IS〜world breaker〜   作:山嵐

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もう本当長々とお待たせしてすいませんでした(- -;)

あ、タイトルは私の勝手な思い込みです(笑)
ちなみに山嵐の弱点は妹属性ではありません(  ̄ー ̄)ノ




51:大体の男は妹属性が弱点

 千冬さんめ、しっかり場所まで言ったな……。

 眼の色を元に戻しながら、俺はやれやれと心のなかでため息をついた。

 くっそー……誕生会で『実は俺あそこにいたんだー』というサプライズ発言をしたかったのに。

 

「……キャノンボールファーストか……」

 

 弾と数馬の用意してくれた変装用の服に身を包んでいる俺は、小さくひとりごとをつぶやく。

 さっきまで二年生のレースが行われていたのでそれを見ていたが、正直機体のスピードが速いやら選手同士の攻防の変化が目まぐるしいやらでかなりヒヤヒヤする。

 それが醍醐味といえばそうなのかもしれないが。

 そして今、ついに俺が一番見たかった試合、一年生専用機持ちのレースが今始まろうとしている。

 すでにスタートラインに並び終わり、スタートを待ついつもの面々を確かめながら俺はまた少しだけ微笑んだ。

 よかった。みんな元気そうで。

 

「……で? そこは俺の連れの席なんですけど楯無さん?」

 

「あら? その連れって私じゃないの?」

 

「残念ながらそうです」

 

 しれっと俺の横の席に座っている生徒会長は面白そうにクスクスと笑っていた。 

 この人も相変わらずだ……きっと俺が気づかなかったらそのまま座りっぱなしだったな。

 いや……もしかして、俺が気づくのを計算ずくで隣に座ったのか?

 俺にとっては懐かしいIS学園の制服に身を包む楯無さんは、目を細めてアリーナの方を見つめていた。

 

「はぁ……なんかこうしてると落ち着くわ。ずっとこうしていたくなっちゃう」

 

「仕事、サボってないですか? また一人であの量こなしてると、楯無さんすぐ嫌になるでしょう? たまには虚さんとか、のほほんさんを頼ってくださいよ?」

 

「はーい、補佐官さん♪」

 

「『元』ですけどね」

 

 俺が自分で言って少し寂しさを感じていると、会場にアナウンスが流れた。

 なにやらコース上に不具合があったようで、多少直すのに時間がかかるとのこと。

 といっても一夏たちがいなくならないところを見ると、それほど大変な問題でもないようだ。

 さっきの試合で派手に爆発とかしてたし、それでどこかが壊れたりしたのかもしれない。

 コース各部に設置されているカメラとか。

 あれがアリーナの巨大ディスプレイに映像送らないと、観客は何起こってるかわかんなくなるからなぁ……。

 

「……まさか、もう諦めたなんて言わないわよね?」

 

「もちろん……とは答えられません……申し訳ないですけど」

 

「……私はまた信くんと一緒に過ごせるならとっても嬉しいんだけどなぁ~」

 

 大きく伸びをしてからにっこり笑ってそういうことを言われたものだから、俺は少し照れくさくなって顔を背けた。

 そういえば、楯無さんは俺の許嫁とか言ってたよな……。

 本当、とんでもない話だ。こんな美人と俺とじゃ月とスッポンだろうに。

 うちの父親は何を考えてそんな約束交わしたんだろう。

 

「そりゃ俺だって……その、嬉しいことは嬉しいです、けど……」

 

「うん……ありがと……」

 

「あ~……は、はい……」

 

「あれ~? 照れてるの~?」

 

「や、やめてくださいよ……つ、突っつかないでください!」

 

 閉じた扇子をツンツンと頬めがけて動かしている楯無さんの手を軽くかわしながら、帽子が取れないように両手で抑えた。

 ていうか、なにげに楯無さんも照れてないか? 顔赤いし。

 もしかしたら俺と同じように、互いが許嫁であるということを一瞬意識してしまったのかもしれない。

 改めて考えるとなかなかこっ恥ずかしいもんな。

 

「とっ、とにかくですね……」

 

「ん?」

 

 だけど、これだけは伝えなくちゃいけない。

 

「……俺が……俺がいなくても、しっかりしてくださいよ?」 

 

 楯無さんの突きがやんだ。

 少し斜めになっていた体をゆっくりと起こしてもう一度椅子に座り直すと、俺は沈黙が広がる前に話を切り出そうとして、やめた。

 何を話したらいいのかわからないし、もう何を言っても変わる現実ではないから。

 しばらく騒がしい声たちの中に身を晒したあと、ため息をついて楯無さんが頭を伏せるようにして目をそらした。

 

「そんなの無理よ……私も、きっとみんなも」

 

 そして楯無さんは立ち上がり、観客席から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両手に花……ではなく、オレンジジュースを持って観客席脇の通路階段を早足で駆け降りる一人の少女。

 わずかに息を弾ませながら席に腰掛け、試合の様子がよく見えるように身を乗り出す。

 

「はぁはぁ……良かった、まだ始まってない……」

 

「ああ。なんか不具合があったみたいでさ」

 

「す、すいまーーじゃなかった、ご、ごめんね! ISの展示に目がいっちゃって……」

 

 困ったように笑いながら、自分の帰りを待っていてくれた人にオレンジジュースを手渡す。 

 こうしてみるとなんかデートみたいだ。そんなことを考えて体が余計に熱くなったり。

 ちょっとしたいたずら心で、私服の襟をつまんでバフバフと引き出しては戻しを繰り返してみる。自分で視線を下ろしてみると、ちらりと下着が見えた。

 ドキドキしながら横目で確認してみたが、見えたのはストローを加えてアリーナに目線を送っている様子だけだった。

 

「はぁ……効果なし」

 

「ん? どうした?」

 

「な、なんでもありまーーなんでもないよ!」

 

「……なぁ、蘭……本当にやるのか?」

 

「と、当然です! 信さんがいるってばれたら大変ですから!」

 

 信だけに聞こえるように声を低くして耳打ちする。

 

「だ、だけどさぁ……」

 

「ダメですよ! 絶対!」

 

「……はい……わかりました」

 

 渋々ではあるがこっくりと頷いてくれるのを見て、蘭はにんまり満足そうな表情を返した。

 

「ふふ……あっ! そろそろ始まるみたいだよ! お兄ちゃん!」

 

「そ、そう……だな。あ、あはは~……」 

 

「お兄ちゃん! 見て! あそこあそこ! 一夏さんだよ!」

 

「あ、ああ……」

 

「もう! お兄ちゃん! 他に言うこととかないの?」

 

「その言葉を言いたいだけなんじゃないかっていうぐらいにグイグイくるなおい」

 

「えぇ~? お兄ちゃんの気のせいだよ~?」

 

「……はぁ……」

 

 俺はどんな趣味の変態なんだよと思いながら、にこにこと幸せそうに笑っている蘭に向かってやっぱり嫌だということも信にはできず。

 仕方なく、帽子のつばを掴んで深く顔を隠した。

 

 

 度重なる報道の影響は絶大だった。

 お茶の間に絶えず流れ続ける信の顔写真、専門家たちの様々な見解、なにより未だ信が公の場に姿を現さないこと。

 どのマスコミもあの手この手で少しでも情報を掴んだものならすかさず視聴者が好きそうな脚色を加えて報道するので、悪い意味で信が有名になり始めてしまっていた。

 そういう理由で『真宮信』という人物が大手を振って歩きまわるにはかなり厳しい状態になった。

 

 

 そのため、蘭は作戦を2つ提案した。

 

 

 1つは、変装。王道中の王道である。

 実は自分好みの格好に着せ替えさせてみたかったというのが本音だが。

 おかげで信が着ているのは、蘭の読んでるとある雑誌の特集で『彼氏に着て欲しい! 服装ランキング!』というものの第一位に輝いた服装である。

 しかし、特筆すべきは2つ目の作戦だ。

 内容は至極簡単。信を兄ということにする。それだけである。

 つまり、『この仲の良い兄妹は世界的にも非常に注目されているIS学園の行事にたまたまコネがあったためにそろって試合観戦に来ている』というごく普通の光景が出来上がると考えたのだ。

 やってみるまでは効果があるか半信半疑だった信だが、蘭の思惑通りなのか、周りからは『男の家族なのにあの子随分なついてるな』ぐらいの目しか二人には向いていなかった。

 これも本音をいうと、またまたとある雑誌の特集を組まれていた『男がグッとくる! 呼び名ランキング!』で堂々と1位に輝いたからなのだが。

 

 

 歓声に負けないぐらい、いやそれ以上に大きいアナウンスがアリーナに流れる。ようやくレースが始まるようだ。

 待ちくたびれたと言わんばかりに並んだ選手が上体を低くし、加速体勢を取って顔を上げた。

 スタートランプが赤く灯る。

 蘭はどんなことになるのかとわくわくしながら、嬉々として一日限定の兄に目を向けた。

 帽子を深く被っているので、横顔もきっと結んだ口元が見えるだけで表情はよくわからない。

 

「ねぇねぇ! お兄ちゃん! 誰が勝つのかな?」

 

「さぁ」

 

「えぇー!? 即答!?」

 

 蘭が質問を軽く受け流されて不満だったのか、眉を潜めて足をぶらぶらと動かしながら信を見た。

 普段の五反田兄妹を見ている信としては、弾とのやり取りでこんな仕草を見たことがないのがなんとなくおかしくて、実の兄にもこんな風に接してあげればいいのに、と少し微笑んでしまった。

 

 

 

 ランプが黄色くなる。あと数秒でスタートだ。

 

 

 

「まー、あれだ。見てからのお楽しみってこと」

 

「ふーん……」

 

 ちょっとだけ尖らせた口でストローを加え、買ってきたオレンジジュースを静かにすする。

 

「……お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「お兄ちゃんも出たい?」

 信は一瞬体を揺すり、遠くを見るようにして選手を眺め続けていた。

 ぽつりと聞こえるか聞こえないかくらいの音量で、蘭が呟いた。

 

「……私は、出て欲しいけどなぁ……」

 

 黄色が青に変わった瞬間、アリーナがどっと沸いた。

 観客席とコースは十分離れているはずなのに、一斉にトップスピード近くまで加速した機体が風を切り刻む音が聞こえた。

 あっという間に横一列が縦に広がり、軽い爆発音やなにか固いものがぶつかり合う音が出始めた。

 始まってから数秒、蘭は隣を気にかけながら、しかし胸を踊らせていた。

 キャノンボールファスト。初めて間近で見るIS同士の試合。

 忘れられない、いい試合になりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ!」

 

「甘い!」

 

 鈴が背後を向いて放った衝撃砲を避け、ラウラがぴったりと横に並ぶ。

 互いの顔を睨み付けて数秒、コーナーを壁面すれすれで曲がりつつ二人は右腕を大きく後ろに引く。ラウラの腕からはエネルギーブレード、鈴の手には双天牙月が展開されると同時に、横に向けた体を大きく捻りながら武器が振り下ろされた。

 ガキン、という衝撃音のすぐ後に腕が痺れるような感覚が走る。

 すぐさま体勢を立て直すべくスラスターにエネルギーを集中させるが、反動によって生じた二人の間のスペースから蒼い機体が一機、滑らかな加速で先頭に飛び出した。

 

「お二人とも、お先に失礼しますわ!」

 

「ちょっと! ずるいわよセシリア!」

 

「ちいっ! 鈴に気をとられ過ぎたか!」

 

 ラウラが肩のレールガンの角度を調整し、前方のセシリアに照準を合わせようとする。

 しかし高速滑走中の機体では瞬時に正確な砲撃を行うことができず、かつ隣にも敵がいる状況で目の前のことだけに集中するわけにもいかず。

 もしかしたら鈴が衝撃砲を撃ち込みまくって隙を作ってくれるかもしれない、と様子を見ることにしてラウラはセシリアと付かず離れずの絶妙な距離でスピードをコントロールしていくことにした。

 

「あーもう! 動くんじゃないわよ! 狙えないでしょうが!」

 

「あら? 鈴さんが目標を狙って撃ったことなんてありましたか?」

 

「こんのぉ! バカにするんじゃないわよ!」

 

 セシリアとしても高速パッケージを装備しているためにビットを封印せざるを得ない状態なので、後ろへの攻撃はせずに絶え間ない上下左右の動きでロックを避けるようにしていた。

 やむを得ない場合は『スターライトmk-2』で応戦するつもりではあるが、スナイパーライフルの連射力や構えている間のスピードロスを考えると、そのような場面はできる限り避けたいというのが本音だった。

 鈴のイラつきを反映したかのごとく衝撃砲が撒き散らされ、壁に当たって爆煙を上げる。

 撃った本人、そしてその先や隣を行く者には景色と共に流れていく煙はレースになんの支障にもならないが、後続する者にとってはたまったものではない。

 もうもうとした煙を突き抜けながら、シャルロットは少し眉を潜めた。

 

「うわわ……! もう! 視界が悪くて危ないよ!」

 

「もらったぁっ!」

 

 思わず口から出てしまったというような声に、ラファール・リヴァイブが素早く反応する。

 搭乗者が耳で聞くよりも早くアラートをならし、頭上から獲物を仕留めようと急降下してきた深紅の機体との交戦に備えさせた。 

 シャルロットは速度を保ったまま体を反転させ、地上に背を向けて腕に物理シールドを展開、スラスターの出力を自分の真下に向かって一気に上げた。

 そのままならば仰向けで急激に上昇するところだが、平行に構えられた二本の刀が盾に

叩きつけられた際に発生した衝撃がそれを阻止した。

 それどころか背中があと数センチで地面に擦るというところまで押し込まれ、冷や汗が出そうになった。

 

「ふっ! 捉えたと思ったが!」

「声に出てたからね!」

 

 盾を構えた右腕に力を込め、箒を追い払うようにして遠ざけると、同時に左手に展開したマシンガンの引き金を引く。

 弾丸が空に向かって登って行くが、紅椿はほぼ大半を二刀で受け流すか打ち消して前に飛び出した。

 シャルロットはややうしろで悔しそうに短く息を吐くと、ブースターを一気に点火してさらに加速してそれを追う。

 二人の差はあってないようなもので、いつ順位が変動してもおかしくはない。

 箒は左から迫るオレンジ色の機体に牽制のエネルギー弾を飛ばしながら、数十メートル先の三機に向かって縦に剣を振り、三日月状の衝撃波を放った。

 間を裂くように飛び去る赤い光を避けると三人が振り返り、どこか楽しげに笑った。

 

「随分と遅かったな! シャルロット、箒! コースアウトしたかと思ったぞ!」

 

「スタートが悪かったからな! だがこれからが勝負だ!」

 

「絶対負けないからね! すぐ追い抜いちゃうから!」

 

「全員あたし一人で墜としてやるわ! 覚悟してなさいよ!」

 

「望むところですわね! 返り討ちにしてさしあげますわ!」

 そんな決意表明やらなにやらを短く交わし、五人が縦一列に並ぶ。

 コースが急に曲がりくねり始め、操縦難度が跳ね上がる。

 高速機動でコーナーを曲がりきれず、壁に激突しようものなら一発で機体が大破し、二度とレースには戻ってこれない。

 多少スピードを落としてでも安全に通過するべきなのだろうが、国家代表候補ともなるとほぼそのままの速度でレースを続ける。そうしなければ他の候補生に負けてしまうのだ。

 箒も練習時から四人に混ざって競いあったからか、不安などもとからないようにそれについていく。

 全員がそれだけの技量を持っているため、ぴったりと前を行く機体から離れない。

 観客席からは一匹の竜が地を走っているようにさえ見え、その乱れのない美しさに歓声が一段と大きくなった。

 連続カーブから解放されると、遠くの方にスタート地点が見えた。

 コースを丸々一周してきたのだ。

 ここからは、小細工なしの一直線。

 直線コースに出て多少横に広がった選手たちは、追い抜き追い越されの一層見ごたえある試合を展開した。

 レールガンの弾がブルーティアーズのスカートアーマーをかすり、わずかにバランスが乱れたセシリアをラウラが横目で捉えつつ抜かす。  

 鈴は双天牙月を両手に持ち、真後ろにくっついている箒と二刀流の戦いを演じ、壁際すれすれまで追い込まれるも衝撃砲を相手に撃ち込み無理矢理距離をとった。

 その間に三位まで浮上したシャルロットは背面に展開したシールドで鈴と箒の流れ弾や牽制攻撃を防いだ上で、セシリアに迫っていく。

 

 

 

 しかし。

 選手はもう一人いるということを、五人は一瞬忘れてしまっていた。

 

 

 

 まばゆいほど真っ白な光が直線コースの中央を矢のように飛んでいく。

 あまりに強力なエネルギーだったので、その危険はかなり前から察知され、箒たちには十分に回避行動をとれる余裕があった。

 そして、ついさっきまで失念していたもう一人のライバルを思い出す。

 左右に分担された選手が後方を確認するよりも速く、ちょうど数秒前に雪羅から放たれた荷電粒子ビームの道筋をなぞるように、一夏が全員を置き去りにして飛び去っていった。

 

「よっしゃあ! いただきだぜ!」

 

 まさかあれだけエネルギー問題で悩みに悩み、最終的に全武装を封印する道を選んだ男が最後の場面まで荷電粒子を撃つためのエネルギーを残していて、かつそれを撃ってくるなんて夢にも思うまい。一夏は得意気に笑った。

 白式・雪羅のエネルギー燃費は超がつくほど悪いため、キャノンボール・ファストにおいて雪片弐型と雪羅を使用するとなると、レースに勝つどころか完走できるかどうかということになってしまうのだ。

 そのため最初は確かに武装を使わず、敵が近づいてきたらタックルをかますつもりだった。

 しかしそれで勝てるとは思えないし、体当たりをするということはそれだけ相手に近付かなければいけないということ。近付くということは敵の攻撃範囲に突っ込むも同義である。

 近接武器しかもたない白式で戦ってきた一夏には、それがよくわかっていた。

 加えて、近接武器すら使わないとなればもはや絶望的なまでに勝つことが難しいことも。

 したがって、一夏はレースに勝つために珍しく作戦というものを考えた。

 

 

 名付けて『最後の最後で大逆転試合』。

 作戦はいたって簡単。

 まずレース前半と中盤はなるべくエネルギー消費を押さつつ先頭グループを見失わないように、けれどもあまり脅威に感じさせないような位置取りでついていく。

 そして終盤、勝負は最後の直線コース。

 雪羅の牽制射撃により自らが通過する道を開けさせる。

 そこを加速力にはとことん自信のある白式で急激にスピードを上げて一気にゴール。

 

「作戦大成功だぜ! どうだ!」

 

 一夏がガッツポーズをしながらスタートラインだったところを通過する。

 それからスピードを落とし始め、停止の準備を整えていくが、かなりのスピードを出していた白式にとっては加速前の速さに戻ることさえ数分かかりそうだった。

 すると、サポート役として控えている簪から驚いたような、呆れたような声で通信が入る。

 

『織斑くん、まだ終わってないよ……』

 

「え?」

 

『まだこれ……一周目だから』

 

「え!? 一周で終わりじゃないの!?」

 

 もはや聞き違いであることを天に祈る一夏であったが、願い虚しくその横を素早く呆れ顔の五人が代わる代わるに通りすぎていった。

 

「今度からはルールブックに目を通しておけ」

 

「一夏さん、本当に……いえ、もうなにも言いませんわ」

 

「あ、あはは……頑張って、一夏」

 

「バカとかアホとかそういう時限にいないのね、あんたって」

 

「……お前の幼馴染みだということが恥ずかしくなってきた」

 

 全員が通りすぎていくと、ぽつんと一夏が取り残された。

 

『……織斑くん……』

 

「ま、まだまだ! 俺たちの戦いはこれからだ!!」

 

 ガッツポーズとかしてしまった恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、一夏は再びブースターで加速した。

 幸い直線はまだ続いていたので、白式にかかればすぐに追い付けるだろう。

 問題は雪羅をもう一発撃つためのエネルギーをいかに残しておくか。

 解決策を考えてるうちに、前を走る五機が左側の壁に吸い込まれるようにして見えなくなった。

 慌てて左カーブを曲がり、一団をもう一度目視で捉える。 

 しかし、その後もじわじわと距離が開いていく。

 

 

 二周目の中盤にさしかかるころには、ひとつのカーブを曲がるごとに前にいる機体がどんどん小さく見えるようになっていた。

 じわじわと焦りが出始め、直線に出る前の連続カーブでは大きく曲がりすぎてあわや激突するかというひやりとする場面まであった。

 

「くっそ……! 頑張れ、白式! 俺たちならやれる! やれるぞぉー!」

 

 相棒を鼓舞していると、落ち着いた声が一夏の耳に響いた。

 

『まもなく二周目終了……織斑くん、コース三周目がゴールだからね。忘れないで』

 

「そうだったのか……サンキュー、簪!」

 

『……』

 

「……更識さん」

 

『うん。次がファイナルラップだから。頑張って』

 

 相変わらずいまいち心を開いてくれない簪にちょっと心が折れそうになりながらも、一夏は三周目に入る。

 泣いても笑っても、これが最後。

 誕生日に開かれた大会でビリとはさすがに悲しい。

 現在の自分の位置を確認すべく、コアネットワークを通して六機の正確な位置情報をつかむ。

 かなり厳しいが、勝てない距離ほど離されてはいない。

 

「絶対抜かし――ん?」

 

 もう一度、位置情報を確かめる。 

 六機。確かに六機だ。レースに参加しているのは。

 だがおかしなことに、ISの反応が七機分(・・・)ある。

 

 

 一夏ははっとして顔を上に向ける。

 直後にアリーナの上空から三発、青白い閃光が降ってきた。

 一秒もたたずに、前方でなにかに閃光が着弾した爆音とコースに機体が激突する音が連続で鳴り響いた。爆発の衝撃で大気が叩かれ、びりびりと肌を伝って嫌な感覚を受ける。

 もうもうとした黒煙が上がっているのを見ると、一夏はすぐさま煙の出所をハイパーセンサーで確認、急加速してそこに向かった。

 オープンチャネルから、簪の焦ったような声が何度も繰り返し同じ台詞を発していた。

 

『未確認機による狙撃! 全員離脱してください!』

 

「くそっ! またかよ……!」

 

 ひとり悪態をつきながら、一夏は五人のもとへ到着した。

 

「みんな! 大丈夫か!?」

 

「な、なんとか……」

 

「ったぁ……! やば……くらくらする……」

 

「私としたことが……! くっ、ブースターをやられたか……!」

 

 シャルロットがひしゃげたブースターを切り離し、機体を引きずるようにしてラウラと鈴に近付いていく。

 謎の狙撃により衝撃砲の片方を失い、鈴は頭に手を当ててぎゅっと目を閉じている。どうやら頭を打ったようだ。

 ラウラは肩のレールガンこそ傷が少ないが背中の装甲が大きく傷つけられており、地に足をつけている所を見ると、もはや浮き上がることすらできないようだ。

 

「いったいなんなんですの!? 明らかにコース外からの攻撃でしたわ!」

 

「とにかく安全な所まで連れていくぞ! 一夏! 手伝ってくれ!」

 

「言われなくても!」

 

 すぐさまレースを中止して駆けつけたセシリアと箒も、辺りに警戒を払いつつ三人の肩に手を回す。

 観客席が狂ったように波打ち始め、耳を貫くようなかん高い悲鳴やコンクリートを踏みつける鈍い足音が聞こえ、一斉に出口に押し寄せた人が隣の人を押したり押されたりして、怒号と泣き声が飛び交う。

 何が起こっているのかはわからないが、状況がよくないことだけはみなが感覚的にわかっていた。

 

「――っ! 一夏、退いて!」

 

 シャルロットが右手で絡めとるように一夏を掴んで投げ捨てると、逆手に物理シールドを呼び出して構えた。

 その動作がもしも一秒遅れていたら、白式の片側のウイングスラスターは完全に使い物にならなくなっていただろう。

 一夏が振り返ると、シャルロットが展開していた盾にはえぐりとられたような弾痕が深く刻まれていた。

 全員が上空に目を凝らす。

 そこには空の青よりもなお深い、蒼い機体が浮かんでいた。

 

「サイレント……ゼフィルス……!」

 

 セシリアが苦々しく呟く。

 見下したようにこちらに目を向けながら、操縦者が不適に笑って銃口を向けた。 

 

「くそっ! やる気まんまんかよ!」

 

「一夏と私で注意をそらす! 相手は一機だ! 逃げ切れる!」

 

「悔しいけど、機体状況から考えて私は援護射撃が精一杯よ……!」

 

「私もだ! だが逃げるだけならば十分なはず! シャルロット、守りを固めてくれ!」

 

「わかった! みんな、気を付けて!」

 

 一夏と箒が急上昇し、鈴の衝撃砲とラウラのレールガンから威嚇射撃が行われる。

 サイレント・ゼフィルスは優雅にそれを避けながら、三つのビットを自らの周りに展開。射撃を開始した。

 シャルロットは防御用パッケージである『ガーデン・カーテン』を広く展開し、そのすべてを防いだ。

 そんな中、セシリアは独り言い聞かせるように口を開いた。

 

「……ダメですわ。逃げては……わたくしは、逃げてはいけない!」 

 

 全ブースターを点火、視界に映る引き伸ばされた景色が次々と消し飛んでいく。 

 地上に残っていた三人の制止の言葉から逃げていくように上空へ飛翔したセシリアは、あっという間に一夏と箒を追い抜かした。

 

「セシリア!?」

 

「待て! 考えなしに飛び込んでは――」

 

「お二人はわたくしの援護を! わたくしが決着をつけますわ!」

 

 箒の言葉を遮り、手に近接ブレードを呼び出す。

 遠距離狙撃型のブルー・ティアーズにとっては非常に扱う機会が少ない武装だが、もしものときに備えて近接戦闘の基礎訓練は一通り行ってある。

 加えて何度も一夏や箒と戦ったことがあるため、相手が嫌がる位置取りもある程度は体で覚えているつもりだ。

 セシリアは狙いをつけさせる暇を与えないよう、さらに加速して相手の懐に飛び込もうと試みた。

 敵は携えていたスナイパーライフルを量子変換して収納し、代わりに受けて立つとでも言うかのごとくブレードを展開した。

 勢いを腕に乗せ、セシリアは剣を両手で握って横に振り抜く。

 サイレント・ゼフィルスの操縦者は顔色一つ変えず、軽々と片手で握ったブレードでそれを受けた。

 刃が交錯し、どちらのものかわからないが、細かい破片が飛び散った。

 

「あなたっ……一体その機体をどこで!?」

 

「お前が知る必要があるか? セシリア・オルコット」

 

「サイレント・ゼフィルスはイギリスの……わたくしの国の機体ですわ!」

 

「ふっ……だからどうした?」

 

「どうした……? 卑しい盗人でもそれくらいわかるはずではありませんか!?」

 

 セシリアは両腕に一層力を込めてブレードを押し込もうとする。

 しかし相手は涼しい顔のまま、ぴくりとも剣を動かさない。

 

「返せと? ふん。返したところで使いこなせる者がいなければ宝の持ち腐れだろう?」

 

「なにをっ……!」

 

「私とお前たちとでは実力が違う……天と地ほどな!」

 

 語調を強め吐き捨てるように言うと、敵はセシリアをはね退け、展開したビットから青い閃光を放った。

 三本すべてをかわしきるには距離が近過ぎた。二本がブルー・ティアーズ手足の装甲を削り、残りの一本は左肩の辺りをかすめてシールドエネルギーを奪っていった。

 殺しきれなかった痛みがセシリアを襲い、呻き声が漏れる。

 だが急所は反らした。機動力もまだ奪われてはいない。

 

「バカ! 前に出すぎよ!」

 

「セシリア! 後退しろ!」

 

 鈴とラウラが地上から砲撃を開始する。

 サイレント・ゼフィルスはビットをさらに三つ展開、合計六つの移動砲台を従えてそれを迎え撃った。

 シャルロットが広域展開したシールドで迎撃を防ぐが、長くはもちそうになかった。

 

「くっ……! 二人とも!」

 

「うおおおお!!」

 

「たああああ!!」

 

 シャルロットの叫びと同時に、一夏と箒が左右から攻め込む。

 しかし相手は全く動揺せず、数的不利をものともしないというよりも、ようやく対等の勝負ができると言いたげに二つのビットをさらに展開した。

 八つにまで増殖した砲台は高速で動いている操縦者の背部から散らすように離れ、主に牙を向く五つの機体へそれぞれ個別に攻撃を始めた。

 まるで一つ一つが意思をもっているかのごとく素早く、正確に移動と狙撃を繰り返す。

 一夏たちはなんとか撃ち落とそうとするが、なにしろ的が小さい。その上小回りも効くとなると厄介きわまりなかった。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 安全な距離まで下がっていたセシリアはそれを見て、ブレードを一旦収納し、『スターライトmk-2』を構える。

 一夏と戦った際に見破られた、ブルー・ティアーズの弱点。『ビットとライフルの同時使用はできない』。

 ビットを命令通りに動かすのがどれだけ集中力のいることか、セシリアにはよくわかっていた。

 あれだけ細やかな動きを同時に複数のビットでやってのけるのは敵ながら天晴れとしか言いようがない。

 しかしそちらの制御に集中する分、本体には隙ができる。

 事実、サイレント・ゼフィルスの動きは多少鈍くなっている。

 この機会を逃してはならない。

 緊張で手が震えるが、唇を強く噛んで必死に押さえる。

 

「負けられません……絶対に……!」

 

 敵がスコープの中心に入った。

 

 

 今だ。

 

 

 セシリアは引き金を――。

 

「ヤみうちか? オチたもノだナ、セシリア・オルコット」

 

「っ!?」

 

 ――引ききった直後だった。

 砲頭が破裂し、視界が真っ白になる。

 爆発によって生じた熱風で斜め後ろに回転しながら吹き飛ばされ、上下の感覚がなくなった。

 数十メートル、いや、もっと吹き飛ばされたかもしれない。

 ブースターとPICの微調整を行い体勢を立て直し、何が起こったか確認しようとする。

 まず目に飛び込んできたのは、変わり果てたスターライトmk-2の姿だった。

 銃身が破裂して根こそぎ飛び散ってしまったため、もうこの戦闘で狙撃銃として機能を果たすことはないだろう。

 そして、次に確認したのは突如目の前に現れた見慣れぬ機体だった。

 

「はや――!?」

 

「すコしハんせイしろ」

 

 セシリアの頭に、固く握られた両手が振り下ろされる。

 絶対防御が発動しても、脳が叩きつけられるような強い衝撃で目が眩む。

 あっという間に顔から地面に激突し、全身が悲鳴を上げて助けを求めた。

 

「セシリア!」

 

 一夏をはじめ、みながセシリアのもとへ駆け寄り、上空と地上にいる敵に切っ先と銃口を向ける。

 セシリアは震える腕をなんとか地につけ、焦点の合わない目を上げた。

 赤一色の機体は燃えるように、けれども冷たくセシリアに対面していた。

 

 

 全身を見るからに堅牢そうな装甲で包み、腕や足からはまるで無理矢理飛び出てきたかのような捻れた突起が出ていた。まるで触るなと言うようにきらりと尖端が嫌な光沢を示している。

 感触を確かめているのか、相手の手が握ったり閉じたりされる度、鋭い爪がガチガチと嫌な音を立てた。

 肩や肘、膝についているプロテクトアーマーはどれもどこか刺々しい。

 頭部には前から後ろに向けて二本、角のようなものが延びていた。

 目はギラギラと血走ったような赤い光が覗くが、その視線は冷静に物事を観察しているようで、逆に気味が悪かった。

 しかし、一番目を奪われたのは背部の装備であった。

 相手の背中には大きな円盤状の何らかの武装がアンロックユニットとして搭載されていた。

 円盤からは長さの違う細い棒のようなものがほぼ等間隔で飛び出ており、ゆっくりと回転しながら本体の後光のように存在していた。

 ブースターにしては形が特異すぎる。

 

「そ、その……その機体、はっ……?」

 

 思わずセシリアの口から出たのは、純粋に疑問の言葉だった。

 

「『インフェルノ・オウガ』……ふン、なマエなどイミはなイがな」

 

 鬼のような顔をちらりと向けた後、今度は視線を一夏に投げた。

 一夏はじりじりと出方を伺うように前に出ると、雪片弐型を構えて赤い目を見つめ返した。

 

「……お前、何者だ」

 

「ナにもノ……おマエたちのテキであり、ミかたデもあルもノ……ダろうナ」

 

「なにそれ? 謎めいてる方が格好いい、みたいなバカな考え?」

 

 鈴が噛みつくように話に入ってくる。

 それに加勢するように、残りの三人も口を開いた。

 

「よくも私の友人に手を上げたな……泣いても許さん……!」

 

「何が目的かわからないけど……敵意を持ってるのは確かみたいだね」

 

「一夏、こんなやつの話に構うな……私が、斬る……!」

 

 それを聞いて、血に染まったように赤い機体の首があきれたように横に動いた。

 

「うルさイやつラだ……オレはオリむラいチかとハなシていルんダ」

 

 言い終えた瞬間、背部の円盤が急速に回転数を上げた。

 すると、空中に控えるように浮かんでいたサイレント・ゼフィルスが急降下し、少し遠くの方に着地。武装を収納すると片膝をついて休むようにうなだれた。

 その間もキリキリと錆びたねじが回されているような嫌な高周波で耳を塞ぎたくなるような衝動を押さえ、騒音に顔をしかめながら全員が武装を構える。

 しかしセシリアだけは未だ立ち上がれず、目を固く閉じて拳を作っていた。

 

「……トまれ」

 

 呟くように発せられた言葉の通り、円盤がピタリと静止した。

 次の瞬間、赤い光の輪が敵を中心として発生した。

 輪は数秒で競技場をなめるように広がり、そして消えた。

 びりびりとした感覚が一夏の皮膚を伝うが、別にダメージはない。

 一夏は何をしたのだろうかと、眉をひそめる。

 

「えっ……!?」

 

「なに……!?」

 

「うそっ……!?」

 

「こ、れは……!?」

 

「貴様……!?」

 

 後ろから驚きと戸惑いの声が上がる。

 武器を構えたまま、嫌な予感がした一夏は振り返った。

 そこには、片膝や両腕をついている仲間の姿があった。

 

「みん、な……? おい! どうしたんだよ!?」

 

「ヤはリおマエにはキカないカ……」

 

「てめぇ……! みんなに何をした!」

 

 一夏は斬りかかりながら叫ぶ。

 しかし相手はそれを軽々とした身のこなしで避け、一夏の腹に回し蹴りを叩き込んだ。

 

「かっ……!」

 

 思わず両手を剣から離し、両手を地につけてしまった。 

 

『織斑一夏、やはりお前は特別な存在らしい。特別にオレが直接話してやろう』

 

「お、まえ……誰だ……!」

 

『誰だ? 笑わせるな。わかっているだろう』

 

 一夏が顔を上げると、そこには赤い光を放つセンサーアイがあった。

 

「はっ……ははっ……意外と普通に話せるんだな。くそっ……! 最初からそういう風に話せよ」

 

『……ふん。なかなか肝も座っているらしいな』

 

「もう一度聞くぜ……みんなに何をした」

 

 プライベートチャネルから静かに告げられた事実は、あまりに突拍子もないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ISの制御を奪った。今ここで動けるのは、オレとお前だけだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きでも書きましたが、本当お待たせしてすいませんでしたm(__)m
夏休みでも結構忙しく生活してたもので……(- -;)

龍使いさん、コラボの話出来上がるのまだ先になりそうです。
ごめんなさい(T-T)

さて、次回がいつになるかわかりませんが、なるべく早く更新しますのでよろしくお願いします!


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