季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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お月見(不死鳥マルコ)

 部屋の前に立つと、珍しく灯りが見えなくておや?と思う。ドアを開けてみると中に人は居ない。

 珍しい事もあるもんだと、こんな事で使うと馬鹿にされそうだがナミの居場所を確認する為に見聞色を用いる。すると何故か厨房にいるのが分かり、足を向けた。

 これで風呂場ならば何も気にならねェし、たまに海に潜ってたりするから心配にもなる。本当に、人魚みたいな女だよぃ。

 たまに変わったものを作る事のあるナミだから、また何か試作品でも作っているのかと思っていたが、近付くと声が聞こえる。それは誰かと会話しているのではなく、歌っているのだと気づいた時にはその歌声と歌詞に足が止まっていた。

 女に先立たれた男の悲恋か。これまでに聞いた事がないから、新曲か随分前に出した曲かだろうねぃ。

 女は月光花と似ていたのかと、そんな事を思う。その時ふとナミを花に例える事が出来るのかと考えて……無理だと悟る。

 この世のどんな花でもナミと並べれば見劣りする。そんなのは分かりきっているのだから、例える事等出来る筈もねェんだよなぃ。

 歌い終えるのと同時に、完成したらしい何かを持って甲板へと向かうナミを見て、誰かと会う予定でもあるのかと様子を伺う。けれども誰かが姿を見せる様子は無く、1人で月見をしているのだと分かる。

 ただ、その姿が海賊とは全く違う存在に思えて、月に奪われるような気がして慌てて声をかけてしまう。美し過ぎるそれにより、不安になる。

 

 「ナミ」

 

 それに驚いた様子で振り向いたナミは、その場でぺたりと座り俺を視線で招く。こんな時、仲間なのだなと思わされる。

 視線だけで会話が成り立つ事は、信頼出来る仲間の証であるような気がするのだ。まァ、仲間になる前からナミには俺の言いたい事が何故か伝わってたがねぃ……ただし、恋愛関係を除く。

 促されるままに腰を下ろせば、当然のように胸元から取り出したお猪口を俺に差し出すから、この無防備さだけは心配だと常々思ってしまう。そして、当然のように注がれた酒はいい酒で、何処に隠してたんだと少し思う。

 

 「久々に作ったから、味の保証しないけど……良かったらどうぞ」

 「なんだって団子なんだよぃ?」

 「お月見にはお団子とススキ飾ってお酒呑むのが、何となくセットなんです」

 「まァ、ナミが楽しめるなら、それでいいよぃ」

 

 俺の言葉にクスクスと笑うナミは、本当に綺麗だ。はじめて手紙を貰った時から、ずっと想ってきた相手なのだから、仕方ないかと小さく笑い、月を見上げるナミに声をかける。

 

 「綺麗だねぃ」

 「本当に……って、マルコ、月見てないじゃない」

 「そりゃァ、綺麗なのはナミだからねぃ」

 

 その瞬間、天然タラシとボソリと呟いたナミに、お前限定だよぃと内心で笑う。ナミに関しては、親父相手でも悋気を起こすというのに、当人は全く理解していない。

 団子を口にしてみれば、思っていたような甘さではなく何処かワノ国を思い起こさせる。くどく無くて食べやすい。

 

 「本当にナミはなんでも出来るねぃ」

 「そんな事ないわよ。なんにも出来ない。学校で習ったり趣味で調べた事の全てを覚えていて出来ていたら、今頃もっと色々出来たんだろうけど……情けないわ」

 「読んだ本の内容全て暗記出来ないからって、情けなくねェのと同じで、全くもって情けなくねェよぃ。ナミは自己評価が低過ぎるよぃ」

 

 そう言って酒に手を伸ばせば、ナミは不思議そうに俺を見てから、小さくありがとうと言った。はにかんだその笑顔が見られるなら、こんな夜も悪くはねェなぃ。

 そう思った時、ふと思い出して月を見上げると唐突に言葉を向ける。

 

 「今夜の月は綺麗だねぃ」

 

 その瞬間酒のせいとは思えない程に赤く染まったナミは、小さくその手を震わせる。やはり、通じたか。

 

 「……さっき、月よりどうこう、言ってた、クセに」

 「それでも、月が綺麗である事に間違いはないだろぃ?」

 「そう、ね……」

 

 手の甲まで赤く染めたナミは鉄扇で優雅に自らに風を送る。……それ、確か、12キロあった気がするんだがねぃ?

 

 「隣にナミがいる限り、月は綺麗だよぃ」

 

 俺の言葉の意味から逃げられない事を悟ったらしいナミは鉄扇をしまうと、バカと言いながら俺に両腕を伸ばしてくる。

 

 「私も、同じ想いよ」

 

 消え入りそうな声で、俺に抱き着いてそんな事を言ったナミのつむじに唇を落として、俺は笑う。こんなにも愛しい存在には、きっとこれから先出逢う事は無いだろう。

 そう自然に思える程に、ナミは特別な存在だ。だから俺は月に言葉を託すのを辞めて、その耳元で直接的な言葉を落とす。

 

 「ナミを愛してるよぃ。このまま部屋に閉じ込めて、もう2度と、誰にも会わせたくないと思うくらいに、ねぃ……」

 「マルコの部屋、毎日人の出入りあるから無理よ」

 「……現実的だねぃ」

 「それでも、今夜は……もう誰も来ないわ」

 

 その言葉の意味が分からないような愚鈍では無い為に、俺は酒も団子もそのままにナミを抱き上げて部屋へと戻る事にした。その為にナミを抱き上げると、そっとナミが耳元で囁く。

 

 「月が綺麗ね、マルコ」

 

 艶やかに微笑んだナミに、魅入られて堕とされる。月には呑みかけの酒と団子を供えてやるから、ナミは取るなと軽く月を睨み付けてから、全速力で部屋へと連れ帰った。

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