IS〜world breaker〜   作:山嵐

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41:旧友寄るとケンカの種

 簪を四組に送り届けたあと、特にやることもなさそうだったので、俺は一組に戻ることにした。楯無さんからメールも来ないし、大丈夫だろう。

 時計を見るともうすでに昼過ぎだった。

 

「飯どうすっかなぁ……ん?」

 

 目的地の近くまで来ると、見覚えのある人影が。

 一夏と弾が揃って二組の前に立っていたのだ。

 ほぼ同時に俺に気付いた二人は手を上げて居場所をアピールしている。

 

「あ、信。こっちだぞー」

「おー! お前も執事か!」

 

 ヒラヒラと手を振りながら、一夏たちと合流する。

 

「よっ。どうだ、憧れの女の園は?」

 

「うーん……羨ましいけど大変そうだな」

 

「ほら見ろ! 信が言ってたのは本当だっただろ?」

 

「確かに……理想と現実は違かったぜ……」

 

 弾は大袈裟に肩を落とし、ため息なんかついている。

 この大変さを理解してくれて嬉しいぜ、まったく。

 

「っと……ところで数馬は?」

 

「それがさぁ、いなくなっちゃったんだよ。あいつ携帯も見てないみたいだし……」

 

「ま、数馬のことだから大丈夫だろ。あいつ、あれで結構適応力あるし」

 

「案外女の人と一緒にいたりするかもな。『結婚してください!』とか言って」

 

 そんな冗談を飛ばして笑った。

 けど本当にやりそうで怖いな……。

 いや、普通の人はやらないけども……数馬ならやりかねない……。

 というか、もう一段階飛ばして『僕の子供を……!』とか言いそう。

 ……もしものときは他人のフリしよう。うん、それがいい。

 

 そんなことを考えていると、後ろから聞きなれた声が。

 

「ちょっと! クラスの前で立ち話しないでよ! 営業妨害で訴えるわよ!」

 

「あ、鈴」

 

「ぶほっ!? お、お前、その格好……」

 

「んなっ!? だ、弾!? なんでここにいんのよ!」

 鈴があからさまに嫌そうな声を出して後退りをする。会いたくないやつに会ってしまった、と態度で言っているようなものである。

 一方、弾はというと、なにやら笑いだしたそうな顔をしている反面、『うわ、似合わねー……』みたいな失礼な感情が読み取れる。

 この二人も旧知の仲だから、いろいろ相手に対して思うことがあるらしい。

 

「お、お前、なんか……」

 

「うっ、うるっさいわね! こ、こういう方向性の店なの!」

 

「いやそれにしたって……イメチェンの域を越えてんぞ」

 

「ふ、ふん! そういうあんたはイメチェンすらできてないようね! いい加減その熱っ苦しい長髪切りなさいよ!」

 

「なに!? これが今流行りなんだよ! 長髪の時代なんだよ!」

 

「ていうかこいつ呼んだの誰よ!? 一夏! あんたね!?」

 

「う、うん、まぁそうだけど……あ、数馬も来てるぞ?」

 

「はぁ!? あの変態も来てるの!? あんたたちこの学園を破滅させるつもり!?」

 

「なんで一夏じゃなくて俺に言うんだよ! 招待された側は関係ねぇだろ!?」

 

「あんた『たち』がいるといっつも厄介事が飛び火するの!」

 

 一夏もまさか会ってすぐこの二人が言い争うとは思わなかったのだろう、少し戸惑っている。

 というか三人は中学の同級生らしいが、それぞれからそれぞれの話を聞いたことがほとんどなかった。

 そういう話も面白そうだし、今日はゆっくりじっくり聞いてみるか。

 

「べー!」

 

「うげー!」

 

「まあまあ……ほら、二人とも、そろそろ……」

 

 いがみ合っていた弾と鈴の間に割って入り、それとなく店内に目線を誘導した。

 舌を出したチャイナドレスの女子と、それなりに気合いを入れている服装なのに変顔して台無しな男子、そして執事二人。

 奇妙な組み合わせでただでさえ人目を引くというのに、二組の目の前で立ち止まって、その上雑談までしてしまったので、教室内からも非難の目が刺さる。

 

「あ……えっと……」

 

「3人、案内頼めるか? 鈴」

 

「う、うん! じゃ、じゃあ入って! 奥のテーブルね! 弾は帰っていいわよ!」

 

「帰るか!」

 

 互いに威嚇し合いながら、鈴たちは先に行ってしまった。

 残された俺は、こっそり一夏に耳打ちする。

 

「あいつら仲悪いのか?」

 

「いや、そんなことは……でもああいう口喧嘩みたいなのはよくしてたな」

 

「へー……」

 

 犬猿の仲、というわけではないらしい。たぶん喧嘩するのが通過儀礼みたいなものなんだろう。

 

 鈴に案内されて、というよりも後を追わされて、奥のテーブルに着席する。

 いつもの元気で行き当たりばったりな行動からは想像もつかないほどに上品な格好の鈴は、俺と一夏に水を、弾に非常にご丁寧に(・・・・・・・)お湯を持ってきた。

 

「そうそう最近冷え性でさ、これくらいの沸騰したお湯が丁度いい、っておーい!!」

 

 うけとった弾のリアクションに『相変わらずつまらないやつ』と辛辣な言葉をかけた後、鈴は綺麗な緑色の表紙の薄い本のようなものを手渡してきた。

 

「はい、これメニュー。一応できるだけのものは用意してるつもりよ」

 

「おお! すごいな、こんなにあるのか。 それじゃあ……うん、俺は肉まんかな。信は?」

 

「そうだな――」

 

「俺シュウマイ!」

 

「今は信が選んでるの! あんたは後回しよ!」

 

 鈴がびしっと一喝すると、弾は肩をすくめた。

 苦笑いを浮かべつつ、俺はメニューに目を通していく。メニューは写真つきだし、値段もリーズナブル。どれもうまそうだ。ここでガッツリ昼飯食ってもいいな。

 次のページをめくると、ちょっと気になるメニューがあった。 

 

「ん……? なぁ、鈴」

 

「なに?」

 

「この『スタミナ酢豚』ってさ、鈴が作ったのか?」

 

「そうよ。よくわかったわね」

 

「あれだけ食えば味も見た目も覚えるさ。で、これって鈴が作ってくれるのか?」

 

「ううん。今は私が接客担当だから作らないわ。調理の方は人手が足りてるみたいだし、あたしの出番はないかもね」

 

「そっか……残念だ。鈴の酢豚うまいのに……」

 

「それなら……べ、別に今日じゃなくても頼まれたら作ってあげるわよ?」

 

「本当か? じゃあ今日は鈴の手料理は我慢して……カレーまんで」

 

「ご、ごめんね? かわりに次食べさせるときはすっごく美味しいの作ってあげるから!」

 

 ツインテールを揺らして、鈴はガッツポーズをする。

 なんと。今よりもっとうまいものを作ってくれるというのか……!

 これは期待できる。思わずよだれが垂れてしまいそうだ。

 

「ああ、楽しみにしてるな……っと、じゃあ、肉まんとカレーまんにシュウマイ、よろしく」

 

「う、うん! そこで待ってなさいよ! 弾は帰れ!」

 

「だから帰んねぇよ!」

 

 うるさそうに顔をちょっとしかめ、鈴はくるりと回れ右をして注文を伝えに行った。

 うーん……あれ、スリット深すぎやしないか? 下手したら見えるぞ……。

 女子が多いとはいえ、危ない服装の気がする。あとで鈴にさりげなく注意しとこう。

 でも似合ってるんなよなぁ……残念だ。

 

「……でさ、信」

 

「なんだ?」

 

 突然声のトーンを底辺までさげ、テーブル内にしか聞こえないレベルで弾が話かけてきた。

 

「鈴とはどうなんだ?」

 

「へ?」

 

「いや、だからさ……」

 

 言い出しにくそうに目を泳がす様子を見て、俺はなんとなく弾の言いたいことがわかった。

 この思春期野郎が。

 

「あのなぁ……俺と鈴が付き合ってる――」

 

「ええぇぇぇぇ!?」

 

「――わけないだろ。一夏、うるさい」

 

 話してる途中で大声を出した一夏に手刀を降り下ろした。

 まったく、こいつらは人が話終えるまで静かにできないのか。失礼だぞ。

 やれやれとため息をつきながら、弾に向き直る。

 弾はしばらくじっとこちらを見てから、一夏に目を移し、あきれたように短く鼻で笑った。

 

「ほんと、似てんなお前ら」

 

「え?」

 

「……? とにかくだ、俺なんかに鈴はもったいない。そういうことだ」

 

「へーへー、さいですか。こりゃあ鈴も報われねぇぜ……」

 

 なんかぶつぶつ言ってる。大したことを呟いてるようでもないので、俺は聞こうとはしなかった。

 

「はい、お待たせ。肉まんとカレーまんと、シュウマイ、ね」

 

 そんなことしてた間に、鈴がお盆に乗せて料理を運んでくる。

 おお……うまそう。

 思っていたのよりも少し小さい気もするが、かといって小さすぎるわけでもなく、ちょっと息抜きするには充分な量だ。

 

「おお! 鈴がこんな格好だからどうなることかと思ったけど、料理は美味そうだ!」

 

「だな」

 

「ああ」

 

「ちょっと! あんたたちそれどういう意味よ!?」

 

「料理が美味そうだっていうのに同意しただけだよ。鈴、さっきも言ったろ? 那个衣服,特别相称?〈その服、すごく似合ってるぞ?〉」

 

「ちょ、ちょっと! みんないるでしょ!? や、やめなさいよ!」

 鈴は顔をすぐに真っ赤にした。

 おお~……照れてる照れてる。

 俺はニヤニヤをこらえきれない。

 

「特别相称! 特别相称! 特别相称!」

 

「れっ、連呼するな! いっ、一度くらいならいいけど、お世辞は言われ過ぎるのは嫌よ!」

 

 なんだよ。まさか冗談で俺が言ってると思ってたのか?

 誤解を生んでいたことにはちょっと驚いたが、言われてみれば確かに、ニヤニヤして言ってたら伝わらないのも仕方ないかもな。

 俺は鈴の目を見て、できるだけ真面目に誉めてみる。

 

「不是奉承。我觉得我真的很可爱。〈お世辞じゃないさ。本気で可愛いと思ってる。〉」

 

「だっ、だからぁ! まっ、真顔でそういうこと言うの禁止!」

 

「だって冗談とか言う――ってぇ!? お盆で叩くなよ!? なんだよ!? 痛い! 痛い!」

 

「バカバカバカバカ! 知らないんだから!」

 

 真っ赤な顔をしたまま、鈴はいそいそとどこかへ行ってしまった。

 いてて……まさか底じゃなくて横でスイングしてくるとは……。

 絶対打撲傷になるぞ、これ。あとで簪に湿布張ってもらおう。

 

「なぁ、信。今の中国語か?」

 

「ああ。鈴と知り合ってから練習したんだ。鈴のこととか、もっとわかるかなって思ってさ」

 

 一夏の質問に答えながら、カレーまんを頬張る。

 カレーのぴりりとした辛味が柔らかい生地との見事なコラボレーション。素晴らしい。

 

「へぇ~……流石だな!」

 

「そりゃどうも」

 

「……お前らってやつらはっ!」

 

 なんか突然弾がシュウマイをがつがつと食い始めた。

 そんなに急ぐなよ。時間はまだまだあるんだぞ。

 

「いーからいーから! 仕事なんてあとででいいやん? ね?」

 

「そ、そういうわけには……他の先生にも迷惑かかってしまいますし……」

 

 すると、廊下の方から聞きなれた声が。

 一夏も弾も、そして俺も一旦食事の手を止めて顔を上げると、数馬と目が合った。

 

「あっ! 真耶ちゃん真耶ちゃん! ここここ! ここにしよう!」

 

「あ、いや……だから私には仕事が……」

 

「おーい、3人とも! 元気してるか~!」

 

 出た……変態が。

 いつも通り能天気な顔で笑いながらこちらに手を降る御手洗数馬は、なんか幸せそうだ。

 大方、その右手が繋っている女性を見せて、『見てみぃ! 僕のお嫁さんや!』とか言うんだろう。アホなやつめ。

 弾と一夏は驚いてポカンとしているが、俺は呆れて頭を抱えた。

「見てみぃ! 僕のお嫁さんや!」

 

 予想通り過ぎてツッコむ気力もない。

 

「い、いえ、だからですね……御手洗くん、私は――」

 

「いやな~真耶ちゃん! 僕んことは『数たん☆』って呼んでって言ったやろ?」

 

「す、すみません……か、数たん?」

 

「ちゃうちゃう! 『数たん☆』や! 真耶ちゃんはドジっ子やな~もう! かわいっ!」

 

「かっ、数たん……☆」

 

「女神やー!!」

 

 なにをやってるんだこの人たちは……。

 山田先生も人が善すぎるにも程があるだろ。断るっていうことを知らないんだろうか?

 かわいそうに……きっと数馬に無理矢理連れてこられたんだろう。

 

「数馬……」

 

「もー、かわいいっ! かわい――なんや? ああ、紹介な! この人は山田真耶ちゃん! どや! お前らなんも言わんかったし、同じIS学園生の真耶ちゃんのこと知らんのやろ?」

 

「いや……えっーと……一夏? こいつの言ってること、わかるか?」

 

「え……? え!? う、嘘だろ、信!? そういうことなのか!? いくら数馬だって流石にそれは……!」

 

「くそっ! くそっ! なんであの変態がっ……! 俺より先にっ……!」

 

 テーブルを叩く弾を尻目に、俺と一夏は軽く哀れみの目を数馬に向ける。

 

「あっ! 真宮くん、織斑くん! 御手洗く――か、数たん、とお知り合いですか? 事情を説明してくださいぃ~……」

 

「は、はい! すいません! とんだご無礼を……」

 

 一夏は立ち上がり、山田先生にペコペコと深く頭を下げる。

 さて、なら俺はこっちを担当しよう。

 まったく……こいつは見境なく手を出しやがって……。

 

「数馬」

 

「へ?」

 

「この人はな……」

 

「うんうん」

 

「先生だ」

 

 数馬はしばらくフリーズしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやもう本当にすんませんっしたぁぁぁぁ!!」

 

 清々しいまでに頭を床に擦り付ける数馬を、一夏と弾、そして信と鈴が呆れ顔で見下ろす。

 ただ、真耶だけは必死で頭を下げている。

 

「い、いえ! 私はわかっていただければ別に! あの、説明できなかった私も悪いので! あの、もう顔をあげてくださいぃ~!」

 

「いいんですよ、先生。こいつはバカですから」

 

「数馬……まさか先生に手を出すとは……大バカだな」

 

「いや、クズだろ」

 

「まったくよ! あんた、本気でいつか捕まるわよ!」

 

 数馬を知っている四人は罵倒の嵐である。

 二組の教室でそんなことをやってるから、ギャラリーも集まってきた。

 

「と、とにかくですね、もうわかりましたから! ほ、ほら、みなさんも見てますし……」

 

「いえ! それが気持ちいいんです!」

 

「「「「……うわぁ」」」」

 

  彼の友人たちはドン引きである。

 

「数馬……お前ってやつは……」

 

「まぁね!」

 

「なんでドヤ顔なんだ……」

 

 弾の言葉に答えた変態に、信は力なくツッコむ。

 真耶はちょっと顔を赤くして、居づらそうにもじもじと体を動かした。

 

「とにかくですね、まさか先生だとは露知らず変なことしてすんませんっしたぁぁぁぁ!! ほんと、この通りです!! すんませんっしたぁぁぁぁ!!」

 

「先生、あの……こいつ、こんなんですけど根はいいやつなんです。今回はどうか……」

 

「は、はい……大丈夫ですよ、織斑くん。短い間でしたけど、数たん――」

 

「先生、そのあだ名使わなくていいですよ。恥ずかしいでしょ?」

 

 信が慌ててそう言うと、真耶はほっとした表情を浮かべた。

 

「そ、そうですか? それなら、はい、そうですね……」

 

「いや、でも僕んことそう呼びたければいつでも――」

 

「鈴、手錠ってない?」

 

「本当に残念だけど、それは流石に用意してないわ」

 

「真宮ん! 鈴! 僕ら友達やろ!? そんな目で見いへんといて! 冗談やて!」

 

 信と鈴が向けた軽蔑の目線が容赦なく数馬を貫く。

 二人は身長差こそあれ、威圧感はほとんど同じようである。

 すると、その後ろから遠慮がちに真耶が進み出て、土下座している数馬の前に屈んだ。

 

「あ、あの、御手洗くん? そのですね……あの、確かにビックリしたんですけど……楽しかったですよ? 気を落とさないでください」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ。本当ですよ」

 

 真耶はにっこりと微笑んだ。

 急に連れ回されたのには戸惑ったが、年頃の男の子がどんな感性で物事を見ているか、ということを垣間見れた気がして嬉しかったのも事実なのである。

 後ろではIS学園生三人がやれやれ顔なのだが、当然真耶には見えない。

 

「山田先生って……」

 

「人が善すぎるわよね……」

 

「そうだな……」

 

 そんな呟きも真耶には届かない。

 学校が違えど、自分は先生であり、相手は生徒なのである。真耶は先生として、数馬に接していた。

 

「真耶ちゃん……」

 

「あ、でもその呼び方はダメですよ? それに、結婚とか冗談で言うのもいけませ――」

 

 突然、数馬が手を握ってきた。

 あまりに突然だったので、真耶は何が起こったかすぐにはわからなかった。

 

「冗談やないです! そりゃ、僕はバカでクズでどうしょうもない変態ですけど、ひとつだけ曲げないっちゅう信条があるんです! 『全力で好きな人を愛す』っちゅーのが!」

 

「え、あ、は、はい……?」

 

「だから真耶ちゃん! 結婚したいっちゅーのは冗談やないです! 本気です! 絶対幸せにします! だから、いつになるかわからへんけど!」

 

 手を握られたまま立ち上がられたので、真耶も一緒にバネが弾けたように立ち上がる。

 数馬の声が大きかったのもあり、店内は静まり返り、みなの視線を集めていた。

 だから、次の言葉を聞き取るのは容易だった。

 

 

 

 

「結婚してくださいっっっっ!!!!」

 

 

 

 

 店内、そして廊下にも高らかに響き渡った、突然のプロポーズ。

 目が点になるとはこのこと。全員が状況を把握できず、キョトンとしていた。もちろん、真耶も例外ではない。

 

 しかししばらくして、きっとそういうネタに敏感な女子がいたのだろう、どこかから口笛が聞こえた。

 それを皮切りに、女子たちは静かに、けれども確実に、なにやら意味もなくはしゃぎ出した。

 

「う、うそっ!? い、今の、ぷりょ、ふろっ……プロポーズ!?」

 

「きゃあぁぁぁぁ! 真耶っちおめでとー!!」

 

「生プロポーズなんて初めて見た! ドラマみたい!」

 

「よっ!! そこの男子かっくいー!!」

 

 真耶もようやく事態を飲み込み始め、そしてアワアワとしながら顔を朱色に染めた。

 さっきまで意識してなかった男性としての御手洗数馬に、心拍数が急上昇する。

 脳内回路がショートして、冷静に物事を判断できる状態ではなかったが、真っ直ぐにこちらを見つめる目線に答えなければ、と真耶は必死で言葉を探す。

「かっ……」

 

「か?」

 

「考えさせてくださいぃぃぃぃーーーー!!」

 

 それだけいいながら、真耶は手と手を離し、一目散に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、信! ごめんね、こっちの人手が足りなくて……って、どうしたの? 疲れちゃった?」

 

「いや、気にすんなシャル。ちょっと2組でゴタゴタが……」

 

「本当に大丈夫? 我慢しちゃダメだよ?」

 

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとな」

 

 ならいいんだけど、とシャルは不思議そうに俺を見ている。

 すると、ひょっこり脇の方からセシリアとラウラが顔を出した。

 

「信さん! 先程から何度も電話していましたのに! どうして出てくれないんですの!?」

 

「ごめんな? それをかき消すような出来事が……隣であったから、さ」

 

「そうえばしばらく隣のクラスが騒がしいな。なにかあったのか?」

 

「あ、あはは……ちょっとな。気にすんな」

 

 まさか『山田先生がプロポーズされた』なんて言っても信じるまい。ここは黙っとこう。どうせそのうち伝わるだろうし。

 数馬のアフターケアは一夏たち中学旧友組合に任せたし、まぁ大丈夫……な、はず。

 というか、まさか数馬が本気で山田先生に惚れるとは……。

 

「あっ、一夏! お前どこで遊んでいたっ! 私たちは休みなんてないんだぞっ!」

 

「いてててて! ご、ごめん、ごめんなさい、箒! わかったから離してくれ!」

 

 箒はクラスの入り口に現れた一夏に駆け寄り、首元を掴んで大きく揺さぶる。

 本当は数分ぶりにあえて嬉しいくせに。つくづく素直じゃないやつだ。

 幸い客の目というのを箒も意識してなのか、すぐに一夏は解放された。

 俺はそれを確認し、一夏を手招きして近くに呼び寄せた。

 

「うぅ……くらくらする……」

 

「で、一夏……数馬は?」

 

「ああ、なんかさ……回復した」

 

 かいつまみすぎだろうが。その『なんか』が知りたいんだって。

 しかし回復したのか……よかった。逃げられた直後は窓から飛び降りる勢いだったからな……。

 

「どうやって立ち直ったんだよ」

 

「数馬がさ、山田先生とアドレス交換してて……少ししてからメールが来てたんだ」

 

「本当になにやってんだよ……で? 内容は?」

 

「えっと……『突然逃げたりしてごめんなさい。もう少し御手洗くんのことを知ってから、よく考えて答えを出したいです』って……」

 

 俺は唖然としてしまう。

 山田先生、もしかして……結構乗り気なのか?

 あ、いや……単刀直入に『嫌です』って言えなかったのか。山田先生は人に遠慮しがちだからなぁ。

 なんにせよ、数馬が立ち直った理由がわかった。

 

「それで――」

 

「あーもうわかった。『ならお互いにもっと深いとこまで知り合ったんならOKくれるってことやな!』って感じだろ?」

 

「まさにその通り。信はなんでもお見通しだな」

 

「いや、あいつはどこかの唐変木よりも単純なだけさ。しっかし、変にポジティブなやつだな……」

 

「昔からそういうやつだったからな。で、弾と数馬はもう少し学園祭見て回るってさ」

 

 俺たちはため息をついた。

 やれやれ……面倒なことになってるもんだ。

 

「あの、2人とも? そろそろ……」

 

 シャルは申し訳なさそうに俺たちに声をかけた。

 気が付いてみると、周りにはびっしりとお客さんたちが。

 どうやら廊下で整理してくれていた女子たちも突破されたらしい。椅子の数が足りず、二人一組で一つの椅子に座っているところもあった。

 これはさっさとさばかないと立ち食い喫茶になりかねない。

 

「わ、悪い! 行くぞ、一夏!」

 

「あ、ああ!」

 

「ところがぎっちょん!」

 

「あんたって人はぁぁぁぁ!!」

 

 どうしてこう、前触れもなく現れるんだ。ビックリするからやめてください。

 生徒会長はお決まりの扇子を取り出し、口元を隠して笑った。

 相変わらず上品……。

 扇子には『取材』と書いてあった。

 

「うふふ。そうね、私は人を驚かせることを強いられているんだっ!」

 

「集中線が出そうなドヤ顔はよしてください……」

 

 楯無さんはもう一度上品に微笑むと、扇子をしまった。

 

「ドヤ顔してもおねーさん美人でしょ? ね? 一夏くん?」

 

「うえっ!? そ、そうですね……」

 

「……」

 

「いてっ!? 誰だ足踏んだの! 箒か!?」

 

「ふんっ! さっさと仕事をしろっ! ほら、来いっ!」

 

「ぐえっ!? く、首元引っ張るなよ!?」

 

 面倒事を増やさないでほしい……。

 ああ……また箒が拗ねた……一夏も大変だな。

 強制的に連れてかれた男子の方に仕事は任せるとして、俺たちはこっちのことをささっと済まそう。

 

「生徒会長、どうかしたんですか?」

 

「やん。シャルロットちゃん、楯無って呼んでよ」

 

「あ、はい……楯無さん、どうかしたんですか?」

 

 相変わらずシャルロットは礼儀正しい。メイド服と相まって、本物のメイド見たいだ。

 

「おい、お前。私の嫁を痛めつけてるらしいな。ここで勝負しろ」

 

「そうですわ! 毎日毎日、信さんがかわいそうです!」

 

 それに比べてこの二人は……。

 ラウラに関しては今度教育が必要だな。目上の人なんだから敬語はつけよう、敬語は。

 ったく変な知識ばっかりでまともなこと吹き込んでくれないのか、ドイツの特殊部隊。

 セシリアもお嬢様だからプライドが高いみたいで、一応敬語はつけてるが、口調のイライラが隠せてない。まだ相手を表面上の肩書きでしか認めてないんだろう。

 まぁ、俺のことを心配してくれるのは嬉しいけど。

 

「ごめんなさい。でも必要なことなの。ね? わかって?」

 

「「むぅ……」」

「それでどうしたんですか? そんな格好で……」

 

 俺は楯無さんの格好をまじまじと見る。

 かんっぺきなメイド姿だった。そりゃもう、かんっぺき。

 このクラスの借りてきた服と全く同じメイド服を着ているらしく、今までここで働いていたのでは、と錯覚してしまう。

 そして妙に胸のラインが……。

 イカンイカン! この人に見抜かれるとまた面倒なことが増える……。

 

「どう? 似合う?」

 

「そりゃ似合ってますけど……」

 

「あは☆ ありがと♪」

 

「「「……」」」

 

 あれ? なぜそんな顔でこっちを見るんだメイド三人衆。な、なんか変なこといったかな、俺……。

 明らかに膨れっ面になったセシリア、シャル、ラウラが、俺を冷たい目で見ていた。

 でも、メイド服でそんなことされるとなんか怖いって言うより、かわいい成分の方が強いな……不思議だ。ずっと見てたい。

 

「そうだよね、似合ってるよね、信は年上好きだもんね……まったく、デレデレしちゃってさ……」

 

「なんなんだあの女……私の嫁を勝手に……嫁も嫁だ……私だけ見ていればいいと言ったのに」

 

「わたくしに大人の魅力が足りないのでしょうか……少なくとも皆さんよりは大人っぽいと思っていたのですが……というか信さんがいけないんですわ……誰彼構わず……もう!」

 

 あ、あれ? な、なんだ? なんかぶつぶつ言ってる……。

 断片的にしか聞こえないが、なんか俺のことを言ってるみたいだ。なんだこのプレッシャー。

 ずっと見てたいけど、そのぶつぶつ言うのはやめてほしい……。

 

「うふ。ほーんと、人気者ね。 信くん?」 

 

「は、はぁ……?」

 

「でね、ちょっとお願いがあるんだけど……ダメ?」 

 

 なんで胸を寄せるんだ、なんで少し前のめりで強調するんだ、なんでそんな断りにくい顔するんだ、ちくしょうこんなん断れないだろ。

 なんなんだよ、この人本当に!

 

「き、聞いてみてから決めます! な、なんですか?」

 

「うん♪ あのね、来年度の学園の紹介パンフレット用の写真を撮りたいの! いい?」

 

「そ、それくらいなら……」

 

 その瞬間、後ろから両腕をガッチリとホールドされた。

 ……はい?

 

「ダ・メ・で・す・わっ!!」

 

「ただでさえ人手が足りないのに、そんなことしている暇なんかないよね? 信?」

 

「そういうわけだ。というか、お前と嫁が一緒にいるのは気に食わん」

 

「そうよ! 会長だかなんだか知らないけどね、信をずっと側に置いとくのは職権乱用よっ!」

 

 なぜ鈴もいるんだ、というツッコみはさせてくれないらしい。

 チャイナドレスの女子を見たらキッと睨み返された。

 四人の力は合わさると相当強く、俺はずるずると引きずられ始めた。

 すると楯無さんはクスリと笑い、わざとらしく大声で独り言を言った。

 

「あーあ、ざーんねん。信くんとのツーショット写真にするつもりだったんだけどなぁ」

 

 ピタリ、と俺の引きずっている四人の足が止まった。

 え? な、なんだ?

 

「うーん、クラスの女の子の中から何人か選んで撮るつもりだったんだけどなぁ。ツーショット写真。すっごくきれいなやつ」

 

 すると逆再生のように俺の体が楯無さんのもとに近づいていく。

 そして、俺の腕を掴んでいた四人がくるりとニヤニヤ顔の楯無さんに向き直る。

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

 

 楯無さんはいつものように、上品に微笑んだ。

 

 

 

 

 






久々の新話の執筆だったのですが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただければ幸いですm(__)m


さて、私事ではありますが、この度無事に受験生活を脱することができました。
新生活がこれからどうなるかわからないのでなんとも言えませんが、執筆もなんとか頑張っていこうと思いますので、よろしくお願いします(^.^)



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