たまには外へ連れ出してやるかとナミを連れて出たが、船に乗せて隣の島に立ち寄っただけで妙に楽しそうにしていた。欲しい物があれば買ってやると言えば、紙やらペンやらを欲しがられては首を傾げるしか無い。
だが少し考えて、海図や地図を描きたくなったのかと魚の元にいた頃を思い出して必要な物を揃えてやれば、ありがとうと微笑みを向けて来た。それに対して唇を奪う事で応えれば、ナミは恥ずかしそうに辺りを気にしている。
無防備な様子のナミに少しの現金を持たせて自由にさせてみれば、初めは特に何かを見ている様子もなかったのに突然何かを思い出した様子で変わった物を購入し始める。それから笹竹のある場所とやらに向かうといくつか物色して俺に視線を向けて来た。
「ドフィ、コレが欲しいわ」
「……そうか」
目的も何も分からないが、欲しいなら持ち帰らせてやるかと切ってやれば嬉しそうにそれに手を伸ばすのが見えて、危険だと俺がナミごと持って船に帰ったのが数日前。あのままにしていれば、笹竹に潰されていただろうナミの目的は未だ不明だ。
船内から出て来ないナミのお陰で、殺戮現場を見せずにすみ狙われる事もないのは助かるが、ナミは何故あんな物を欲しがったのか。そう思っていたらナミが見た事の無い衣装でその姿を見せた。
買った所も見ていないから、誰かから貰ったのかと考えるが、そんな命知らずがいるとも思えない。それでも聞かずには居られない。
「その服はどうした?」
「……この間ドフィと行った島で買った布で作ったのよ。……変、かな?」
不安そうに聞いてくるが、ワノ国の衣服……キモノと似ているなと思う。似合うかどうかだけならば、ナミに似合わない物など何も無い。
それよりも、それを作れる事に驚きを隠せない。だが無言な俺に似合わないと判断したらしいナミは落ち込んだ様子を見せるから、俺の元まで歩かせてその体を抱き締める。
「フッフッフッ!よく似合ってる。驚き過ぎて、なんと言えばいいか分からなかっただけだ」
俺の言葉にナミはホッとしたような顔を見せるから、操られても抵抗もしなければ何もしないのだけは頂けないと思いながらもその額に唇を落とす。それを恥ずかしそうに受け入れるナミに、理性を試しているのかと思った俺はおかしくは無ェ筈だ。
それから笹竹の使い道について話し始めたナミの声に耳を傾け、他のファミリーもそれならば喜びそうだと承諾する。ナミは妙な知識を多く持っているが、これもその1つだろう。
紙に願いを書いて燃やすだけで叶う筈もない。そんな事は分かっているが、楽しむ事と自分と向き合う事は出来そうだと思えば、悪くもない。
何より珍しく何かをやりたいと言い出したナミの願いを叶えたかった。短冊とナミが呼んでいる紙の中から適当に1枚引き抜くと、それに欲しい物を書く。
〝世界〟
ただそれだけを書いて笹につければ、ナミから他のファミリーの人達にも良かったら参加してもらいたいと言われる。そうして託された紙を手に、俺は分かったと請け負いナミを部屋に帰しておく。
それからファミリーにその話を伝えれば、半数は照れたようにしながら短冊を受け取る。もう半分はとりあえずといった風情だ。
それでも誰1人拒絶する事無く受け取った短冊に、それぞれが願いを書いて取り付ける。折角だからと夜は宴にする事になった。
宴の席でまだ新入りの1人なのかナミを知らない奴が気軽に話しかけているのを見かけ、不快に思いながら見ていればナミは自分で上手く躱している。慣れた様子にそれもそうかと思いながら、ナミが笹に願いを付けるのを眺めていた。
その後ろ姿は髪を結い上げているからか、うなじが妙に色っぽく吸いつきたいような衝動にかられる。取り付けられた短冊にはお人好しなナミらしい事が書かれているのが見えて、自然と溜息が落ちた。
〝皆の願い事が叶いますように〟
そんなナミの腕を掴んだ酔っ払いが1人居て、俺が咄嗟に立ち上がりそうになるのとほぼ同時に何人かのファミリーが殺気立つ。ナミは俺の女だと思っているのと、俺を庇って死にかけた事で守るべき相手と認識されたらしいと知る。
だが俺達が手を出すより早く見事な体術でその腕を捩じ上げると、関節技を決める。それからどうしようと書かれた表情で俺に視線を向けるナミが妙に可愛い。
先程の攻撃している時のナミは冷たい刃物を思わせる横顔だっただけに、そのギャップは大きい。それを見て関節を外せと示せば、少し嫌そうな顔をしてから、ナミは逆らわずにその肩を簡単に外した。
それにより呻く男に視線1つ向けずにナミは俺の元へ移動して来る。これにより周りの視線はナミに向けられているが、気付かないのか気にしていないのか、それを感じさせずに俺の元まで来てそっと俺の肩に手を置く。
「……ごめん、少しそばにいさせて」
誰かを傷付ける事を苦手としているのは知っていたが、それだけで顔色がここまで悪くなるとは考えにくい。それでも構いやしねェかとナミを膝に座らせれば、ナミはホッとした様子で俺の胸にその顔を埋める。
微かに震えるその肩は、何をそんなに怯えているのか。歩いてる時も、何をしている時にも怯えた様子は見せなかったし、恐らく俺の他は甘えているようにしか見えないだろう。
……魚にやられていた事が、トラウマになってるのかとナミを隠すように肩に掛けていたコートを脱いで前に移動させれば、ナミは俺に抱き着いてきた。それから俺を見上げて、小さな声で言う。
「ドフィ……ありがとう」
「ナミは、苦手なものがあるならそれを教えるくらい出来るようになっておけ。守りにくい」
その言葉にナミは十分過ぎるくらい守られてると笑うが、それは無いと俺は苦笑してしまう。だがナミ本人がそう言うならば、今夜はその礼にナミが欲しいとでも言ってみるかとその耳元へと唇を寄せれば、それだけで未来が楽しみで仕方無くなる。
国を滅ぼしたとしても、誰を切り刻んだとしても、お前だけは俺の傍に置いておく。その羽根を毟り取る事も、その為ならば厭いはしない。