季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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ヒロイン視点です。


正月21(火災のキング)☆

 骨が軋むほど強く抱き締めて、離そうとしないこの腕が私を傷付けないように精一杯気を張ってるのは気付いてる。それでも、軋んでるんだから当然、少しばかり痛いけど。

 あの日、文字通り私は〝拾われた〟と言えると思う。その後の関係性は、明らかに私はペットとかそう言う枠だと思ってたのに……実際、違ったのだから驚きである。

 生意気に振舞っても、強気に振舞っても、大概何でも許してくれる。というか、興味が無さそうにしてた癖に。

 でも、本当に興味が無ければこの人は何も拾わないし、その……男女の仲にはならなかった筈だから、興味は抱かれてる筈。ただ、私に自信と言えるものが無いだけなのよね。

 

 「どうした?」

 「あったかいなぁって、思って」

 「……まだ、寒いか」

 「ううん。もう大丈夫」

 

 ここで寒いなんて言ったら、絶対布団に押し込められる。グルグル巻にされるのが目に見えてるのだ。

 大切にされてるのは分かってる。ただ、加減ができないのかと問いたくなるようなやり方なだけ。

 

 「前から聞きたかったんだけど、キングって、私を硝子細工か何かだと思ってない?」

 「そこまでとは思ってねェが、弱いのは確かだろ」

 「そりゃ、キング達に比べたら弱いかも知れないけど、世間的に見たら充分すぎる強さよ」

 

 四皇の船長や上層幹部と民間人に毛が生えた程度の私を比べないで欲しい。そう思って言ったのに、鎧越しに私の頬に触れるその手は腫れ物を触るよう。

 瓦礫に埋まってもほぼ無傷で、生還できる時点で相当強い身体だと思うのよ。……なんて、そんな当たり前過ぎる事実を口にする事さえ許されない程、大切そうに指先で撫でられている。

 

 「ナミは、小動物系だからな。俺とは種族も違い過ぎる。……よく受け止められたものだと感心してる所だ」

 

 意味が分からなくて首を傾げて、それから脳内で復唱して気付く。その瞬間に茹だると言うより爆発したのは、言うまでもない。

 よく受け止められたって……!!

 

 「かっ!」

 「か?」

 「カイドウ総督に言いつけてやるっ!!」

 「……俺に優しく抱かれて動けなくされるんです。助けてくださいって?」

 「なっ!?」

 

 言葉を詰まらせる私にキングは追い打ちをかけてくる。どうやらこの男、揶揄ってるつもりは無いらしい。

 それ故に厄介だわ。冷静に分析しないで欲しい。

 

 「人間は自分の病や怪我を隠さない。隠す時点で、小動物だろう」

 「だって、迷惑かけたくないから……って、そうじゃないっ!!」

 「なら、動けなくなる事が不満なんだろう」

 「そ、そうよ!少しは加減ってものを覚えるべきだわ!!」

 「十二分に加減して、優しくしたつもりだが?」

 

 言い返せない。だって、この体格差で私が壊れてない時点でどれ程大切に、優しく扱われたのかなんて考えるまでも無いんだから。

 拷問する事に慣れたこの人は、私の反応から隠そうとしても苦痛とかを瞬時に見極めて、酷い事にならないように気を使ってくれた。結果、私は生きてる。

 

 「他に言いつけるような事はねェと思うが、何か不満か?」

 「不満だらけよ……」

 「言ってみろ」

 

 優しく問われるこれは、多分改善できそうならしてやるって事だと思う。でも、これは改善なんか絶対できない。

 睨んでやろうと思って見上げたのに、優しい眼差しで頬が赤くなってしまう。だからプイッと視線を逸らして言うのが精一杯なの。

 

 「キングが、好きすぎておかしくなりそう」

 「……それを聞かされるカイドウさんの気持ちを考えろ。ついでに、俺が暫く笑いものにされるからやめて欲しいところだな」

 

 そんな風に言いながらも、その瞳は今までにも増して優しく細められるから……私に勝ち目は無いのだと思い知らされる。どうしたって、先に好きになった私の負けなのよね。

 そう思って溜息を吐き出すのと同時にドアが蹴り破られて、球体……じゃなくて、クイーンが姿を見せる。あの体格で俊敏に動けるのは既に人間業じゃないと思……いや、この世界だと普通なのかな。

 だって、ルーも動いてた。でも、クイーンってルーよりも丸いのよね……。

 

 「ナミ」

 「キング?」

 「あまり見るな。ナミに馬鹿が移ると大変だからな」

 「どういう意味だ!?拷問好きの変態野郎が!!」

 「人の趣味をとやかく言える立場か?その巨体に見合うお荷物野郎」

 

 放置すればまた大騒ぎになるのは目に見えてるからと、私は咄嗟に口を挟む。無関係決め込める距離感でも無いしね。

 

 「二人が仲良しなのはわかってるから、早く宴の会場に行きましょ。クイーンもその為に呼びに来てくれたんでしょ」

 「キングの阿呆と違って物分りが良いな。ナミ、今度俺の研究に協力「させるか。内容的にもナミを巻き込ませられねェ」」

 

 話が見えないけど、また喧嘩したら部屋が壊れちゃうと思ってキングを見つめたら、キングが諦めたような溜息を落として私を抱き上げる。どうやら私を歩かせてくれるつもりが無いらしい。

 そのまま近くの部屋に運び込まれたと思ったら、着替えて来いと言われて頭を撫でられるので、嫌な予感と共に振り向けば女中さん達がニッコリと笑って待機していた。悲鳴と共に始まった年明けバトルに、私が勝てる筈も無く花魁のお姉さん達も真っ青な勢いで飾り付けられた私は、魂が抜けたみたいになりながら宴の会場へと足を向ける。

 襖の向こうから聞こえて来るのは、楽しげなどんちゃん騒ぎ。けれどもそっと襖に手を伸ばした時に聞こえて来た言葉で、私の身体は凍りついたように動かなくなってしまう。

 

 「キングさん、なんであんな小柄な子を拾って来たんですか」

 「ペット感覚ですか?」

 「確かに能力は高いですけど、満足はできないと思うんですよ」

 「そうですよ。キングさんなら、相手なんて向こうから寄ってくるでしょう。確かに良い女だとは思いますけど、サイズ感とか……色々足りないと思うんで「黙れ。お前らにとやかく言われる筋合いは無い」」

 

 確かに自分でも、なんで?って何度も思ったからこそ、聞こえて来た会話が妙に痛い。呼吸さえ忘れて動けなくなっていると、突然襖が開かれてそれに反応するより早く抱き締められる。

 それがキングの腕だと、キングの胸だと理解するのに少しばかり時間がかかってしまった。思考が定まらないままに見上げたキングの顔が、何だか少し怒ってるように見えて首を傾げれば背中の羽根が揺らめいた気がする。

 

 「余計な事、聞かせやがって……」

 「私が聞いちゃ、駄目だった?」

 「馬鹿が。……こんなに簡単に揺らぐな」

 

 何を言いたいのか分からなくて、よくよくキングの顔を見つめたら小さくない舌打ちが返されてしまった。何に苛立ってるのかと思って見てたけど、なんか違う。

 混乱、とも違うわね。何だろう。

 じっとキングを見詰めていたら、殆ど見えないその素顔の先で、戸惑ってるのが感じ取れた。戸惑うって事は……そんなに、私には聞かれたくない事だったのかな。

 

 「……ナミが傷付くなら、何も聞かない方がいい。ただな」

 「うん?」

 「その衣装は俺が見立てた。ナミに似合うと思ったからな」

 「え?」

 「何に傷付いてるのかは分からないが、俺がナミを欲しいと思ったから手に入れた。何か不足か」

 

 質問するていをとっておきながら、疑問符さえつかないその言葉。不満なんかある筈ないだろうと告げながら、私の返事を待つ間その瞳が微かに揺れているのはどういう事なんだろう。

 ただ、わかる事もある。私は……自分で思ってるよりもずっと、キングの中で大きな存在だったらしいってこと。

 

 「キングが傍に居てくれるなら、不満なんて何も無いわ」

 「……俺は、海賊だ」

 「知ってるわよ?」

 

 今更何を言うのだろう。本気で意味が分からないわ。

 キングが海賊以外のなんだと言うのか。そう思ってキングを凝視すれば、言葉が返された。

 

 「……優しくは無い。壊したり、壊れるギリギリまでいたぶって、苦しむ姿を冷静に眺めている事も少なくない」

 「そうね」

 「逃げようとしたら、その足切り落としてベッドに繋ぐ予定だ。俺に抱かれて、俺に世話されて、俺無しでは何も出来なくしてやる」

 

 本気なんだと伝わるそれ。それに多分、拷問でそういう事し慣れてるから上手くやってくれる。

 感染症で死ぬとか、そういう事は心配しなくていいだろう事は分かるわ。……そんな事をされるのは嫌だけど。

 

 「それは、少し嫌だけど、逃げる予定は無いから大丈夫よ」

 「俺は、ナミを手放すつもりは無い。ナミは俺のものになったんだから、簡単に揺らぐな。俺だけ見ていればいい」

 

 …………えっと、まさか、これ、慰めてるつもりなのかな。普通の人が聞いたら怯えて泣き出しそうな事を言われた気がするけど。

 私が落ち込んでたからって考えてくれたのかな。だとしたら、そんな変に不器用な所も含めてキングが可愛くて仕方無い。

 強くて、賢くて、拷問に慣れてる男。残酷で、残虐で、冷静な海賊らしい海賊。

 なのに、こんな普通と言える事が上手くできない不器用な人。優しさを必要としない世界で生きてきたのに、私にはそれを向けようとしてくれるのがよく分かるから、私は愛しさのあまり強くキングに抱きついてしまう。

 

 「今年も1年、ずっと傍に居させてね」

 「それでいい」

 「「良くねェよ!!」」

 

 カイドウ総督とクイーンの声が重なり、何事かと視線を向ければ暑苦しいだの甘ったるいだのと言い出す。けど、外が寒い分暖房器具はしっかり働いて貰った方がいいと思うのよ。

 甘いのは、お正月料理あるあるだから仕方ないし……。困ったわ……と、言うような事を言えば何故か宴の会場が静まり、キングが元々そんなに見えてない顔を隠すようにして手で覆った。

 その直後、何故か起きた大爆笑の中でキングに呑め呑めと言いながら群がる人達を牽制するように、私はキングの首に腕を回した。新年早々、引き離されてたまるもんですかっ!

 そうして私は、大切な人達に囲まれながら、Happy new year!!と言葉を紡ぐ。愛しい人を他の誰にも触れさせない為に強く抱き締めている。

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