ドアを開けると、そこには緊張の余り顔を引き攣らせているナミの姿があった。何をそんなに緊張しているのかと思えば、用意した服かと思い至る。
そんなに緊張しなくても、ナミに似合わない物の方が少ないだろう。だが、カイドウを通じて手に入れた和服は予想以上に似合っていて、頬が緩むのが分かる。
そんな俺にナミは何を企んでるの?と無礼な事を聞いてきたが、綺麗に着付けをしているその姿に免じて許してやる事にしよう。
そう思ってナミを左腕に抱くと、そのまま窓から外へと飛び出して行く。突然飛び出した為か、ナミは珍しく強めの力で抱き着いてくるので、それを受けて落としたりしねェよと笑えば、ナミも嬉しそうに微笑んだ。
目的地を上空から見れば、それはそれで華やかに見えるもので、ナミはその光景を眺めて小さく言葉を口にした。恐らくそれは、口にしていると本人は気付いていない呟き。
「……何だか、懐かしい。ビルの上からお祭りとか見るとこんなだったかな」
「ビルってのは、何だ?」
問い掛けるとナミは1瞬でその顔色を変えた。血の気の引いた顔で、聞き間違えたんじゃない?なんて笑うが……そんな反応は初めてで、後で調べさせるかと思わされる。
上からの景色と言っていたから、展望台のようなものだろうか。だがナミの生まれ育った村には、そんな物は無かった筈だ。
東の海を見渡した所で、展望台のようなものは数える程度だろう。考えてみればナミは時折、聞いた事の無い単語を口にする事がある。
作中の創作物だと言うのならば、顔色を変える必要はねェ。それを思えば……答えは自ずと限られて来る。
そうは思うが、取り敢えず今は遊ばせてやるかと、地上に降り立てばナミはその表情を綻ばせた。そして……妙な言葉を口にする。
「どの世界にも似たような物があるのね」
「……ナミ、お前は」
「ん?」
「何か食べるか?」
なんだって構わねェかと思う。例えばナミが天使や悪魔だったとしても、俺には手放すつもりなんてねェんだから。
まァ、ナミが悪魔だとは思えねェから、あるとしたら天使だろうが、その時は……その羽根を毟りとってでも還すつもりはねェ。砂糖菓子のような甘さを、地獄を見てきた筈のナミが持ち合わせているからこそ、堕ちた天使に感じるのかも知れねェがな。
「何か……りんご飴ってあるのかな?」
「何だそれ?」
「……ん、気にしないで……今度自分で作るから、その時はドフィも食べる?見た目の可愛さの他には、何も取り柄の無いお菓子だけど」
俺の視線に気付いたのか、自分で作ると言い出すナミに、本当に万能だなと笑ってから歩き出す。そして2本の棒を使って、丸い物を隣の皿に移す時間が早ければ早いだけ、良い景品を貰えると言う謎の出し物を見付けたナミが足を止めた。
あの棒なんて名前だったか。ワノ国で見たってか出された気がするんだが……あァ。
「箸だったか?」
「倭国にある伝統的な食器よね、それ?」
「あァ、見覚えがあってな」
答えるとナミが挑戦してくるなんて笑うから、恥かくぞと笑って見送る。黙っているとお綺麗な人形のようにも見えるナミが、箸を器用に持つとふっと笑い、開始の合図と同時に流れるように隣の皿にそれを移していく。
会場は呆気に取られ、俺はただそれに見惚れた。……何だ今のは。
時間を確認すれば最高記録だったようで、好きな景品と言われて何故か桃色の巨大なヒヨコ……とは言えぬいぐるみだが……を貰って来た。流石にそれだけとはとなり、隣にあった猫のぬいぐるみを手に取ったナミは、時折何を考えてるのか分からない。
満足そうにヒヨコのぬいぐるみを撫でながら戻って来たナミは、花のように笑う。それを見ていたら嬉しそうに言葉を口にした。
「このぬいぐるみ、ドフィと似てたから欲しくて」
「……ホンモノがいつも傍にいるだろう?」
「ホンモノが忙しい時に枕にするわ」
「ナミが満足なら、それでいいが……さっきの技は何だ」
問い掛けるとナミは技?なんて言って小首を傾げる。あれは既に技だろうと呟くと納得したのか思い至ったのか、クスクスと笑いながら言葉を紡ぐ。
「あれくらい、少し躾の厳しい家なら誰でも出来ると思ってたわ」
「出来ねェよ。……あァ、お前の家では蜜柑農家にも関わらず、武器はなんでも扱えるように仕込まれてたんだったか。忘れていた」
あれもその訓練の1環かと思えば、納得出来た。それに対してナミは、それこそなんで知ってるのよと落ち込んだ様子を見せるから、その額に軽く唇を落として慰めついでに誤魔化しておく。
この祭りの間に、1体どれ程新しいナミと出逢えるのかと、楽しくなって来た俺は、暫く適当に子猫が遊ぶのを眺めると決めたのだった。だがまァ、荷物持ちに誰か呼び出さねェと荷物で既に埋まりそうだと気付けば、少し惜しいような気もするのだから不思議だ。
楽しい祭りはまだ、始まったばかり。後に、部屋に飾られたピンクのヒヨコの傍に猫のぬいぐるみが置かれているのを見たファミリーから、俺に対して生暖かい眼差しが注がれる事になるとは、俺も想像していなかった。