季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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七夕18(赤髪のシャンクス)

 当然のように連れ去って来たが、恐らく本来ならばルフィに返してやるべきだったのは理解している。それでも、手放したくないと思わされたのは、初対面で見たあの涙が原因か。

 守りたい存在の為に、死ぬ事さえ許されなかったナミは今、ベックといる時間が恐らく1番長い。難しい話を額つき合わせて真剣にやり取りしてる姿は、最初の内は奇妙に見られていたが、今では日常の光景となっている。

 ドアの開く音が聞こえて視線を向けると、ワノ国の衣装を身に付けたナミが植物を抱えて姿を見せた所だった。辺りをキョロキョロと見て、誰かを探している様子からベックを探しているのかと思ったが、俺を見付けると笑顔で駆け寄ってきた。

 

 「シャンクス!あのね、お祭りしない?」

 「祭りや宴は大歓迎だが、何の祭りをしたいんだ?」

 

 理由も無くやるとベックが怖いんだよなと思っていたら、ナミは朗らかに笑って祭りの詳細を話してくれる。祭りの内容としては、願い事を書いた紙を植物に付けて夜に燃やすというもので、その趣旨は恋人のイベントであり子供の為のイベントだそうだ。

 それでも日々いつ何が起きてもおかしくない生活をしているから、願いを書いて燃やす事で何かが起きる可能性を微かにでも秘めるならば、やってみても楽しいのではないかと言われれば、確かにと思わなくもない。叶う筈もないと分かっていても、願う事自体が楽しめるかも知れないとその提案を受け入れる。

 それにこの程度のものならば、ベックも怒りはしないだろうと言うのもあった。ベックは1度あの怒りんぼを船医に診てもらって治すべきだと思うんだがな。

 承諾すれば即座に笑顔で立ち去ろうとするナミの腰を思わず抱き寄せていた。そして驚いた表情で、けれども自ら俺に抱き着き直してくれる。

 

 「どうかしたの?取り敢えず、手を離して。私がこうしてるから」

 

 何度目かのこのやり取りは、俺の片手を無駄に塞ぎたくないと言う意味らしいが、そんなんだからつけ入りたくなるとどうして分からないのか。小首を傾げて問い掛けるその唇に自分の唇を重ねれば、咄嗟に首だけ動かして逃げようとするナミの頭を空いている手で押さえる。

 それでも自分で言ったからか、俺に抱き着いている腕は離そうとしないのだから、律儀なものだ。暫く堪能して、膝から崩れ落ちるナミを支える為に腰に腕を移動させれば、何故か睨まれてしまう。

 

 「遊んでないで、皆に言ってよね。宴をやるには準備も必要なのよ」

 

 それからふらつく足取りで俺から離れると、ベックの元へと向かうナミに苛立つ。ベックに植物や紙を渡して、それから何かを言われたらしいナミがその頬を赤らめたのが見える。

 ……大人気ないな。

 溜息と共に苛立ちを放出してナミが船内へと姿を消したのを見てから、ベックの元へ向かう。ベックは俺に気付くと笑顔で片手を上げるから、俺もそれに合わせる。

 

 「祭りをやるんだと聞いたが、何故その連絡がお前からじゃないんだ。シャンクスは報告するの忘れそうだから、色々お願いしますと言われたぞ……お頭?」

 「信用ねェな、不思議だ」

 

 笑って言えばこの人はとベックは笑う。そんな会話の途中でベックが俺を見て声を低くする。

 

 「本気で傍に置いとくつもりなら、俺達にその事を教えて貰えると助かる。だが、遊びならそろそろ解放してやれ。アレはまだこの海で生きるには弱過ぎる」

 

 名を出されずとも、それが誰を示すのかは分かりきっている。だから俺はそれに苦笑で答える。

 

 「ナミはな、俺の腕を気にして俺を庇おうとするお人好しだ。だが、航海士としては優秀で、知識も多く賢い。戦闘員として考えなければ、十分な戦力だろ」

 「自衛が全く出来ないのでは、話にならない。それに……恐らくそうなるとお頭を庇って死ぬぞ」

 

 嫌な事を言うのは、ナミでは無く俺を心配しての事だと伝わって来るからそれ以上の言葉を飲み込んで、俺はそうだなと言いながら立ち去る。夕方になると楽士の1人から借りたと言って、ギターを手にしたナミが弾き語りを始めた。

 空の世界で繰り広げられた恋物語と、その結末。それは年に1度でも会わせてもらえる嬉しさから、地上の人達の願いを叶えると言うもので、甘いとしか言いようのない話だ。

 ヤソップはこの話を気に入った様子だが、他は照れ臭そうだったり興味無さそうだったりする。俺は取り敢えず何か願いを書かなくてはなと短冊を見ていると、周りからお頭は酒を求めるんじゃねェかなんて声が聞こえて来た。

 確かに酒は好きだが、そうじゃねェだろうと思えば肩から力が抜ける。それからペンを手に取り少し考えながら、素直な願いを書いてみた。

 

 〝子兎を俺の傍で自由に過ごさせたい〟

 

 さて、あの子兎にこれで少しは伝わるだろうかと考えて、無理だろうなと思う。どうせこれを見た所で、子兎飼うの?食用?なんて聞いて来て終わりだろう。

 まァ、食用にもしたいところだが……あれだけ無防備に信頼を向けられては手を出しにくい。そんな事を考えていたら、ヒラヒラと袖を靡かせながらナミが笹に短冊を付けているのが見えた。

 

 〝皆の願い事が叶いますように〟

 

 甘い!お前も海賊の端くれだろうと怒鳴りそうになったのは、おかしくないと思う。そんな俺の視線に気付いたのかナミは笑って俺に手を振るから、俺は短冊を持って近付くとそれを差し出した。

 

 「付けてくれ」

 「あ、そっか。ごめんなさい」

 

 困ったように笑ってから素直に笹にそれを取り付けているナミに服について尋ねれば、今気付いたと言うような顔をされる。

 

 「これ?作ったのよ」

 「は?」

 

 作った?

 そんな事ができるのか?

 

 「ほら、この間の島で私1度船降りたでしょ?あの時に布買ってきたから、それで作ったのよ」

 「買ったって、金は?」

 「他所の海賊からスったけど、どうかしたの?」

 

 言葉を失うとは正に。俺はナミをじっくりと眺めてそうかと呟く。

 

 「シャンクス、熱でもあるの?」

 

 心配そうに言うナミは、無防備に近付き額にその手を伸ばしてくる。あァ……この無防備な子兎をそろそろ喰って良いだろうか。

 

 「……そうだな、熱かも知れねェ。看病してくれるか?」

 「船医さんに言う程じゃないなら、私に出来る範囲でやるけど……それで大丈夫なの?」

 

 気遣うように俺に手を伸ばして支えようとするナミに、俺は僅かに体重を掛けて部屋まで運んで貰うフリをする。部屋に入るとドアの鍵をさり気なく掛けて、自ら俺と共にベッドに近付くナミをそのまま押し倒す。

 言葉は後で、取り敢えず今夜はこのまま貰っておこうと口付けを降らせる。怯えたような顔で哀願されて、想いを全て吐露させられるのは、この直後の事だった。

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