季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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ヒロイン視点です。


忘年会(赤髪副船長ベックマン)☆

 ベックが笑い死にする前に止めたいとは思うけど、それと同時にとりあえず私としては反省と文句があるので笑い過ぎで腹筋が筋肉痛になればいいのよ……と半ば本気で考えたりする。確かに本を買い込んだのも、散らかしたのも私だけど、書斎の全てを私1人で片付けさせたのよ?

 それなのに謝った直後に笑ってる辺りで、反省の色が足りないわ。という訳で、脇腹突っついて笑いを長引かせてやろうとしたら手首を掴まれてしまう。

 

 「……どさくさに紛れて、何やってんだ」

 「擽ろうとしたのよ」

 「開き直ったか!」

 「だって、反省の色がないんだもの」

 

 唇を尖らせて文句を言ってみれば、肩を震わせるからどうやらまだ笑いのツボから脱出出来ずにいるのを少し呆れを滲ませて見ていたら、ベックの腕が伸びて来て私を捕らえてしまう。いつまでも、この兄は私を幼子だと思ってるらしいとこんな時に痛感させられるのだ。

 抱き締めてくるその腕は、幼い頃とは違ってもう随分とその体格差を縮めた筈なのに、今も大人と子供位の身長差があるのは事実。……安心、しちゃうのよね。

 ベックは私を何があっても守ってくれるって、無防備に思ってる。何よりベックって……。

 

 「あったかぁい……」

 「ここに来て湯たんぽ扱いとは、な」

 「身体が意外と固くないのが気持ちいい」

 「まァ……好きにしてくれて構わないが、話し合いはいいのか?」

 「お酒はあるわ。演し物どうするかとか、ベックに従おうと思うの。予算とか、ベックの許可が無いとどうにもならないじゃない」

 

 私の言葉を聞きながらも猫の子を撫でるかのように、頭を撫で続けてくれる手に甘えていたらドアを開けたシャンクスの悲鳴が谺響して、何事かと頭を上げた所で飛び付いてきたその巨大な身体に押し潰される。そのまま甲板に連れ出されてしまえば、シャンクスを含んだ状態で忘年会についての話し合いが開始されてしまう。

 そうなれば幹部も全員揃うので、私に歌えだの踊れだの言い出す上に、ご飯も作れと言うから無理言うなー!と叫んだのも当然だと思う。私の最大の保護者達は、文字通り永遠の少年達の集まりなのである。

 だけど私はそんな彼等が大好きで、でも〝仲間〟と呼んで貰えるような何が私にある訳でもない。私は彼等と共にあるには、実力が不足し過ぎているのよね。

 子供の頃から知ってるから……そんな理由だけで甘やかされて良いとは、到底思えないの。これを言えば甘やかすように、宥めて来るだろう事も知ってるから、私は言葉を口にはできないでいる。

 影を見せないように明るく笑って、他愛ない事に怒って見せれば……きっと彼等は安心してくれる。私のそんな浅知恵が通用するなら、彼等は四皇では無かった……と気付けない位には、私も愚かな子供だったのだろうけれど。

 その翌日から忘年会の準備の為との名目で、海王類を狩って遊んでるのを遠目に私は1人のんびりと航海日誌をつけていた。忘年会をやろうとも、記録をつけなくていい訳では無い。

 忘年会とは宗教的な関連のない日本独自の冬に行われる伝統文化であり、その年にあった辛い事や悲しい事を忘れる為の恒例行事である。つまり、やるべき事はやらねばならず、引継ぎはどう足掻いても必要な行為なのだ。

 

 「ナミ、少しは休んだらどうだ」

 「そんな事したら、ベックが過労死しちゃうわ」

 「……俺は、ナミが大切だ。無理なんかして欲しくないんだよ」

 「甘やかさないでよ。ダメになっちゃうわ」

 

 甘やかに微笑むベックは私の髪をひと房手に取り、そっと口付ける。まるで本当にそういう意味でしてるとでも言わんばかりに。

 ……こうやって誤解を産むのね。ベックは良い男なんだから、気を付けないと刺されそうで心配だわ。

 

 「ダメになっちまえ。俺は、ナミが俺無しで生きられなくなってくれた方が嬉しい」

 「……お人形が好きなら、そう言ってくれる?」

 「まさか。ナミを愛してるよ」

 

 甘く微笑み優しく告げられる言葉に、私は頷く。どうやら想いは同じらしい。

 それと同時に思い出す。コック達が騒いでた事を。

 

 「私も好きよ。あ!ベック、食料庫にネズミがいるみたいなのよ」

 「……そうか、捕まえて食わないとな」

 「やっぱり食べるんだ?私は食べないからね。食べるくらいなら、餓死するから」

 

 鼠が可哀想……では無く、病原体沢山持ってるから絶対私負けて寝込む。下手したら死ぬわ。

 この世界の人達って平然と鼠を食べるけど、ペットじゃないネズミの持つウイルスの多さとその強さは、尋常じゃないのよ。なのに、平然と食べる皆が怖い。

 この世界のイルカって大きいから、イルカ捕まえて食べるのはありよね。案外良く見かけるし。

 

 「ベック、今度イルカ捕まえて食べてみない?」

 「鼠を食わんと言ったその口で、イルカは食うのか」

 「細菌と雑菌の塊を食べる趣味はありません」

 

 そんな事を言いながら、宴に向けて大型の生物は海王類を今回は用意してるからイルカの話は消え失せた。残念だけど仕方ないわね。

 海王類はコック達が鬼さえ裸足で逃げ出しそうな勢いで色々料理していて、忘年会迄はとりあえず試作がメニューとして並びそうだと知った。そうなったのはある意味当然で、海王類を七匹も捕らえてあるのだから救いがない。

 見張ってなかった私が悪いのかな。これって私の責任?

 

 「なんでこんな数に……」

 「……七福神とか訳わかんない事言ってたぞ」

 「ベック、心中お察しします」

 

 きっとベックも内心で己を責めてるだろう。こういう時、妙にシンクロするのだ。

 

 「ナミにも苦労かけるな」

 「そこ!出来の悪い子供持った両親みたいな事言うな!!悪いのはお頭だ!」

 

 ベックと話してたらヤソップはそう言ったけど……。冷静になろう。

 そうよ、ヤソップがいたじゃない。比較的常識人のヤソップがいて、どうしてこうなったのよ!?

 

 「ヤソップも止めなかった時点で同罪よ!!」

 「ベック!ナミが反抗期だぞ!!」

 「それは違うだろ」

 「まったく、困った人達ね!」

 

 プーっと膨れて見せれば、横から指が伸びて来てプシューっと突っついて空気を出されてしまう。犯人を睨めば、ルーが爆笑していた。

 何すんのよー!と飛びかかった所で、私に勝ち目はなくてそれを微笑ましそうに見てくる皆に内心で少し落ち込んでしまう。子供の頃より、子供扱いされてる気がするわ。

 そうして迎えた忘年会当日、開始直前はあまりの忙しさに謀殺されていたけど、それなりの効果はあったと思う。だって宴は滞り無く開始されたから。

 私の手に入れたお酒はそれなりにあったと思うのに、見る間に消えゆくその儚さに切なくなりながらも、楽しそうな様子に頬が緩む。歌えとか踊れと言われるのを適当に受け流して、適当に果物を摘んでいたら差し出される皿。

 視線を向ければ盛合せが用意されていて、受け取るまで引き下がらないのが分かれば手を伸ばすのも当然。……餌付けされてる気分だわ。

 

 「ありがとう、ベックも食べる?」

 「俺は普通に食うから、これは食べきれ。今朝から何も食べずに、今は酒と果物だけとか……倒れるぞ」

 「はぁい」

 

 そんな事を言いながらも、食べやすい物を選んでくれてる辺りが優しいと思う。それにしても、皆の所に行かなくていいのかしら?

 

 「ナミ」

 「んー?」

 「俺が嫌いか?」

 「は?大好きよ」

 

 何言ってんの。私がベックを嫌う理由が何処にあるのよ。

 え、それとも、誤解させるような事を、私何かした!?

 

 「そうか、なら問題ないな」

 「何が?」

 「俺と付き合え」

 「どこに?」

 

 その瞬間、少し宴の空気が凍った。宴の途中で無音になるとか、なかなか珍しい体験だと思う。

 それ以前に混乱してる私には、どうでもいい事だけど。本当にベック、どうしちゃったの?

 何かの感情を逃がすように、ベックは息を吐き出してから大きく頷く。具合でも悪いのかなと首をかしげたら、ベックの唇が動き出した。

 

 「……言い方が悪かったな。俺の恋人になれ」

 「へ?」

 「好きだと、愛してると、何度言ってもナミには伝わらなかったからな。さて、答えは?」

 

 するのそこに来てそう言えば難度も言われてたと思うけど、でも、皆の視線を集めてる今、何も言える筈も無い。赤くなって声も出せなくなる私に、ベックは喉で笑うと、分かったと言って頷く。

 何がわかったのかと問い掛けるより早く抱き締めれてしまえば、私の感情は筒抜けだったらしいと気付く。冷やかす声があるのか、祝福する声があるのかもよく分からないけど、とりあえず私はそっとその身体に腕を回す事で応えるのが精一杯。

 大切で愛しい人達に囲まれて、嫌な事も悲しい事も忘れる宴に酔いしれる。最愛の人を腕に抱いて……。

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