 即決した一夏は出口方向を向くが、いつの間にか箒が仁王立ち。

 

「まぁ、私も多少は気になるのでな」

 

「な、何が!?」

 

 ガシッ!

 

 ガシッ!

 

 ガシッ!

 

 ガシッ!

 

 セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが一夏を掴み、無理矢理席に着かせる。全員、目が怖かった。

 

「一夏さん……誰が、誰が差出人でしたの?」

 

「は、はぁ!? そ、それはあの……」

 

「さぁ吐きなさい……! 朝食ごとすべて……さもなくば……」

 

「そ、それは信のプライベートな――」

 

「そうえば一夏、最近疲れてない? 僕ね、新しいショック療法とか調べてるんだー……」

 

「なんの!? なんのショックですか!? 明らかに治療用じゃないよね!? その目は人を治す気無いよね!?」

 

「喋らないと言うならば、こちらにも拷問の心得がある。30秒で洗いざらい吐いてもらおう」

 

「わ、わかった! わかったから! 言うって! だからナイフをしまって! 洒落にならないから!」

 

「で? 一夏、一体誰なんだ? 信に、その……でっ、デートの誘いを送ってきたのは」

 

 箒がおずおずと聞いてみる。他の女子四人はドキドキと鼓動を早めて、一夏の言葉を待っていた。

 

 そして、それは一瞬で、そしてためらいもなく言い放たれた。

 

「たっ、『楯無さん』って書いてありました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブチッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かがキレた音が聞こえた……気がした。

 

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