見張りをしていたら、ルフィが女部屋を出て来るのが見えて珍しいね……と思う。私の膝枕で高いびきしてる人がいるから、声を掛けには行けないけれど。
いつもは朝までナミに絡み付いて離れないのに……と少し思って、でも今はこの鼻ちょうちんを割りたい衝動と戦うのが第一優先事項。その後大分葛藤したけど、割らないでいたら海に異変は無かったのに、ふらつく足取りで出て来るナミが見えた。
……大丈夫かしら?
心配の余り立ち上がれば、私の膝からサイボーグが1体転がり落ちたけど、気にしてなんて居られない。そう思って窓に駆け寄ろうとしたら、力加減も無く掴まれた腕。
邪魔するそれを睨んだけど、腰を抱かれて腕に抱き締められてしまえば力ではもう勝ち目なんて無い。そのまま寝てしまう大男に、仕方の無い人ね……と諦めてしまうのだから、私も随分甘くなったわ。
それから暫くしたら、ルフィが船内を駆け回るそれでフランキーも目覚めて、それから私を抱き締めてる状態に気が付いてバツが悪そうに頬を染めた。それが何だか可愛くて、頭を撫でてから告げる。
「見張りの時間は終わったわよ」
今夜は海ではなく、サニーの方が異常の多い日だった。けれどもそんな事は今はどうでもいいと、私は視線を逸らす人を見詰めてクスクスと笑い続けていた。
朝食だと言われて食堂に向かえば、遅れて来たナミの様子がおかしくて、本当にこの子はどうしてこんなにもルフィを甘やかしちゃうのかしらと心配になる。今度ビシッと言わなきゃ駄目かしら?
でも私も、本人目の前にすると毒気を抜かれて、何も言えなくなってしまうのは確かな事。私も結局、ナミには甘いのである。
その時突然いつもの三人が飛び出して行って、それに遅れてナミが動き出す。どうやら何かが来たみたいだと皆も後に続けば、乗り込んで来たのはサボとコアラで、二人の仲睦まじい様子に私の頬が緩むのとルフィがサボに飛び付くのは同時だった。
「サボ!久しぶり。無事で良かったわ」
「ああ!久しぶり。……ロビンも元気そうだな」
「ええ、お陰様で」
声を掛けたナミに返事をして、そのまま私にも声をかけてくれるから、私もそれに続いた。その間にもルフィがサボに文字通り絡まるから、兄馬鹿なサボは嬉しそうな反面困った様子を見せている。
その流れで絡み付いたルフィをサボが宥めてから、私とナミで紹介を済ませてしまう。ルフィはナミにもそうだけど、甘えられる相手にはとことん甘えるからその様子が何だか微笑ましい。
その後挨拶を終えた私達は各自の行動に戻ろうとしたのだけど、ナミがメモ帳片手に動き回ってるのを見れば声くらいかける。備品の確認するには、時期がおかしいもの。
「何をしてるの?」
「あ!ロビン!!あのね……忘年会の準備してるんだけど、今月ってチョッパーの誕生月でしょ?だから、やるならその日にやってお祝いもしてあげたいなって思ってるのよ」
「ナミ……」
声が低くなってしまったのは許して欲しい。ナミはビクッと身体を震わせて、上目遣いに不安そうな顔を見せるけど……私が男なら襲ってたくらい可愛いけど、そうじゃないわ。
「それ、1人で進めようとしたの?」
「え?忘年会の事ならルフィにも許可「誕生日の方よ」」
私の言葉に不思議そうな顔で頷くナミの頭を軽く叩けば、どうして?と視線で問い掛けられる。全く、この子は……。
溜息とも取れそうな状態ではあると分かるけど、細く息を吐き出してからナミと視線を合わせる。私も人付き合いなんてそれ程した事ないけど、この子は何でも1人でやろうとし過ぎてるわ。
負担だけは全て1人で背負おうとする愚かで優しい子。でも、それが他の人には〝頼って貰えない〟とも取られかねない事をいい加減理解して欲しい所。
「そういう事は、皆でやらなきゃ。チョッパーを祝いたい気持ちは、皆同じなのよ」
「あ……!」
「それなら、サプライズにしたら?チョッパー君、喜ぶと思うよ」
突然割って入った声に振り向けばコアラが居て、その言葉に少しばかり私も思案する。それは……意外と難しい事だから。
我らが船長は、良くも悪くも正直過ぎる。知られて困る事では無いけど、急な事でもあるから全員からのプレゼントを用意する事が難しい分、何か他で対応してあげたい。
「ルフィに隠し事は……無理よね」
「そうね。……でも、ルフィを巻き込む形での計画なら立てられるかも」
そう言って笑うナミに首を傾げれば、チョッパーの気を引いてもらいましょう!と答えが返る。それにより私の能力で1人ずつ呼び出して仲間達と協力して準備を進める事になれば、とりあえず大枠については集まっていても違和感の無い私達三人で決める事になった。
それの途中で、メニューや食材の話になり、サンジが話に加われば宴の準備は問題無く進められて行く。残りは皆で分担する所になるかしらと思った所で、コアラの様子を見に来たサボが加わった。
「女達だけでどうした?コアラも随分楽しそうな顔してたけど」
「あ!ちょうどいい所に!ねェ……折角だからサボ君も協力してよ!」
「何を?」
そうしてお昼を食べてから詳しく説明する事になり、これ迄ルフィの気を1身に受けていたサボをルフィから引き離す事になってしまった。その結果、ランチの後はルフィも寄ってきてしまって、私は少し慌てる。
でも即座にナミが動いて、ルフィの方へと近付くと何かを耳打ちした。甘えるような顔で、何を言ったのか少し心配になる。
耳打ちされて少し不満気にしていたルフィは、けどナミの顔を見て納得した様子で頷く。……これだから私は、この二人を見守る事を辞められないのよね。
その日の夜、お風呂から中々帰らないナミを心配して様子を見に行けば、月をぼーっと見詰めていたので声をかける事が出来なかった。そんな私の肩を叩いたのはサボで、わかってると言う様子で頷いてナミの元へと向かう。
そして声を掛けたサボにナミは何かを答えて、寂しそうに笑った。そんなナミの肩をサボが抱き寄せれば、ナミは嬉しそうに頬を染めて小さく頷く。
サボとナミの顔を見るに、どうやらルフィの話でもしているらしいと分かれば、本当に兄馬鹿と姉馬鹿なのねと微笑ましくなる。互いに楽しそうに話してる内容が、ルフィ1色なのはどうなのかしらと思いながらも、今夜はいい夢が見られそうだわと小さく笑った。
翌日もルフィはチョッパーと釣りをしていて、宴のメインを正に作ろうと言う頃に大物を釣り上げたのだから、大したものだと思う。ワーワー、キャーキャーと声が聞こえて、お酒の量を確認していたナミが遅れて出てきた頃には、甲板いっぱいに広がるような巨大な魚がビチビチと跳ねているところだった。
それは即座にキッチンへと運ばれて、サンジは大忙しとなる。それでも宴には最高のメインだと笑うその顔は、晴れやかなもの。
ウソップとフランキーが皆を代表して、チョッパーへのプレゼントを作ってくれてるのも、もう少しで完成するのを確認すればナミと顔を見合せて笑ってしまう。ブルックは誕生日と宴に相応しい曲を選び練習していて、ゾロは力仕事を各方面で手伝っている。
計画の立役者であるナミは、やはりそれぞれに顔を出してちまちまと手伝ったり来ていて忙しそう。区切りをつけてからは少し休んでたけど、その頃からコアラとサボは宴が楽しみだと言いながらクラッカーをセッティングして回っている。
残る私は、ルフィに声をかけるのがお仕事。ルフィの掛け声が、こうなるとどうしたって重要になるから。
「ルフィ、宴の開始を告げる時に〝誕生日おめでとう〟って、付け加えて」
「え?」
「詳細は始まってからのお楽しみよ」
肩に手を生やして、そこに口をつけて告げた私にルフィは戸惑うけど、まだ細かい事は教えてあげられないの。ルフィは嬉しい事も楽しい事も、悲しみや怒りも、何も隠せない人だから。
でもね、そんな貴方だから、皆が信頼出来るのよ。だからどうか、ルフィはそのまま変わらないでいてね。
それから間もなく開始された宴の席で、その開始を告げるルフィの声が谺響する。皆が待ちに待った瞬間は、こうして幕を開けた。
「野郎共!今夜は宴だ!宴の内容は……えっと、そう!忘年会だ!そんでもって〝誕生日おめでとう〟!!」
その瞬間、サニー号全体から響き渡るクラッカーの破裂音。ともすれば銃撃かと思うようなそれは、チョッパーを祝う為のもの。
全員が用意する事が出来なかったプレゼントは、それぞれが誰かとお揃いなる品物。なので同じ物が、後からそれぞれに配られる予定になっている。
つまりは、クリスマスプレゼントでもあるのだろう。そういう所がナミらしい。
ルフィにはサッシュが、ゾロには帯、サンジにはペティナイフで、これはチョッパーの時はメスに変わる。ウソップは工具箱で、チョッパーには医療箱に変更。
そんな感じで全員が新たに手にする物は全て、チョッパーをイメージした蹄とも桜とも見えるマークがつけられている。その他に、どちらの物か分からなくならないようにと、それぞれをイメージした海賊旗マークが入れられていた。
必要な小物や素材はナミがニュースクーから揃えて貰い、制作と加工を施されたそれは宴の最後にそれぞれが手にする予定で初めから進められていた。なのにルフィは何も知らされてないから、自分は何も用意してないと焦っていて……それがまた可愛い。
後でチョッパーとお揃いだと言って、サッシュを見て喜ぶ姿が目に浮かぶような気がした。そのままチョッパーとルフィがはしゃぐのを眺めつつ、それぞれがお酒や料理を楽しんでいたら、二人を宥めるナミが見える。
いつも人の事ばかりのナミにも、今回はプレゼントが出来た事を皆は内心1番喜んでるかもしれない。そんな時聞こえて来た言葉は、そっくりそのままナミに言いたい言葉。
「チョッパー、産まれてくれて、出逢ってくれて、仲間として傍にいてくれて……本当にありがとう。大好きよ」
なのに何故かそのままルフィとイチャつき始めるから、この二人は全くと思いながらも私もお酒に口をつけた。二人のイチャつきを見たくないのか、何人かがお酒を浴びるように飲み始めたりしたから、すぐに騒ぎは大きくなる。
直後、酔ってない筈のルフィが妙な言葉を口にする。それには、皆が硬直してしまう程の威力があった。
「むーっ!でも、ひとつしかないご馳走は、俺のだからな!サボにもやんねェぞ!!」
サボは何を言われたのか分からないって顔でルフィを見てから、恋人はこっちにいるから安心しろとでも言わんばかりにコアラを抱き寄せる。それに真っ赤になったコアラの可愛いこと。
どうやらルフィは、サボがナミを好きだと勘違いしていたらしい。確かに好きで愛してるとは思うけれど、それは家族愛でしかないのに、恋は盲目とは正にこれね。
「俺のご馳走は、コアラだから」
「そういう事なら俺様も参戦するぜ!俺様のスーパーなご馳走は、ロビンだ」
参加しなくていいわよと言うよりも早く腰を抱かれたと思ったら、サンジが号泣し始めるから、つい笑ってしまう。コアラは突然の巻き込まれ事故により、サボを殴ってるけど本当に可愛いじゃれ合いだと思うわ。
ウソップはチョッパーを祝して歌い、ブルックは練習していた曲を演奏を開始した。そうして私達は、大切で愛しい人達に囲まれて、嫌な事も悲しい事も忘れる宴に酔いしれる。