ルフィ達と共に居た筈が、敵に拐われ、そこから見事に逃げ出して来たと言うナミを保護したのは5日程前。それにより今は、ルフィ達の所へと送ってやる為の航海中だ。
それでも備品の購入が必要になったからと他の島に先に寄りたいと言った俺達に、ナミは当然のように島への行き方を提示してくれた。その上で今朝は、夕方には到着できるわよなんて笑っていたのだ。
なのに何故、今このモードに入ってるんだと頭を抱えたくなる。子供の頃からこのモードに入ると本当に何しても気付かないのだけは、心配でならない。
今回は何の本を読んでるのかと思ったら、海図を描いていて……これは暫く駄目だなと思い知らされる。それでも近くに置かれている封筒を見れば、自覚はあるらしいとわかりホッとする。
昔は自覚さえ無かったから、力尽きて倒れるまで10日間本を読み続けてるなんて事もあった。これを赤髪の海賊団は、どう対応していたのかと少しばかり思う。
封筒の中身を取り出すと、そこには何やら見慣れないイベントについての情報が書かれている。それを知れば無駄に喜びそうなメンバーが思い浮かんで、でも楽しめるなら良いかと情報を回す。
……そもそもだ、何故あんな悲惨な状態おかれていて革命軍にアポを取ろうとしなかったのか。ナミは知識があるのだから、とる気になればアポを取れた筈で、そうなれば魚人を倒す手伝いくらいなんでもない事だったのにと思う。
それは……大切な姉が被害者の側として絡んでいる案件だから、助けたかったと思うのだろうという事は分かっている。そうでなければ、既に1応は解決して、しかも死人も殆ど出なかった案件についてこんなにも気にする筈はないのだから。
誰にでも優しく、穏やかで暖かいナミは、けれども自分の事だけはいつも蔑ろにするのだ。いつも、1番は〝家族〟で、ついで身近な人達、そして女子供、老人、困ってる男……最後に自分だ。
敵に拐われた自分を責める事はあっても、助けられなかったルフィや仲間を責める事は無い。敵から逃げはしたが、そいつ等を殺したりする事も無かった様子だ。
……俺が、始末してきてやろうかと心から思う。
シスコンで結構、俺はナミを姉として愛している。何故かこんなにも男を誘う肉体を持っているのに、ナミを襲う気にはならないんだよな……。
不思議だと首を傾げれば、背後から背中を思いっきり叩かれた。この馬鹿力はコアラかと振り向けば案の定で。
「サボ君は、そんなに〝お姉ちゃん〟が心配?」
「昔から他人の為に無理してばかりで、自分を蔑ろにするからな。それに甘えっぱなしの弟が2人もいると分かってりゃ、1人くらい心配する弟がいて良いだろ」
「水分も取らないから、心配よね。確かに。……サボ君は、お姉ちゃんをどうしたいの?」
コアラの言ってる言葉が理解出来ない。どうって……そりゃ。
「無事にルフィのいる船に、帰してやりたいな。あんなに幼い笑顔は初めて見た」
気を許せる相手がいるという事なのだろうと、それだけで伝わるような笑顔。ナミにあんな顔をさせられる位に成長したルフィには、勿論逢いたいが……今は面倒な案件もあるから、それが許されない。
……ルフィに逢いたい。
「サボ君?大丈夫?どうしたの?」
「ルフィに逢いたい」
「あァ、シスコンよりもブラコンの方が重症だったっけ……。どうにかならないのかな」
俺が兄弟に甘くなったのは、ナミのせいだと思っている。それはもう確実に。
いつもいつでも、ナミはルフィを庇い、守り、慈しんでいた。それと同等の愛を俺にも注いでくれて、だから俺はあの頃幸せだったんだろう。
そういや、エースにだけは当たりが少しキツかったと思い出して、エースのやっていた事を思い出せば、叱らないとエースの為にならないと判断したのだろうとわかってしまう。既にナミはあの時、エースにとっては姉じゃなくて母親だったのかもな。
「俺達は多分ナミに、姉としてだけじゃなく、母親の役もやってもらってたんだろうな。だから、今は親孝行したい息子の気持ちなのかも知れない」
「……優秀よね、ナミちゃんって。抜けてるけど」
そう、そこだよと笑ってから俺はコアラに向き直る。俺は少し違う意味でコアラも心配だ。
「コアラ、それ人のこと言えるのか?」
「サボ君がシスコンでブラコンでマザコンなのは、よぉくわかったけど、私は抜けてないわよっ!戦ってるじゃない!」
いや……戦えるから抜けてないってのはどうなんだよ。そう思うが、言えば騒ぎになるのが分かるので大人しくハイハイと言っておく。
コアラと共に甲板に出ればイベントの準備が進められていて、ナミからの手紙にあったレシピも含めて即座に駆け巡ったイベント情報。それはどうやら、いいガス抜きになっているようだ。
ついでに仮装は、変装技術の高さを競う事にも使えそうだ。と考えて、利便性まであるとはと感嘆の息をもらすしかない。
「盛り上がってるな」
「お菓子系は女性陣に、食べ物系は男性陣に受けそうだし、仮装は潜入技術の切磋琢磨に応用できそうだから、盛り上がらないと思う方がおかしいわよ」
コアラの言葉に確かにと笑う。それからすぐに島に到着したので、俺はコアラと共に買い出しに向かう。
アレだけの盛り上がりを見せるとなれば、南瓜が明らかに不足する。南瓜を買い占める俺達に、何かあるのかと聞いてくるのは当然と言えるだろうが、今はまだ秘密にしておく事になっているので、南瓜祭りやるんだと笑っておいた。
準備が整う頃には午前様で、その勢いでイベントを開始するメンバーと、1度寝るメンバーに別れる。俺はそれを確認してから、ナミの様子を見てから寝るかと思い部屋の中を覗く。
そのタイミングでペンの動きを止めたナミに声を掛けようとしたら、それより早く俺を押しのけたコアラがナミに突撃した。それによりナミは、コアラに驚いたような視線を向ける。
「コアラさん、何かあったんですか?……まさか、サボに何かされました!?」
「どうしてそこでサボ君限定なの?」
コアラのもっともな意見にナミは小さく笑って、コアラの頭を撫でる。それからこんなにも鈍いなんて……可愛いから許されるのねなんて、自分の事を棚に上げて呟く。
それはコアラも同意見のようで、俺と顔を見合わせると笑いだした。
Trick or Treat……少し寝たなら、その後で、楽しい夢を見ようじゃないか。たまにはただ楽しいイベントを共にと、弟は姉を思いやる。