季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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お月見(黒足VS海賊狩り)ゾロ視点

 見張りを兼ねて狭い見張り台で修行していたら、突然ナミの歌声が聞こえて来た。たまにこんな事があるから、見張りしてるのも悪くねェと思える。

 宴の時の他はたまにこうして誰も聞いていないだろう時間に歌うだけに留めているが、いつでも歌ってくれて構わねェんだがな。だがそうは思っても実質的には、それが不可能なのもまた理解している。

 今はビビを家まで送り届けるとの約束の元船を動かしているが、元々はそれぞれの遠すぎる目標の為に出発したメンバーだ。その中で男達は基本的に1つの事しか出来ねェのに対して、足りない所は全てナミが1人で担っている状況だもんな。

 ぐる眉が加入してからは料理はしなくなったが、何かあれば額突合せて食材について等話し合っているのは知っている。どちらも料理やら食材やら、それにかかる経費やらと話している時は真剣で、色恋の要素は欠片もねェと理解はしているんだ。

 今この船には船大工も、船医も何もいねェ。航海士と測量士を兼ねてるだけでなく、何かあれば船医の代わりとでも言うかのように治療して回るのも、金銭管理も、備品管理も任せっぱなしだ。

 船大工はウソップが下手くそながら、行なってくれている。だが、操舵手としてもナミは可能な範囲であれば1人で動かしちまう。

 夜寝る前には必ず網を仕掛けておいてくれるし、それを朝力仕事だからと俺が引き上げる事で今は何とかなっちゃいるが、元はそれもナミがやっていた。他にも何か、時間を作っては書き記している。

 航海日誌の他にも多くの物を書いているのは知ってるが、だからこそ時間も体力も足りねェんだろうなと思えば少し切なくなる。何とか休ませてやりてェ。

 いつ寝てるのかと問い質したくなるのも、当たり前と言える程に動き回っていやがる。寝ると魘されるらしいと言う事は何となく理解出来てるが、だからと言って倒れるまで寝ねェなんて事が許される筈もねェ。

 海が荒れれば航海士として何日だって寝ねェで海と対峙するというのに、そんな事を続ければ体が持つ筈も無い。俺が守れるのは……敵からの攻撃だけだってのが、正直悔しい。

 それさえ下手をすれば、守りきれずにナミは独りで戦い始めちまう。……足りねェ、まだまだ俺は強くならなけりゃ、ナミを守れねェし、鷹の目にも勝てねェ。

 恐怖を感じる余裕さえない程に、遠過ぎる距離。その世界へ近付く為の1端をナミは俺に示してくれた。

 ……ハキだったな。どうすれば身に付けられるのか、今度聞くだけ聞いてみるかと歌い続けるナミに意識を向ける。

 だがそれも突然止めばどうしたかと慌てて見張り台を飛び降りると、ナミがフラフラと甲板に姿を見せた。月に魅入られているかのように覚束無い足取りで歩くそれに、心配になるなと言う事にこそ無理がある。

 

 「「ナミ」さん」

 

 声が重なり、くそコックも居たのかと漸く気付く。それは相手も同じようで俺に驚いたような視線を向けて来てから、納得したように煙草の煙を吐き出した。

 それから示し合わせたように同時にナミへと歩み寄り、驚くナミのそばに腰を下ろす。

 

 「見張りは良いのか、マリモくん」

 「何かあれば俺が全て切ってやるよ。安心したかダーツくん」

 「辞めなさいよ、アンタ達。全く……」

 

 そう言って持っていた何かを差し出して来るナミに2人して視線を向ける。それに優しく微笑み、軽い調子で座れと示されれば従う他なく大人しく腰を下ろす。

 3人で甲板に腰を下ろせば、ナミが胸元から俺とコックにお猪口を取り出して手渡してくるから、それを受け取った。その直後に注がれた酒は、香りからして上物だとわかるので、良いのかと視線で問いかければ笑って頷かれる。

 

 「今日は中秋の名月だから、お月見しようと思ってたのよ。だからお月見団子も作ったけど……サンジ君に出すのは少し恥ずかしいわ」

 「宝玉が何言ってるんですか。楽しみです」

 「……嫌味?嫌味なの!?」

 

 謙遜とかではなく本気で言ってるのが伝わるナミの言葉に俺とコックは同時に吹き出して、それを見たナミが諦めた様子で溜息をついた。それからゾロの口には合わないかもよ、甘いからなんて言ってるが……とりあえず1つ貰って見る。

 確かに甘いが……嫌いじゃねェ。苦手ではあるがな。

 酒を呑めば恐ろしく美味い。なんだ、このギャップは。

 

 「良いお酒でしょ。クーちゃんに頼んで漸く手に入ったんだから、感謝してよね」

 「ニュースクーって、配達とかしてましたっけ?」

 「私限定で、なんでもやってくれるわよ。長い付き合いだもの」

 

 長い付き合いだからってんなら、大海賊達は全員やって貰えてる筈だろうと思うが今更そんな些細な事を突っ込む意味がねェ。俺の酒が無くなるとそっと注ぎ足してくれるナミだが、その酒は明らかに尋常ではない速度で減っている。

 明らかにナミの呑んでいるペースが早い。月に視線を向けているから、それが度数の高い酒だと言う事を忘れているのではないかと気付けば、コックに目配せして止めさせる。

 それにより呑むのを中断したが、よく分かってない様子だ。団子はコックが興味深そうにしながら食べ続け、色々と質問してそれにナミがなんの衒いも無く答えるのを繰り返し、既に無い。

 酒も残りは僅かだろう。そう思ったら無意識でその酒を奪うように手にして、2人に声を掛ける。

 

 「俺は見張りに戻る。お前らはさっさと寝ろ。どっちも朝早い上に仕事が多いから、見張り免除されてるって自覚持ちやがれ」

 

 俺の言葉に2人は顔を見合わせて、小さく笑うと立ち上がった。コックは去り際に礼とも嫌味とも取れる言葉を残して、ナミは特に何も言わずに部屋へ戻って行く。

 俺が見張り台に戻ると、それから間もなくして誰かが登ってくるのに気付いて視線を向ければナミで、酒を奪い返しに来たのかと思ったら手に同じ酒を持っていてコイツはと思う。

 

 「見張り用にしては足りないでしょ。それと毛布。突然気候が変わる事も少なくないんだから、見張りの時は持って来なきゃ」

 

 そう言って俺の横に毛布と酒を置いてから、その毛布を挟んだ位置に腰を下ろした。まだ月に魅入られているようで、隣にいる俺を見ろと言う言葉の代わりに溜息がもれる。

 

 「月が、綺麗だな」

 

 それなのに俺の口からこぼれ落ちたのは考えている事とは真逆で、自分に対して憤りそうになる。それを受けてナミは遅れて酔いでも回ったのかと言いたくなる程に赤く染まり……挙動不審になる。

 なんだ……?

 

 「あ、りがとう……?え?こういう時、どう返したらいいの?」

 「……ナミ、考えが口から出てるぞ」

 

 1応突っ込んでから少し考える。それにより俺も思い出した。

 そうか……その返事が〝ありがとう〟なら、構わねェよな。

 そう考えるのと同時に、体が勝手に行動を開始する。腕を掴めば細くて、引き寄せれば軽く、抱き締めれば折れそうで……。

 こんな体で戦ってきたのかと思えば、情けなくなって来る。疑った事も含めて、多少では済まない罪悪感と共にナミに噛み付くようなキスをした。

 

 「……返事は受け取った。もう、言葉はいらねェ」

 

 月明かりに照らされたナミが誰か来るかも知れないからと、小さな声で抵抗するのを無視して、俺は漸く触れられた温もりを逃すものかと強く抱き締める。獣じみた行動を取る俺を叱るように月がその光を強めたが、俺をその程度で止める事等出来る筈もねェ。

 甘い吐息をもらすナミの髪を梳くように撫でて、この場で犯す事は流石に出来ねェなと自嘲しつつもその唇だけは俺の物だと奪うように貪る。僅かに離れた唇の隙間で、ナミはそっと囁くように言った。

 

 「月が綺麗ね、ゾロ」

 「あァ、ナミと見る月だからだろうな」

 

 もう黙れと唇を塞げば、見張りの事が疎かになっちまうのも仕方のねェ事だろう。2人を包むように、月上がりが照らしている。

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