いつものようにカリカリと何かを描いているその姿を見て、手元にある手紙を見る。それによると、どうやら明日まで好きにさせてくれと言いたいらしいと理解は出来た。
だがそれを、はいはいいいですよ……とは行かねェんだがなぃ。無理する傾向のあるナミだからこそ、許す事はできねェ。
……そう思うのに、真剣な顔を見てしまえば邪魔するなんて事は出来る筈もないと思わされちまう。机に向かっている時と、海を相手にしている時の凛々しさは、迂闊に触れる事など許されない。
仕方ないかと溜息を落としつつ書いてある物を元にして、親父やサッチと相談する事にする。1人で勝手に決められる内容でも無いからねぃ。
見た事も聞いた事もないような、食べ物について書かれている所にサッチが食い付く。親父は金銭管理を俺に1任しているのだから、気にせず好きにやれと言う。
だから、後は俺の管轄になる。ならばと思ってナース達に話を持って行けば、仮装に反応して大騒ぎだ。
特に大きく金のかかるイベントでも無し、各自自分の金で自分の物を用意させるのであれば船として用意するべきは食事位なものだ。前日に知ったとは言え、もうすぐ島に着く訳だからと、小さく笑いながらこのイベントをやる方向で動きを進めて行く。
色々な事が区切りになる頃には空は白んでいて、少しでも寝ておくかと部屋に戻ればまだ机に向かっている愚か者が見えた。……さァて、この愚かな猫を……どうしてやろうかねぃ。
その時俺の視線に気付いたのか顔をあげたナミは、少し考えるような仕草をする。どうやら今になって徹夜した事に気付いたらしい。
素直に寝るならば良し、もしくはシャワーなら。だが違うならこちらもそれ相応の……と考えた所で、何を考えているのかナミは机に向かいペンを手にしたので、その頭にチョップを入れておく。
涙目で振り向いたナミは可愛いが、それで許す訳にもいかない。……仕方ないねぃ。
「……お仕置き、だねぃ」
「や……やだ!マルコ、待って考え直して!」
「駄目だよぃ。今回はナースの着せ替え人形にでもなって来るといいよぃ」
「いやー!!」
この世の終わりのような声をあげるナミに、学習しない子だとこんな時は思う。ナース達もいつも同じような姿のナミを着飾りたいと思っているらしい。
だからこそ、こうして好きに着せ替えて構わないと言えば、問答無用でもみくちゃにされるのだ。人との触れ合いをどうしたらいいのかと戸惑う事も多いナミを思えば、その悲痛さも分からなくはない。
だが……いじられ倒されたナミの姿は可愛かったり、妖艶だったりして目の保養にはなる。特に今回は仮装だからねぃ。
嫌がって暴れるのを抑え込みつつ、ナース達に事情を話して好きにしろと言いてナースに押し付けた。その流れで、後ろ手に閉めるとドアの向こうから哀願するナミの悲鳴が聞こえて来る。
だが、良い薬にもなるし大きな害も無いからと思い、俺は仮眠を取りに部屋に戻る。ナミの居ない部屋は、何かが物足りなく感じられて苦笑しちまう。
仮眠を取ってからナミを迎えに行けば、その頃には船は既にハロウィン1色と様変わりしていた。いつの間にか当然のように親父までも参加しているから、たまにはこんな日も良いかと思えて、無意識の内に小さな笑みがこぼれる。
そうこうしていたらナースから返されてきたナミは猫耳ナースになっていて、どうやら今回は手軽な物に……おい、丈が短すぎやしねェかい?
そう思ってじっと見詰めれば、半泣きで俺に訴えかけて来る。それは本当に縋り付くようで、どうにも色々と唆られるのを耐えているのだが……。
「マルコォ……着替えていい?」
「……駄目だよぃ」
これからイベントが始まるってのに、何を脱ごうとしてるのか。と、そう理性は言うが……本能が別な言葉を口から紡がせる。
「……すべて脱いで俺と2人で過ごしたいって気持ちは、汲んでやりたいところだけどなぃ。俺もまだやる事があるからねぃ」
そう言ってからその細腰を抱き寄せ、耳元で囁く。もう少し待てよぃと。
それに顔を赤く染めたナミがポカポカと殴りつけてくるから、宥める為にと自分に言い訳して唇を重ねれば即座に大人しくなる。熱い吐息の合間に涙で潤んだ瞳を向けて、小さく恥じらうような声を出す。
「見られちゃうから、やだ……」
「見られなきゃ良いのかよぃ?」
「……マルコの意地悪」
プイッと横を向いたナミは、それから小さく舌を出して俺の腕から抜け出して行く。可愛い抵抗に、転ぶなよぃと声をかけてから、その背中を見送る。
それにしても、ナミから伝えられたTrick or Treatの言葉は、直訳した時〝お菓子をくれなきゃイタズラするぞ〟にはならないと知っているのだろうか。その場合〝悪戯または提供〟でしかない事に。
ならばどちらを選ぼうとも、俺にはナミを好きにできる事に違いは無いのだ。……本当に、時に愚かで可愛い奴だよぃ。
やる事を終えて部屋で待っていれば、可愛いその姿のままナミが帰って来た。なので、船医としての仕事の直後だった為に、白衣姿に眼鏡をかけた船医モードで出迎えたのだが……何故か顔を赤く染めて視線をそらされる。
……白衣も眼鏡も珍しくは無いだろうに、どうしたと言うのか。船医としての時は、大概この姿なんだが……何処か可笑しいか?
1応確認してみても、何らいつもと変わらない。小さく首を傾げつつ視線を戻せば、恥ずかしそうに言葉を向けられる。
「……なんで、そう、無駄にエロいのよ」
「ナミの方が、随分と美味そうに見えるがねぃ。……ナミ、Trick or Treat?」
思わず呟いた言葉を誤魔化すように問いかければ、待ってましたとばかりにお菓子を取り出して来たナミからそれを受け取る。これは、恐らくナミの手作りだろうと思われる菓子が渡され、それを口に入れた時ナミが少し悪戯な顔で同じように問い掛けてきた。
どうやら俺を困らせたいらしいと気付き、その腕を掴み腰を抱くと口に入れたばかりのそれを、半分分けてやる為に唇を合わせる。苦しそうに喘ぐナミは、けれどもいつもとは違い素肌が多く露出しており、服も体にフィットしているからなめまかしく映る。
「これで良いかよぃ?」
「ずる、い。私のあげたお菓子なのに……」
「なら、捧げてやるよぃ」
「捧げる?」
不思議そうに首を傾げたナミを見て、やはり分かって無かったかと思いながら笑う。そしてそっと真実を教える為に囁くように言葉を放つ。
「Trick or Treat、直訳してみろぃ」
それから素直に小さく口の中でそれを呟き、ハッとした様子で俺に視線を向けて来た。この様子だと本当に何処かの国のイベントで、ナミが考えたものでは無いのだろう。
それならば悪戯されるか、捧げるかと聞かれたならば、捧げてやるよぃ。俺のすべてを。
ナースが船医に勝てる筈などなく、俺が全力ですべてを捧げると決めたのだからナミに抵抗など出来る筈もない。Trick or Treat……共に楽しい夜を過ごそうなぃ。