部屋に戻ろうとドアを開けると、その場でドアを睨み付けていたらしいナミが立っていた。流石と言うべきか着付けは間違いも無く、見立てた自分の目に狂いはなかったと思わされる美しさだ。
「似合うね、でも……少し待ちな」
俺の言葉に反応してナミは動きを止めるから、俺はそんなナミの首筋を撫でながら襟に触れる。それにピクリと反応するけど、抵抗もしなければ表情も変えないから、この意地っ張りと思う。
そんな感情を隠して微笑めば、そちらには反応して頬を染めてくれるから、それはそれで嬉しくなる。その上で少しばかり不満そうに俺を見上げてくるのだから、この場で押し倒していない俺を褒めて欲しい位さね。
「イゾウの色気は狡い……」
「ナミにはかなわねェと思うがね」
本気の言葉を返しても冗談だと思っているらしいナミは、少し唇を突き出していじけた様子を見せる。そんな無防備な反応が自分にだけされると分かっているから、可愛いもんだと思えるのだというのは、認識している。
俺の心は恐ろしく狭いって事を、ナミは分かってねェようだなと内心で嗤う。そしてナミの手を取り表に連れ出すと、目的地である陸へ向かい歩き出した。
「何処へ行くの?」
「あァ、話してなかったかい?和の国とは少し趣が異なるが、夏祭りがあると聞いてね、1緒に行こう」
返事を待たずにナミを抱き上げると、船を降りる。それに抵抗しないどころか、咄嗟に俺に抱き着いてくれるから、祭りなんて辞めてこのまま宿にしけこみたくなったが、それは流石に不味いかと諦める。
何だかんだと言いながら、ナミはイベント事が好きな様子だから、故意でなくとも騙せば恐らくは……怒らずにこっそり落ち込むだろうからね。夜の艶事を除けば、ナミに泣かれるのは少しばかり、きついものがある。
祭りの広場では、見た事もない踊りを踊る人達で溢れており、それを囲むように屋台や出店が並ぶ。それに視線を向けて瞳を煌めかせるナミを下ろしてやれば、即座に俺の手を掴み歩き出した。
ここで1人で歩き出したらお仕置きと思っていたのに、何の衒いも無く俺の手を掴んで歩くナミが居て、いい意味で予想をいつも上回られる。時折足を止めて、何故か食べ物では無く動物のコーナーを見るから、連れ帰れねェから辞めとけと言葉をかけた。
それにハッとした様子で動きを止めてから、照れたようにはにかんだ笑みを見せられては、本気で宿に連れ去りたくもなる。だが、この笑顔が見られるならこうして過ごすのも悪くないと思えるのだから、不思議なものだ。
愛しいと素直に思わせてくれる相手につい、微笑めば何故かボンと音が出そうな程に赤くなられてしまう。それにより、どうやらナミは俺の顔に弱いらしいと思えば、この顔も役立つもんだなと思えた。
それでも、顔だけで落とせる相手では無いので、浮かれてばかりもいられない。それに昔から、美人は3日で飽きると言われているからねェ。
そんな時、ふとナミの足が止まっているのに気付けば、俺は無意識でその視線を辿っていた。そこには射的があり、その視線の先には謎のぬいぐるみが並んでいる。
勿論ぬいぐるみの他にもあるが、視線はぬいぐるみに向いているように見える。欲しいのかと思うが、ナミは何処か諦めたような顔をしているので、その無防備な項に唇を落しながら、何が欲しいのかを囁くように問い掛けてみたり
それにナミはぬいぐるみとか、絶対落ちないしと言い出す。……誰にモノ言ってるんだか。
「欲しいの、言ってみな。それとも……俺の腕を疑うのかい?」
「……あの、髷付けてるペンギン欲しい」
「…………変わった物を欲しがるね、隣の兎とかかと思ったよ」
目付きもあまり良くない髷ペンギンを、それでもナミが求めるならばと小銭と交換で手に入れた弾で打ち倒せば、ナミが驚きの視線を向けて来る。……だから、俺を誰だと思ってるんだって。
「他に欲しいのはあるかい?」
「うーん、あ、ハンカチとか取れる?この間駄目にしちゃって」
「了解、お<ruby><rb>姫</rb><rp>(</rp><rt>ひー</rt><rp>)</rp></ruby>さん」
玩具の銃を構えてハンカチを1発で2枚落とせば、店主が手加減してくれと呟いたが、まだ3発ある。視線を向ければナミに似合いそうなピアスを見付けてそれを撃ち落とし、クッションを1つと大判のショールを落とす。
景品を受け取り、その中からピアスを取り出すとナミにすぐ付けてくれるかいと手渡す。それを受け取ったナミが困った様子で受け取るので、気に入らなかったのかと思えば、少し怯えたような瞳を向けて来る。
「……穴が」
「ん?」
「穴が無いのよ。その……痛いって聞いてたから……」
……なんだ、その可愛い反応。虐めたくなる。
拷問にも耐えて来た気の強い少女が、高々ピアスホールでこんな顔を見せると誰が思う。だが、そうなると本当は痛みに強い訳でも無いんだろうね。
「……なら、俺に空けさせてくれるかい?ナミに付ける傷はすべて、俺による物であれば嬉しい」
「あの、痛く……しないでね」
それは、ここで食べていいって事かと1瞬思って、そんなつもりは無いのだろうと溜息を落とした。それから任せとけと微笑む。
その流れでぬいぐるみを手渡すと、何故か嬉しそうに撫でるから、本当に理解に苦しむ。このぬいぐるみの何がそんなに嬉しいのか分からねェ。
それでもナミが笑っているから、それでいいかと思えたのだから、骨抜きとは正にと言えるだろう。ピアスは小さな小袋に片付けられ、ぬいぐるみは手に持ったまま俺の腕にそっと触れてくる。
折角だからと好きにさせていれば、ナミが珍しく甘えるように擦り寄ってきた。その時いつの間にか人集りが出来ているのに気付き、射的で人が集まった所でラブシーン展開してればそうなるかと思う。
あまりナミが目立つのも嫌でその場を離れれば、近場に空いているベンチを見付けてそこにナミを座らせる。何か飲み物でもと思って少し待っておいでと声をかけて、飲み物と摘めるものを購入して戻れば予想通り男が群がっていた。
「……あんた達じゃ私に釣り合わないって言ってるのよ。汚い手で触らないでくれない?」
そんな声が聞こえて俺も流石に放置は出来なくなる。俺の女に触れたってのかい?
「待たせたね。飲み物でもどうだい?」
「ありがとう」
飲み物を手渡せば、絡んでいた男達を視界や意識から消したのか、可愛らしい笑顔を無邪気に向けてくれる。だから俺は手渡したばかりの飲み物をヒョイっと奪い、その唇を衝動的に奪う。
それに焦った様子を見せるが、ナミはすぐに甘い声を抑える事に必死になるから、つい深くまで口内を犯してしまう。本当に、俺を虜にするのが上手いな。
集まっていた男達はそれを見てザワ付き、直後に俺が誰だか気付いた様子で慌てて逃げて行くので、その程度の覚悟でナミに絡むなと心から思う。唇を離すと、美味しそうで我慢出来なかったと囁き、そっとナミに飲み物を返した。
真っ赤になったナミが何故かぬいぐるみをデコピンしているのを眺めながら、俺はその日のお祭りをのんびりと楽しんだ。後にそのぬいぐるみを見たサッチが、俺と似ていると言った時にはサッチをどうしてやろうかと思ったが、それによりナミが求めた理由を理解出来たのも確かな事だった。