自殺をする為に空島から飛び降りた先で、自分が恐ろしく悲惨な状態にありながら俺を手当したお人好し。俺が誰なのかを知らずに、身ぐるみ剥がされたの?なんて言った少女は俺を匿いながら、女ばかりの家族で互いに支え合って生きていた。
余りのお人好しぶりについ、魔が差したというか……魚人から助けてやった。それにより涙を見せたナミが妙に綺麗に見えて、手放すのが惜しくなる。
貰ってもいいかと問いかけた俺に、家族だと言った2人は怒り狂い、何も分かってないナミを庇った。その様子に、仏心なんぞと呼ばれるものが呼び起こされたのはナミを気に入っていたからだろう。
……ナミの実力なら、簡単に始末出来るだろうに……甘いんだよな。そう思った為か、本気で欲しくなったからか、それとも本当に魔が差したのか自然と動き出していた事実を思い出せば苦笑くらいする。
誰も殺したくないと、誰も、傷つけたくなんかないのだと笑うナミは、儚くも強く、美しい。だから俺はあの時殺さない程度に加減してぶちのめしたが……案外難しくて困らされた。
その後風車をつけた男に、ガーガー言われつつナミを連れて帰って来たが、ナミは恩人として俺に懐くだけで俺の想いに気付かない。言葉が足りないのかと何度も言葉を口にしたのに、何故か通じないのだから頭を抱えたくもなる。
「うーん!!」
あれから半年だ。拠点に軟禁していたら、たまには船旅をしたいと言ったナミの為に近海をさ迷っていた。
ナミは自分から言い出したのもあり、本当に楽しそうに過ごしている。島を見つける度に喜び、昨日からずっと描いていた海図が完成したらしい。
完成した海図を干しているのを眺めて、これなら確かに使われても仕方ねェと思わされる。そう思わされて当然の才能だ。
そんな事を考えていたら、突然表に飛び出して行くナミに慌てたのは俺の弱さか。表に出ればそれとほぼ同時に崩れ落ちようとするその姿に、思わず手を出して支えるがナミはそれを拒む。
「これ、以上……あまえ、られな……」
「この程度、甘えには入らねェよ」
それどころか何処が甘えだと言うのか。……それだけ、1人で生きる事を強いられて来たって事だよな。
誰かを大切にする方法なんざ知らねェ。誰かを大切に守りたいなんて、これ迄考えた事さえ無かったからな。
抱き上げて部屋に運ぶ間、泣きそうな顔で俺を見ていたからそんな顔するなと願うような心持ちにさせられる。俺はただ、ナミの優しい笑顔が見たいんだ。
「1旦帰るか。寄り道してて、何かあっても困る」
「船は、どうするの?」
「近くの島に預けておく。飛んで帰る方が早いからな」
「折角描いたのに……」
「後でジャックに回収に来させる。だから今は休め」
俺の言葉に小さく頷き、それから笑った。ただ、何処か申し訳なさそうなそれに溜息を落とさなかったのは褒められて然るべきだろう。
そんな時ナミが思いついたように言葉を口にするから、それを少し真面目に考える。聞いた事のないそれだが、ナミが自分から何かやりたいと言うのは誰かの為か、宝玉関連だけだからこう言うのは珍しいな。
「私、イースターのイベントやりたいの」
「イースター?」
「兎と卵のイベント。詳しくはWebで!」
「〝うぇぶ〟ってのはなんだ?」
「言い間違えたのよ。机に出版したくて書いたの置いてあるから、それを見てくれると助かるわ」
「……分かった。確認して準備させるから、今は休め。いいな」
拒否はさせないとその頭を撫でながら言外に伝えれば、はにかんだような笑みを浮かべられて身体の1部が熱くなるのを感じる。だがここで襲えば、恐らくこの阿呆はそれを目的にしてるとか妙な事を考え出すだろう。
自己評価が低過ぎるナミに、手をこまねくのはこんな理由だ。手を出した事で手に入れられるなら、とうにベッドに縛り付けてるってのに。
先日も余りにも寝ないからとベッドに無理に沈めた時、抱いてやろうかと声をかけたら嬉しそうに笑って頷き……寝やがった。つまりは、湯たんぽかアンカ代わりにされたと言う訳だ。
溜息を飲み込んだその時、手に柔らかな感触を感じで眉が寄る。俺は髪飾りなんざつけさせた記憶はねェ。
折角綺麗な髪なんだ。変なもんつけさせてたまるか。
そっと手を離せば、当然のようにピョコンと生えてきた1対の耳。髪の色と違い白のそれが、ナミの性格を反映してるなら分からなくもねェが。
「頭の上にあるものは……目の錯覚か?」
こんな現象俺は知らねェ。……いや、大分前にリンリンの頭上に、猫耳が生えた事があったか。
あの頃はまだリンリンも若く、それなりにモテていたから大騒ぎだったな。ニューゲートの奴はそれを呆れたような、嫌そうな顔で見ていたのを思い出す。
だが、ナミは俺の言葉に首を傾げた後で自らの頭に生えたそれに触れると、驚いた顔で鏡の方へかけて行く。そのままそこで尻を出して確認してるのは、俺を誘って……いる訳も無ェか。
くそ、枯れてりゃこんな事で戸惑わねェのに。そう思いつつ様子を見ていれば、スカートを降ろしてから俺を潤んだ眼差しで見詰めてくる。
……そんなに俺に犯されたいのか。そう問い掛けなかっただけ、俺も長く生きたって事だろう。
「カイドウ……私、変なの……!!」
「何がだ。何もおかしい所はねェぞ」
いつも通りの安定した鈍さだ。もしおかしい所があるとするなら、その無防備すぎる所くらいなもんだろう。
寧ろお前の内面が反映されたような姿だから、そのままでいてくれて構わねェ。そう言いかけて辞める。
そんな俺の目の前でナミはうさ耳に触れて、不安そうに俺を見る。その様子は妙に幼い。
「カイドウ、でも、私、耳が!!」
「よく似合ってる」
「……そうじゃない!」
「なんだ。似合うって言ってんのに気に入らねェのか。なら……」
そう言ってナミを抱き寄せると、その耳元で囁いてやる。あァ、潰しちまいそうで、少し怖いな。
小さくて細くて……違うとするなら身体に似合わぬたわわな果実位なものだろう。そんな女を貪りたいと思うのは、俺が鬼畜なんだと言う事だろうな。
「可愛いぜ、ナミ」
兎の耳がピンと張ったので、驚いているのが分かる。その耳に触れながら顔を見れば、真っ赤になったナミが居て……期待しても良いだろうかと少し思う。
国へと帰り大看板達にイベントの準備をさせつつ、ナミに耳が問題のない事だと分かる書物を与えた時にふと思い付く。書いてある物なら、理解するんじゃねェのかと。
それにより、恋文と呼ばれそうな物を書いて、それを切り刻み卵の中に仕込む。それからその卵を黒く染め上げて、隠される予定の卵に加えておく。
10個の黒い卵に顔を引き攣らせた大看板達に何も言うなとだけ告げて、ナミを呼びに行く。そもそもこのメンツで兎型の食べ物を囲む姿は、本来ならば見たい光景では無い。
「ナミ、兎が卵探すのが醍醐味だろ。探して来い」
「ふふ、ありがとう。お礼にこれあげるわ」
そう言って渡されたのはこのワノ国近辺の海図と地図。つまり俺の縄張りを図面化してくれた物だ。
これがあれば、俺が居なくともこの縄張りで負ける事は無くなるだろうと言いたくなる程に正確なその地図は、本当に相当な品だ。だと言うのに、お礼になるかわかんないけどなんて苦笑するのだから頭痛もしてくる。
……だから、隠しておきたいんだよ。馬鹿が。
そう思いながらも貰っとくとしか返せない俺に、嬉しそうに笑ったナミが籠を手に卵探しに向かう。エッグハント、だったか?
真っ黒な卵を見付けては不思議そうに首を傾げるナミに、それが揃った所で1旦休憩に入らせようと決める。ナミは何も知らずに卵を集めるが、流石に黒のそれは否応にも目立っていた。
Happy Easter……。揃った卵の中身を見て、真っ赤に茹で上がった兎が1羽、自ら龍の元へと赴くのは近い未来。
そうとは知らずに、その光景を微笑ましそうに眺めるメンバーは、卵料理の可愛さに精神的なダメージを負う事となる。それでも今を耐えれば良いだけだと〝忍〟の1文字で耐えて見せるが、はてさて何処まで耐えられるものか。
この2人の馴れ初めイベントだからと、毎年そのダメージと戦う事になるのだが、それは彼等もまだ知らない未来の話。兎と龍の傍迷惑な恋物語は、始まったばかりだ。