季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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ハロウィン/妖怪(冥王レイリー)

 最近はろくな事が無いなと、色々と思い返してしまう。噂では美男子だった人物は実際の所ハリボテの盗賊で、色々と奪われた人間がその恥を隠す為についた嘘によるものだった。

 美味い獣がいると聞いてみれば、単純に料理人の腕が良くて、獣自体の何かではなかった事等を思い出しつつしみじみとそう思う。まぁ、美味かったのだから、文句は無いが。

 だからこの度噂になっている美女にも、全く信憑性は無い。何しろ最高に幸せな気持ちになったと言う情報しか無いのだから、金を奪い取られた男達の妄言だろうと考えて何がおかしいだろうか。

 ブランデーをロックで呑んでいれば、カウンターの片隅に女が座って居るのが見えた。否……女と言うにはまだまだ若く、お嬢さんと呼ぶべきだろうが。

 1人にして置けば宜しくなさそうな美貌に、そっとボトルとグラスを持って歩み寄ればお嬢さんは私を真っ直ぐに見て、それからボトルを見た。その瞳はボトルに釘付けのまま輝き……成程私よりも酒の方が魅力的かと思えば、笑うしかない。

 

 「こんばんは、お嬢さん」

 「こんばんは。それ、サリニャックよね?少し味見させて貰えたりしない?」

 「……構わないが、何で呑むつもりかな?」

 「すと……いいえ、あー……ロックで」

 

 今ストレートと言いかけなかったか?

 確かにこれは、混ぜ物をしない方が味わいを楽しめるものだが、ストレートで呑むような軽い酒では無いと思うのだが……。手元を見ればラスティ・ネールを呑んでいたと分かり問題は無さそうだと判断する。

 甘口の酒だから騙されやすいが、アルコール度数は40ある。スコッチ・ウイスキーとドランブイで作られる錆びたクギと呼ばれる酒だ。

 

 「イケる口かね。なら、少し付き合って貰っても構わないかな?」

 「……喜んで」

 

 名を尋ねれば素直にナミと名乗った無防備な少女に、私も名を告げる事で取り敢えず体裁を整える。頼むカクテルは度数が35以下のものは無く、ただ口当たりの優しい甘い物を好む傾向があると気付く。

 成程、ならばサリニャックを舐めたいと言うのも分かる。いつ作られたかにより味が少し異なるが、甘口の酒だからこそ好きならばそれなりに反応する。

 2人で何本のボトルをあけたか分からなくなる程に呑んで、それでも平然としているナミに、中々に持ち帰るには骨が折れそうだと若者達の苦労を思う。無邪気に笑うナミは、本当に酒が好きなのだろう。

 

 「さて、ナミちゃん……遅くなってしまったが、家まで送ろうか?」

 「……そうね、でも、近くに部屋でも取るから心配しないで。レイリーさんも気を付けて帰ってね」

 「せめて、その部屋まで送らせなさい。心配でならないよ」

 

 何とも無防備な様子に溜息を落とせば、キョトンとした顔で私を見て、優しいのねなんて笑う。……男は骨になるまでと言う言葉を、どうやらナミは知らないらしい。

 部屋のドアまで送れば、ありがとうと微笑み無防備に背中を向けるナミ。それに悪戯心が刺激されて背後から抱き締めて、その首筋を舐めれば可愛い声がもれた。

 その直後真っ赤になったナミが睨みながら部屋の中に転がるように入った。なので、私もそれを追うように部屋に入りドアを閉める。

 そこまでされて漸く、警戒した様子を見せたナミに遅すぎるなと思う。微かにでも、震える体で私に挑むような視線を向けて来る。

 人間の小娘が、私から逃げられる筈も無いだろうに。けれども腕に自信があるのか、気の強そうな眼差しで私を射抜いてくる。

 

 「……逃げるには遅いよ、ナミちゃん」

 「レイリーさん、私は……そんなつもり無かったのよ。だから……恨まないでね」

 

 そう言ってナミから抱き着いて来たと思った直後に、首筋に歯を立てられる。……吸血鬼か。

 相性は悪くなさそうだと内心で笑ってしまうのは、その体が慣れない行為に震えているからか。吸われる快楽に、確かに人間の男が幸せな夢を見るのも分からなくはないと思う。

 だが……と思った時、牙が抜かれてその跡を消すように治癒を施されれば、やはり甘いと思わされる。そっと体を離して、罪悪感タップリな顔で、ごめんなさいと呟くその頭には、フルフルと震える愛らしい猫耳がある。

 ……猫耳?吸血鬼に、猫耳??

 捨て猫のような顔で、割れた尻尾を揺らしながら私を心配している様子に、これは手放せないとほくそ笑む。これ程に愛らしい生き物が他に居るだろうか。

 年甲斐もなく本気になりそうだと、その細い体を抱き込み、驚いているその肢体をベッドに落とす。

 Trick or Treat……たまには噂を信じてみるのも悪くは無いと冥界の王は笑う。何も知らない子猫は、冥界の王に昼も夜も無く愛される事となるのだが、知らぬは子猫ばかりなり。

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