ドアを開ければ目の前に、麗しい姿の女がいた。それに1瞬驚き、しっかり着られている事に納得は出来るが少し残念にも思う。
着られないで絡まっているナミを美味しく頂いてから、イタズラしつつ着付けてやるのも楽しそうだったのだが……。そう上手くはいかねェか。
「ロー、何か変な事考えてるでしょ。辞めて」
「着付けを出来るとは知らなかった」
「聞かれてないもの」
ツンとした表情で言うが、ナミは大抵何も教えてはくれない。全く厄介な女だ、と小さく笑いながらナミの頭を撫でる。
それに少し恥ずかしそうにする初々しさが堪らないと言えば、恐らくはその表情を変えないようにするか、わざと妖艶に微笑んでみせるのだろう。本来の姿は、どうやらこの無邪気な姿らしいと気付いたのはいつだったか。
妖艶な姿は演技、真面目な顔は真面目な時、伸びやかに微笑むのは……まァ、結局どんな姿でもナミならば構わないのだろうが。毒されていると、内心で舌打ちしてからナミを抱き上げて船を降りる。
驚いたような顔はしても抵抗しないのだから、随分と信頼されているものだと溜息もつきたくなるが、きっと意味を理解してはくれないだろう。頭は悪くない、寧ろどんな構造になっているのか問いたくなる程に賢い。
その賢さで新曲を創り出し、物語を生み出して、誰も知らないような事を平気で口にする。クーラーに洗濯機、ナミが欲しいと言ったものは、あれば欲しいが存在しない物で、どうにか作り出せないかと言い出したのを聞いた時は頭がおかしいのではないかと思ったが……。
造りそのものは分からないけど、どう言う流れで動くのか位ならと言って原案と言うには詳細で、設計図と言うには稚拙な物を描き上げる。その手で描く事の出来ない物は無いのではないかと思わされる程に、ナミの描く海図も地図も美しく詳細で正確だ。
まさに天才。会話も時折何処で手に入れた情報だと言いたくなるような知識と共に繰り出される為か、楽しめるものになっているのだが……。
如何せん恋愛事に関してのみ、壊死しているとしか思えない言動が何度も繰り返されている。頭が良い分、始末におえない。
キスしてみたりしても、幼かったのもあって理解できないならばまだ良い。だがナミは〝ローも年齢的には溜まる筈だから、定期的に抜いた方が良いと思うのよね。安い所だと性病が心配だから、そこはケチらないでね。ちゃんと発散しないから幼女に手を出したくなるのよ、きっと〟なんて言って笑うのだ。
解剖してみても、謎が解けないのは分かっているからバラしてないだけで、何度バラしてやろうと思った事か。そんな事を考えながら到着した祭りの会場でナミはふっと笑った。
「ロー、これはお祭り?それとも縁日?」
「祭りだと聞いているが?」
「そっか、ありがとう。それなら……特産品とか売ってるかも知れないわね」
そんな事を言い出すから、はぐれないようにと言い訳しながら掴んだ手を少し引いて問い掛ける。他に会話が思いつかなかったのもあるが。
「縁日と祭りは何か違うのか」
「縁日は、その開催地を守る神様や仏様との縁が強まり、願いが届きやすくなる日なのよ。それに対して祭りは神様や仏様への感謝祭なの。……作物が良く育ちました、ありがとうございます。とかね?」
「成程な、だから舞ったりしてるのか」
「そうよ。神様や仏様は舞楽がお好きだからね」
クスクスと笑いながら説明するナミは、本当に知らない事など何も無いのではないかと思わされる。それでも、実際知らない事は多いとナミは嘆く。
表面的な知識しかないから、何1つ本業にはかなわないと。唯1本業と言えるのは航海士、測量士、操舵手だと言うが……充分だろうと溜息を落としたくなる。
叶うならば強くなって、大切な人達が誰も傷つかないようにしたいと嘆くのだから、神にでもなりたいのかと問いたくなる。今は参謀として俺の横に居るが、そう遠くない未来に、必ず俺の女として隣に立たせてみせると誓う。
そんな俺の想いに気付かずに、ナミはやっぱりと言って植木鉢の並ぶ所へと歩み出す。その足取りは珍しくも妙に軽い。
「ロー、この苗欲しいわ」
「潜水艦で育つか、馬鹿」
「多肉植物だから育つわよ。それに、これ食べられるのよ。酸味が強いから、酔い止めの代わりにもなるのよ」
だから何処で手に入れるんだその知識はと思いながらも、それなら少し位は買って行くかと手を伸ばす。それを見たナミは、祭りは特産品が並ぶからと楽しそうに笑っている。
その笑顔に魅せられている時点で、俺に勝ち目は無いのだろう。ならば……負けて勝てばいい。
「ナミ」
「なぁに?」
「俺の恋人になれ」
他にどうやっても勘違いできないように、俺から伝えれば良い。だから1瞬呆けたような顔をしてから、徐々に赤く染まるその姿に、微笑みを浮かべて返事を待とう。
お前が望むなら、世界だってなんだって手に入れてやる。だから……大人しく俺の腕の中に落ちて来い。
多肉植物を大切そうに抱えて、ナミが潤んだ瞳で俺を見詰めるのを眺めながら、俺は勝利を確信する。もう……何処にも逃がしはしない。
その愛らしい唇が、どんな言葉を紡いだとしても、そんな顔をされたんじゃ諦める必要は無さそうだと内心で嗤う。さァ、俺にその全てを捧げろと浴衣美人を射抜くように見詰めていた。