遅くなってすいませんでしたぁぁぁぁ!!m(__)m
そして今回も展開が無理矢理だぁぁぁぁ!!^^;
「あれは……!」
「な、なに!? 演出!?」
突如降り注いだ三本の閃光と、それがなにかに着弾したことを告げる爆発音と黒煙、足元がぐらつくような振動に観客がどよめく。
隣で身を乗り出すように試合に見入っていた蘭が困惑気味に辺りを見渡し、ちらちらと俺の様子をうかがっている。
しかし、俺は上空に待機している蒼い機体を見上げることしかできなかった。
『緊急事態発生! みなさん、速やかに待避してください! 繰り返します、緊急事態――』
すぐに山田先生だとわかった。
上ずりはしていないが、緊張と焦りで多少早口になっている。
ざわざわとどよめいていた観客がひとり、またひとりと席を立っていく。
まだ何が起こっているかわかっていない人が大勢いる。
実際、事態を軽く考えているのか何人かははにかみながら早歩き程度の速度で出口に向かい、扉を開こうとしていた。
「な、なんだっ!?」
「きゃあ!」
近くで叫び声が聞こえた。
首だけそちらに向けると、なにやら白い煙が塞き止めていた栓をぬかれたように座席の下から吹き出していた。
周りの人間が悲鳴を上げて飛び退き、転がるように出口に向かって走り出す。
謎の煙にみなが不安になり始めて数秒後、耳が痛くなるような爆発音が立て続けに聞こえてきた。
まずい、と思ったときには手遅れだった。
「ばっ、爆弾だ!」
誰が叫んだかはわからない。
けれども、観客の冷静さを失わせるには十分すぎた。
一斉に四方八方、ありとあらゆる方向から混乱した大声が飛び出し、あっという間に観客席は我先にと出口に走る人々で埋め尽くされた。その様子はのたうつ蛇のように見えただろう。
当然、俺たちの周りも例外ではない。
「お、お兄ちゃん……!」
狂ったように押し退けあう人々の中で、蘭はぴったりと体を預けてきた。
俺は震える小さな体をしっかり抱き寄せた。
「離れるなよ、蘭!」
俺たちは異常なほど人の波に揉まれながら、この混乱から脱出しようと出口を目指した。
◇
キャノンボール・ファストは単なる市民への感謝のために行われるわけではない。
学園で行事として行われる試合は確実に成績に反映される。
無論勝ち負けでいえば勝った方が良いが、たとえ負けたとしても技術や精神力など、その他の点で見所がある選手もいる。
そうした生徒にあらかじめチェックを入れておき、卒業後に企業が獲得するという展開も十分にありうるのだ。
このため試合には必ず品定めをする、いわゆるお偉いさんの座る来賓席が通常の観客席とは別に作られている。
「ふふ……あの子、相当エムの機体が気になるのね」
「黙りなさい、亡国企業」
来賓席、しかし来賓が全員避難し終えた寂しい部屋で、楯無は女性に剣を向けていた。
女性は美しい金色の髪を見せつけるように楯無に背を向け、胸元の大きく開いた真っ赤な艶のあるドレスに身を包んでいた。
一面ガラス張りの来賓席の部屋から、戦闘を開始した専用機持ちたちをうっすら笑顔を浮かべながら眺めている。
『後ろを取られてなにもできないわよ』と手を上げながら、ガラスに映った険しい表情の楯無にため息をついた。
「まったく……もう全体展開を済ませちゃうなんて、いくらなんでも気が早いんじゃない?」
「おあいにくさま、私は用心深いの」
「心配しなくても今日は戦うことが目的じゃないわ……少なくとも私はね」
ミステリアス・レイディのアクアナノマシンを含んだ水で女性の足を絡めとりながら、楯無はその手に握った『ラスティーネイル』の切っ先を首筋に近づけた。
「さぁ……これであなたは逃げられない……そっちに戦う気がないなら、こっちは好都合ってことね」
「随分と好戦的ね、更識楯無」
「相手があなたとなれば気を抜けないのよ、スコール・ミューゼル」
重苦しい沈黙が空間を支配し、二人を飲み込む。
聞こえるのは、アリーナに響く避難を促す放送と、専用機持ちたちがサイレント・ゼフィルスと戦闘するガラス越しでくぐもった音だけである。
水がスコールの足をゆらゆらと登りながら、彼女の動きを制限していく。
「んっ……! くすぐったいわ……冷たいし」
「亡国企業、今回の目的はなに? 織斑一夏?」
クスクスとスコールは無邪気に笑った。
「そうね……それもある。けど、もうひとつ――」
「真宮信を追う理由はもうないはずよ。彼は、もう……」
楯無は言いよどんだ。
ここで自分がそれを口にしてしまえば、もう本当に戻らない気がしたのだ。
ぎりっと歯を噛み締め、ナノマシンの制御に意識を集中させる。
「……私たちが『彼に再び力を与えるために行動した』って言ったら……あなた、どうする?」
「……!」
ばしゃばしゃと暴れるように水が何滴かこぼれ落ち、高そうな絨毯にしみを作った。
「それは……どういうこと? どうしてそんなことをする必要があるの?」
楯無は腰の辺りまで水に覆われたスコールに厳しい視線を投げた。
「もし彼が……戻ってきたとして、何の利益になるのかしら? あなた方に対しては厄介事しか増えないでしょう?」
「ふふ……確かに厄介。でも、男なんて思い通りにならないくらいがちょうどいいの」
スズン、と足元から衝撃が伝わってくる。
楯無がアリーナの方を見ると、血に染まったように赤い機体が静かに降下し、地上に降り立つのが見えた。
その姿はまるで鬼のようで、楯無は言い知れぬ不安が心に湧くのを感じた。
「あなたも聞いたことがあるでしょう……『インフェルノ・テンペスタ』」
「……ええ。欧州で開発が進められていたISの試作機……アメリカの軍事基地で黒騎士に破れた機体ね?」
「その機体を完全に仕上げたのがあれよ。『インフェルノ・オウガ』」
楯無は耳を疑った。
完全に仕上げた? あり得ない。
反論が口をついて出ていた。
「ありえない! あんな――」
「ええ、その通りよ。でもね、更識楯無……彼の常識は私たちとは違うの」
スコールの口が水に包まれるというその瞬間、楯無の体が急激に重くなった。
重力が楯無を床に叩きつけようと襲いかかり、がちゃりという金属同士がぶつかり合う音を立て、ミステリアス・レイディが地に膝をついた。
何が起こったかわからぬまま、楯無は身動きが取れなくなった。
スコールを包み込もうとしていた水の膜と、機体に付随していた水の装甲が跡形もなく流れ落ち、床に当たって跳ねる。
「装甲が少な目とはいえ、やはりISね。動かせなければ、ただの重り」
「システムダウン……!? どうして!?」
必死に回復の手がかりを探すが、エラーメッセージばかりが表示されるだけだった。
はっとして顔を上げると、長い髪の毛の先から水を滴らせたスコールがにこやかに立っていた。
「ね? 気が早いんじゃないって言ったでしょ?」
「あなた……! こうなることを知ってて……!」
スコールは今にも噛みついてきそうな楯無の横を優雅に通り過ぎ、どこへともなく消えていった。
◇
「はぁ、はぁ……や、やっと出られた……」
「……大丈夫?」
「ああ。蘭は?」
「へっ、平気だよ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく人々から少し離れ、ようやく落ち着いて会話ができそうなスペースを発見した。アリーナ外部の露店の影だ。
ISの試合というのには母に連れられた小さい女の子や小中学校の女子が多くやって来る。
もちろん、両親の期待とか制服がかわいいとか理由は色々あるだろうが、全員がIS学園に入学を希望し、入学したらどんなことをやるのか、どの程度までできるようになるのかということをこぞって見に来るのだ。
だからなのか、出店許可を取っているのかはわからないが、大体の露店は甘いものを売っている。
チョコレートの甘い匂いが俺の鼻をくすぐるが、露店商の姿がないところを見ると、大方この騒ぎに慌てて逃げてしまったんだろう。
「よし……もう少しだけ休んだら、もっと遠くに行こう」
「う、うん……」
蘭が繋いだ手をぎゅっと握り返してくる。
「どうした?」
「……これ、イベント……じゃないんだよね? いったい何が起こってるの?」
「……ごめん、説明できない」
不安そうな目をした蘭を直視できず、顔を背けて視線を足元に落とした。
一夏を狙って悪いやつらが襲ってきてるって説明、信じるはずないし、信じたくもないはずだ。
ただでさえ訳がわからない状況なのに、これ以上混乱させるわけにはいかない。
その時、アリーナの内部からなにかが地面にぶつかったような鈍い音が聞こえた。
足元がぐらぐらと揺れ、すぐ側にあった柱の上から細かな埃や灰色のコンクリートの欠片が降ってきた。
今しがた会場から出てきた人たちは悲鳴を上げ、頭を抱えてしゃがんだり、足をもつれさせて転んだりと完全にパニックになっていた。
そのとき、慌てて逃げていく足と足の間から、地面に倒れ込んでいる子供の姿を見つけた。
俺は川の濁流のようにあらゆるものを押し流していきそうな人々を掻き分け、小さくうずくまっている子供の隣にしゃがみこんだ。
肩を掴んで起こしてみると、少しだけ涙目になった目が俺を見つめていた。
「大丈夫? 怪我は?」
「う、うん……すりむいただけ」
「歩けるか? ここは危ないから離れたほうがいい」
すると、子供が突然目を輝かせて笑った。
「だいじょうぶだよ! だって黒騎士がたすけにきてくれるもん!」
「……え?」
「あのへんなIS、わるいやつなんでしょ? わるものは黒騎士がたおしてくれるよ!」
言葉が出なかった。
ここまで黒騎士という存在が英雄視されているとは思わず、なんだか不思議な気分だった。
小学3、4年生ぐらいだろうか、男の子は真っ直ぐに俺の方を見つめ、にっこり笑っていた。
俺はどのように言葉を返すべきか迷い、やっとのことで答えを見つけ出すと、男の子と目の高さを合わせて小さく諭すように口を開いた。
「……黒騎士は来ないよ」
「えっ!? ど、どうして?」
「黒騎士はな、自分の他に誰も戦えない時に、戦うんだ。独りで」
「……? 今日はそうじゃないの?」
自分が抱いていた安心感が揺らぎだしたのか、男の子は不安そうな声で聞いた。
俺はもう一度男の子をしっかりと見つめ、やさしく手を握った。
「ああ……今日は違う。今日は俺の仲間が戦ってるんだ。何人も。あんなやつ、黒騎士が来なくてもすぐ倒しちゃうぐらい強いんだ」
「ほんと?」
「おう。だから大丈夫」
「でも、お友達がたたかってるのにお兄ちゃんはたたかわないの?」
きょとんとした表情に思わずたじろいでしまった。たとえ純粋な疑問であったとしても、なんて鋭い感性を持った子供なんだろうか。
その曇りのない目を直視しないように目線を下に落とした。
「……俺は――」
「――戦うよ!」
突然の大声に、男の子と俺の目がそちらに引き付けられる。
蘭がやっとのことで人の波を抜け出し、隣に駆け寄ってきていたのだ。
肩で息をしている蘭は、俺と同じように男の子の前にしゃがみこんだ。
俺に握られているのと逆の手を、突然現れた蘭が両手でがっしりと握る。
男の子はびっくりして大きく目を見開くと、ほんのり赤くなっている顔を唖然として見つめた。
「このお兄ちゃんはね、実はとーってもすごい人なの! 黒騎士と同じくらい強いんだよ~!」
その言葉を聞いた瞬間、男の子は目を輝かせて俺と蘭を交互に見つめ返した。
「えぇ!? ちょーつよいじゃん!?」
「もう、ちょーちょーちょー! 強いの! だからもう平気だよ? ね?」
「そうなんだ……! すごいね!」
蘭はにっこりと笑い、男の子の頭を撫でた。
「今日は誰と来たの? お母さん?」
「うん……でもはぐれちゃった」
「そうなの? よーし、じゃあお姉ちゃんが探して上げる!」
「ほんと!?」
こくりと頷き、蘭は男の子の手を握ったまま立ち上がった。
一緒に行こうとすると、蘭がびしっと手のひらを俺の顔の前に突きつけた。
「私は大丈夫です」
「……? だからって、女子供を二人で行かせるわけにはいかないだろ」
「信さん……自分に正直になってください」
「な、なんだよ」
「本当は嫌なんでしょ!? 自分だけ遠くから見てるのは!」
あまりの勢いに後ずさりしてしまった。
蘭は険しい表情でなおも俺に詰め寄る。
「まだ……まだ信さんには! できることがあるんじゃないですか!?」
「……蘭」
「私は……信さんに逃げ出して欲しくないです……!」
二人が踵を返して人の波の向こうへ消えていくとき、俺はそれについていくことができなかった。
最後にちらりと振り返った男の子の不思議そうな目は、数多の人たちに隠れてすぐ見えなくなった。
取り残された俺は、ぎゅっと拳を握る。
「……俺は、みんなが」
いざ言葉にしようと思うと、なんと言っていいのかわからなかった。
開きかけた口を一度閉じ、数秒考えてから再び開いた。
誰も聞いてくれる人などいなかった。
けれども、それが今はありがたかった。
「みんなが、誰かに守られなきゃいけないほど弱くないことを知った……俺はみんなを守れるほど強くないことも……」
俺の足は自然とアリーナの方に向いていた。
ほんの一瞬、胸がざわつき、肌がぴりぴりと痺れたが、そんなものを気にはならなかった。
「だから、俺は……!」
◇
一夏はすっと体の前で雪片弐型を構え、膝を付いている箒たちを背にして謎の声と向き合っていた。
今の今まで変声機を通していたのだろうか、赤いISの操縦者の言葉は非常にはっきりと聞き取れた。
しかしその分、操縦者の冷徹さが身に染み渡っていくのを感じていた。
『始めてこれを使ったが……仕上がりは上々だな』
「……」
『……一つ質問をしたい、織斑一夏。お前は今まで、そしてこれから、何のために戦う?』
一夏の眉がぴくりと動く。
目の前のIS、『インフェルノ・オウガ』はあざ笑うかのように肩を揺らした。
背中の円盤はなおもゆっくりと回転し続け、本体の雰囲気と相まって獲物を狙う猛禽類が飛びかかる準備をしているように見えた。
後ろからガチャガチャと体を苦しそうに動かす音が聞こえるのは、鈴やラウラ、シャルロット、そして箒がこの状況をなんとか打壊しようとしているからだろう。
しかし、セシリアは頭部に強力な打撃を受けたため、動くことも辛いようで物音ひとつ立てずじっとしている。
「何のため……?」
『考えたこともないだろう?』
バカにしてような言い方が気に入らず、一夏はすぐに反論した。
「俺は……誰かを守るために戦ってる」
『へぇ……? じゃあこのシチュエーションは願ったり叶ったりってわけだな?』
短く小さな笑い声が漏れ出る。
「俺たちをからかいにでも来たのかよ!」
怒りにまかせて飛びかかってしまうのを堪えつつ、一夏はぎりぎりと剣を握りしめて敵を睨みつけた。
だが敵は全く怯む様子を見せず、そればかりか何の武装も展開する素振りすら見せない。
『おいおい、怒るなよ。オレの目的の達成はお前たちの利益にもなる』
「なに……?」
相手がゆらりと脱力した右腕を方の高さまで上げ、尖った人差し指の先を5人に向けてから静かに話を始めた。
『真宮信がもう一度……ISを動かせるようにできると言ったら、お前らはオレに協力するか?』
「何だと……!」
ギラリ、と赤い目が奥から更に強い光を発したように見えた。
嫌な緊張感に包まれているからだろうか、体を動かしていないにもかかわらず一夏の首筋を一筋の汗が流れ落ちていく。
果たして自分に全員を守り切ることができるだろうか。応援が来ないのは先ほどの妙な波動のせいなのだろうか。
必死で頭を回転させるが、全くわからない。
しかし、1つだけ肌で感じることがあった。
こいつからは逃げられない。
『お前たちはあいつを目標にし、強くなった。そしてあいつはそれを感じ、一人で戦うのをやめた。だがそれだけじゃない』
後ろの円盤が急に速度を上げ、敵がミシミシと音が聞こえるぐらいに拳を強く握った。その様子はまるで怒っているかのようだった。
同時に、何かを哀れむかのような感じが言葉の節々に現れた。
『あいつはお前たちが強くなっていくのを見て、安心してしまった。守るべきものがいなくなり、自分がすべきことを失った。戦う理由を失ったんだ』
「そんなこと――」
『あるのさ。あいつは通常より深く密接にISと繋がっている……理由の説明は、今さら必要ないだろう?』
そこで言葉を切り、赤いISは大きく息を吸って吐くように肩をゆっくりと上下させた。
自分を落ち着かせると、相手は奥のほうで静かに膝を付いているサイレント・ゼフィルスをちらりと見たあと、一夏たちにゆらりと視線を向けた。
「……! 何をする気だ!」
『戦う理由がないのなら、その理由を今作る』
まっすぐ伸ばした右腕を地面に平行になるようにして上げ、手のひらを広げると、三角形状に空いた3つの穴が見えた。
ゆらゆらと陽焔が舌をちらつかせ、敵の姿がぼやけて歪み始めた。
とたん、白式が敵内部の急激な熱量上昇に警告のアラートを鳴らした。
だがその警告は、自分たちの危険を知らせるものではなかった。
あまりに強大すぎるエネルギーを蓄えたため、相手のISの操縦者の生命が危険であると、そういう警告だったのだ。
「ダメだ! このままじゃお前が死んじまう!」
『敵を心配する余裕があるのか? やはりお前はおもしろいな』
「うるせぇ! とにかく今すぐやめるんだ!」
たまらず一夏が斬りかかった。
敵は腕を上げたまま全く動かず、その様子を赤いセンサーアイからじっと見つめていた。
雪片弐型が、兜のように強固な頭を叩き割ろうと振り下ろされる。
取った。
一夏は確信したが、次の瞬間にはコンクリート製の壁に背中をぶつけ、大小様々に崩れた灰色の破片が自分の横から飛び散っていくのを見ながら、遅れてやってきた衝撃に咳き込んでいた。
涙目になりつつもすぐに機体状況の確認をする。シールドエネルギーこそ削られたものの、スラスターやその他の装甲に目立った外傷はない。
まだ戦える、そう思って顔を上げる。
ちょうどその時、敵が激しく燃え広がっていた炎の壁を抜け出てきた。
地面から生えてきたようなあの炎の壁が、一夏を吹き飛ばしたのだ。
敵の両手からは静かに細い火が伸び、両腕が燃え盛る炎の剣に変化した。
「炎を操る機体……! そうか! その機体、テンペスタシリーズの失敗作だな!?」
ラウラが眉間にしわを寄せて、真っ赤な機体を睨みつけた。
「失敗作って……どういうこと?」
「欧州で開発されていたテンペスタ系列のISのうち、その危険性から実用化を断念された機体のことだよ……」
鈴が出した疑問にシャルロットが素早く返答を返す。
その間に、敵からは装甲の隙間から白い煙が立ち上り始めた。
さらに機体の内部で増大していくエネルギーをものともせず、両腕に備えた炎剣を前に突き出し、交差させて膝を深く曲げた。
「あまり聞きたくないのだが……危険性とはなんだ?」
箒がじりじりと襲い来る熱に顔をしかめながら、誰にともなく質問を述べた。
「み、身にまとう熱量が大きすぎるのですわ……装甲が外部からの衝撃を守っても、操縦者自身は内部に蓄えられるエネルギーと熱によってーー」
『死ぬ。その通りだ』
もう何度も言ったとたげに、うんざりした調子で相手が答えた。
「なら……! そうまでして何のためにお前は戦うんだ!?」
背にした炎がさらに凶暴に敵を照らしだし、各部の突起が地面におどろおどろしいシルエットを映し出す。
『言っただろう? 真宮信に戦う理由を与える』
確かにその時、一夏には人をバカにしたような短い笑い声が聞こえた。
『死んだ親友の敵討ち……いい理由だろ?』
交差した剣で一夏の首に真っ直ぐに狙いを定め、鬼が飛び上がった。
◇
警告灯の赤い光に照らされた司令室内部では、うるさいほどのサイレンでうめつくされながらも、千冬ができうる限りの最善の手を尽くそうとしていた。
「観客の避難が最優先! 手の空いているものは誘導に当たれ! 真耶! まだ遮断シールドは開かないのか!」
「ダメです! 入力自体が拒否されてシステムに入れません!」
「このままでは応援が来たとしても内部に侵入するのに時間がかかりすぎる! 更識! 外部からの連絡は!」
「は、はい……! 突入部隊のISなんですが、謎のシステムダウンをーー」
千冬が机に思い切り拳を叩きつけると、数センチ鉄の板が沈み込んだ。
びくっと体をこわばらせた簪であったが、すぐにエラーメッセージでうめつくされているディスプレイに目を向けた。
アリーナ内部の映像を伝えるはずのカメラは完全に破壊され、中で何が起こっているか全くわからない。
見たことのない青と赤のISが現れ、みんなに攻撃を加えて降り立ったかと思えば、会場のコンピューターが突然機能を停止した。
現在はなんとかサブシステムに切り替えてしのいでいるが、一部の機能はダウンしていたり、誤作動を起こしていたりと状態は悪いままだ。
「防壁解除コード……なんとか一ヶ所でも……!」
簪の目に次々と表示されるウィンドウが飛び込み、エラーメッセージがつらつらと並べ立てられる。
さすがIS専用と言うべきか、このアリーナには有事の際に外部からの侵入を防ぐ砦として、様々な防御措置が取られている。
その一つとして観客席入り口の非常用シャッターや、アリーナの外郭に使用されている防御壁『イージス』は斬りつけても殴りかかっても、はたまた爆破してもびくともしないという代物だ。
『イージス』は超硬度の合成金属の表面と内部に高純度のエネルギーを巡らせることで、どんな攻撃にも耐えうるようにしているんだとか。
だが、『有事の際』が最強の盾の内側で起きてしまった以上、そのハイスペックさはさながら簪や一夏たちを捕らえて離さない強靭な檻でしかなかった。
ズズン、という大きな鈍い衝撃で体が揺すられる。
頭の上からはミシミシという嫌な音が聞こえ、細かな埃が落ちてきた。
アリーナの中では何が起こっているのか。
「今の……! まさか、戦ってるの……!?」
「ああ、だろうな。少なくとも、話し合いで退いてくれるような雰囲気ではなかった」
真耶が冷静に述べる千冬の横顔をきっと睨むと、再び画面に目を戻して作業を再開した。
ちょうど真横に座っていた簪は、強く噛んだ唇を震わせるようにして呟いた。
「みんな戦ってるのに……! 私……!」
諦めない。
簪はまばたきすら忘れていた。
先程の揺れから始まり、なにやら甲高い衝突音や鈍い激突音、それにともなう衝撃が立て続けに聞こえ、伝わってきた。
内部の状況がわからない分、想像に大部分を委ねるほかなかったが、もはや戦闘が開始されているのは明らかだった。
◇
『まだやるか?』
むせると、口が乾いた。
耳の手前で足止めをくらっていたかのように、けたたましい警告音が一斉になだれこんで来る。
強烈な痛みをこらえるために閉じていた目を開けると、敵の足元に転がっている雪片弐型が見えた。
反射的に手をかけた左肩から、おそるおそる手をどかす。
白い装甲が融解し、醜く変型していた。
「くそっ……!」
がらがらと崩れる壁から離れ、雪片弐型を取り替えそうと必死で頭を回転させる。
が、急に燃える弾丸が顔に向かって飛んできた。
鼻に強烈な一撃をくらい、のけぞるようにして吹っ飛ばされた一夏は、壁に激突した。
涙を浮かべながらずきずきと痛む鼻を押さえ、再びコンクリートを崩しながら壁から抜け出す。
『……諦めが悪いな』
目の前にいる『インフェルノ・オウガ』は冷たく光る赤目をこちらに向けていた。
戦闘が始まってから三十分も立たずに、一夏は完全に攻め手を失っていた。
どれだけ敵の隙を突こうとも、反撃のきっかけを掴もうとも、手痛いしっぺ返しをくらうばかりで装甲はぼろぼろ。
零落白夜を発動しようにもシールドエネルギーの残量に余裕はない。
しかし、雪羅の銃撃だけではあまりにも心もとない。どうにかして雪片弐型を手にしなければ。
赤い機体の後ろに、必死で俺の名前を呼ぶ箒たちの姿が見えた。
『さて……そろそろ終わりにするか』
「それは無理だぜ……俺は諦めが悪いんだ」
強がる顔に熱風がかかる。
敵の右手を炎が滑るように流れ、鋭く伸びていく。
現れた剣は腕と融合したものではなく、日本刀のようにちゃんとした柄も存在する剣だった。
燃え盛る火の舌がちろちろと大気をなめ回し、焦がしている。
頭の上にゆっくりと剣を持っていき、両手でしっかりと柄が握られた。
白式が膨大なエネルギーの収束を感知、通告してくる。
赤色を通り越し、目が眩むほどの光を発している柄を握る手が耐熱の限界を越え、どろどろと溶け始めていた。
「っくそ……なんだよ、これ……!」
感覚的にわかった。
避けられない。
太刀本体は避けられるかもしれない。だが、その周りに纏っているエネルギーと熱は無理だ。
直前に瞬時加速で距離をあけたとしても、たかが数メートル。それでは余波をさけることは不可能だろう。
「考えろ……! 考えろ……!」
どうしたらいい。
独りじゃこいつに勝てない。
もう手は尽くした。
このままだと……死ぬ。
恐怖で、自分の情けなさで、足が震える。崩れ落ち、悔しいと泣きたくなる。
一夏にはこの感覚は覚えがあった。
白式を奪いさられたときと同じだ。
でも、もう嫌だ。
独りで諦めて泣くのは、もう嫌だった。
あのとき、白式は自分の思いに応えてくれた。
まっすぐに敵を見つめ、集中する。
仲間の叫び声も、暑さも、何もかも忘れろ。
今、何を一番望んでいるか。
一瞬が、何時間もの長い間に思える。
じっくり探す、などしなくても自ずと望みは出ていた。
俺が望むのは――
「頼む、白式……もう一度、応えてくれ!」
強烈な熱波が顔を叩き、装甲を焦がす。
敵の剣はすでに、目前に迫っていた。
そして、目の前が真っ白になり――
「――悪い、遅れた」
敵に向かって飛んだ鋭い閃光は、その仮面の半面を剥ぎ取り、役目を果たしたと言わんばかりに本体へと戻っていった。
突然の反撃に回避が間に合わず、『インフェルノ・オウガ』は一拍遅れて後退し、痛々しく割られたマスクを左手で隠して顔を上げた。
一夏を除いた全員が唖然とするなか、光の粒子が収束していく。
「……本当に出て来たのかよ」
「なんだよ。人を化け物みたいに言うなっての」
「っていうか、俺は白式になんつー無茶な願い事……いや、細かいことはいいか」
「そうそう。細かいこと気にしたら負けだ。よく言うだろ?」
初めは、もやもやとした霞のような光の柱だった。
だがその場にいた全員が見守るなか、それは徐々に本来の姿を表していく。
明るさが、落ち着きのある暗さへ変わる。
木の枝のように柱から突き出ていた光が、まっすぐ伸ばした腕に変わる。
ヘッドギアのような頭部の装甲、センサーバイザーのような器具もついていない。
腕部と脚部はほとんど飾りのない、ISのものにしては珍しいほどにシンプルだ。
極限まで動きやすさを追求して、かつ存在感を失わない。
いつか見た漆黒の鎧。
だが見慣れないところも多々ある。
深く深く黒い装甲には、淡く輝いているラインが各部を接続して回っているのかのごとく巡っている。操縦者のエネルギーを受けて喜んでいるのか、脈動しているようにも感じる。
さらには右肩と左腕、左腰に付いている鋭い剣のような装備。中心付近に透き通った三角形の宝石にも見える部分は、このユニットの核なのだろうか。すべて雪片弐型と長さは同じかわずかに短いくらいで、ダイヤのマークを縦に引き伸ばしたような形だ。
だが、剣にあるはずの持ち手がない。まるで剣の身の部分だけが三本、取り残されたようだ。
そして後ろにはハの字に取り付けられた、折り畳まれた翼を思わせるコンパクトな二基のスラスター。
変わっているところはあるが、間違いなく憧れていた背中。
でもそれはもう終わりだと決めた。
一夏は白式の精一杯の力を振り絞り、隣に立った。
『……また自分の優越さを自慢したがって、なにかを助けに現れたな。お前はまったく成長していない』
「……いや、そうでもないさ」
深紅の鬼はゆらりと立ち上がりながら、片目でぎらりと睨みつけた瞬間、思わず後ずさりしそうなほど強烈な怒気と、プレッシャーが全員を襲った。
だがそれを真正面から受けて立った本人は微動だにせず、静かに言葉を繋いだ。
「確かに、俺は心のどこかでみんなよりも優秀だって思ってたんだ。だから、いつも先頭でみんなを引っ張っていかなきゃいけないって一人で勝手に思い込んでた」
長く息を吐いたあと、感覚を取り戻そうとしているかのごとくゆっくりと自分の手を握ったり開いたりしてそれを見つめていた。
「でももう後ろには誰もいない……いや、最初からいなかったんだよな……全部、俺が無駄に思い込んでたんだ」
燃えるようなセンサーアイを、真っ黒な瞳がにらみ返す。
「それに気付いたから、俺は戻ってきた。勝手に思い込んで、一人で戦うのは……もうやめる」
ガチャガチャと金属が触れ合うような音や、すっと風を切るような音が聞こえた。
なんの音かは感覚的に分かっていた。いつものように聞いてる音だったからだ。
向こう側の隣に素早く『サイレント・ゼフィルス』が着地したのが見えたが、同時に一夏たちの横に見知った顔たちが揃っていた。
「ったく……ほんと、あんたってデタラメ」
「待ちくたびれたぞ。今度こんなことがあったら許さんからな」
鈴とラウラが楽しそうに笑みを浮かべながら、衝撃砲とレールガンのエネルギーを限界まで引き上げる。
「はぁ……まったくですわ。もう二度と心配させないでくださいね……?」
「でも……戻ってきてくれてよかった」
セシリアとシャルロットはほっとしたのが半分、嬉しいのが半分といった柔らかい表情をしていた。
「一夏、待たせてすまなかった……」
優しく手を握られた瞬間、黄金の光が一夏と箒を包みこみ、エネルギーの残量が回復した。
ふとその顔を見ると、少し目が赤くなっているような気がした。
心配して泣いてくれたのだろうか。
「おう。待ってたぞ、箒……ま、一番待ってたのはこっちだけどさ」
箒とは逆の側に目を少し動かしてはにかんだ。
「……ふふっ! そうだな。私もだ」
満面の笑みを返すと、箒は一夏の手を握ったまま、敵の方へと向き直った。
横一列に並び、睨み合う両陣営。
数では優位に立っているが、相手の力はまだ未知数だ。
じりじりと嫌な沈黙が流れたが、向こうのほうがそれを破った。
『後ろを守る必要がなくなったお前が、一人で戦うのをやめたお前が、今度は何のために戻ってきた?』
全員がその顔を見た。
気のせいだったかもしれないが、横顔が少し笑っているようだった。
まるで自分の居場所を確かめているかのように大きく息を吸ったあと、長く息を吐きながら拳を作った両手を体の前に構える。
「……隣で、一緒に戦うため」
静かに、しかし力強く言い放ち、真宮信は新たな力と決意を得て、仲間と共に堂々と立っていた。
呼ばれて飛び出て的な展開になっちゃったぜ!^^;
もちろん、なぜ信がISを携えてここに現れることができたのかっていう理由は考えてあります。
もしかしたら、気付く人もいるかな?
まぁ結局、その理由も無理矢理なんだけどね!(笑)
でも明らかになるのはいつになることやらわからん次話以降ですので、それまでいろいろ想像しててください。
……でも気付いても感想とかでは書かないでね(泣)