IS〜world breaker〜   作:山嵐

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55:新しいものには誰でも心踊るもの

 耳元で風が唸る。

 決して強くはないが、髪の毛はその流れに乗って頭を叩いた。

 大きく息を吸い、静かに吐く。

 ゆっくりと目を開くと、まばゆい光で視界が覆われ、そして俺の上下に見える青が静かに現れる。

 握った拳を解き脱力すると、機械を通した少しざわざわとした声がかえって耳に優しく響いた。

 

『準備はいいか?』

 

「感度良好、いつでもいけます」

 

 さらさらと静かに、けれども力強く。

 俺の出した言葉はまるで青々とした空と海に吸い込まれていったようだった。

 

 ここはIS学園の端に位置する特別アリーナ。

 何が特別かと言うと、まず客席がない。そして、広い。

 それはなぜか。

 答えは、海の上だから。

 臨海に位置する学園だからこそ実現でき、かつ普段は使われることはない。まさに特別。

 もちろん、安全対策はばっちり。通常と同じようにシールドエネルギーがドーム状に戦場を覆っているから、外に被害が及ぶことはない。

 なんでも海上に設置したエネルギー発生装置が大きなシールドを……ということらしいが、詳しいことは長くなるので、と山田先生が微笑んで説明は終わってしまった。

 その代わりに教えてもらったのが、これまた海に設置してあるカメラのことだ。

 なんでも観客が入れない分、そのカメラがリアルタイムで各アリーナに映像を流すとのこと。

 それをIS学園の生徒は、いつもの観客席のあるアリーナで見ることができるという代物らしい。

 なんとも至れり尽くせり。

 

『さて、真宮。いくら不利とはいえ、数秒で負けてもらっては困るぞ?』

 

「了解。死ぬ気で逃げ切りますよ」

 

 ぷつり、と通信が切れると、離れたところに見えるIS学園からサイレンの音と、そして拡大された織斑先生の声が辺りに響いた。

 

『これより特別戦闘訓練を開始する! 時間無制限! どちらかのエネルギーが尽きるまで戦闘続行すること!』

 

 上空に高々と待機している俺は、にやりと笑みを浮かべる。

 

「さぁ……初陣だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練開始だ! セシリア!」

 

「了解ですわ!」

 

 ラウラの声に応えて、『スターライトmk2』を呼び出すと、すぐさまハイパーセンサーで目標を捉える。

 拡大された視界には、先日二次移項をし、さらに進化したであろう『瞬光・迅焔』が映し出された。そしてその操縦者、真宮信の横顔も。

 願わくばこのままずっと見ていたいという気持ちがなかったと言えば嘘になるが、セシリアはその思いを振りきり、引き金を引いた。

 一筋の青い光が空気を切り裂き、肉眼では青空に黒点があるようにしか見えないほどの距離にいる機体に飛んでいく。

 そして、一秒もかからず着弾。

 が、その瞬間に狙撃弾のエネルギーが四散し、消えてしまった。

 着弾地点にはエネルギーの粒子を纏ったアンロックユニットが、所有者を守るために堂々と立ちはだかっていた。

 この距離からの狙撃に反応するとは。

 相変わらず恐ろしい。

 

「着弾確認! ダメージなしですわ!」

 

 大剣の刀身のような武装が役目を終えたかのように中心にある核の輝きを納めると、信がまっすぐにこちらを見据え、ハイパーセンサーの視界から消えた。

 同時に、敵機接近を知らせる警告が表示された。

 

「バトンタッチだね、セシリア!」

 

「ええ! シャルロットさん、ラウラさん、お願いします!」

 

「任せておけ! 予定通り次の狙撃点で待機だ!」

 

 ブースターに火を入れ、今しがた上空から駆けつけたシャルロットと入れ替わるようにしてセシリアが空へ上っていく。

 その動作が始まるかどうかのタイミングで、残された二人は急接近してくる黒い機体に向かって加速し、一気に近接戦闘用のブレードを展開してぶつかっていった。

 風が頬を切り、ただでさえ速い瞬光の速さをより感じ、激突の瞬間は予想よりも遥かに早くやって来た。

 金属がぶつかり合う音が鼓膜を震わし、腕が衝撃で痺れ、体が揺れてバランスが崩れそうになる。

 先程の狙撃を防いだ盾が、今度は剣としてシャルロットとラウラのブレードと交差していた。

 現在二つのブレードを相手にしているものと、それから肩と腰についている武装の計三つ装備されている『夜烏』が『瞬光・迅焔』の主力の武装とであるのは明らかだった。

 

「なるほど、その武装は攻守両方に使えるというわけか!」

 

「まぁな! ……この使い方は想定内だろ?」

 

「もちろん! でもそれだけじゃないんでしょ?」

 

 シャルロットの問いかけに、信は不適な笑みを返す。

 それに呼応するかのごとく、残り二つの武装が鋭い切っ先を二人に向けた。

 ラウラがすぐさま距離をとるために離脱したが、それを上回るスピードで片方の夜烏が突撃、シュヴァルツェアレーゲンの機体に傷をつけた。

 残り一方は反射的にシャルロットが展開した実体盾に阻まれ、ダメージを与えることは叶わなかったが、それでも所有者が直接攻撃を加えるための布石には十分な役割を果たした。

 上にはねのけるように夜烏の付いた腕を動かすと、空いている右手の拳を構えられた盾に素早く打ち込み、オレンジ色の機体を数メートル後退させた。

 これ以上追撃を受けぬよう、盾の横から覗かせたマシンガンの銃口から牽制弾を間にばらまくが、身を守るように構えた腕の夜烏が発生させた朧火のエネルギーにそのすべてが防がれてしまう。

 

「くっ……鈴! お願い!」

 

「まっかせなさい!」

 

 上空から重力プラス瞬時加速の力をつけた甲龍が急降下、得たエネルギーすべてを手に持った双天牙月にのせ、素早く接近を察知していた信に降り下ろす。

 すでにシャルロットとラウラを退けた夜烏は瞬光のもとに戻っており、左腕には右腕と同じくブレードとして手の甲の辺りにしっかりと装備されていた。

 縦に降り下ろされる一閃を、剣を交差してできた谷で受け止めると、信は頭ひとつ上にいる鈴に向かって空いている夜烏を飛ばす。

 瞬間、二刀の繋ぎを解き、両手で握っていた持ち手を左右一刀ずつに配分すると、鈴は右手の牙月でアンロックソードユニットを後方へ弾いてみせた。

 

「今よ、箒! 一夏!」

 

 両脇から急接近してくる赤と白の機体の反応に信はその時気付いたが、もはや離脱する時間は残されていなかった。

 交差していた剣を思いきり横に開き、牙月を真上に弾き上げると、体を素早く回転させて回し蹴りを繰り出す。

 それと同時に両の夜烏を白式と紅椿へと投げつけ、二機のコースをそらした。

 

「うわっ! あぶねぇ!」

 

「ちぃっ! 飛び道具など!」

 

 不満を言いながら先に切り込んできた箒の刀を横目で捉えつつ半身を反らして回避すると、続けざまに突きを繰り出してきた一夏に注意を向ける。

 左手に呼び出した朧火はまっすぐに伸びると、瞬時に日本刀のような剣に変化し、雪片弐型の一撃をエネルギー片を飛ばしながら受け流した。

 そのまま一周体を回してもう一度箒に目標をあわせると、斜め下からなぎ払うように斬りつけ、二撃目を放ってきた一夏にも、今度は右手に展開したエネルギーソードで大きく空いた銅に力強い一発を叩き込んだ。

 

「どうだ!」

 

「まだまだ!」

 

 痛そうに顔を歪めた二人ではあったが、箒は後退の際に斬撃を飛ばし、反対側からは一夏の荷電粒子砲が信に向かって放たれた。

 急上昇してそれを避けると、瞬光がいた場所で二つのエネルギーがぶつかり合い、激しく爆発を起こす。

 爆風に身をさらすことほんの数秒、真下からの攻撃に瞬光が警鐘を鳴らす。

 全三つの夜烏を手元に戻しながら、発生した爆煙の切れ間から突き上がってきた水柱を後ろへの加速で避け、発生源である海上にハイパーセンサーのズームを適用してみる。

 そこには学園最強の肩書きを持つ生徒会長の楯無と、つい先日専用機である『打鉄弐式』を完成させた簪の更識姉妹が揃って上空の信を見上げていた。

 姉の助けもあってか、簪の専用機は他の誰にもひけをとらない素晴らしい仕上がりとなっていた。

 

「もう! はずれかぁ……!」

 

「柱の初期加速時の角度は二度くらい修正が必要かも……今度は私が!」

 

 背部に展開したミサイルポッドから一斉に高性能弾薬を積んだ弾が打ち上げ花火のように飛び上がり、上空の信をめがけて軌跡を描く。

 縦の移動ではかわしきれないため、横への大きな移動を試みるも、簪が放った48ものミサイルはまるで母鳥について歩く雛鳥のように黒い機体にぴったりとくっついて離れない。

 スピードをそのままに振り返った信は両腕を体の前に出し、左右の刀を形そのままにミサイルへと放つ。

 しかし爆弾の軍勢は、驚くべきことに、まるで魚群が天敵を避けるように、朧火のエネルギーをかわしてしまった。

 まさか、と思った信が高速度の視界でちらりと捉えた簪は、機体の周りに投影されたディスプレイでなにやら調整を行っていた。

 

「マニュアルでホーミングかよ……! なら!」

 

 伸ばした指先に沿わせ、銃が形作られる。

 精度を重視した長い銃身で海上の司令塔に照準を合わせ、威力ではなくスピードを追求したエネルギー弾を放つ。

 あれだけの数を一糸乱れぬ動きに制御するにはかなりの集中力が必要であるはずだと踏んだ信は、まずその集中を欠かせることに意識を向けた。

 もちろん放った弾は隣にいるミステリアスレイディが防いでしまうだろうが、牽制程度でも十分集中を削げると考えたのだ。

 案の定、アクアナノマシンで操る海水の盾に阻まれ、ダメージは通らなかったのだが、予想外なことにミサイルの勢いも軌道も、全く衰えることをしなかった。

 

「簪ちゃん、気にしちゃダメよ! 私が全部止めるから!」

 

「うん……! お願い、お姉ちゃん!」

 

 力の無い自分を抜け出すために、ありったけの勇気を振り絞って取り戻した自信と絆は、簪を非常に強くしたようだ。

 この距離からでは楯無の防壁を崩せないのは明白だったため、信は作戦を変更して全弾を撃ち落とすことにした。

 瞬時加速で一気に距離を開けて反転し、急ブレーキ。左手を支えとし突き出した右手の前の空間に、朧火のエネルギーが集中する。

 明るい円盤のような形がくっきりと空に浮かび上がる。

 

「行け」

 

 微かに発した言葉とは逆に、強力な量子光線が発射される。

 雪羅による荷電粒子砲にも匹敵する大きさで、ミサイルの大群を飲み込み、蹴散らす。

 その瞬間、太陽が目の前に現れたかのような強い光が視界を埋め尽くした。

 しまった、と思ったときには遅かった。

 まず衝撃が走ったのは同時に両肩から。続いて左足。

 シールドエネルギーが大幅に削られ、瞬光が黄色信号を灯す。

 減り具合からいって、紅椿の二刀が刹那に降り下ろされ、できた隙をブルーティアーズの狙撃で逃さず狙ったことは明確だった。

 

「っく……! やば――」

 

「させん!」

 

 すぐさま離脱を試みるが、突然体が金縛りにあったように動かなくなった。

 今度はラウラのAICで、先程の閃光弾で視界を奪われたまま、見えない糸で縫い付けられた。

 朧火を機体の周り全体に剣山のごとく展開しようと意識を集中させたが、成し遂げる前に腹部に強烈な一撃をもらい、空中に吹き飛ばはれた。

 絶対防御が発動し、残りのエネルギーが一気に半分以下になってしまった。

 

「さっきのお返しだ!」

 

 一夏の声がどこかから響く。

 零落白夜でAICのエネルギー場ごど叩き切るとは。

 動けないところに必殺技を叩き込んでくるとは反則的だと少し不満に思いつつ、視界を回復させる時間を作らねばと、信は朧火を球体型に展開して防御形態をとった。

 

「かかったわね!」

 

「みんな! 行くよ!」

 

 鈴とシャルロットの声が聞こえるとほぼ同時に、シールドが激しい銃撃の嵐に巻き込まれた。

 衝撃砲、スナイパーライフルによる狙撃、マシンガンが降らせる銃弾の雨、レールガンの一撃、さらに荷電粒子砲などの強力なエネルギー兵器。

 ありとあらゆる遠距離武器が外側から叩きつけられ、今まで温存しておいた朧火の力をみるみる奪い去っていく。

 球体に包まれながら弾丸の暴風域を抜け出そうと激しく動き回るが、なにせ数が多すぎてすべてを避けきれない。

 しかし、なんとか視界が回復するまでには撃墜されずにいることができた。

 すぐさま敵の位置を把握すると、おかしなことに気付いた。

 一機足りない。

 

「上か!」

 

 反射的に宙を見上げると、白い雲に混じって急行下してくる白式が見えた。

 操縦者は『これで決めるんだ!』と言わんばかりにぎゅっと唇を結び、決意に満ちた表情をしている。

 最後はやっぱりお前か、と思わず笑ってしまう。

 右腕に再び展開した剣で迎え撃つべく、瞬時加速で一気に上昇する。

 黒と白の機体が互いに斬り抜けようとした、そのとき。

 

 白式の形が崩れ、透き通る水に変わった。

 

 驚く暇もなく、蛇のように形を変えたそれは瞬光の四肢と夜烏にがっちりと巻き付き、自由を奪った。

 エネルギーの減り早さに焦り、一夏の正確な位置をしっかりと確かめなかったことに、信は後悔した。

 

『あは。 分身の術でしたー♪』

 

 楯無の声が回線を通して聞こえた。

 しかし、思ったほど束縛が強くない。これなら数秒で抜け出せる。

 そう考えを巡らせた時間で勝敗が決まってしまった。

 太陽から一直線に降下してくる機体は鋭い切っ先を下に突き立て、一本の流星のように落ちてくる。

 先程とは違い、本物は笑顔であった。

 

「ったく……今日の勝ちは譲ってやるよ」

 

 流星に貫かれ、けれども満足そうに信は敗北したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上のように機体情報がわからぬ場合、基本は安全圏からの攻撃が望ましい。が、数でこちらが勝る場合は常に数的有利に持ち込むことで、敵機の性能を引き出しその場で解析を行うという手もある」

 

 午後の授業一発目。

 昼飯を食べてから自分の負け試合を見るのもなかなか趣があって……なんてことはない。

 だって負けてるんだもの。

 しかも教室には先の戦いにいた面々と織斑先生しかいない。

 なぜなら今日は土曜、一般の生徒はお休みなのだ。

 それを返上して授業を受けなければならないんだから、専用機を持っているっていうのもいいことだけじゃない。

 そんなことを楯無さんに話したら、それ相応の責任があるのは自覚しなきゃね、と諭された。

 

「今回は都合よく機体性能がわからないものがいて助かった。おかげでいい例が見られる」

 

 織斑先生が俺の方をちらと見てくすくすと笑った。

 まさか初陣が授業の教材用映像として使われるなんて。しかも負け試合。

 午前中に行われた『信vsその他の一年専用機持ち』の試合はそりゃあもう無茶な試合だった。

 だってもう数的有利も含め相手が悪すぎる。代表候補と第四世代の専用機がそろって俺を狙ってくるんだから、やってられないとはこのこと。

 しかもなぜか知らないが、楯無さんも混ざってたし。あの人学園最強だから。

 理由を聞いたらはぐらかされたが、ほぼ間違いなく妹が心配だったからなのだろう。

 詳しくは聞いてないが、なんだか二人の間の隔たりは見事に解消されたようだ。よかったよかった。

 とにかく……まぁ、これだけの相手に10分弱持ちこたえられたら結構頑張った方だ。

 手首に付けたブレスレットは、黒地に金の細い紋様が施されている。労いの意味も込め、親指で撫でてやった。

 

 ところで、なぜこんな無茶な試合をやったのかというと、ちゃんと訳がある。

 まず大きな目的は、ISの機動データを取るため。もちろんこれだけでは終わりではないが、偉い人に対して『ほら、ちゃんと動かせますよ』という証明を早いとこ提示しておくべきだからだ。

 

 そしてもうひとつは、この授業のため。具体的に言うと『性能不明機接触時における対処方法』の授業。

 IS学園に戻ってきてから日が浅いうえ、俺がいなかったおよそ一ヶ月分の座学を取り戻すために実践訓練をしていなかったので、例の事件で二次移行を果たした『瞬光・迅焔』のデータがまったくと言っていいほど開示されていなかった。

 そのため、訓練における性能不明機にめでたく抜擢されたのだ。

 本来のカリキュラムには載ってない授業だが、福音事件も含め、立て続けに色々なことが起こったから、学園側も生徒へ注意を呼び掛ける目的でもあるんだろう。

 

「では、戦闘をもとに立てた性能の仮説を述べてみろ……まずは簪」

 

「は、はい!」

 

 緊張してるのか、簪はいつもより声が大きく出てしまい、恥ずかしそうに目線を下に落とした。

 

「え、えと……機体の特徴として、その……機動力重視のエネルギー采配が行われているのではないかと、思います……」

 

「それは僕……えー、私も同意見です。初撃命中からの接近や移動速度、回避行動を見るに、ほぼ間違いないかと」

 

 シャルロットがすかさず理由の補足を加え、意見を支えた。

 というか、先生と話すときは私って言ってるんだな。気づかなかった。

 

「なるほど。他は?」

 

「はい! 遠距離からの攻撃は単発では意味をなしませんでしたので、エネルギー装備による防御が堅固であり、驚異であると思います!」

 

「打開策としては、今回のように全体に防御用のエネルギーを展開を誘発し、中・遠距離からの一斉射撃により一気に削るのがいいのではないかと」

 

 天井につくんじゃないかと思うくらいに高々と上げられた手はセシリアのもの。相変わらずやる気満々である。

 ラウラはそれとは正反対に落ち着いているが、決してやる気がないわけではなく、むしろ鋭い集中力によるものだ。

 軍でもこんな感じに会議してたのだろうか。

 

「それと、攻守両方に使えるユニットが厄介ね。一応操作範囲はあまり広くないみたいだけど……です」

 

「それでも脅威には変わりません。特にエネルギーを付随させた場合、強度、威力の上昇が顕著に見られます。戦闘の際はまずこのユニットから攻略すべきでしょう」

 

 楯無さんが自分のディスプレイ上の映像を動かしながら、何枚かキャプチャした画像をみなのデバイスに送りつつ、意見を展開する。

 先に発言した鈴も同意見のようで、画像を食い入るように見いっている。なんだか獲物を見つけた猫みたいだ。

 

「これだけの装備と機動力ならば、エネルギー消費も相当多いと考えられます。包囲網を作り、持久戦に持ち込むというのも選択肢に入れてもよいのでは」

 

 織斑先生と目があってしまった箒は、少し緊張していたようだが、それでも自分なりの考えを述べることができていた。

 いくら姉が開発者だからといっても、しっかり勉強していなければこの場で発言などできないだろう。

 なんだか自信が持ててきたようだ。

 

「……織斑、お前はどう思う」

 

「え? あ、えーと……」

 

 目を右往左往させながら、頭を押さえる一夏。

 なんで俺を見るんだ。助けてやれないぞ。

 相変わらずどこか抜けているが、なんとなくこいつも自信が出てきた気がする。

 俺のいない間になにかあったのだろうか。

 

「そのー……あー……なんていうかー、あれ、かなーと……」

 

 ……自信が出てきた、気が、する。

 気が。

 ようやく考えがまとまったようで、短く咳払いをして間を整える。

 

「みんな難しく考え過ぎじゃないか?」

 

「……何?」

 

「えーと、だから……速いからって追い付く必要はないじゃないか。その分行動範囲を限定してそこを叩けばいいし、仮に飛び道具で攻撃してきたとしても相手側の防御の手段が一つ無くなったって考えればいい。ごちゃごちゃ考えて様子見てても勝てない。だろ?」

 

「……だそうだが、どうだ?」

 

 みんな『それはそうだけど……』というように黙ってしまって、部屋が静かになった。

 仕方ない。そろそろ俺の出番だろう。

 

「できないことはできないと割りきって、別の手段を考えるという点では悪くないと思います。選択肢は多いぐらいがちょうどいいのかもしれません」

 

「ふむ……確かに手は多いことに越したことはないだろう。だが、このような場合は手段の大半をその場の状況を鑑みて瞬時に選択せねばならないことは心に止めておけ。そして、より良い手を選択するには豊富な経験と知識が必要だということもな」

 

 専用機持ち全員が短くうなずくと、満足したのか織斑先生は部屋の電気をつけ、各自に今回の課題を転送した。

 みんな表情には出さないが、絶対内心で『うえぇ……』とか思ってるだろうな。

 一夏にいたっては隠しきれてない。完全に顔がひきつってるし。

 

「今回の資料は後日各クラスでも公開し、同様の授業を行う。諸君らに課したレポートも追加資料として配布するので、意義あるものにまとめるように」

 

 それでは、と言って織斑先生は長い髪を優雅になびかせながら教室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんとにあれだけ?」

 

「うん?」

 

「だーかーらー。他に何か隠してんじゃないのって言ってんの」

 

 シャルロットからの疑いの視線と、鈴からの探るような質問に、困ったように手を頭の後ろに持っていく。

 

「あー……隠してる訳じゃないけど、まだ見せてないものはある」

 

「やっぱり……」

 

 打鉄弐式を展開している簪は、あきれたように信に目を向けた。

 授業を受け終えた9人はそのまま第三アリーナに移動、午前中の訓練を踏まえて自主練習をしにきていた。

 第三アリーナはこの休日、特別に専用機持ちのみに開放されているので、他に生徒はいない。

 

「ていっても、セシリアはもう見てるぞ」

 

「わ、わたくしですか? 記憶にないのですが……」

 

「あー……まぁあのときは相当混乱してたし、覚えてないのも無理ないか」

 

「とにかくだ。しっかりと性能を見せてもらいたい」

 

「わかってるさ。じゃあ、ちょっと来てくれ」

 

 箒の言葉に頷くと、信がちょいちょいと手招きをした。

 一瞬驚いて肩をびくっとさせた箒だったが、周りの『どうかしたのか』という雰囲気を払拭するため、ゆっくりと一歩進み出た。

 例の学園祭での出来事以降、ちゃんと話をしないまま信がいなくなってしまったので、今だ心に重いものがあるのだ。

 しかも戻ってきたら戻ってきたで当の本人は至るところに引っ張りだこだし、二人で話ができる機会に恵まれず。

 かといって自分からそれを切り出すのもはばかられたので、結局なにも行動は起こしていなかったのだった。

 

「念のため少し離れるか……みんな下がってくれ」

 

「ひ、必要ないんじゃないか?」

 

「だから念のためだって。じゃあ上に行くぞ」

 

 ゆっくりと上昇を始める瞬光の少し下に付いていきながら、ふと不安になった。

 今までなら気にも止めなかったが、周りの視線がとても気になる。

 特に一夏の視線が。

 いったいどんな目で見ているんだろうか。信と二人でいるところを。

 

 アリーナのほぼ登頂部まで上昇すると、箒はやっと口を開いた。

 それと同時に、信が箒の方に向き直った。

 

「その……あ、あのことだが……」

 

「うん。そのことで、俺も言わなくちゃと思ってた」

 

「な、なんだ?」

 

「あー……なんていうか――」

 

『おーい、二人とも! 始めてくれよー!』

 

 つくづくタイミングが悪い。

 地上で待っている一夏をきっと睨み付けると、はぁとため息をついて信にむすっとした顔を向けた。

 話の腰を折られてしまい、また機会を逃してしまった。

 

「俺をそんな顔で見てどうするんだ……」

 

「気にするな。生まれつきだ」

 

「ああそうですか……っと、じゃあ始めるか。まず手を出してくれ」

 

「……ん」

 

 特に考えることもなく、両手を信に差し出す。

 その手を瞬光の手の装甲が包むと、金属同士のかちゃかちゃという短い高音が何回か響いた。

 信が大きく息を吸って、長く吐き出す。

 瞬光・迅焔の全身に走ったエネルギーバイパスの溝が黄色く光出す。

 光に照らされつつ、箒は目を細めて自分の手を見る。

 朧火の光が腕を伝い、さらに全身に回ってきていた。

 それを確認すると、手を離して信がゆっくりと後退して、二人の間にスペースを作った。

 ほぼ同じタイミングで、光が紅椿の装甲に吸い込まれるようにして消えた。

 

「今のは……?」

 

「俺の力……朧火のエネルギーを箒に渡した。試しに武器を展開してみてくれ」

 

 言われた通り二刀を展開すると、刃に朧火の粒子が付随していたのに加え、さらにエネルギーでできた新たな刃が本体の切っ先から延びており、リーチが長くなっていた。およそ1.5倍といったところか。

 手にした刀を試しに軽く振ってみると、光の軌跡がうっすらと浮かび上がり、空気を切っているだけなのにとてつもなく斬れる気がした。

 不思議そうに手にした武器を眺める箒を見て、満足そうに信が笑った。

 

「どうだ?」

 

「なんというか……どうなっているんだ?」

 

「これがなかなか面白いんだ。簪に解析してもらってわかったんだけど、朧火は周りのエネルギーを朧火自身に変換することができる……」

 

「す、すまん……どういうことだ?」

 

「つまりだ。今渡した朧火のエネルギーは、紅椿のエネルギーを別の新しい朧火に作り替えて、そいつが武装性能の底上げをしてるんだ。わかったか?」

 

「なんとなく……」

 

 じゃあ大丈夫だ、と笑っている顔はとても輝いていた。

 思わず目をそらしてしまうが、まだ不思議そうに武器を見つめているふりをしてごまかす。

 下で見ていたメンバーに何をしていたか、通信で報告している後ろ姿を横目で見つつ、箒は複雑な気分でいた。

 妙に意識してしまう。

 明確にわからない気持ちが、心で渦を巻く。

 

『箒! どんなかんじなんだ、それ?』

 

「うわっ!? お、大声を出すな一夏! びっくりするだろう!」

 

『わ、わるい。つい……』

 

「あ、いや……その、どう、と言われてもな……特に感じることは……」

 

 一夏も箒の様子がおかしいのはなんとなくわかっているらしく、激しい口調を返されると、一歩後ろに下がったような返事をすることが多くなった。

 それに、お互いほんのわずかだが距離を空けているような、そんな空気が漂うようになってしまった。

 

「……はぁ。さて、そんな感じで今日のところは終わりだ。みんな、満足したか?」

 

 箒の相変わらずの不器用さにため息をつくと、信が地上のみんなを含め、全員に向かって問いかける。

 

『ふーむ、なかなか面白いな。仲間に自らの力を与えるとは……よし、次のタッグマッチは私と組むぞ』

 

『ら、ラウラ! 抜け駆けはダメってあれほど……ぼ、僕も興味あるから!』

 

『要するに、あんたと組めばあたしももっと強くなれるって訳でしょ? 元々強いあたしたちが組めば最強ね! 信、あたしと組むわよ! わかってんでしょうね!』

 

『あら? 鈴ちゃんたら、その理論だったら生徒会長である私が信くんと組むべきじゃない? ねー、補佐官?』

 

『いえ! ここは一番最初にその力を使いこなしたわたくしと組むべきではないでしょうか!? そうですわよね!』

 

『あ、えっと……お、朧火の能力、解析してあげたし……私、もっと近くで見てみたい……かな』

 

「はいはい。わかった、わかりました。タッグマッチ開催が決まってから考えるから、そういうことは」

 

 下でぎゃーぎゃーと騒ぎ出したのをなだめ、受け流しつつ、箒の方に再び目を向けた。

 

「じゃ、俺たちも降りよう。宿題もやらなきゃならないしな」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「でもできるだけゆっくりいこう。あの論争に巻き込まれるのは面倒だ」

 

「……ふふっ……そうだな」

 

 肩をすくめた信を見て、笑みがこぼれた。

 あんなことがあったあとでも、変わらずに笑顔を向けてくれるのが嬉しかった。

 でも、同時にそれが寂しくもあった。

 もう少し、意識してくれてもいいのではないのか。

 そんなことも思ってしまう。

 

「なぁ」

 

「んー?」

 

 共に高度を下げつつ、その背中に呼び掛けてみる。

 

「……まだ何か隠してたりはしないのか?」

 

 くすくすと笑うと、信は箒の方に体を向け、空中で仰向けになった。

 

「さぁ? どうだろうな?」

 

 いたずらっぽい口調で言葉を残すと、箒はまた背を向けられ、それ以上の質問はできなかった。

 

 

 

 




めちゃくちゃ久しぶりです。
いやはや……半年以上たっちゃいましたよ(;_;)

正直次話もそれくらい、空くかもしれません。
申し訳ないのですが……。

と、とりあえずよろしくお願いいたします(>.<)
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