季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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ハロウィン/妖怪(白ひげニューゲート)

 息子達が人の噂を聞いてきたと言って、騒いでいる為にその会話が聞こえて来た。さて、どうするか。

 噂を全て本気には取れねェが、悪戯に人に悪さする妖怪が現れたのであれば、それは取り締まる必要がある。人に扮して行ってみるかと体を小さくして行けば、息子達が親父がわざわざ出向くまでもなんて言いやがる。

 俺を心配するなんてなァ100年早ェぞ。なんぞと言えば落ち込むだろうから言えねェがな。

 

 「たまには俺も酒の1つも楽しみてェもんだ。なァに、お前達の為にもなりそうな可愛い〝母親〟を見付けて拾って来るかも知れねェぞ?」

 

 巫山戯た軽口を言って人の街に足を踏み入れれば、本当に賑わっている。噂の良い女を求めて浮き足立ってるのかと思えば、微かな笑みも浮かぼうと言うものだ。

 近くの酒場に入り情報を集めようとカウンターに腰を下ろした時、酒場の入口がざわめいた。なんだと思って振り向けば、小娘が1人立っているのが見える。

 長く珍しい色合いの髪は重力に従う事を拒否するようにうねっていて、仄かに香る柑橘類の香りがその色と相俟って食欲を誘う。その体型もまた男好きしそうなもので、顔立ちの幼さが背徳感を刺激する。

 自らが視線を集めている事に気付いていないのか、気付いて放置しているのかは知らないが、カウンターの1番奥の席へと迷わずに進みカクテルを頼んでいる。だが出されたそれを見れば、おいおいと思ってもおかしくは無ェだろう。

 カクテルの色はその女の髪色と同じオレンジだが、その名前と度数が笑えねェ。アースクェーク・カクテル。

 度数47度と言う女が呑むにはキツすぎるだろう酒だ。辛口でその名の通り3杯も呑めば酒豪でも体が〝地震〟のように揺れる事から、その名が付けられたと言う。

 他人の俺が気にする事でもねェんだろうが……思わずマスターにプッシーフット・カクテルを頼み用意されるのを待つ。用意されたその酒を手に女に近付けば、困ったような顔を向けられる。

 その視線が妙に心地よく感じるのは、迷子が縋っているような感覚になるからだろうか。まだまだ小娘の癖に、妙なもん呑んでんじゃねェよ。

 

 「小娘には、こっちの方が似合いだ」

 

 スっと差し出せば逡巡してから、小さく笑って女はグラスを手にした。どうやら見ただけで分かったらしい。

 

 「ノンアルコールじゃない、これ。私……そんなに弱くないのよ?」

 「お前ェの歩き方や髪の色とも合うだろう?」

 

 色は同じようにオレンジだが、アルコールは1切使われていない。オレンジジュース、レモンジュース、卵で作られるこれは猫のようにこっそり歩く人と言う名を持つ。

 

 「……褒め言葉として、受け取っておくわ。所で、何かご用?」

 「最近この界隈で男に〝幸せな夢〟を見せる女がいると聞いてな。お前ェだろう」

 「……だとしたら?」

 「今夜は、俺にそれを見せちゃくれねェか?」

 

 俺の言葉に小娘は小さく肩を震わせて、頷いた。それから2つのグラスを空にしてベリーを出そうとするのを止めるとそれとついでに部屋代を置いて、その手を掴む。

 細いその腕は、下手に力を入れれば折れそうな程だ。それに苦笑しつつ部屋に連れ込めば、ドアを閉めるのと同時に意を決したような顔で俺に抱き着いてきた。

 何をするつもりかと自由にさせれば、耳元で小さくごめんなさいと謝ってから首筋に噛み付いてきた。成程、吸血鬼か淫魔の血をひいてやがるかと思っていたが、頬に何か柔らかい物が触れて、その不自然さに思考が固まりそうになる。

 ……猫耳?

 血を吸っていた筈の首筋から、それ程吸う事も無く離れると、小娘は傷を癒す為に舐めてくる。その行為により、どうやら随分と〝イイコ〟であるらしいと知る。

 人間に悪さしてる訳でもねェならば、構わねェかと思う。だが、罪悪感たっぷりな顔で心配そうに顔を覗き込む無防備なそれには流石に閉口する。

 何かを言おうと唇を開いた小娘の後ろ頭に手を添えて、そっとその唇を重ねれば慣れていない様子だ。戸惑いつつも盛大に驚いて居るのが、その反応から伝わってくる。

 こりゃァ、少し教育してやらねェと長生き出来そうにもねェなと思うが、何とも甘いそれについ夢中になる自分を感じる。苦しそうなそれを堪能して唇を離せば、その場で崩れ落ちた小娘に笑みが浮かぶ。

 

 「俺はニューゲートという名だが、お前ェは?」

 「……っ!な、んで……意識、が」

 「1つずつ全て教えてやるから、まずは名を教えろ」

 「ナミ、よ」

 

 肩で息をしながら素直に答えたナミに名を名乗るリスクを含めて全て教えてやると、混乱を隠さない。人間が付けた名だとデイダラボッチに該当すると俺が言ったからか、それにしては小さいと呟くから本当に何も知らねェんだなと笑っちまう。

 

 「ナミ、この辺りは案外妖怪も多い。俺だったから良かったが、他ならお前ェが無事にこの部屋を出る事は無理だったぞ」

 「……ごめんなさい。でも、血が必要なの」

 

 耳が萎れているのを見れば、嘘はねェのも分かるのでその頭を撫でてやる。それに気持ちよさそうに瞳を細めるから、連れ帰りたくなって来た。

 ……冗談ですまなくなりそうだぞ息子達、と内心で呟いてナミに言葉を向ける。

 

 「……俺の血を吸うか?事情も分かってるから、分けてやるのは構わねェぞ」

 「いいの?」

 

 耳がピンとしたのを見て、あァと頷けば嬉しそうに尻尾を揺らした。なんと無防備なと思い、その代わりにと耳元で囁く。

 

 「俺の女になれ。大切にしてやる」

 

 その言葉に尻尾をピンと立てて驚きを示してから、小さく照れたような顔で頷くナミを俺は迷う事無く抱き締める。その細い体を胸に閉じ込めた状態で、息子達に〝母親〟を連れ帰ってやる事を決意した。

 Trick or Treat……1夜の夢では終わらせないと、優しい巨人は小さな子猫を抱き締める。子猫が色々な事に気付いた時には、後戻り等出来はしないだろう。

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