用事を思い出して部屋に戻れば、机に向かっているナミとその近くに置かれた手紙を見付けた。手紙に手を伸ばし内容を確認してから、どうせ気付かれないと分かっていてその髪をひと房摘むと口付けを落とす。
「あまり無茶はしてくれるなよ」
聞こえていない事は分かっていても、声に出しちまうのは、聞こえていてくれたらいいと言う願望か。細く息を吐き出してから、手紙に書かれている事をどうするかと部屋を出る。
催事の事案について話し合いをすれば、サッチは喜びマルコも頷いた。変わった物を作る事の多いナミからの手紙にはこの催事に合わせたレシピも多くあり、サッチは無駄に燃えていて少し暑苦しい。
マルコはそんなサッチを無視して、金のあまりかからない形での宴は大歓迎だよぃと言って笑う。憂さ晴らしにもなり、喧嘩も減るからこういった物はガス抜きには丁度良いというのは理解出来るから、俺も頷いておく。
陸に船がつく直前なのもあり、全員に触れを出したりして回るマルコを眺めながら、俺もそれなら参加するかと考える。妖怪や物の怪に仮装すると言うのならば、何に化けるのが楽しいか。
どうせならば美しい方が良いだろう。あの愛らしくも美しい子を、唐傘お化け等に扮させるつもりは毛頭ない。
異国の話に女神と人間の中間に位置するニンフと呼ばれる精霊がいたのを思い出す。薄絹を纏い、歌や踊りを愛する穏やかで美しいそれは、愛する男には従順であり子をなした事もあると言う。
けれども裏切りは許さず、この世から連れ去ったり恐ろしい罰を与えると言う。……ある意味似てる気がするねェ。
薄い絹の衣を、見えないギリギリの物を求めて島に降りれば、そういった物を扱う店は多く、ならば自分はどうするかと考えて目に付いた狐の尻尾に見立てた物を数本購入する。九尾の狐ならば和装とも合わせやすい。
狐の耳も用意して帰れば、何故か船の方での仕事を突然押し付けられ、解放されたのは明け方になってからだった。妙に重たい体を引きずるようにしながら部屋に戻れば、時が止まっているか巻き戻ったような気持ちにさせられる。
どうやらナミは寝ずに描き続けていたらしい。その手からペンを奪い、ペンを追って振り向いたその体を抑え込んで唇を奪えば、漸く正気にかえるナミ。
「ぁ……イゾ……待っ……!」
誰が待つか。疲れてるからか抑えが効かずにナミの唇の甘さを堪能すれば、可愛らしく喘ぎ誘惑してくる。
衣装なんか着なくとも、充分にニンフだなと思わされる。それでも、とりあえずイベントは夜からだというのもあり今はここまでにしておくかと唇を離せば、ナミが潤んだ瞳で俺を見上げてくる。
「どうして……?」
「徹夜したお仕置きだよ。さァ、とりあえず少し休もうか……続きは今夜、しっとりと……ね?」
その瞬間音が聞こえそうな程に1瞬で茹だったナミを見て、愛しくならない筈も無い。それでも寝かせなければ己の限界に気付かずに、倒れてしまう事は分かっている。
だからと思い、ナミをベッドまで抱き上げて移動させる。そのついでに、俺も共にベッドに入り早々に眠りに落ちた。
夕刻になる頃には表は随分と騒がしくなっていて、ナミに部屋のシャワーでも使うといいと言って衣装を押し付けつつ自らは大浴場へ向かう。入浴を終えてから、髪を下ろした状態で少しいつもより艶やかな和服に身を包み、狐の装飾を追加してから化粧までして表に出る。
「葛の葉に仮装したのか?」
「流石親父、分かってるねェ……」
突然降ってきた声に答えれば、親父はグララララと楽しげに笑うが、親父はどこかで見た事のあるような妖精らしい姿をしている事に気付く。……サンタクロースか。
その白い髭を無駄にしない仮装に小さく笑ってから、可愛いニンフの元へ向かう。その時1応親父には伝えておく事にした。
「可愛い精霊が待ってるから、今夜俺は宴に出ねェつもりだよ。宜しくな」
「あんまり虐めるなよ?ナミは大切な娘だ」
「了解、程々にしておくさ」
笑って立ち去る俺に、分かっていて虐めすぎるのは悪い癖だななんて声が追いかけて来たが、それは黙殺する。部屋に入れば髪の毛と戦うニンフがいて、そのタオルを奪い拭いてやると声が返ってくる。
「イゾウ、お帰りなさい」
「あァ、ただいま。それにしても、見えそうで見えない所がいいね」
「……逆に恥ずかしいわよ、これ」
「だから、誰にも見せるつもりはねェさ。俺にだけ、堪能させてくれるね?」
艶やかな笑みを意識して向ければ、ナミは小さく頷くからいい子だと言ってその髪を整える。可愛いニンフは、今宵どのような歌声を聞かせてくれるのか。
「イゾウは狐?」
「九尾の狐だよ」
「イゾウは美人だから、似合うわね……」
「ナミのそれが何だかわかってるかい?」
問いかければ少し困ったような顔で、首を横に振る。だから俺がそれの正体を説明してやると、歌えばいいの?なんて首を傾げてくる。
舞姫も歌姫も、男と2人で居る時にそれをするのは褥を意味すると言う事をナミは知らない訳では無いだろうに、いつも失念する。寝る事の意味も、恋人と共に居ても睡眠の意味に取るような所があるのだから、ある意味仕方ないのかも知れないが。
「Trick or Treat」
「え?待って、今まで寝てたりお風呂はいってたりで……何も……!」
俺の言葉に慌てた様子で言葉を募る。それに俺は小さく笑い、ベッドへと押し倒す。
「ここから水飴を出してくれるので構わねェさ」
「……っ!?」
言いながら指で敏感なそれに触れれば、素直に体を反応させるナミに俺は楽しくなる。どうやら素直に下着は身に付けずにいたらしい。
「イゾウ……!」
「いや、か?」
囁くように問いかければ、羞恥からか顔を背けて小さく体を震わせる。何度抱いても変わらないウブな反応に、親父に虐めすぎるなと言われたのを思い出す。
お菓子を貰う為にイタズラするさと、内心で嗤う。脱がす事無く薄絹の上から愛撫を続けて、ナミが自らねだる迄溢れる水飴を放置してやろうと決めた俺はやはり意地悪なのだろう。
狐は狡賢いモノだと精霊に囁きかけながら、精霊が泣き出すまでただ熟れさせて行く。その熱の解放を求めて、潤んだ瞳を向けられるとそれはまたえもいわれぬ美しさで、意識せぬままに息を飲む。
ニンフは歌う、狐の指に踊らされながら。自らが美味しいお菓子だと知らぬとしても、菓子を強請られてはそれを差し出す他道は無いとでも言うように……。