季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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ハロウィン/妖怪(四番隊隊長サッチ)

 狼男にも実は種類がある事は意外と知られてない。淫魔に種類があったり、火の鳥に種類があるのと考え方は同じだ。

 っても、分からないだろうから……桜って言っても、サクランボを作る桜もあれば、ソメイヨシノもあるように妖怪も色々と細かい分類があるとだけ言おうか。その細かい分類の為に、狼男の中でも希少だからって理由であまり良い記憶を持たない。

 そんな俺だけど、だからこそ親父に保護してもらえたんだからそう人生捨てたもんでもねェと思える。そんな親父は人間とも仲良くやって行こうなんて言ってて……その意味は分かるんだがなァ。

 迫害を受けたりした俺達を守るべきだと意識を変えてもらわなけりゃ、希少な上に弱い家族は奪われちまうだろうから。それでも、納得できない部分もあって憂さ晴らしに酒を呑みに来た訳だが……。

 店の入口に視線が集まる。何が〝いい女〟だ。

 あれは〝美少女〟ってんだよ!女と呼ぶには若過ぎるだろうが……!

 それでも、そう言いたくなるような体型と倒錯的な雰囲気なのだから、あながち偽りだとも言えねェかと溜息を落とした。……そう、溜息を落としたくもなる。

 明らかに怯えているのだ、ここに居る男達の視線に。それなのに、何処か思い詰めた様子でカウンターでグラスを傾けているのだから、手を伸ばしたくもなる。

 保護してやらなけりゃ、そのままその辺の男共に壊されそうな雰囲気だ。ガラス細工見てる方がまだ、心が穏やかかもなと思う。

 有象無象がその少女に近付くのを、辞めておいてやれと思いながら立ち上がり少女に歩み寄る事で抑える。俺が動いた程度で動けなくなる程度の奴等に、この子を手にする資格は流石にねェだろう。

 少し戸惑ったような、怯えを多大に含んだ眼差しで俺に視線を向けて来る少女に、俺は笑いかける。とりあえず、俺はそこまで飢えちゃいねェからな。

 半分に減っているグラスに視線を向ければ、1瞬言葉を失わざるを得なかった。縁に沿って白い物があり、サクランボとミントが添えられていて、白いカクテルなんてのはそう多くない。

 確かに口当たりは甘口だが、度数は38でウォッカベースのこのカクテルは雪国と言う。ならばと思い、俺から1杯ご馳走させてくれとマスターに注文すれば少女は嬉しそうに笑った。

 

 「それ、貰っていいの?」

 「構わねェよ。こっちも呑めるだろ?」

 

 疑問符を付けて訪ねたが、間違いなく雪国を好きな奴なら好みだろうと分かってる。名をハンターと言うこれは、ライまたはバーボンウイスキーとチェリーブランデーで作られる甘口の酒だ。度数は雪国と同じだ。

 度数が高いと知らずに呑んでしまった女が、動けなくなる事も多い為にこの名を付けられた。女を持ち帰る為の酒とも言える。

 

 「ベルメールさんの髪みたいで、素敵な色よね」

 「……酒を呑みたくて来てるのか?」

 

 思わず問いかければ、困ったように笑われる。どうやら他にも来てる事に理由があるらしい。

 

 「それだけの為に来られるなら、それが1番よね。……お兄さん、明日って暇?」

 「まァ、予定はねェな」

 「なら、今夜少し時間くれない?」

 「……まァ、構わねェけど、無防備が過ぎやしねェか?」

 

 問いかければ、ごめんなさいと謝ってから、どうしても必要なのよと小さく呟かれる。何か相談事かと安易に考えた俺はそれに頷く。

 もしかしたら、金が必要とかって事なら仕事紹介位してやれるかも知れないしな。本当に無防備で、愛らしい顔立ちの子だとカクテルの度数は忘れて笑う。

 グラスを簡単に空にして、顔色1つ変えない少女は淡く微笑んだ。それはなんと言うか透明過ぎて、自分が穢れてるなと思わされる。

 近くの宿にさり気無く肩を抱いて連れ込んだのは、疚しい心など……まァ、あるよな。こんだけ可愛いんじゃ。

 部屋に入るとその可愛い顔を俺の肩に埋めて来るから、これは勘違いされて喰われても仕方ねェぞと言おうとした時、ごめんなさいと小さく呟かれて……直後に痛みを感じた。……なぁる、ご同業か。

 種族は違っても、それならば分かる。いつも人間相手にこうして居たのかと。

 乾涸びて死ぬのだけは勘弁だなと思った時には歯を抜かれていて、その歯の刺さった筈の所を舐められると痛みが消えた。どうやら治癒をしてくれたらしい。

 これならば確かに吸血鬼だとは、噂される事も無いよなと思う。そっと俺から離れた少女は、申し訳無さそうに眉を寄せている。

 

 「いい人なのに、騙してごめんなさい。いい夢、見てくださいね」

 

 そう言って俺に毛布をかけようとするのが見えれば、これも保護しておくべきだろと思わされる。こんなお人好しの妖怪を1人にしておけば、遠からず穴だらけにされて売られて終わりだ。

 人間の残酷さを知らないのだろう。そして、妖怪の残虐さを知らないのだろう。

 その腕を掴み、気付いた時には無意識でその唇を奪っていた。甘い少女はふるりと体を震わせて、頭を抑えている俺の手に尻尾を絡ませて来る。

 引き剥がそうとするように、力が尻尾に入って……尻尾?

 吸血鬼に、尻尾!?

 思わず唇を離せば、真っ赤になっている食べ頃の猫がいた。……なんだって猫が吸血するんだよと思い、珍しすぎる生き物を何がなんでも保護すると決める。

 ……Trick or Treat……その心を奪われたのは、さて、どちらでしょうか?

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