ロビンちゃんを取り戻して、船が新しくなって、夢にまで見た鍵付き冷蔵庫も手に入れた。航海も順調と言えるだろうが、何処と無く気の抜けた少し暑い日。
先程まで2人で甲板に居た筈の美女が1人に減っていて、取り敢えずロビンちゃんに飲み物を提供しようと近付けば、その机には本が積み上げられていてロビンちゃんが真剣な表情でそれを読んでいる。良く見れば全てナミさんの文字で書かれているのがわかりロビンちゃんに視線を向けると、ロビンちゃんの視線が俺に向いた。
「ナミの書いたこの船の備品管理記録がこれ、そっちのは航海日誌、それからあの辺は巡った島と航路の地図と海図を簡易的に纏めた物ね。他にも色々あるけど……どれに興味があるのかしら?」
「ナミさんの居場所かな。飲物が汗をかきはじめたからね」
俺がおどけて答えればロビンちゃんは視線を船内へ向ける。それからもう少しで出て来るから待ってたらいいわと言うので、それに従う事にした。
それから時を置かずに本当に姿を見せたナミさんは美しく、そしてどこか儚い印象を与える。そして、迷わずにルフィの元へ行くと何かを話しているのでそちらへ足を向ける。
会話の内容としては、宴を開くというものでその内容に合わせた料理を作らなければならないからと話に参加すれば、ナミさんはふわりと笑って俺とルフィに趣旨を説明してくれる。それは簡単なイベントでそれならばと受け入れようとしたその時、マリモが何かを見付けたと上から叫んだ。
降りてきたマリモも含めて中身が何かと話していたら、ナミさんが中身は酒だと言うので宴に丁度いいと笑い合った。その時ナミさんが1冊の本を俺に差し出すから無意識で受け取ったが、その内容はレシピとなっている。
「私が知ってる範囲のものだから、大した物は無いけど、サンジ君ならこれアレンジしてもっと美味しいものに作り直せると思って」
挿絵付きのレシピ本は説明もわかり易く、俺はそれについ見入る。マリモはそんな俺とナミさんに近付くと俺には何もねェのかと意味のわからない事を言い出す。
それに対して俺があってたまるかと言おうとしたところで、ナミさんがちょっとまっててと言うから何かあるらしいとわかる。それは流石にマリモも想定外だったのか頭をかいているので、これはナミさんの完全勝利だなと何故か嬉しくなってほくそ笑む。
戻って来たナミさんは1冊の本をマリモに差し出して、ニッコリと笑う。
「ストレッチの本よ。筋肉が硬いといざと言う時に上手く動かなくなるから、鍛えるだけじゃなくてたまにはストレッチしてみたら?案外いいものよ」
「……この文字は」
マリモが呟くのもわかる。明らかにナミさんの文字だ。
ただし、いつも見ている文字とは少し違う。それに対して古いものだからと笑うが、いくつの時に書いたんだよと恐らく俺とマリモの気持ちはシンクロしただろう。
そう言えば先程ロビンちゃんは他にも色々あるような事を言っていたが、他にはどんな本があるのだろうか。それとなく聞いておこうかとロビンちゃんに視線を向けてみると、ロビンちゃんが笑いながら近付いてくる。
「目録、作ったから貸してあげましょうか?ナミは万能よね……。この間古代文字の読書を教えて欲しいと言われたわ」
「アイツ、何を目指してんだ?」
マリモの呟きは俺とロビンちゃんを無意識で頷かせるものだった。その直後酒樽を開けた俺達は、そこから閃光弾が飛び出したのを見て警戒するが、ナミさんはそれを妙に冷静に見ていた。
「……このタイミングで?最悪」
その呟きの直後嵐に追い掛けられて暗い霧の中へと船は移動を余儀なくされた。あの嵐を意味していたのかと、あの呟きについて思いを馳せながら食事の支度をする。
この暗闇でも宴を中止にはしないだろうと、ルフィの顔を思い浮かべれば当然と言える。そんな俺の元へ幽霊船だと言う声が聞こえてきて、残りは仕上げだけだからと外に出てみれば確かに幽霊船がそこにはある。
煙草に火を付けて少し気持ちを落ち着けてみたところで、動いている骨を見れば冷静でなど居られる筈もない。そんな俺の横でお化け類が怖い筈なのに、妙に冷静なナミさんがいて不思議に思う。
厳選なるくじ引きの結果ルフィのお供は俺とナミさんに決まり、骸骨を仲間に引き連れて俺達は船へと凱旋した。ナミさんは良くこの服で動き回れると思ったら、足元を大きく割開きその白い足を大胆に見せながら登ったり降りたりしていた。
そして、なんの衒いも無く短冊を骨にも差し出して、これから宴なのちょうど良かったわねなんて笑う。それから願いを書いて燃やすと願いが叶うと言うオマジナイなのよと言えば、骨は微かに震える手で短冊を受け取った。
それは何かの儀式のようにさえ思えて、誰も声も出せない。そこで彼女が大きなミスを犯した事を除けば、概ね問題は何も無かったと言えるだろう。
「本当の願い書いてもいいと思うのよ。多分ブルックが諦めているような願いも、きっと叶うと思うから」
そう、ナミさんは骨を当然のようにブルックと呼んだ。それに骨は反応して、小さく名前と呟くとナミさんは1瞬動きを止めて深呼吸してから、その唇を開いた。
「……鼻唄のブルック、ルンバー海賊団船長でしょう?」
「古い手配書も目を通しておいででしたか。それにしても良く分かりましたね」
その会話を聞きながら、違うと思わず叫びそうになった。恐らくナミさんは知っていたのだろう。
そうでなければ、深呼吸してから口を開く必要なんて無かった筈だ。この船でナミさんを好きな奴は全員気付いてる癖、感情の乱れを抑える為にやるのは深呼吸。
その深呼吸はいつも息を吐き出す時に肩の力を抜く。だから、分かってしまう。
それから行われた宴で全員が楽しみつつ骨の話を聞いて、骨が飛び出すとナミさんは塩を準備して全員に持たせてくる。どこか遠くを見る君を、俺はここに繋ぎ止めたくて抱き締める。
それを驚いたように見てから、困ったように笑って頭を撫でてくるのはナミさんの甘さか。そこで何故か横から蹴りが入って、そちらに視線を向ければマリモがいて大喧嘩になる。
それは互いにその眼を見ればわかる。ナミさんに近付くなと、触れるなという意味を込めていると。
無言で繰り出されるマリモの刀と、俺の足。それを止めるのはいつもナミさんで、咄嗟に足を引いた俺と違い勢いを止められなかったマリモの刀がナミさんに振り下ろされる。
それを確かに俺達は見た筈だったのに、ナミさんはそれを躱していたようで平然とその場に立っている。それから肩を震わせるマリモに近づいて、その頭を抱き寄せる。
「……ごめん、怖い思いさせたわね。私は大丈夫よ。ごめんなさい」
マリモの気持ちは痛い程にわかる。そうなると不思議なのはナミさんだが……無事で良かったと心から思う。
恐らくこれからも俺とマリモの戦いは続くだろうが、その審判をするべき女神は今も尚多くの謎に包まれている。