用事の為に面倒だが船で移動したその先で、どうやらナミは買物を済ませてきたらしい。用事が済めば船を無言でワノ国へと戻したが、戻ると同時に荷物が届けばそれくらいはわかる。
1人で降りるなんて事ァ、許した覚えは無ェんだがな。……っとに、俺の近くに居る女は誰も思う通りにならねェ。
そう思った時、歌声が聞こえてくればそれにつられるように足を向けたのも当然だろう。歌う姿は、流石は世界に菜を轟かせる歌姫と言う他無い。
だが、本人はこれを趣味だと言うのだから、世界に喧嘩ふっかけてると思われても当然だろう。視線を動かし、その横に干されている地図を見れば、世の測量士が血の涙を流しそうな出来栄えで、さてこれをどうやって傍に引き留めておくかと考えさせられる。
力で屈服できるなら、こんなにも悩まねェ。力で解決しようとすれば、屈服の前に殺しちまう。
だが……優しくする……なんて、これ迄考えずに生きてきたから、やり方も分からねェので、その案も却下だ。こんなにもか弱く、こんなにも強い奴に……俺は今迄出会った事がねェ。
……ヤマトより歳下の小娘に、俺も焼きが回ったもんだ。本来なら、護衛にヤマトを置いておきたい所だってのに、あの馬鹿息子は俺の言う事を何一つ聞き入れようとしながらねェ。
女は女同士。甘い性格である事も考慮して、それでも戦えるヤマトが便利だってのに……あの、クソガキ……!!
そんな苛立ち故にナミの歌を大半聞き逃した俺は、それでも歌い終えた瞬間に拍手だけ送ってみた。すると、驚いた顔で振り向いた後、幼い少女のようにその頬を赤く染めるからそれが伝染しそうになる。
どうにかそれを誤魔化そうと口にした言葉は、ただ、甘く響く。その存在が甘いから、それが伝染しちまったんだろう。
「ナミ」
「カイドウ?」
「もう一度、歌い直せ」
「えっ!?」
動揺するナミは年相応だが、俺に命じられたなら素直に従えばいいものを。弱さは、それだけで罪だ。
弱いから奪われる。弱いから殺されるんだ。
ならばせめて、弱者は強い者に巻かれて生きればいい。強くとも、策略に嵌められ生きられなくなる事もあるのだから、弱者はただ強者に従ってさえいればいいだろう。
そう思うのに、抵抗する者、歯向かう者の方が成長を見込めるのもあり気に入ってしまう。考えてみれば、ナミもそうだ。
力は無い。身体も脆弱だ。
だが、他には無い稀有な能力を持ち、何よりも気の強さと忍耐強さを持っている。能力故に、保護してるつもりだったんだが……子猫が無駄に逆らって来る感じで目が離せねェのが理由なのか、可愛く思えちまうんだよな。
だから連れ帰って俺のモノにしたんだ。今更……手放す気はねェ。
「わ……かった。仕方ないから、歌ってあげるから、そんなに……見つめないで」
じっと見つめてたのが理由か、ナミは今にも倒れそうな程に赤く染まっている。その顔を見ると、貪りたくなるから辞めて欲しい所だな。
歌い始めれば、ワノ国をイメージした歌だとわかる。最終的には、このワノ国を工場としてのみ稼働させるつもりだと知れば……嘆くんだろうな。
心優しい、善良なる、愚か者。本来ならば、俺が最も嫌うべき種族だってのに……。
そういや、なんでこいつ、背中に白い羽根がねェんだろうな。そんな事を半ば本気で考えさせられる程度には、毒されている。
歌が終わると同時にナミを摘み上げて、そのまま龍に姿を変えて鬼ヶ島に戻る。勝手に外出した事に対する罰として、足で持って行く事は俺の中で随分寛大な措置だ。
だと言うのに、到着した部屋でナミを解放すると怯えた様子を見せる所か楽しそうにしていた。だが、よく見れば身体が小刻みに震えているから、どういう事かと確認の為に手を伸ばす。
軽く触れるだけのつもりで伸ばした手は、当然のようにナミを抱き締めている。ナミが動けない、逃げられない状態で、そっと囁くように問いかければ、キョトンとした眼差しが返ってきた。
「反省したか」
「何を?」
「勝手に出歩いた事だ」
「だって、カイドウ忙しそうだったから……邪魔しちゃまずいと思って」
その言葉に、逃げる意思がなかったのはわかっていた。なのに、妙にホッとしている己に気付かされる。
落ち込んだ様子を見せるナミの素肌に、壊さねェように気を付けつつ触れると妙に冷たい。そこに来て小刻みに震えてる事に気付けば、怯えではなく低体温という形で苦しめちまったと気付く。
「冷てェな。風呂に入って来い」
「でも……」
「戻る迄に、七夕の準備しといてやる。……その代わり、楽しませろよ?」
俺の言葉にナミは明るく笑い、ふらつく足取りで風呂場に向かう。それを見送ると同時に俺は、大看板や飛び六砲に1刻以内に準備をするよう命じる。
叫び声を上げながら動き出した面々にウオロロロロロと笑えば、カイドウ様酷い!!とか無茶な!!とか言いながらもそれぞれが自分の配下を上手く使い活動を開始した。暫くしてナミが風呂から出て来ると、髪の毛から滴る水滴に気付き、抱き寄せて拭いてやる。
そうして少しばかりナミの味見もしてから解放すれば、真っ赤な顔でお風呂入ってくると再び風呂へと消えて行く。だから再び同じ事にならないよう、うるティを呼び出して仕度を手伝わせる事にした。
どうやらうるティはナミが未だ気に入らねェ様子だが、どうにかなるだろう。俺が何かしてやれば、そのまま貪っちまうからな。
……蜜柑の香りが食欲を刺激するのが悪い。そもそも、オレンジ色ってのは、色的にも1番食欲を煽る色なんだよ……!!
先に宴の会場へと行っている事を伝えて向かえば、バオファンが本日の予定を告げて来る。だがそれは明日以降に回しておけと言えば、それに頷いて素直に従った。
そんな事をしてる間に舞台の幕が上がれば、その中央に立つ踊り子姿のナミに息を飲まされる事となった。……なんて、格好してやがる……!!
苛立つ俺に対して、ナミは舞台の上から挑発的な視線を投げかけて来て、想像していなかったレベルの舞を披露する。大看板や飛び六砲が頬を染めたり、声を失ったりして魅入る様子に俺の苛立ちは最高潮だ。
舞い終えるのを待ち、連れ帰ろうと決めた俺に向けられた少し高い声。俺の〝馬鹿息子〟だ。
「親父、僕の七夕の願い叶えてくれるか?」
「あ!?」
腕輪なら外さねェし、島の外にも出してやるつもりはねェぞ。そう思って睨んだ時、馬鹿息子が楽しげに声を震わせた。
「ナミを僕のお嫁さんにしたい」
「巫山戯てんじゃねェぞ!ナミは俺の織姫だ!!」
怒鳴りつけた俺に視線が集中して、見ればナミが舞台の上でヘナヘナと座り込んでしまう。そんな様子に自分が何を叫んだのか気付かされ、小さくない舌打ちと共にナミの元へ近付く。
「カイドウは、私の、彦星?」
「……そう、なるな」
「私、ずっと……その、虜囚か戦利品なんだと、思ってて……だから……」
「……最大限に、優しくしてるつもりだ。虜囚や小物に、この俺様が大切に扱う様な真似ををすると思ってたのか」
最大限気を付けていたつもりだ。何度も腕に抱いたのに、欠片も伝わってねェと誰が想像出来る。
……だが、今はもう、伝わったようだな。そういう意味では、馬鹿息子も役立ったか。
「私、弱いから……壊さないように気を付けてるのかなって……思って……」
「壊してやる……数日は立てないと思っとけ」
そう言ってナミを抱き上げた俺が向かったのは、当然ながら俺の寝室で……。俺の腕の中に隠して、誰にも見せるものかと思う。
踊り子の姿をしているなら、俺の為だけに舞えと命じて、ナミがそれに応じるように愛らしい歌声を響かせれば、手加減なんて忘れちまうのも致し方ねェ事だろう。今日も織姫と彦星は、年に一度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。