季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

31 / 122
お月見(黒足VS海賊狩り)サンジ視点

 キッチンの後片付けを終えた所で、誰かが近付いてくるのを感じた。また摘み食いに来たかと隠れて様子を伺えば、珍しくその場に現れたのはナミさんで、それならば隠れなければ良かったかと思う。

 だが今更どうやって姿を見せればいいかわからねェ。仕方無く隠れたまま様子を見ていると、小さくウサギがどうとか歌い始めるから、余計に出られなくなる。

 なんだか、誤魔化す為についた嘘を隠そうとして、更に嘘を重ねるみたいになってるな。だが……さてどうしたものか。

 その内歌は変わり、悲恋のそれになればいつもの声とは違うそれに本当に彼女は人間なのかと、少し疑わしく思えてくる。美し過ぎるんだよな……その身も心も。

 いっそ天使だとか天女だと言われた方がしっくりくる勢いで、人間離れした美しさと、甘さ。そして知識量を持ち合わせる奇跡の存在。

 魚達から開放された宴で、ナミさんが宝玉だと知ってから宝玉が出した書籍を1通り読ませてもらい、その結果俺はナミさんのその頭の中はどうなっているのかと本気で考えた。レシピは愛用しているから知っていたが、小説の1つがどう考えても俺の過去と類似し過ぎているのもある。

 その他にも偉人録だとか、譜面だとか、食べられる薬草だとか、挙げればキリがない程に出版されて居た。確かに1人で書いてるのではなく、シリーズだとか、種別で違う人間が書いてるのだと思った方がしっくり来る程だ。

 出来ない事等何も無いと言わんばかりに、この船に不足する全ての事を1人で担ってくれている。それがつらかったり不満だったりはしないのかと問い掛けても、元々は1人で全てやっていたからと微笑まれてしまう。

 今はナミさんが言っていたように、仲間に女の子が増えた事でもあるし……。少しでも休めていたら良いと思う反面、ある事に気付く。

 そう言えば、ナミさんはよく未来を知ってるかのような発言や行動を取るな……と。それは大概間違ってないし、ハキの関係だと言われればその能力を持たない俺としてはそうかと言う他ない。

 だが……何だろう、この違和感は。喉に小骨が引っ掛かっているような……。

 歌はいつの間にか終わり、何かを作っていたらしいナミさんはそれを持って外へ出て行った。それにより漸く隠れていた所から出て、この後どうするかと少し考える。

 何を作っていたのかも気になるしと、自分に言い訳してナミさんの後を追えば月明かりに照らされるナミさんの姿が見える。その表情が今にも泣きだしそうに見えて、咄嗟に声をかけると、それが他の声と重なった。

 マリモか……。

 互いに顔を顰めて、けれども同時にナミさんに歩み寄り、その傍に腰を下ろすのも同じタイミングと来れば嫌味の1つも言いたくなる。それにより始まる言い争いを軽くいなして止めるナミさんは、いざ本気になった時強い。

 それは間違いようのない実際だが、俺達がナミさんに手を出せない事を本当は分かっているんじゃないかと思う時がある。それでも理不尽に止める訳でも無いから、それが不満だと言う事も無いんだけどな。

 不満だとするならば、俺もマリモも平等に扱うところだろうか。まァ、ナミさんらしいっちゃらしいんだけど。

 折角ナミさんが作ってくれた団子だと言うのに、1つ食べた他は2度と手をだしもしねェマリモに、ナミさんは楽しそうに笑うばかり。お酒の方が口に合うでしょなんて言って甘やかす。

 ……甘やかされる代表は船長たるルフィで、その甘やかされっぷりは半端じゃねェ。ナミさんの村での宴の時もそうだ。

 ナミさんを背後から抱き締めていたルフィが、そのままナミさんを連れ出そうとしたあの時……。上着を理由にナミさんを引き止めなければ、どうなっていたか。

 ルフィも雄の顔でナミさんを見ているし、マリモは獣じみている。そんな中で何も気付かない様子でのほほんとしているナミさんが、心配でならねェ。

 目の届く範囲では庇い守るつもりだが、警戒心が足りなさ過ぎる。そもそも距離感が近すぎるんだ。

 そんな事を考えているのに、口は団子の事を根掘り葉掘りナミさんから聞き出していて、それを厭う事もなく答え続けてくれる。料理人から見たら、レシピは大きな財産だろうに。

 全く気にしていない様子なのだから、強いと思う。単純に料理人じゃないのだと言われても、それだけで大公開出来るかと言われたら普通出来ないだろう。

 同じ船に乗ってから、俺の知らないレシピ本にも出会えた。俺がそれを見ていたら、持ってないのはあげるから使ってと微笑まれたのはつい先日の事だ。

 その中には、オーブンを使わずに作れる焼き菓子特集もあった。なのでそれの試作品をビビちゃんに提供しつつ、ナミさんに意見を聞くのが最近の楽しみだったりする。

 本の冒頭にあった〝パンケーキとホットケーキとケーキの違いは、焼く機材の違いです。パンケーキはフライパンや鉄板、ホットケーキはホットプレート、ケーキはオーブンで焼いた物です。〟と、書かれていたのには吹いたけど、全くもって言われてみればその通りだ。

 イメージとしてはパンケーキと書かれていたら、可愛く果物などでデコレーションされていそうだが、実際は違う。そういう意味では飲食店の表示に、偽りありだよなと思う。

 

 「……お前ら」

 

 突然マリモがそう言って声を掛けてきたと思ったら、残り僅かな酒を手に立ち去って行く。それがマリモなりに気遣ってくれているのが分かるからこそ、やりにくいと思っちまう。

 素直に礼を言い合える関係でもねェから、つい嫌味の応酬になるがナミさんの貴重な酒を貰えたんだから充分だろとも思う。……団子の大半は、俺が食ったんだけどな。

 見れば洗い物を纏めてナミさんがキッチンに向かう所で、俺は慌てて追いかけようとして先にマリモに毛布と酒を運んでやる事にした。

 

 「ほれ、寝るなよ?」

 「おゥ、ありがとう。……コック、ナミの事だが……」

 

 言葉を切るマリモに俺は溜息を落とす。それから互いに無言で睨み合い、双方が本気だと知ってしまう。

 ここで抜け駆け禁止なんだからっ!とか言われたら蹴り飛ばしてやるが、そんな事を言い出す筈もねェから、互いに無言で視線を逸らす。見張り台から降りた俺はキッチンの様子を覗き、片付けが終わったところらしいナミさんに声を掛ける。

 

 「任せちまって悪か……すみません。本当は俺がやるべきだったのに」

 「他の皆に言うみたいに話しても構わないわよ。それに、ゾロに毛布運んでたんでしょ。気にしないで」

 

 微笑みながら、窓から見える月に視線を向けたナミさんに俺は言う。その横顔が綺麗で、つい見惚れちまう。

 

 「ナミさんと見る月は、1人で見るよりずっと綺麗でした。大切だから、口調も変えて特別なのだと伝えているつもりなので、このままでいさせてください」

 

 言葉は口から勝手に滑り落ちる。それを受けてナミさんは暗くても分かる程に赤くなり、数歩下がった。

 それにどうしたのかと1瞬考えて、発した言葉の持つ別な意味に気が付く。赤くなっていて、拒否しないって事は、期待しても良いんですか?

 内心で問いかけながら距離を詰めると、戸惑いを強く見せてからそっとその手を差し出して来た。その手を掴めば細くて、けれども意味が分からずにナミさんを見れば、困ったように微笑まれた。

 

 「私、そんなにお綺麗じゃないし、面倒な奴だと思うの。それでも……?」

 「勿論、ナミさんが欲しいです」

 

 不安そうにしているならば、少し強引な位で押して見せなければと即座に答えてから、そっと触れるような口付けを交わす。男部屋は論外で、女部屋にはビビちゃんが寝ているから……そんな言い訳を脳内でしながら、その細い腰を抱き寄せる。

 

 「今は、俺だけを見ていてください。優しく、しますから」

 

 俺の言葉に小さく頷いたナミさんと俺の影がその場で重なったのは、不可抗力だろう。月と太陽が引き合うように、俺とナミさんも惹きあっていたのだから。

 そっと触れた素肌が滑らかで、柑橘類の香りを漂わせるナミさんに魅せられる。このまま永遠に離れたくねェと思った時、その艶やかな唇が動いた。

 

 「月が綺麗ね、サンジ君」

 「俺も、同じ気持ちです」

 

 2人の心と体が2度と離れなければ良いと願うように思ったのは、それだけ離し難く思えたからだ。2人のその後は、当人達の他は月だけが見ていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。