季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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夏祭り(黒足のサンジ)

 ノックする事も忘れる程浮かれていた俺がドアを開ければ、驚いたのか硬直している天女がいた。いや、天女なんて呼んだら失礼かもしれない、それくらい美しい人が立っている。

 でも、その顔色は少し悪い。また、何かトラウマでも?と思って近付けば困ったように微笑まれた。

 

 「……ナミさん、宜しければその麗しい姿を、独り占めさせてください」

 「独り占め?」

 

 キョトンとした顔で俺を見ているナミさんの麗しい事……女神も嫉妬する美しさだ。そして、それにも関わらず無防備なその姿に俺はいつも、やきもきさせられている。

 勝手に群がる虫共は、いくら潰しても湧いてくる。特にそれなりに大きな虫は、1度では潰しきれずにしかもパワーアップしやがる。

 その上で、気付けばナミさんの周りで飛び回ってやがるんだから、油断も隙もねェ。

 

 「そう、俺にエスコートさせて下さい。今日は、この島で祭りがあるのだそうですよ、レディ」

 「お祭り?あ、それで浴衣を?」

 

 俺はその問いに笑顔で答えるとそっとその手を取る。ペンダコの出来ている手は、けれども美しく優しい。

 楽器を扱うからか、指先も少し硬めだけど、それも含めてナミさんの魅力だろうと思う。こんなに細い体で、この船の大半の事を担っているなんて、1体誰が想像出来るだろうか。

 この船の中で居なくなった時、どうにもならなくなるのは、皆の光である船長のルフィと、この船のキーマンたるナミさんだろう。この2人のどちらかがかけたら、それだけでこの船は動かなくなる。

 そっと手に口付けると、慈悲を請うようにその瞳を見詰める。ナミさんだけは必ず守り抜くと。

 放っておけば恋人だとか恋人じゃないとか関係無しにナミさんは身近な人を守る為に、自らを簡単に犠牲にしてしまうから。そしてその決断は、大抵間違っていないのが問題だ。

 

 『私は大丈夫。殺される事は無いわ』

 

 そんな事を言って、立ち去って行くナミさんの背中を見るのは、苦しい。色々な意味でナミさんは能力が高過ぎるのだ。

 美し過ぎる心と体。そして、稀有な能力。

 船に乗るものならば、いや、乗らない者にもナミさんは求められる。能力的にも、容姿的にも、性格的にも、求められない理由を探す方が難しい。

 

 「参りましょうか、姫君」

 「ええ、宜しくね」

 

 微かに頬を染めたナミさんは、そう言って微笑んでくれる。だから俺はその手を引いて歩き出す。

 この細く麗しい人の背後を守る存在で欠かせないのが、四皇の赤髪だ。そして恐らく……その船長はナミさんを愛している。

 それに対してナミさんは欠片も気付いてないが、まァ、ルフィと俺以外のそういった事に本気で気付いてないのだから、ある意味仕方ない。俺と会う前から口説いていたルフィを差し置いて、俺の手を取ってくれたのだから、俺は他にそれを奪われないように大切に守る事が使命だと思っている。

 祭りの会場には出店が並び、人々が踊っている。その中でナミさんは少し辺りを見てから、1人で納得した様子を見せている。

 突然俺の手を強く握ったナミさんが、笑顔で振り向く。その笑顔1つで、俺の心臓は簡単に破壊されそうになる。

 

 「あっちに行きましょう!多分特産品が並んでるわ!」

 

 俺の為か船の為か、どちらにしても食材確保に余念のないナミさんは、俺を案内する。デートだって自覚、あるのかな?

 微笑みながらそれについて行けば、本当に特産品が並んでいて何故ナミさんはいつも、少ない情報から答えを導き出せるのだろうかと思う。俺も頭は悪くない筈なのに、ナミさんの事は考えを読み切れない事が多い。

 いつも斜め上を走るナミさんを、遠くへ行くなと抱きしめる事しか出来ないのが悔しい。俺が作った物以外を口にする時、ナミさんは毒味をする癖がある。

 それがあの魚野郎のせいなのは分かってるが、どうにもやるせなくなる。8年の歳月は、人の心や体に何1つ影響を与えないなんて事は出来ない。

 救い出せたから、それで終わりなんて事は有り得ない事は、多分俺が1番よく分かってる。細くしなやかな指先に、そっと唇をつければそれだけで赤くなる初な人。

 護らなくてはと、初めは思っていたが、違った。……俺が護りたいんだ。

 

 「ナミさん、愛しています」

 「……と、突然、どうしたの?」

 

 戸惑うナミさんをそっと抱き寄せて、唇を重ねる。恥ずかしそうに周りを気にしているけど、抵抗しないのは、そうする事で俺を傷付ける可能性を危惧してるのだと言う事には気付いてる。

 

 「……余りにもナミさんが美しくて、想いを言葉にせずにはいられなかったんですよ。月の女神も嫉妬するような美しさだから……」

 「もうっ!サンジ君揶揄ってるのね!」

 

 怒った顔をされてしまったが、至って本気だ。白が似合うのは米とナミさん位なものだろう。

 それ以上に白の似合う存在などこの世にはない。そう断言できる程に、麗しい俺の恋人。

 俺は本気ですよと笑いかけてから、ナミさんと特産品を買い込む。何が食べたいですか?と尋ねる俺にナミさんは少し考える素振りを見せてから、明るく笑う。

 

 「サンジ君が作ってくれる物なら、何でもいいわ。サンジ君の料理は何でも美味しいし、安心して食べられるもの」

 

 その言葉がどれ程俺を喜ばせているか、きっとナミさんは知らない。全幅の信頼に応えようと俺は今日も張り切って料理を作る為に、船へと向かう。

 ただ、ナミさんが安心して生きられるようにしたいと、心から願いながら。祭囃子はもう、俺にはバックミュージックとしての価値しかなかった。

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