七夕20(麦わらのルフィ)
島が見えた時、いつものように飛び出すつもりでいた。けどそんな俺に怒りの蹴りを繰り出して来るサンジが居て、何だろうと思いながら躱すと余計に怒り狂うサンジの姿。
「こんの、くそゴム!冷蔵庫の中身食い尽くしやがったな!?」
「なんだそんな事か。もう、島見えてんだから良いじゃねェか!!」
ニカッと笑って言えば、サンジの顔に青筋がたった。そのまま始まるサンジからの説教を受けてる間に、ナミが姿を消しちまう。
説教が終わるのを待って慌てて探しに降りたけど、1度姿を消したナミを見付けるのは至難の業なんだよな。……それにしても、色々ある島だなァ。
同じ島の中でも場所によって雰囲気の大きく変わるその町並みにキョロキョロしながらも、ナミが行きそうな所を探して回る。うーん、ナミの好きな物はまずは蜜柑だけど蜜柑は買わないから……本だろうな。
んで、そこに居なかったら紙とインク、換金所と、花を売ってる所だな。そう思って探すのに、見付からないナミにどこ行ったんだよと少し落ち込む。
出掛けにチョッパーから渡された俺の分のお小遣いで買い食いしながら歩いていれば、小腹は何とかなったけどよ。……仕方ねェから1度帰るか。
そう思って船に帰ると、どうやらナミも帰っていたらしいと分かる。でも飯も食わずに机に向かうその姿を見れば、サンジが嘆くのもロビンが気遣うのも、そしてチョッパーが小言を言うのもわかる気がした。
ウソップが空島から持って来た貝を使って、頭叩くと声がするハリセン作ろうかとか言ってたのを思い出す。姉か母親か、もしくは他に叱られて効果のありそうな声は誰だろうかと貝を送る相手に頭を悩ませてたっけ。
俺が思うに、副船長の声だったら効果あると思う。でも、それはなんか嫌でそれを伝えられなかった。
真剣な顔で机に向かい何かを描いているその姿は、邪魔する事を許してはくれない。声をかける事さえ躊躇いそうになる。
……もう少ししたら、また来るかな。そう思って外に出ると蜜柑の樹が風で揺れていた。
「同じ匂いの筈なのに、ナミのが美味そうなんだよなァ」
「そりゃァお前ェ、惚れてる女は美味そうに見えるだろうよ」
そう答えたのはフランキーで、そういう事じゃねェよと言おうとして意識は竹っぽい何かに向かう。なんだそれ?
「なんかやんのか?」
「オゥ!!ナミがな、七夕祭りやりたいって道具揃えたんだよ。折り紙で飾り作ったりして、これに飾って、それぞれの願いを書いた紙をぶら下げたら、当日星に届くように焼くんだと」
「星?」
星なんかに願い届けて何になるんだ?
願い事があるなら、誰かに言って、皆で協力した方が早ェだろうに。変な事考えるもんだな。
「織姫と彦星ってェ恋人の星が年に1度会える。そうして会えた事に喜ぶからら、届いた願いを叶えてくれるって言う伝説らしい」
「ふぅん。詳しいな」
「……ナミからの説明を簡略的に纏めただけだ。あの説明普通に聞いたら数時間かかるぞ。ルフィは起きて居られねェだろ」
うん、無理だ。子守唄にするか、飽きてナミを襲う自信があるぞ。
その話の流れで、七夕祭り用のレシピもサンジに渡されたようで、現在サンジは買出しに出ているらしい。気付けばウソップがすんげェ細かい物作って飾りにしようとしてるし、ロビンが本を見ながらチョッパーと折り紙を折ったり、切ったりしてた。
ブルックは紙を見ながらギターを鳴らしたり、ピアノを鳴らしたりしていて、ゾロは掃除をしてる。皆なんかしら準備してるんだな。
「ん?あれ?」
「どうしたよ?」
「何でだれも俺に伝えないで、俺の許可取らないで準備してんだ?」
「やりたくないなんてルフィが言う訳ねェし、手伝われないのが1番の手伝いだからに決まってんだろ」
フランキーからの冷たい言葉に酷ェと叫んだ瞬間、図書室から歌声が聞こえて来た。足を向ければナミが何かを描きながら歌っていて、その優しい姿に見惚れちまう。
神に祈りを捧げるミコさんってのが、こんなかなって思う。でも、神になんか祈ってないで俺に願えよ。
もしもナミが望むなら、どんな事でも叶えてやるから。俺は、ナミに笑ってて欲しいんだ。
歌い終えたナミに拍手を贈ると、ナミは驚いた様子で振り向いた。その顔がなんか妙に幼い。
その後赤くなるナミにそっと近付くと、誘ってんのかと問いただしたくなるような顔で俺を見上げてくる。……いや、誘ってないのはわかってんだけどよ。
そのまま俯くナミから描いてた紙を奪い取り、確認すれば比較的短い歌詞が書かれている。さっきは途中からだったし、ちゃんと聞きたいな。
「もう1度、歌ってくれよ」
「え?」
「ちゃんと聞きたい」
「嫌よ。恥ずかしいじゃない」
これ、本気で言ってんだぞ。世界に名だたる宝玉先生がだぞ!?
でも、そんなだから皆が求めるのかもな。求めても、誰にもやらないけど。
だって昔から決まってる。ナミは俺のだって。
「俺は、ナミの歌ってるのが聞きたい!」
「……ワカリマシタ。歌います。……仕方ないわね」
そう言ってから諦めたように溜息1つ。そうして歌い出したナミに頬が緩む。
星がキラキラしてるのより、ずっとナミのが輝いてる。俺の最愛の女。
歌い終えるのを待って、ナミをそっと抱き上げると、驚いた顔はしても抵抗はしない。どうせ準備できるまでに時間かかるだろうから、少し位ナミと遊びに行っても良いだろ。
「よし、行くぞ!」
「何処に!?」
「2人で屋台のもん、制覇するぞ!!」
「サンジ君が作ってくれてるでしょ!?」
「……ナミ、俺、腹減った」
「なんですと!?」
目を見開くナミの耳元に唇寄せて問い掛ける。仕方ないから選ばせてやるよ。
「俺にナミが喰われるか、俺と出掛けて屋台のもん俺に食わせるか、どっちがいい?」
「屋台、行きましょう!えぇ、今すぐ!」
真っ赤な顔でそんな事言う意地悪なナミに、俺としてはナミが〝私を食べて〟と言ってくれるの期待したのにと思う。まァ、それは今夜ゆっくり楽しめば良いよな。
そう思って飛び出す俺に気付いて、文句を言う仲間達の声が届く。でもよ、俺はそんなの気にしねェぞ。
「ナミは俺の織姫だ!誰にもやらねェぞ!」
抗議の声は遠ざかり、俺に抱き着くナミの顔が林檎より赤くなる。本当に、可愛い。
2人で楽しんだら、皆の所に帰ろう。そんで、皆で楽しんだら、その後はまた、2人でゆっくり過ごしたい。
もっと時間に余裕があれば、可愛い格好で来たのにといじけるナミに、何も着てなくても可愛いぞと言って怒られるのはその直後。今日も織姫と彦星は、年に1度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。