甲板で読書をしていると、ルフィがパンを齧りながら船内から姿を見せた。それには気付いていたけど、本の続きが気になり声もかけずにいたら、ルフィは図書室に視線を向けたまま動きを止めてパンの耳を1気に食べきる。
いつもならそんな食べ方しないのにと思えば、どうしたのかと気になり本から視線を外す。すると、辺りが霧に包まれていると気が付いて、直後にナミが倒れたと分かる。
ルフィの声が霧の向こうから聞こえて来て、慌てて駆けていけばナミが青白い顔で強がっているのを見てしまう。同じように駆けてきたチョッパーと2人でナミについていると、ルフィが優しい顔でナミを見ていて……。
こうして、ふとした時に大人びた顔をするようになったと気が付かされる。ルフィも、いつまでも子供ではないのね。
チョッパーと確認したけど、特に大きな問題は無さそうで、でも前に見た文献を思い出せば多分動物の耳が生えてくるだろうと予想はできた。でも、ナミには似合うだろうからと黙ってチョッパーとその場を去り、蜜柑の樹を見ながら声を掛ける。
「ねェチョッパー、耳はいつ頃生えるのかしら?」
「あ、やっぱりそれだよな。……うーん。だとしたら、そろそろ2人とも生えて来る筈だぞ」
「生えてる期間はどのくらいなの?」
その辺については文献に無かったので問い掛けるとチョッパーは生えたのを確認して、それからの判断になると言う。それに頷いた時響き渡った悲鳴に、あらあらと思って笑ってしまった。
図書室に戻るとナミの髪と同じ色の耳が頭上にあって、その愛らしさに目眩さえしそうな程。もう、女部屋に閉じ込めておきたいわ。
野獣が闊歩する船内に、私の愛しくも可愛い兎を解き放っておきたくはないと思うけど、どうやらナミの悲鳴で飛んできたらしいフランキーが崩れ落ちれば、自分にも生えたらしいと気付く。チョッパーに調べて貰った感じだと、3日程でこの耳は消えるらしい。
サンジが鼻血を吹けばチョッパーはそれの対処に乗り出し、ウソップが物珍しそうに私とナミを見比べている。ゾロは眉間に皺を寄せて、不愉快なのか心配なのか判断に困る反応をしてるけど、ナミの顔を見るにどうやら心配しているらしい。
ナミは皆の感情に敏感で、だからこそ分かりにくい相手のそれも、ナミの反応を見れば大抵理解出来る。そうやって判断してるのは私だけではなくて、案外多いと最近になって気付いた。
ブルックはヨホホと楽しそうに笑っていて、些細なトラブルさえも楽しいのだろうと気付く。それだけの孤独が、今も彼を蝕んでいるのだ。
渦中の人物である私とナミだけど、私は音を拾いやすくなった他には困った事は無いので様子を見る事にした。けど、ナミは不安らしくてフルフルと震えながら潤んだ瞳でルフィを見詰めるから、ルフィは頬を染めて理性と戦ってる様子。
「ルフィ……」
「可愛いし、似合ってるぞ?」
そんなやり取りをしつつもナミの耳に触れたルフィは、その時ナミがビクリと身体を震わせたのを見て納得した様子を見せる。ナミは耳が良いから、耳が弱いのよね。
歌声や話してるその声に反応して素敵……と思える人は、音に敏感な場合が多く、総じて耳が弱い。声自体に興味がなく単純に演技力や歌唱力、顔やストーリーに反応する人はこれに該当しないと考えるとわかりやすいかもしれないわね。
独りで長く生きてきたからか、ナミも私も小さな足音ひとつにさえ反応するし、情報収集は生きる為に必要だからこそ潜入も盗み聞きも得意分野。……だから、兎なのかも知れないわね。
そんなこんなでイチャつく2人を横目に、ルフィを除いた男性陣が買出しに向かい、私とナミは仲良く航海日誌を書いたり新聞の記事を精査したりしていく。近くではルフィが暇そうにブー垂れていて、そんな様子にナミが困ったように笑った。
これではまだまだ頼れる彼氏にはなれそうもないわね。そんな事を考えていたら、ナミがキッチンに向かい3人分の食事を作ってくれるから、それを共に頂く。
ただのスープかと思ったら、中にワンタンが入っていて、ルフィの為に考えたのねと思う。それと同時にワンタンの具材に野菜が多いから、ルフィにどうにかして野菜を食べさせようとしてるのだと気付く。
……完全にお母さんね。それも、理想の……ね。
そうして食事をしていたら近付く船に、どうしたって警戒して動きを止めたけど、ルフィの反応とナミの反応から危険は無いと気付く。ただ、ルフィの発したそれがその人物の名前だとするなら……。
慌てて視線を向ければ、革命軍のNo,2が居て……頭を抱えたくなった。そう言えば前に、ルフィの〝兄〟でナミの〝弟〟だと言っていたのを前に聞いた気がするわ。
当然のように船に乗った青年と、それに続いた少女。その青年の方にルフィが泣きながら飛び付き甘える姿は、何とも微笑ましい。
その時青年がルフィを見る眼差しが、ナミがルフィを見るそれと重なり、あァ、姉弟なのだわと納得させられる。ナミと、良く似てるわね。
そうして居る間にナミが少女に挨拶して、自己紹介と共に私とルフィの紹介をしてくれると、少女もまた自己紹介等をしてくれて、そのまま兄弟を残して会話に花を咲かせる。残しても仕方ないからと言って、残っていたスープを少女に提供するナミは、優しい顔で兄弟を見詰めていて、そんなナミを少女……コアラもまた興味深そうに見ていた。
スープを食べて喜ぶコアラちゃんに、ナミは小さくサボを宜しくねと囁く。それにより真っ赤になったコアラちゃんがなんで知ってるの!?と叫ぶように言えば、成程と思わされる。
自分の事は疎いのに、周りには聡いナミはどうやら弟の恋路に気付いていたらしい。その後皆が帰って来ると騒ぎになり、ナミがそれを纏めながら紹介を簡略的に行ってしまう。
見事な手腕に慣れてるのかしら?とその姿を間眺めるけど、答えは出ない。
こういった事については、ナミは困ったように、傷口に刃物を突き立てられたかのように苦しそうに笑うだけで答えてはくれないのよね。ただ、自分でもよく分からないのと言って瞳の奥で泣くから……下手に聞く事さえ出来はしない。
それからサンジにメインの料理を任せて、私達はチョコでイベント用のお菓子を作る事になった。チョコの中に物を入れる事も可能なので、それについてはチョコを固めている間に考える事にする。
3人でチョコを作りながら雑談していけば、どうしても話は恋人の事になる。初めはこのイベントについて話していた筈なのに、そこから童話の話になり、恋人の話へと変化したのだから不思議なもの。
女の子の会話って、こういうものなのかしらね?
「……フランキーは、多分、死んでも渡さないわよ。私が作った物だから」
アレで案外可愛いところあるのよね。大人のフリして見ても、心の中は結局永遠の少年だから。
そんな事を考えてる私の傍で、コアラが寂しそうに、でも何処か照れたように言う。まだ、確信が持てなくて不安だとその言葉と瞳で訴えながら。
「なら、サボ君も、かな。……だと、いいな」
「ルフィは理由が違うけど渡さないわね。食欲の権化だもの」
困ったようにナミは言うけど、同時にその瞳が優しいからそんな所も含めて愛してるのだと伝わって来る。優しいナミはルフィをただ、心から慈しんでいるのだとわかってしまった。
「ふふ、ルフィは確かに食べ物に弱いけど……ナミには、もっと弱いわよ?」
「……私が、ルフィに弱いのよ」
そう言って俯いたナミの首筋が赤くて、それを見た私とコアラはクスクスと笑ってしまう。それからチョコが固まるのを待ちながら、中に入れるものについて話し合う。
そうしながらも時間は有限だからと、ゆで卵にペイントしていたら少し離れた所で怒号が聞こえて来た。それに驚いて振り向くと、叱られてるルフィと叱る参謀総長の姿があり、ナミが慌ててかけていく。
……うん、兎だわ。猫っぽいとよく思ってたけど、こうしてみると兎としか思えない。
うさ耳を震わせたりしおらせたりしながらルフィを叱るナミを眺めつつ、チョコの追加をサンジに頼む。すると食べられちゃいましたかと笑いながら、やっておきますよと言って食べられた分のチョコをつくり足してくれた。
「あ!私も、その、作りたい……ので、その先は大丈夫です」
「ナミさんのお説教が終わったら、もう1度作ってください。そのゆで卵は、手先の器用な奴らにやらせておきます」
サンジの言葉にコアラは嬉しそうに笑うので、どうやら参謀総長には手作りであげたいらしいと気付く。それにより微笑ましく眺めていたら、文句を言われてしまったけど。
戻って来たナミと共にチョコで卵を作り直して、綺麗に洗浄したベリーや、サンジのお菓子券等を仕込んでいく。最後に恋人の分だけ別にして、完成したそれを隠して回れば準備は完了。
皆に説明をしてから寛ぐナミを眺めてから、そっとその輪を抜けて行く。そうして離れた所で海を眺めていると、大きな影が降って来た。
「兎は寂しいと死ぬんだろ。1人になるなよ」
「……それ、迷信よ」
「そうなのか?まァ、それでもロビン兎は寂しさで心を凍らせちまうだろ」
そう言って手を広げるから、仕方ない人ねと言いながらそっと抱き着く。それから卵は探さなくて良いのかと問いかける、素直じゃない私がいた。
「もう、見付けて捕まえたからな」
「私は、兎でしょ?何言って……」
途切れた言葉は唇に飲まれて、手から落ちた袋はフランキーがサッと拾ってくれる。好き勝手に口内で暴れた後、そっと離れた唇は嬉しそうに弧を描く。
フランキーは袋の中身を確認して、私をヒョイっと抱き上げるとアクアリウムへと向かい歩き出すから、嫌な予感がした。今は何処に誰が来てもおかしくないのに。
「兎と卵を、堪能させてもらおうか」
「教育に良くないから、今はダ……」
最後まで紡げなかった言葉は、空に溶けた。アクアリウムへと続くその場所に立入禁止の札をつけて、中から施錠されてしまえばもう、その先は捕食されるしか道はない。
Happy Easter……。子供は子供らしく楽しみ、大人はただ……食べる事にのみ楽しみを見出した様子。