獣を仕留めたと言って喜んでいる奴等が、次の瞬間には不味いと言ってその肉を……命を投げ捨てて立ち去る。それでも山だとか、森だとかに捨てるならまだ良い。
森の中で、何かを狩る事が得意では無い生き物がそれを食べて、虫がそれを分解してといった食物連鎖が起きるからな。だが、人間は傲慢にも街中に平然と投げ捨てたり、無闇に焼き捨てたりする。
場合によっては、皮だけ剥いで残りは人どころか獣も歩かないような、荒野に投げ捨てられる事もある。他に食べるものがある訳でもないそんな所には、虫だとて中々に近付きはしない。
命の無駄遣いだ……。なんと言う傲慢さか。
俺の血の繋がる身内も、それとよく似た性質を持っていた。だからこそ俺は……そういった人間が嫌いなのだろうと思う。
森の中で可愛い精霊や妖精を守りながら、のんびり生きていきたいと言ってみた。そんな俺に、育ての親たる森の主に、人間や他の妖怪を知ってからそういった言葉を使えと言われちまう。
引きこもっていたいと願って、汚いもの等見たくないと願って、何が悪いと言うのか。俺はもう、傷付くのも傷付けるのも嫌なんだよ。
形ばかりグラスに酒を注いでもらって、でも呑む気にもなれない。グラスの中の氷がカランと音を立てた時、1人の女神が店内を歩いている事に気が付いた。
……妖怪がいるんだ、女神がいて何がおかしいだろうか。なんとも神々しくも美しいその姿に、視線と共に心が瞬時に奪われる。
女神は楽しそうに並べられている酒を眺めて、何やら注文したらしいと気付く。酒を片手に吸い寄せられるようにそちらに足を進めると、女神が視線を向けて来た。
その眼差しは困惑を示しており、手元にあるグラスには果物の皮が螺旋状に入れられている。……レモンか?
酒にも色々あるもんだなと珍しく思って見ていれば、女神はその視線に気付いたのかホッとした様子で笑いその酒について説明してくれた。アルコール度数は高くないけど、見た目が面白いから好きなのなんて可愛く笑う。
「貴女の笑顔に勝るもの等、世界中探しても何処にもありはしないでしょう。美しい方、その名を教えてはくれませんか?」
「……酔ってるの?」
少し怯えたような顔でそんな事を言う、つれない女神の髪に手を伸ばす。ビクリと震えたその体は、けれども振り払う事はしない。
「名を教えて貰えないのならば、勝手ながら貴女の本来の姿で呼ばせて頂きます」
「……本来の、姿?」
警戒した様子を見せる女神に、小さく笑う。どうやら変装しているもしくは、妖怪らしい。
これだけ美しいのだから、それも有り得るだろうと妙に納得してしまう。髪にそっと唇を落としてから、微笑みを向ける。
「愛しい方、貴女は……〝女神〟でしょう。隠しても分かる。その神々しさを隠す事等出来はしないのですから!」
「…………マスター、近くに脳外科か精神科ってあるかしら?この際眼科でもいいわ」
「判断に困る客だな。……精神科医なら、坂の下に居たと思うがなァ」
そんな会話の後に、女神はそっと俺の手を取り、優しく握ると心配そうに顔を覗き込んできた。その時柑橘系の香りが漂い、衝動的にその唇を奪っていた。
「んんっ!?」
即座に俺の手を離して抵抗してくるけど、それは失敗でしたね。と、内心で笑う。
俺は自由になった両手を用いて、片手を後頭部に、もう片方でその腰を抱き寄せる。その瞬間あまりの柔らかさと細さに、心臓が高鳴るのを感じる。
「んっぁ……!」
僅かな唇の隙間から、小さくもれるその声に煽られる。俺はそれに抵抗できそうもなくて、そっと唇を離すと潤んだ瞳を向けて来る女神に微笑みかけた。
頭を押さえていた手でカウンターに金を置いて、上にある部屋まで有無を言わせずに運び込む。その間中抵抗をしてみせているのに、さほど力が無いので凶暴性の高い妖怪では無さそうだなと判断する。
「ヤダっ!何を……!」
怯えたような顔で、震える声で、微かな腕の力で抵抗を示す女神に優しくしますと声をかける。それにより女神は1瞬硬直して、思考を停止させたらしいと分かった。
その間に部屋に運び込んでドアを閉めると、ベッドにその細い体を沈めてしまう。そこまで来て漸く状況を理解したようで、嫌っと言って俺の胸を強く押してくる。
「……ゃ、お願い、やめて」
……それ、逆効果だって本気で分かってないんですかね?
美味しそうなその身体は、存在するだけで惑わされそうな程。芳香が鼻腔を刺激し、酔わされる。
怯えた表情で、潤んだ眼差しで、弱々しげに嫌と繰返すそれは、既に煽る為としか思えない。それ故に言葉が勝手に溢れ出す。
「女神……大切に愛おしむから、俺のものに……」
言って胸元に吸い付けば、ビクリとその体を揺らす。その上で、まだイヤイヤと首を横に振るのだから少しばかり手強いなと思う。
服を剥ぎ取り、たわわに実ったそれに吸い付けば可愛らしい声を響かせる。もう、辞めるつもりはありませんよとの言葉の代わりに、その先端を舌で刺激すればビクビクと反応してくれるのだから、気分も良くなろうというもの。
「やァ……んっ……」
「拒絶ばかりしないで……優しく、しますから、身を任せて……」
その瞬間女神が俺に抱き着いてきて、俺の首筋に躊躇い無く歯を突き立てた。何事かと思った時、血を吸われてると理解する。
そうだ……妖怪だった……。干枯らびるのは嫌だけど、それよりもギリギリまで反撃しないとか……この女神お人好しだな。
そう思って様子を見ていたら、視界の端に尻尾が映る。何事かと思った時には、吸い終えたのか傷を癒して離れようとしていて……。
思わずその尻尾を掴めば女神はフニャッ!?と叫びその体から力を抜いた。……尻尾は猫の弱点って、聞いた事はあったけどここ迄とはな。
Trick or Treat……可哀想な子猫は、獰猛な獣に狙われる。明ける事の無い饗宴の夢は、始まったばかり。