季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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お月見(ハートの副船長ロシナンテ)

 どうせまだ起きているだろうと、暖かいお茶を手にナミの部屋へ向かったが部屋には明かりが無く、まさか寝ているのかと奇跡を信じてそっと部屋を覗いた。だが部屋には誰も居らず、ベッドを見ても使われた形跡が無い。

 こんな時間に何処へと机にお茶のセットを置いてから部屋を出れば、微かに歌声が聞こえてきた。どうやら何処かで歌っているらしい。

 ナミは暇があると何かを歌う。もしくは何かを書いている。

 何もしていない時間の無いナミは、睡眠時間がそもそも足りて無いのでは無いかと思う。いつも忙しなく動き続けているナミが、のんびりと過ごすのはお茶を用意した時くらいなものだ。

 ただしそれは信頼しきってる相手からの物か、自分で用意した物。それしかナミは口にしないのだから、どうしたら休ませられるかと考えてしまうのも無理のない話だろう。

 ……心配になるのは、どれ程言い訳して見ても結局は惚れてるからという1言に集約される。どうしたって俺は、ナミが愛しい。

 声を辿り厨房に到着すると、ナミの歌声の声が変わった。低く落ち着いたその声が悲痛な想いを歌うのを聞いて、抱き締めて甘やかしたくなる。

 俺がいるだろうと。だが、声に出す事はできなかった。

 歳下であるにも関わらず、幼い子供を甘やかすようにナミは俺を甘やかすから、俺はいつも庇われてばかりのような気がしている。だが同時にその危うい強さにいつもハラハラさせられ、それを解決する方法は分からない。

 いつ崩れ落ちるかわからないような恐怖を抱かされちまうのは、ナミが遠くを見つめる事が多いからだろうか。ガラス細工の人形のように美しくて、だからこそ危うく見える。

 実際はクリスタルかダイヤで出来ているのだろうが、見た目がガラスなのだからどうにもならない。守りたい、失いたくない、大切な存在なんだ。

 歌声が止むのと同時に甲板へ向かうナミを追って外に出れば、月明かりの中に佇むその姿が1瞬ぼやけて見えた。そのままナミが消えるのではないかと言う恐怖にかられて、思わず掴んだ腕はしっかりとそこにナミがいる事を伝えてくれる。

 

 「ロシー?どうしたの?」

 「月明かりにナミが溶けて消える気がした」

 「私は人間だから、月光に同化するとか出来ないわよ。大丈夫、ちゃんとここにいるわ」

 

 そう言って手にしていた酒と団子を近くに置くと、優しく俺に抱き付いてくれる。腰に回された腕が、細くて……年齢も身長も半分しか無い少女に、俺は甘え過ぎている。

 だからこそ、不安になる。誰かにいつか奪われるのでは無いかと。

 もしも兄上にナミの存在が知られれば、確実に狙われる。だから隠したいと言うのに、ナミは光り輝き存在を隠す事も出来はしない。

 

 「こんな夜中に、何してたんだ?」

 「お月見よ。月見酒、1緒にどう?」

 

 道徳的に出来ないかしらなんて囁くナミに、俺はそんな物を持ち合わせているのならばナミの恋人にはなれないだろうと言い、小さく笑いながらその場に座る。それだけで通じたのか、ナミは胸元から取り出したお猪口を俺に差し出して来た。

 それに酒を注ぐと、目の前に先程作っていたらしい団子を移動させて来た。それにそっと手を伸ばして注がれた酒と団子を口にしてみる。

 酒は少し辛めだが、団子が異様に美味い。俺の好きな味だと思っていたら、ナミがお子様ねと小さく笑った。

 

 「私はお酒の方がおいしいと思うのに、そんなに気に入ったなら、また作るわよ?」

 「ナミの作る物に勝る物なんて、そうそうある訳が無いだろう」

 

 本心から言うのに、ナミは口が上手いのねと言って信じようとしない。月は眩しい程で、明かりも必要としないだろう。

 これならば確かに、甲板で夜本を読むナミを見かけるのもわからなくは無い。どうしたって船である以上は、木製でなくとも火は極力使いたく無いのだ。

 

 「月が、綺麗だな」

 

 俺が団子片手に呟くとナミが珍しく手にしていた酒を落とした。どうしたのかと視線を向けると、真っ赤になっていてそれ程強い酒だったかと首を傾げる。

 そんな俺に湯気まで出そうな程に赤くなったナミが小さく呟く。

 

 「わかってるのに、ロシーが意味を知る筈無いって……なのに、私情け無い」

 

 そのまま顔を隠してしまうナミのその姿に、残念な気持ちになる。折角の綺麗なその姿をどうして隠してしまうのか。

 

 「月が秋雲の陰に隠れては、月見酒ともいかなくなる。その(かんばせ)を隠さないでくれないか?」

 「……っ!月って私の事!?」

 

 言って顔を上げたナミが愛らしくて、思わず唇を重ねれば甘い吐息で応えてくれる。それに夢中になって貪れば、呼吸の為に離れた僅かな隙間で静止してくるナミを抱きしめ、どうしたのかと問い掛けた。

 

 「誰かに、見られたら……だから、恥ずかしいか」

 

 言葉はもういらないと、再びその言葉ごと唇を奪えば、微かな喘ぎがナミから漏れる。誰に見られたとしても、口付け程度なら構いはしない。

 素肌を晒させるつもりは無いが、口付けならば牽制にしかならない。だから……何も考えずに、俺に溺れてくれ。

 そんな想いでナミを貪れば、俺に縋るように手を伸ばしてくれるから、それだけで調子に乗る。口付けを繰り返しながら、先程の意味をわかってないと言っていた意味について考えれば、遅ればせながら気付く。

 唇の僅かな隙間から、直接的な言葉を紡ぐ。

 

 「愛してる。そう、直接言った方が良かったか?」

 

 俺の言葉にナミは耳まで赤くして、小さく呟いた。微かに期待する色を、その瞳に宿して。

 

 「意味、わかってて?」

 「あァ、勿論だ」

 

 言った時はそんなつもりはなかったが、今はそんなつもりしかない。だから、そう平気で嘘を重ねて俺はナミの唇を奪いつつその体を抱き上げる。

 続きは月明かりにも覗けない所で、ゆっくりと堪能したいと思ったから。それに対してナミはやはり受け入れてくれる。

 甘やかしてくれると言うのならば、それはこれからも甘受しよう。そう思った瞬間に、ナミが甘やかな声を響かせた。

 

 「月が綺麗ね、ロシー」

 「そうだな。だが、ナミはその月が嫉妬しそうな程に美しい」

 

 奪われるのが怖いなら、強くなって守ればいい。ナミは誰にも、渡さない。

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