季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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お月見(赤髪のシャンクス)

 夜中にある筈の温もりが無くて目を覚ませば、案の定抱き枕が行方不明になっている。残り香やベッドにあるほのかな温もりが、傍を離れてそれ程時が流れていないと教えてくる。

 別室をベックが用意したが、実際には俺がナミの部屋で共に寝るか、無理矢理俺の部屋に連れ込んで寝る為にナミが1人で寝ているのは、数える程だ。正確にはナミの体調が悪い時の他は、毎晩1緒に寝ている。

 幼い頃から、抱いていると安眠効果の高い存在だと思っていたが、最近は特に顕著だ。隣にナミが居ないとそもそも寝付けない程に、俺の心は蝕まれている。

 だからだろうか、時折水を飲みに起きたナミに合わせて目覚めてしまうのは。無論ナミが突然飛び起きた時の七割が、天候の異変によるものであるのも理由の1つにはなるだろうが……。

 ベッドから降りてナミを求めるように外へ出れば、甲板で煙草を吸っているベックの姿を見付けた。ベックは俺を見ると呆れたような様子で溜息を落としてから、食堂を親指で示す。

 それに頷いて近付けばナミの歌声が聞こえて来た。ウサギが跳ねると歌うその声は穏やかで、様子を見れば何かを作っているのがわかる。

 その内に歌が変わり、低い声で絶望と後悔を歌うそれに、海賊らしさは無い。仮とは言え俺達と共に6~7歳の頃から海賊の1員として生きてきて、その後は10歳の頃から単独で海賊をして来た筈なのに、何故こんなにもお上品なのか。

 俺だとて亡くした友の数も、仲間の数も、既に数えるのが嫌になる程で……だからこそ、友や仲間を大切にして来た。だからなのか、ナミの歌声がやけに胸を揺さぶるのは。

 歌声が止むと同時に動き出したナミは、当然のように甲板へ向かうから俺も後について外へ出た。甲板で1人腰を下ろしたナミは、呆然とした様子で空を見上げている。

 もしもまた先程のような歌を歌うのならば、それは止めるべきだろうと近付けば、その横顔が泣いているように見えて慌ててその肩を掴む。振り向いたナミは驚いたような顔をしてはいても、泣いてはいない。

 

 「シャンクス……?どうしたの、そんなに慌てて」

 「ナミの歌声が聞こえたから、何かあったのかと思っただけだ」

 

 嘘ではないが真実でもない答えを告げれば、ナミは恥ずかしそうにその目元を赤く染める。それから、小さくお耳汚しをなんて言うから、その目尻にそっと口付けを落とす。

 

 「歌うのは構わねェが、ちと歌詞も暗かったからな」

 「歌の半数は暗いものよ。でも、気を付けるわ」

 

 そう言いながらナミは俺に胸元から取り出したお猪口を差し出すから、無意識でそれを受け取る。そっと酒を注がれて、酒に映る月を眺めていればナミがポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 お月見という風習があると聞いて、用意出来る物だけではあるが整えたのだと笑うナミの手元にも、同じ酒がある。それに映る月を見詰めてナミは微かな笑みを浮かべるが、これがまたその年齢に似合わぬ寂しげなもの。

 

 「ナミ?」

 「きっと、好きだったんだわ。だから、思い出に縋ってるのね。月は……同じように見えるから」

 

 誰を、好きだったと言うのか。そんな顔をさせる相手を作らせるくらいならば、手放さなければ良かった。

 あの時、泣き崩れたナミをそのまま部屋に閉じ込めてしまえば良かった。そうすれば、そんな顔をさせる事は無かっただろう。

 

 「そんなに、愛していたのか?」

 

 思わず口にした言葉に、ナミは穏やかに微笑む。それからうーんと言いながら、年相応な顔で考え込んだ。

 

 「そうね、きっと、愛していたのだと思うわ。平和でぬるま湯みたいな、桃源郷を……住んでた時は不満しか無かった気がするのに、不思議ね」

 「……男の話じゃないのか?」

 

 俺の問い掛けにナミは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で俺を見てから、吹き出した。それから微かにはにかんで、ナミの作ったであろう団子を差し出してくる。

 

 「私が月を見て綺麗だと思う時は、いつも隣にシャンクスがいるわ」

 

 その言葉が真実か偽りかはこの際どうでも良い。その言葉がナミから囁かれた事に意味がある。

 今、差し出された団子を食ってる場合かと思いながら、何と返すべきか考える間を持たせる為に団子を口にする。それがまた、美味いから言葉が上手く出てこなくなり困っちまう。

 まさか、そういう作戦なのか。いや、そもそも俺の気持ちに気付かねェんだから、そんな訳ねェよな。

 

 「ナミ、俺もだ」

 

 絞り出せた返事がこれかと情けなくなる俺に、ナミは瞬間的に湯だった。どうやらこの抱き枕は、自分が言う事に問題は無い癖して、何か言われる事に対する耐性が無いらしい。

 

 「そろそろ、抱き枕から俺の女に昇格してみるか?」

 

 俺の問い掛けにこれ以上ない程に赤く染まったナミはその口をパクパクと動かすから、どうやら愛されていたらしいと気付く。1方通行だと思っていたが……違っていたならば、遠慮はいらねェか。

 

 「ナミ、今夜の月は綺麗だな」

 「シャンクス……」

 「返事は……くれねェつもりか?」

 「月が綺麗ね、シャンクス」

 

 その言葉が何を意味するのか、俺達は互いに嫌という程にわかっている。だからこそ、躊躇いさえ無くその場で2人の影は重なった。

 もう、言葉はいらない。ただ、互いの存在があれば、それだけで構わないのだから。

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