忘年会(麦わらのルフィ)
まだ寝てるナミを残して先に部屋を出たのは、このままだと寝てるナミを襲いそうだったから。最近忙しそうにしててあまり構ってくんなかったから、だから……つい。
夜中に揺さぶられて起こされたら、流石のナミも怒るだろう。そう思ってナミの蜜柑畑に来れば、何となくナミの近くに居るのと近い気持ちになれる。
そのまま甲板に転がればまだ星が綺麗な時間で、熱った身体には潮風が気持ちいい。そのまま寝ちまって、目が覚めたら朝日が顔出してたからとナミの所へ戻ったら……居ない。
動ける状態じゃなかった筈だと慌てて探す俺は、でもまずは風呂かと急いで移動する。だけど使われた形跡があって、匂いもするのにナミの姿が無い。
風呂から出ちまったなら蜜柑畑かと移動してみるけど、やっぱり居なくて……倉庫の点検か、サンジと打ち合わせかと駆け回る。その後でもしかしてと部屋に戻ってみたら、窓を開けて海を眺めてるその姿を発見した。
「やっと見付けた」
「……ルフィ?」
「探してたんだ……」
俺の言葉を受けて、ナミは小首を傾げてから外を見て、また俺を見る。……うん、天候が崩れたとかじゃなくてだな?
「早朝、部屋に居なかったから、何かあったのかと思ったんだよ。急に、消えるなよな……!」
「……誰かさんが無理させるから、身体は痛いし、ベタベタしてるしで、シャワー浴びたかったの!!」
「ごめんなさい。やりすぎました。……無理させたよな」
それを言われると弱い。確かに、俺が原因だから。
でも、美味かったです。それに可愛かったぞ、とは、心の中で。
それに、怒ってみても結局この先もナミは俺を拒まないと知ってるから、俺を愛してると知ってるから、俺はそれだけで幸せなんだ。そう思って見詰めたら、ナミは困ったように笑う。
「薬は飲んだし、もう大丈夫よ。所で、忘年会やりたいから協力して」
「忘年会?って、宴か!やろう~っ!!」
喜ぶ俺を見て、ナミが優しく愛しさを抑えられないって感じの顔で笑った。それを見て俺の1部が勝手に熱を持ったのは、仕方ないと思う。
駄目だ、流石に今は襲えない。謝った直後だぞと自分に言い聞かせて、溜息ひとつ。
「どうしたの?」
「ナミにだけは、永遠に勝てる気がしない」
「勝てた記憶が、無いんだけど……?」
全戦全勝の大将軍は、本気でわかってない様子で俺を見てる。でもその直後にはペンを取り出して忘年会について話し合おうと言い出すのだから、笑いが込み上げるのは当然の事。
無防備で賢くて、何処か抜けてる俺の恋人。そっと抱きしめようと手を伸ばした時、ブルックの朝の挨拶代わりとなってる演奏が響き、サンジの飯だぞー!!の声が聞こえた。
それを認識したら腹がグーって泣いた。うん、腹減ったな。
「……朝だったな。ナミ、歩けるか?」
「歩けるから、心配しないで行きなさい」
優しく笑ったナミが食堂に顔を覗かせたのは、それから大分経ってからの事だった。歩き方が可笑しいから、昨夜は相当無理させちまったかなと思うけど、今更何もできねェし……。
その時何かが近づいてくるのを感じて、見聞色の覇気を使える奴等は揃って甲板に飛び出した。……ナミを除いて。
それにより近付いてきたのが大好きな兄ちゃんだと解れば、大歓迎で迎え入れる。そんな俺の騒ぎにより、出てきたナミが驚いた声を出す。
「サボ!久しぶり。無事で良かったわ」
「ああ!久しぶり。……ロビンも元気そうだな」
「ええ、お陰様で」
サボが俺を無視して二人と会話してるから、グルグルと絡みついてみればサボも漸く俺を見てくれる。困ったように笑うその顔は、昔と変わらない。
優しい兄ちゃんだ。あの戦争でも、俺を守ってくれた……頼れる兄ちゃんのまま、何も変わってない。
「ルフィ……。会いたかったよ」
「サボ……!!俺、俺のせいで、エースが!!」
「ナミから聞いてないのか?エースはあの時は生き延びたぞ」
「それは、聞いたけどよ……でも……。俺の実力不足で、沢山……」
「分かった。ちゃんと聞いてやるから、今は挨拶だけ先にさせてくれ」
それから昼食までの時間、俺はサボに張り付いて離れなかったし、サボと1緒に来た姉ちゃんはナミやロビンと何か話してた。それにサンジが加わって、サボは昼までは俺と離れなかったのに昼飯食い終わったらナミの傍を離れなくなる。
だから俺も……と思って近付いたら、ナミが少し困ったような顔をした。それからふと、何か思いついたような感じで俺の方に近付いてきて、耳打ちして来る。
「ルフィにお願いがあるの」
「ん?」
「チョッパーと遊んでて」
「へ?」
「明日の夜宴にするから、それまで……ね?」
不満が顔に出てるだろうと思う。サボも宴が終わるまでは少なくとも1緒に居てくれるとは聞いてるけど、それでも俺としてはなんか嫌だ。
でも、サボはサボと来た奴の事もあるから1緒にいるんだろうと思って、チョッパーの元へと向かう。釣りしようと誘えば楽しそうに頷いてくれるから、俺は宴で使って貰えそうな大物を釣り上げるぞと意気込んだ。
でも、その日は結局小さいのしか釣れなくて、夕飯にそれが出された。美味かったけど、悔しい。
その夜、俺はナミの肩を抱くサボを見ちまう。ナミは少し顔を赤くして、小さく頷くから……何の会話してんだろうと思った。
だって、ナミが俺にしか多分見せた事が無いと思ってた顔を見せるから……胸が、ドクン……と、妙な音で鳴った。サボはナミを優しく見つめて、愛しそうに微笑む。
俺が知ってるサボは、確かにナミを姉として愛していたけど、こんなにも時が流れて……こんなにも美しくなったナミに惑わない保証がどこにあるんだろう。ガキの頃からずっと、俺とエースはナミに憧れて来た。
でも、サボだけは違ったから……安心してたんだ。だけど、今になって不安にさせられる。
そんな不安を抱えたまま、声を掛ける事も出来ずに俺は部屋に帰る。寝て起きればスッキリするかと思ったのに、モヤモヤが消えないんだ。
今日こそはと思って釣りしてるのに、何度も溜息が出ちまう。そんな俺をチョッパーが心配そうに見ていた。
「ルフィ?どうしたんだ?」
「あ……悪ィ。チョッパー、俺……なんかおかしい」
「え!?ルフィが!?……何処がおかしいんだ、話してみろ」
二年前ならチョッパーも医者ー!!って叫んでたのに、叫ばなくなった。人は、変わる。
成長して、それ迄気付かなかった事に気付くようにもなる。……サボには、勝てる気がしねェよ。
そんな事をつらつらと話していたら、チョッパーに頭を撫でられた。ナミなら、可愛いと喜ぶんだろうな。
「うーん……。ルフィの兄ちゃんがどれだけナミを好きになっても、ナミはルフィが良いって言うんだから、不安になる事ないだろ?ナミが素直になれるのは、ルフィにだけなんだから」
チョッパーの言葉で俺はハッとする。疑っちゃいけない事もあるんだと、今更気付かされた。
その直後、竿に大物がかかってサンジとゾロが手伝う為に飛び出して来て、ブルックとフランキーがサニーを支えてくれた。チョッパーと俺が海に落ちないように見張ったりしてたのはウソップで、俺はそんな大騒ぎのこんな時間が大好きだと思う。
そうして時が過ぎ……宴の始まる時間になる。ワクワクしながら待ってる開始の直前にロビンの手が肩から生えて、そっと俺に耳打ちして来た。
「ルフィ、宴の開始を告げる時に〝誕生日おめでとう〟って、付け加えて」
「え?」
「詳細は始まってからのお楽しみよ」
その言葉に首を傾げながらも、皆がジョッキを持つのを待つ。そして、言った。
「野郎共!今夜は宴だ!宴の内容は……えっと、そう!忘年会だ!そんでもって〝誕生日おめでとう〟!!」
言われた言葉を告げると同時に鳴り響いたのは、クラッカーの破裂音。そして、乾杯とおめでとうの声が谺響して、次々とチョッパーへと渡される箱や袋を見る。
そこで漸くチョッパーの誕生日なんだと気が付いて、俺は何も用意して無かったのに!!と焦っちまう。
チョッパーは感動してるし、驚いてる。俺も驚いてるけど、なんで俺も知らないままで話が進んでたんだよ!?
「ルフィ!ありがとう!俺、こんな準備されてんの、全然気付かなかった!!」
「……俺も、知らなかった」
「え?俺に気付かせない為に、ずっと1緒に遊んでたんじゃないのか?」
「ナミに、頼まれたけど……居てくれって……でも、知らなかったんだ」
その時チョッパーは納得したように頷いて、それからやっぱりありがとうと笑う。でも俺、何かしたかな?
「ルフィは嘘とか隠し事とか出来ないから、俺の気を引く役目をルフィにも内緒で進めてたんだな。ルフィ、不安になっても俺の傍に居てくれただろ。だから、ありがとう!」
「チョッパー」
「俺、忘れたくねェよ。こんなに嬉しいんだから!!」
「忘れる?」
「これ〝忘年会〟だろ。1年の事忘れる祭りだって聞いたぞ」
そんなチョッパーの言葉にそうなのか!?と驚いたら、ナミがクスクスと笑いながら近付いてきてチョッパーと視線を合わせる為に膝を甲板につけた。そして、その頭を優しく撫でる。
「チョッパー、忘年会で忘れるのは〝嫌な事〟とか〝悲しい事〟よ。翌年に陰鬱とした気持ちを持ち越さない為のイベントなんだから、嬉しい事とかは覚えてていいの」
「そうなのか?」
「そうしなかったら、大切な事も忘れちゃったら、生きていけないじゃない」
そんな風に笑うナミは、チョッパーに告げる。優しい声で。
その様子見て思う。やっぱり俺は、ナミが好きだと。
「チョッパー、産まれてくれて、出逢ってくれて、仲間として傍にいてくれて……本当にありがとう。大好きよ」
甘い、甘い、ナミの声。俺は其れを聞いて、ナミは俺の時も同じような事を言うと思い出す。
だから少し不安になる。ナミは、大切な奴全員にその愛を平等に振り撒くから。
「ナミ」
「ルフィ?怪我でもした?」
「え?」
「痛そうな、顔してる」
呼び掛けただけで反応して、そんな事を言って心配そうにするナミの腕を掴んで、そのまま抱き寄せれば、何かに気付いた様子で笑う。それから隠しててごめんねと言いながら、俺の頬にキスをするから……ホッとした。
俺にしかしてくれない事が沢山ある。本当にナミが困った時、ナミはもう、ちゃんと呼んでくれるんだ。
二年前とは違って、俺に助けてって、言ってくれる。俺への想いを分からないなんて言わないで、愛してるって伝えてくれるんだ。
忘年会の筈の宴は、いつの間にか、Happybirthday!!!とか、Merry Christmas!!とかって単語も入り始めてる。それに驚いて見れば何処から出したんだと言いたくなるような量の酒が用意されていて、でも飯も酒も随分減っていた。
「俺の飯がァーっ!!」
「沢山あるから、ケチケチしないの!」
「むーっ!でも、ひとつしかないご馳走は、俺のだからな!サボにもやんねェぞ!!」
ナミの腰を強く抱いてした俺の宣言を受けて、サボは驚いた顔をしてから隣の姉ちゃんを抱き寄せて、その頬にキスをする。それの直後に殴られてたけど。
「俺のご馳走は、コアラだから」
「そういう事なら俺様も参戦するぜ!俺様のスーパーなご馳走は、ロビンだ」
「……辞めろ~!!どうして、どうしてこの場に居る美女達には特定のハエがいるんだ!!クソッタレ!!」
嘆くサンジとクスクスと笑うロビン、真っ赤になってサボを殴る姉ちゃんと、ロビンを離そうとしないフランキー。我関せずに酒を飲むゾロと、歌うウソップとその為の演奏をするブルック。
貰ったプレゼントをゆっくり紐解いて喜ぶチョッパーと、飯を片手で食いながらナミを離さない俺。そんな俺の口元を優しく拭うナミは、俺に慈愛の眼差しを向けて来るから……宴が終わったら二人の時間を堪能しようと心に誓う。
大切で愛しい人達に囲まれて、嫌な事も悲しい事も忘れる宴に酔いしれる。最愛の人を腕に抱いて……。