年末が近付き、手配書を眺めていれば二年前に会ったのが最後だったなと思い出す。ルフィ……大きくなっただろうな。
次に会った時は、笑顔を見せてくれるかな。あの時はろくに会話も出来なかった。
ルフィは肉が好きだから、肉を持って行こう。他には……肉だな!
待てよ、ルフィが好きなのは肉の他はなんだ?
考えて、考えて、考えて……ナミだ!と答えは出たけど……それ、もうルフィのものだよなと気付く。なら土産は肉を積めるだけにして……。
「……サボ君、何してんの?」
「俺は休みだ!!だからルフィに会いに行く!!」
「ルフィ君って事は……ロビンさんも居るわよね。私も行くわ」
コアラの言葉は少し意外で、だが拒否する理由も無い。それどころかルフィがどんな反応するかなと期待が膨らむばかりだ。
ナミも喜ぶだろうな。本当に、俺達の幸せを自分の幸せとしてくれるから。
「え……あ、分かった。……ルフィに、紹介もしたいし、嬉しいよ」
「サボ君……」
「ロビンにも教えておきたいし、ナミも多分……喜んでくれる」
「ナミって、サボ君のお姉さん……だっけ?」
「あァ……俺を育ててくれた人だよ」
俺の言葉をどう解釈したのか、コアラは俺を見て残念そうに頭を振る。そして、残念そうに呟いた。
なんだと言うのか。最高の姉だぞ。
「戦争の映像見た限り、強くて綺麗で、芯のある人だと……そう、思ったのに……」
「どう言う意味だコラ」
「だってサボ君を育てたんでしょ?」
「……会えばわかる。でも確かに、エースとルフィを育てたんだから、不安にもなるよな」
「……あ!弟達が不出来過ぎたのね!!会ってその苦労を語り合いたいわ!不運な人なんだったら余計に!」
「コアラ!?」
俺の叫びにも似た声にケタケタと笑ったコアラは、荷物を纏める為に移動して行った。それを見送りながら、俺は自分の休暇時の居場所連絡をしつつコアラの休暇申請と連絡をしておく。
そんな俺にドラゴンさんは、ゆっくりしてくると良いと言ってくれたので、伝言等が無いかと顔を見詰めたけど……笑うばかりで返事は貰えなかった。そうしてドラゴンさんを気にしつつルフィの元へと二人で向かうと、ルフィは俺達が船に近付くのに気付いて飛び出して来たのを確認できる。
それに少し遅れて船内から出て来たのはナミで、その動きの鈍さに眉が寄るのを自覚した。元々俊敏に動くナミが、あの動きという事は怪我でもしたのだろうか。
心配で視線をナミから離せずにいても、船上の騒ぎは大きくなるばかり。こんな時にルフィは本当に誰からも愛されているのだと、痛感させられるのだ。
そんな中でナミは少し驚いた様子を見せてから、俺に微笑みかける。その表情から、愛されてるのだと痛感させられる程度には、ナミの向けて来る愛情はわかりやすい。
「サボ!久しぶり。無事で良かったわ」
「ああ!久しぶり。……ロビンも元気そうだな」
「ええ、お陰様で」
それが何だか妙に気恥ずかしくてロビンに視線を向ければ、わかってるとばかりに頷かれてしまう。本当にルフィの仲間は、女達が優秀過ぎる。
そのままナミとロビンを相手に会話していれば、ルフィが文字通り俺に絡み付いてくるから、待てやコラと思っちまう。だが、その顔を見てしまえば俺に勝ち目は無い。
どうしたって可愛いし、愛しいのだから。可愛くて、心配で、愛しくて、誇らしい、俺の弟。
「ルフィ……。会いたかったよ」
俺の言葉に反応して、ルフィは涙を滲ませる。その様子に内心で首を傾げたのは当然だろう。
喜ぶかなとは思ったけど、泣く程じゃねェだろ。泣き虫はそのままなのだとしても、会う度に泣くのはおかしいと思っているから余計に。
「サボ……!!俺、俺のせいで、エースが!!」
「ナミから聞いてないのか?エースはあの時は生き延びたぞ」
「それは、聞いたけどよ……でも……。俺の実力不足で、沢山……」
「分かった。ちゃんと聞いてやるから、今は挨拶だけ先にさせてくれ」
それから昼食までの時間、ルフィは俺から離れようとはしなかった。ただ、大切な人が目の前で死んだとしか思えなかった恐怖と絶望、そして……最愛の女に庇われたのに、壊れゆく姿を見ているしかできなかった現実に打ちのめされたのだと理解できる。
俺も、あの時エースがもしもナミによって生き返らなければ、そして、ルフィを喪っていたら……。考える事だっておぞましい。
あの場で崩れ落ちて壊れたのが、ナミではなくコアラだったならば、きっとその傷を癒す事さえできない自分を呪った事だろう。ルフィは、その姿を最後に、エースは死んだとしか思えない状態で、ナミの傍にいる事もできずに、己の無力さと戦っていた。
……よく、頑張ったな。本当に、よく、耐えたもんだよ、ルフィ。
俺はルフィが誇らしい。そう思って笑いかけて、その言葉にミミを傾けた。
そうして昼食を期に離れた俺達は、それまでの間に随分長く多くの事を語り合った。だがその昼食の後で、コアラまで混ざって女達が楽しそうにしてるのを見れば、出発前の会話を思い出してしまいつい声を掛けてしまう。
まさか、俺の子供の頃の話で盛り上がってる……とか、無いよな?
「女達だけでどうした?コアラも随分楽しそうな顔してたけど」
「あ!ちょうどいい所に!ねェ……折角だからサボ君も協力してよ!」
「何を?」
そうして聞いたサプライズバースデーを兼ねた忘年会と言う宴に、ナミやロビンらしいなと思う。それを誤魔化す為にルフィに別な仕事を与えるナミは、子供の頃からルフィの扱いに慣れていただけの事はある。
その日の夜には話は纏まり行動にそれぞれが移っていた。そして、風呂上りだろうナミが悲しそうな顔で夜空を見上げているのを見れば、昔星が輝くのは死んだ人が星になっているからだと俺達に語っていたナミを思い出す。
何も詳細は明かしてくれなかったが、ナミは恐らく大切な人を何人か喪ってるんだろう。この世界では、珍しくもない。
寧ろ、誰も喪わずに生きている人間を探す方が難しいだろう。それでも、優し過ぎるナミには、それは耐え難いのだろうとも分かるし、それを心配そうに見つめながら声もかけられずにいるロビンがいれば、任せておけと視線で伝えて交代したのはナミの弟としては当然の事だ。
そっとナミに近付き、声をかける。死んだ人を思うより、ナミには生きてる人を想って欲しい。
「ナミ、ルフィに激しくされてるみたいだな」
「サボ!?」
「歩き方、おかしいぞ」
揶揄いを含んで明るくおどけて言えば、頬を染めて少女のような顔をする。これをルフィが生み出したのだと思えば、本当に偉大だと思う。
子供らしさも、恋愛に関する部分も、ナミには無かった。それが今では、年相応に見えるのだからこれはルフィを褒めてやるべきだろう。
「ルフィは、まだ、加減できないから……」
「叱ってやろうか?」
「もうっ……ルフィを叱るなんて、できもしない癖に」
そう言ってクスクスと笑うそれは、ナミを生きてる俺達の方へと意識を向けさせられたという事に他ならないだろう。それでもできるなら軽く叱ってと言いながら頷いたナミに、安請け合いしつつも結局叱るなんてできやしない事を互いにわかっていた。
ナミに兄貴ぶって言葉を口にしてみても、結局俺はルフィに甘い駄目な兄貴で、ナミを姉にしか見れないのだから。俺を育ててくれた歳下の姉は、今は幸せそうにしている。
翌朝、ルフィは釣りをしていて、他のメンバーは各自の仕事を進めて行く。そんな中でコアラが何か手伝いたいとナミに申し出れば、甲板に向けて放たれるようにクラッカーを設置して欲しいと頼まれた。
時限装置でもついてるのかと思ったが、どうやらそこはロビンの手を借りる予定らしい。アナログだが確実なそれを知って、俺とコアラは設置を進めて行く。
その間にもルフィは仲間達と楽しそうに釣りをしていて、その様子に俺は少しホッと息を吐いた。ルフィはもう、昔の俺達の後をついて回るしかできなかったルフィでは無いのだと、安心できたから。
そうしてルフィが釣り上げた大きな魚で盛り上がるのを微笑ましく眺めてから、コアラにそっと問い掛ける。ナミと過ごした感想を。
「どうだった?ナミは」
「……確かに〝お母さん〟って感じだったわね」
「え?」
「ナミちゃんと話してるとね、サボ君の事、愛してるのがすごく伝わるの。なのに……私が恋人だって最初からわかってたみたいで『手のかかる子だけど、優しい子なの。仲良くしてあげて』なんて言われちゃったわ」
安定の母親っぷりに、本当に俺より年下なのかと思ってしまう。そんな俺にコアラは小さく、呟くように付け足した。
「妬く事もできなかったわ。恋愛感情なんか欠片も無いのが、伝わってきちゃって」
「俺も、そういう目でナミを見た事ねェな」
「うん、そうなんだなって話してみて分かった。……でも、どうしてあのナミちゃんに育てられたのに、サボ君はこんなんになっちゃったの?」
「どう言う意味だ、それ!?」
そんな他愛ない会話をしている間に始まる宴は、小さな船医を祝う宴でもある。それを開始する為の言葉と共に全員で樽ジョッキを手にして乾杯してからは、笑いあり、驚きありの宴が開始された。
「野郎共!今夜は宴だ!宴の内容は……えっと、そう!忘年会だ!そんでもって〝誕生日おめでとう〟!!」
その言葉と同時に、俺がコアラと共に設置したクラッカーが鳴り響く。そしてプレゼントに埋まる小さな船医にナミが近付いてその頭を撫でれば、何やらルフィも1緒に会話してるのだけは分かる。
そこでワーワーと騒いでたルフィが突然俺に挑むような視線を向けて来るから、どうしたのかと首を傾げた時、ルフィは見せ付けるようにナミの腰を抱く。言葉の意味は、それにより遅れて俺にも理解できた。
「でも、ひとつしかないご馳走は、俺のだからな!サボにもやんねェぞ!!」
だから俺は隣にいたコアラの腰に腕を回して、力一杯抱き寄せる。そしてその頬にキスをしてからルフィに返事をすれば、その合間にコアラから殴られちまった。
それでも構わない。妙な誤解はさせたくねェからな。
「俺のご馳走は、コアラだから」
「そういう事なら俺様も参戦するぜ!俺様のスーパーなご馳走は、ロビンだ」
「……辞めろ~!!どうして、どうしてこの場に居る美女達には特定のハエがいるんだ!!クソッタレ!!」
突然泣き崩れたコックに笑いながら、そう言えばロビンも楽しそうに笑ってるなと気付かされる。ドラゴンさんを〝ルフィの父親〟としか見ないロビンは、革命軍に保護されていた間も常に距離を置いて居たと言うのに。
だが……やはり、ナミもロビンもここが居場所なのだろう。楽しそうに少女のように笑う二人の姿に、ルフィは凄いなと心から思わされちまった。
ルフィはナミを片時も離さないで、飯を食い続ける。俺もまたルフィと同じように、コアラ片手に動き回れば、この小さな海賊団が温かく優しい場所なのだと思い知らされるばかりだ。
大切で愛しい人達に囲まれて、嫌な事も悲しい事も忘れる宴に酔いしれる。最愛の人を腕に抱いて……。