ロビンからナミを祭りに誘うのは構わないけど、少し待ってあげてなんて言われて既に30分。そろそろ良いだろうとドアの前に立ち、気配はあるのに動かないそれに苛立ってドアを開ければ、怯えたような顔をしたナミが立っていた。
「何してんだ?」
「この浴衣、誰が用意したのかなって、考えてたの」
「……ロビンだろ。俺も渡されたから着たんだが」
その瞬間ナミがギョッとしたような顔で俺を見ると、突然脱げと言い出す。は?とか言ってる間に瞬く間に脱がされ、着付けを直される。
されるがままになっていたが、どうなんだ、今のは。元々素早いやつだとは思っていたが、今1瞬残像まで見えた気がした。
「まったく、合わせ逆で着たら死人になっちゃうでしょ!?マジックテープタイプの浴衣着てる人に多いのよね、駅とかでも死人が夏になると歩いてて、1緒にいる友達指摘してあげなさいと何度思った事か……」
「……おい?」
その瞬間なんでもないのと誤魔化したが……まァいい。話せるようになれば話すだろうし、俺が聞いて何かしてやれるようなものでもねェのは確かだ。
だが、散々に身体中を撫で回された身としては、少しはやり返すかと言う気持ちでナミの腕を掴んだ時、そのあまりの細さに心臓が嫌な音をたてた。それを誤魔化すように引き寄せて抱き締めれば、腕だけではなく、全身が細くて……身長はそれ程大きく違わねェのに、身幅は半分位しか無さそうなそれに、抱き締める力が無意識で強まる。
それに小さく苦しそうな声を上げるのに、ナミは心配そうにどうしたのよなんて聞いてくる。それに何故だか泣きたくなる。
この細い体で、あの村人を護っていたのか。いや、もっと小さな時から……ずっと、守って来たんだよな。
そして、その頃よりも更に前から、ルフィを守り、少し前に別れたばかりのビビを庇い、チョッパーを庇護している。料理も、治療も、専門じゃないと言いながら手伝っているのは知っているから、くそコックと2人でいても気にしなかったが……。
……1人でそんなに抱えるなよ。
折れそうな程に細い体を抱きしめて、俺はその首筋に顔を埋める。擽ったそうにするナミからは、相変わらず蜜柑の香りがして、俺の心を落ち着かせる。
「……祭りに誘おうかと思ったが、ナミが急に脱がせてくるから、辞めてこのまま部屋に……とも考えてる。どうする?」
俺の半分本気、半分誤魔化しの為の言葉に真っ赤になったナミが、出かけるわよ!と言って歩き出す。船を降りた所で不安そうに俺を見るから、俺も船を降りてナミの横に立つと、そっと俺の手に指を絡めて来る。
それから少し恥じらうように笑って、戦いの時はちゃんと手を離すから……なんていじらしいことを言う。
「戦いの時は、援護射撃頼むな」
「えぇ、接近戦苦手だから、その方が助かるわ」
本当は接近戦だってできるのは知ってるが、敵の怪我を心配する甘ちゃんじゃ、しかたねェよなと思う。共に歩けば祭りの会場は近くて、すぐにその熱気に包まれる。
その中で悲鳴が上がれば咄嗟に駆け出すのは俺だけじゃねェと言うか、こういう時のナミの足の速さは尋常じゃねェ。到着した所では、神輿に足を挟まれてる奴と、それを引っ張りだそうとしてる子供が見える。
「パパー!」
子供が泣いているのを見れば、関わる事になりそうだと視線をナミに向ける。その時にはナミは既に子供の元へ向かっていた。
予想通りの動きに小さく笑っちまうのは、俺も同類って事なのか。しかたねェかと、神輿を持ち上げてやればどよめく人々。
何だよと思いながら神輿を退かしてやれば、その間にナミが応急処置していて、多分捻挫だと言っている。骨に異常は無さそうですよと笑ってから、子供の頭を撫でていて、どうしてこういつもトラブルに巻き込まれるのかと思わなくもない。
「あの、すみません、宜しければ神輿を担いで貰えませんか?」
「は?」
突然かけられた声についそう返せば、足を捻挫したパパさんは担ぎ手の1人だったらしい。仕方ねェかと頭をかいていたら、ナミが頑張ってねなんて笑顔で言ってくる。
特に目的があって来た訳でもねェし、泣いてる子供からナミを引き剥がすのは無理があるからとそれを受ければ、俺は神輿の担ぎ手として参加が決まった。1周して戻るとナミの膝で寝てるガキがいて、パパさんは治療を終えたのか寝てる子供相手に、困った顔をしているのが見えた。
「送って行けばいいのか?」
「ゾロ……でも、いいの?疲れてない?」
「そこはナミじゃなくて、そちらさんの台詞だろうが」
心配そうに俺に言うが、いつも持ってるダンベルより断然軽かった。寧ろ、他に近くにいた奴等が邪魔になっていた位だ。
「あんた、歩けるか?」
「はい、杖を用意してもらえましたので」
その言葉に俺が頷いて子供を抱き上げると、ナミはクスクスと笑う。ナミが笑ってくれるなら、それだけで良いような気がした時点で俺に勝ち目がある筈もねェ。
「結局優しいのよねー」
「ここで見捨てられるか。乗りかかった船だ」
そんな事を言いながら家までそいつ等を送り届ければ、いつの間にか外は暗くなっていて、提灯の明かりが遠くで煌々と会場を照らしているのが見えた。何処か異世界にでも迷い込んだような気分にさせられるのは、殺伐とした世界に身を置く事を自ら望んだからだろうか。
それを見て、何処か寂しそうにしているナミの肩を抱き寄せれば、珍しく甘えて来る。こんな時間が長く続けば良いと、祈るような気持ちで思う。
「いつも、ありがとう」
「あ?」
「私が頼むより先に、お神輿の事も何もかも、動いてくれたし……。いつも、守ってくれてる」
「……神輿は他の奴に頼まれたからだ。……それとナミを守るのは、無関係だろ」
俺の言葉に不思議そうな顔をされるが、多分これは本気でわかってねェな。鈍い奴だよ、本当に。
「俺がナミを守るのは、俺が守りてェからだよ。惚れた女を守って何がおかしい」
その瞬間タコでもそこまで赤くならねェだろうと言う程に赤くなったナミを見て、前言撤回する。
「まァ、守った分、狼にもなるけどな」
そう言って逃げられないように強く抱き締めてから、その唇を奪う。遠くで祭囃子が鳴り響いているのが微かに聞こえた。