季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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お月見(天夜叉ドフラミンゴ)

 部屋に近付くと声が聞こえた。俺が持って行った物はなんとか食べるようになったが、基本的に水さえ他の誰かの運んだ物は口にしようとしないナミの為に、キッチンを部屋の中に作らせたのは最近の事だ。

 何かを作りながら、1人で騒いでいるのだろうとは分かるが、何が起きているのかと思いつつドアを開ける。すると、ナミは何かを作りながら歌っていた。

 聞けばそれは男が愛する誰かを亡くした歌のようで、ピンクが聞いたら号泣しそうだと妙に冷静に思う。本当に、何もしないという事を出来ない女だなと思えば、笑えて来る。

 歌い終えたナミは酒と何かを持ってバルコニーへ向かうと、月明かりに照らされるそこで呆然と月を見上げた。それはまるで1枚の絵画のような風体で、それに息を飲むのと同時に生きているのか不安になってくる。

 近付いても反応しないナミを抱き締めれば、盛大に驚かれてしまったが、生きているのが分かれば取り敢えずはそれでいい。お前は、俺のものだ。

 

 「何をしていたんだ?」

 「月を……見ていたの。秋の満月を見て、お団子食べて、お酒を呑むって風習が……遠い異国であるって聞いていたから、何となく」

 「なら、俺も参加してやろう」

 「……忙しいんじゃないの?」

 

 心配そうに俺を見るナミは、俺がJOKERである事も知っている筈なのに、まるで仕事に疲れた善人に言うようにそんな言葉を口にする。それがむず痒く感じるのは、そういったものから離れて久しいからだろうか。

 

 「ナミと酒を呑む時間くらい作れるさ」

 「ありがとう」

 

 言いながら床にペタリと座ったナミは、団子を目の前に置いて胸元から取り出したお猪口を差し出してくる。……何処から出してるんだお前はと言いたくなるのを堪えて、それを受け取れば当然のように酒を注ぐ。

 自らのそれにも注いでから、ナミは酒に映る月を見て小さく笑った。それがどうしてか悲哀を含んで見えたのだが、その理由は不明だ。

 だからと言って無理に問い詰めても恐らくは何も吐かないだろう事は、すでにわかっている。本気で拷問にかけたとしても、1度決めた事は曲げずに何があっても変えない頑固さは、その命を縮める結果しか見えはしないが……。

 そんな思考を誤魔化すように酒を僅かに口に含み、月を見上げればただ、眩しいだけ。なんの価値も見い出せそうもねェ。

 それでもナミを1人でこんな所に座らせて置く事もしたくはねェし、邪魔するつもりもない。今回作っていたこれは何だろうかと手を伸ばして口にした団子は、甘い。

 酒が辛口で無ければ食えたもんじゃねェなと思うが、味その物は悪くない。いつもナミが作る物は、ある程度以上の完成度を誇る。

 それをその道のプロに横流しのように与えれば、更に改良されて出回る訳で、それを怒るどころか喜べるナミは中々に珍しい生き物だろう。月を見上げるナミは、輝き姫だかとか言う作品を思わせる。

 迎えに来る奴がいたら、切り刻んで始末してやると思い、同時にナミの事は縛り上げてでも手元に残してやると誓う。その時鈴が鳴るような声でナミが言った。

 

 「……ドフィ、月が綺麗ね」

 

 そうして儚く微笑むナミに、俺はん?と思う。……そういう事か、珍しい事を言う。

 

 「そうだな、ナミと見る月は綺麗だ」

 

 返してやれば酒で酔う筈も無い女が、まだ1滴も飲んでない筈なのにその顔を……いや、首筋までもを赤く染めて俺を見る。何が仕事で役立つか分からないからと、本はよく読むが……こんな形で役立つとは思わなかった。

 

 「それで……直接的な言葉は、言ってくれねェのか?子猫ちゃん?」

 

 ニンマリと笑えばナミは月ごと酒を呑み、目元をほんのりと赤く染めて隣に座っていた俺に抱き着いてきた。その細い身体が震えているのを、気付けない程に鈍くは無いが、その震えの原因が分からねェ。

 

 「……ドフィに、伝わると……思って無かった……の」

 「……ナミは、俺を何だと思ってるんだ。取引に何が役立つとも限らねェんだから、文学に触れるくらいする」

 

 言ってその顔を隠すように落ちている髪を救い上げれば、真っ赤に茹で上がったナミが見えて、完熟のこれを食べない理由が既に思い浮かばない。その時ナミが不意に視線を上げて、俺の顔に自らの顔を近付けると、頬に触れる程度の口付けを残す。

 

 「……こ、れが、限界です!」

 

 初心すぎる反応に、こちらにまでその照れが伝染する。これは感染率の高い病のようだと頭の片隅で思いながら、逃げようとするナミの腰を抱いてその場に押し倒す。

 それの意味が分からない程に幼くもなく、それなりに身体を重ねて来ているからか、これからの事が分からない程経験がない訳でも無い。だがいつもなら外は嫌だと暴れるだろうに、今宵に限っては静かに微笑みを浮かべられた。

 

 「ドフィって、綺麗よね……」

 「初めて受けた評価だな。だが……ナミが隣に居なければ美しくも無い月よりも、俺にはナミ本人の方が、綺麗だと思うぞ」

 「……っ!心にも、無いくせに」

 

 そう言って恨みがましい視線を、けれども恥ずかしそうに向けてくるから、俺はそれに小さく笑う。本当にいい女で、可愛い子猫だ。

 俺は自らが溺れていると自覚しながらも、壊したくなる衝動を抑えて、壊れないギリギリまで愛してやろうとナミの首筋に食らいついた。それを満月が咎めるように照らしていたが、俺を止める事など出来はしない。

 甘いのは団子か、酒か、それとも……ナミのすべてか。飢えて渇いた心と身体が満たされるまで、俺に珍しく〝愛している〟なんぞと伝え、またそれを返させた奇跡の子猫を手放す事は無い。

 

 「月が綺麗ね、ドフィ」

 

 震える声で繰り返されたそれに、そうだなと答えて唇を重ねる。月がどれ程美しくとも、それを凌駕する美しい存在を腕に抱く男に、空に輝くだけの存在は、既になんの意味もなさないだろう。

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