季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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ハロウィン/妖怪(不死鳥マルコ)

 最近この辺りにいい女が現れると噂になっている。だが、噂の内容を聞けば人間とは思いにくく、だからと言って吸血鬼ならば対象になった男が生きているのは不思議で、淫魔とかならば痩せ衰える筈だ。

 何なんだと思いながら、1応人間と仲良くしておきたいと言う親父の言に従い探しているが……。その時ひとつの酒場の入口に人集りが出来ているのが見えて、まさかと思ってそこへ向かう。

 中に入ってみれば、カウンターに座るオレンジ色の長い髪が見えた。そして、俺の方に視線を向けた女は確かに極上と言えるだろう。

 ……これが、噂の女か。あどけない顔立ちに、戸惑いを浮かべているその姿は庇護欲を誘う。

 人間に怯える兎か猫って感じだねぃ。小さく笑って女に近付けば、女は残ってる酒を名残惜しそうに見てから、俺に警戒した様子で金を置いて立ち上がる。

 だが……逃がす筈ねェだろぃ。横を抜けようとしたその腰を掴んで抱き寄せれば、柑橘系の香りが漂った。

 

 「やっ!離して!」

 

 言いながら睨み付けてくるその瞳は、気の強さを表している。人馴れして無い気の強い猫のようなそれに、大人しくしろと唇を奪う。

 普通ならば突然そんな事はしねェが、こうでもしないと逃げれる気がした上に、妙に唆るんだよなぃ。舌を絡ませた、ただそれだけで小さく体を震わせた後は大人しくなったのを感じて、そのまま押し倒したくなる。

 だがそんな訳にも行かず、様子を伺えば何か目的があってこうした事を繰り返しているのだという事は、怯えを含んでいるその様子から嫌でも理解出来た。……さて、どうするかねぃ。

 とりあえずそのまま抱き上げて、酒場から連れ出して近くのホテルに連行すれば、部屋に押し込んだ直後1瞬怯えたような顔をした。幼い子供のようなその仕草に、人違いか勘違いだろうかと思わされる。

 噂のそれが正しければ、少なくとも3度は経験がある筈だ。それなのにこの反応とは、流石に考えにくいよぃ。

 

 「お前ェ……何を目的にして酒場に?」

 「……人見知りを、直そうと思いまして。はい。引きこもりで、対人経験が無いので、人のいる所へと……」

 

 ……もし本当だとしたら、選択ミスだろぃ。夜の酒場に女1人は宜しくねェよぃ。

 深い溜息を落として、その顔を覗き込めば確かに人馴れして無さそうではある。こりゃぁ……よくわからない小娘を弄んだ男達の話に、尾ヒレがついただけかねぃ?

 

 「あの、帰っても良いですか?その、遅くなると母が心配するので……」

 「……この状況で帰れると判断した辺りが、確かに何も知らないんだと言う証拠だねぃ」

 

 呆れてものも言えないとはまさに。そう思った直後、女は苦しそうに胸を掴んで座り込んだので、咄嗟にベッドに運ぶ。

 何が起きたのかと思うが、女は離れてと小さく繰り返すばかりで要領を得ない。それに何か病持ちならば、謝罪ではすまねェだろうなぃ。

 

 「おい、何か持病持ちか!?」

 「……っ!襲われたくなければ、はなれて……!」

 

 意味がわからねェよぃ。そう思った直後、女が俺に抱きついて来て、そのまま首筋に噛み付いた。

 そこに来て漸く吸血鬼だったらしいと分かるが、それにしてはおかしい所が多過ぎる。吸われたところで俺としては問題もないので、好きにさせる事にしたがそれ程経たない内に女の衝動は落ち着いた様子だ。

 牙を刺したところを舐めて治す女に、これは人間の男には確かに夢のような快楽と記憶障害が起きるなと思う。治療して行く吸血鬼なんざ、希少価値高すぎだろぃ。

 そう思ったが女からは猫の耳と割れた尻尾が生えていて……成程ハーフだから色々おかしな事になってるのかと分かる。

 

 「落ち着いたかよぃ?」

 

 問いかければビクリと体を揺らして、文字通り飛び跳ねて部屋の隅に移動した。……猫も驚くとやるけどなぃ?

 

 「ご、ごめんなさい。意識を保ってる人初めてで、しかも、なんか美味しそうな匂いだったから……耐えられなくて……」

 「まァ、そうだろうねぃ。俺は、不死鳥だから不可抗力だろう。気にするなぃ」

 「……不死鳥?人の形してるのに?」

 「猫又がヒトガタしてるのに、それを言うかよぃ?」

 

 笑いかければ成程と納得して、仲間意識を持ったのか警戒心が見る間に消え失せた。無防備に微笑む姿にコレは危険だと思う。

 

 「でも、だとしたら……痛かったわよね。ごめんなさい。吸血行動ってあまりした事なくて、ギリギリまで耐えてるんだけど……」

 「それは、気にしなくていいよぃ。……俺はマルコって言うんだが、お前は?」

 

 話を遮って問いかければ不思議そうに首を傾げてからナミと答えた。……格上の妖怪に名を教えるリスクも知らねェとはねぃ。

 

 「ナミ、来い」

 

 その言葉に逆らえずに近付くナミを抱き締めて、この無防備な子猫をどうするかと考える。それから溜息を落として、名を無闇に教えるなと言って説明してやれば驚いたような顔で俺を見て来る。

 

 「格とかあるんだ?知らなかったわ」

 「……暫くウチに来て、妖怪について学ぶかよぃ?心配で見てられねェ」

 「いいの?でも、私支払える物ないわよ。血も貰っちゃったくらいだし……」

 

 申し訳無さそうに言うが、見た瞬間に〝いい女〟だと思わされた時点で俺の理性はギリギリなもんで、付け入る隙を見せないで欲しいところだよぃ。対価に抱かせろと言ったら、この子猫はどんな反応をするのか。

 

 「ナミ、そんな反応してるとすぐに穴だらけにされるぞぃ」

 「あな、だらけ……」

 

 そう言って赤くなったナミの様子を見るに、未経験らしい。そうと分かれば、まずは素直に口説いてみるかとベッドにナミを押し倒す。

 それに驚いた顔をしているナミに囁きを落とす。震える耳が、異様に愛らしい。

 

 「1目見た時から、気に入っていた。男と宿に入る意味は、わかるだろぃ?」

 「あ、あのっ!私そんなつもりなくて……!」

 

 知ってるよぃ。そう思いながら、その額に口付けを落とす。

 何も知らねェってんなら、1から全て教えてやるよぃ。そう囁けば、ナミは潤んだ瞳で俺を見上げてくるから、俺の理性は何処か遠くへ旅立った。

 Trick or Treat……存在するのに必要ならば、いくらでも血を捧げてやるから、その心と体を俺に寄越せと何も知らない子猫に、不死鳥は襲い掛かる。本来襲う側の吸血鬼は、始まったばかりの夜の宴に対応出来ないままに……搾取される事は誰の目にも明らかだ。

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