そろそろ掃除も終わったかなと思った俺は、ナミの様子を見に向かう。
その直後ナミが珍しく飛び付いてきて、甘えて来るから咄嗟にそれを抱きとめる。部屋を見れば、とっくに大掃除なんて終わってた様子に少し驚いた。
あれだけ積み上げられていた紙とか本とかが綺麗に片付いていて、机の上にペンが立てられてるのと、インクがある他何も乗ってない奇跡を見た。すげェ……こんなに片付いてるの初めて見た。
そんな事を考えている俺の肩に、ナミは顔を埋めて体を強く抱き締めてくるから、その甘えるような動きに俺は自分の理性との戦いを強いられる。本当にナミは可愛いンだよなァ……今襲ったら不味いのは解るけどよ。
「ナミ、これロビンから」
箱を手渡す為に少し距離をおけば、それが少し物悲しく思える。ナミは可愛いらしくキョトンとした顔を見せるから、ロビンから話は何も聞いてないらしいと知った。
箱を手にしたナミはそれを部屋に持って入るので、俺もその後に続く。俺も中身知らねェんだよなと思ったから。
そうして中から出てきたのは洋服だったらしくて、ナミは懐かしそうにその瞳を細める。それから少しその中身を物色して、1人で頷いている。
「洋服か?」
「和服よ。振袖って呼ばれる種類ね」
「何か違うのか?」
「布の作り、裁縫のやり方、色の付け方、全て洋服とは異なるわね。まず和服のそれは「あァ、もういいや。ナミが好きな服なんだろ」」
放置したら何時間でも語られそうなそれを慌てて止めれば、ナミはそれに対してクスクスと笑う。その顔が本当に楽しそうで、なら良いかと思わされる。
「ナミ、明日だけどよ……2人で出掛けよう!」
「お任せするわ、船長。今夜は夜ご飯の後で蕎麦を食べられるし、その後はお年玉も配るから楽しみにしててね」
「おう!楽しみにしてる!」
そう言ってナミと唇を合わせてから、また後でなと言って部屋を飛び出す。無防備で愛しい彼女を明日は、しっかり守らないとななんて考えながら甲板に出て遊んでいたら夕飯だぞとサンジが声を掛けてくれる。
夕飯はいつもと同じ感じで、ナミとゾロとサンジのお陰で魚料理が異様に多い。でも、蛸とか海老とかも出るから毎日の食事は本当に楽しみだ。
ナミがナミとは違う名前、ホウギョだったかな?で出したお正月料理の本ってのを手にして、サンジは1人でキッチンにこもってるし、お正月遊びの本ってのを見てフランキーがウソップと何か作ってるのを見掛けた。皆が側に居てくれて、俺は本当に幸せだよなとしみじみ思う。
夕飯の後は正月をどう過ごすのかとか話して、2日の日に皆で遊ぶと決まれば1日は自由行動になる。それを受けてナミはフランキーにロビンとの時間も作りなさいよなんて言ってて、それを聞いたロビンが顔を赤く染めてるのが見えた。
ロビンはナミの前だと反応が素直だよなと思う。それと同時に、ロビンが女で本当に良かったと息を吐き出す。
俺は時々本気で思う。この船って皆、船長である俺よりナミを大切にしてるんじゃねェかな?ってさ。
まァ……それに対して、ただ守られてるお姫様で居てくれねェのがナミって生き物なんだけどよ。どうしたら守れるだろうか、大切な仲間と愛しい彼女を。
その日の日付が変わるタイミングで食べられるようにと用意された蕎麦は、それぞれの喜びそうな天麩羅が乗せられていて、俺の天麩羅は肉だった。それに喜んでいたら、ナミの姿が見えない事に気付いて辺りを探しに行こうとした所で、ブルックが何か演奏しましょうかと言って笑った。
ブルックが手にしているのは、ナミが書いてた楽譜だ。なら、お正月ソングって奴なのかもと気付けば探しに行くか演奏を聞くかで悩んじまう。
その時ナミが戻って来て、見慣れない服装に少しドキリと心臓が高鳴るのを感じた。いつもの様に肌を露出してないナミは新鮮で、無意識で腕を伸ばしてナミを抱き寄せていた。
俺の胸に抱き込まれたナミは、驚いたような顔をした後、優しく笑ってくれる。そして、少し不安そうに似合わないかな?なんて聞いてくる。
「逆だよ馬鹿。誰にも、見せたくねェ」
「ありがとう、ルフィ」
照れたように笑いながら、振袖1人で着るとか大変だったから報われた気持ちになるわなんて笑ったナミ。それに、そのまま食らいつこうとしたらロビンの手が生えてきて阻止された。
なんだよーとロビンを見れば、ロビンが呆れたような顔で俺を見て、ナミを連れ去る。俺のナミなのに、酷ェ!
「ナミはまだまだ忙しいのよ。ルフィは蕎麦食べて大人しくしてなさい」
「ロビン、助かったわ」
何が助かったんだよと思わなくも無いが、ナミは人前でキスしたりするの嫌がるからそれかと遅れて気付く。でもよ、ナミがいたらするだろ。
項が見えるように丸められた髪には、何となく見覚えのある髪飾りがあって、どこで見たんだったかなと少し考える。それよりも項が綺麗で、すぐにでも食いつきたいなと思わされたんだけどよ。
蕎麦を食べて、挨拶して、ナミが全員にお年玉を配る。そこでお年玉とは本来お餅の事でなんて語り始めたのを聞き流して、小遣いとは別に貰えたお年玉の中身をホクホクした気持ちで眺める。
「さて、ルフィ。1眠りしてから出かける?」
ナミからのその言葉に、俺は慌てて首を横に振る。寝るのは、2人で宿に泊まった時だと決めてるんだよ俺は!
「すぐ行こう!ハツヒノデをナミと見るんだ!」
俺の言葉にナミは笑って、そういう事ならと言って俺の腕に抱き着いてきた。そして、エスコート宜しく!なんて明るく笑ってくれるから、俺は顔が赤くなるのを自覚して、この場で襲うぞコラと思いながらも歩き出す。
いつもよりゆっくり歩いてるナミに、俺に絡みついたのは歩きにくいからかと気付いて何か期待した気持ちが萎える。でも待てよ、頼ってくれてるのかと気付けば、それはそれで嬉しい。
「ルフィ?」
どうやら百面相してたらしいと気付いてなんでもねェと返せば、ナミは可愛い笑顔で楽しそうに笑う。その笑顔を見た俺は、ナミが笑うならなんでもいい気がしてきた。
小高い山が見えて、その頂上まで歩いて登るのは時間が掛かりそうだなと思った。なので俺は、ナミを腕に抱いて空いてる腕を伸ばすと1気に上まで移動する。
登った所はまだ途中だったらしくて、屋台がいくつも並んでいた。それに思わず歓声を上げれば、ナミが少し食べてく?なんて聞いてくれる。
それから少し周りを見て、俺に優しく微笑む。どうやら座れそうな場所を見付けたらしい。
「席取っておくから、食べたい物買ってきて。私には甘酒をお願い」
「分かった!」
すぐに動こうとした俺に、ナミは財布を投げ渡してくる。それはナミの財布で、それの中身で買ってきなさいなんて笑う。
……ナミはこうしていつも俺を甘やかす。優しく笑うそれが、いつの頃からか母親の顔じゃなくて恋人のそれに代わりつつある事は気付いてるけど、たまには俺に甘えて欲しい。
甘やかして来るばかりのナミを、甘やかしてやりたい。ナミが皆の前で泣いたりする事が出来ない事は知ってるから、俺の前では好きに泣いて欲しいと思う。
「何か食いたいものは無いのか?」
「お蕎麦食べて来たばっかりだから……それに、とりあえず寒いから暖かいものが欲しいのよ」
笑うナミに俺はとりあえず俺のコートをその肩に掛けてから買ってくると言って飛び出す。コートを掛けただけで顔を赤くして俯いた可愛いナミに、変な男が寄ってくる前に帰るぞと急いで買い物を済ませれば、戻った時には感電してる男が何人か転がっていた。
やっぱりそうなるよな。ナミ、可愛いもんな。
「待たせたかァ?」
「そんな事ないわよ。お帰りなさい」
嬉しそうに微笑むナミを見て、辺りがざわめく。いつもの微笑みだから、特に変わった事はねェだろうと思っていたら、その辺から男が1斉に減り、知らない女が何人もナミに声を掛け始める。
「そんなに好きなんだ?」
「それだけ好きなら、他の男は邪魔よねー?」
その言葉に悪意は感じられなくて、なんだろうと思って首を傾げていたらナミが恥ずかしそうにしているのが見えて、どうやら俺の事で揶揄われてると分かる。その瞳が潤んでいるのに気付けば、食べ物をテーブルに置いて咄嗟にその顔を隠すように抱き締めていた。
「ナミを苛めんなよ。だいたい間違ってんだよ。ナミはな、俺を好きなんじゃなくて愛してんだからよ」
その瞬間何故か近くにいた何人かが同時に噎せて、ナミを揶揄ってた女達がご馳走様と何も食ってねェのに言ってから視線を逸らした。とりあえず落ち着いた様子だったからナミに甘酒を差し出して、俺も椅子に座る。
「甘酒って美味いのか?」
「とりあえず、体が温まるわ。……今、変な暖まり方したけど……もう、ルフィのばぁか!」
「俺、なんかしたか?」
人前だからキスしたり、首筋とか耳に噛み付いたり、服脱がせたりしなかったぞ。そう思っていたら、それが伝わったみたいでナミが低く呻くように言う。
「人前でそんな事したら、即刻帰るからね。私が本気で逃げた時、ルフィに私を捕まえられると思わないでよ?」
「ナミが本気で……楽しそうだな、それ」
「やだ、なんで楽しそうなの……?」
そんなの決まってる。いつも俺に手加減してるナミの本気とやれるのは、どうしたって楽しみだ。
「ん?ナミを捕まえたらそこで好きにしていいんだろ?」
「いい訳あるかァー!!」
珍しく本気で覇気を纏った拳を落とされて、爺ちゃんを思い出した。そんな俺達から周りは視線を逸らしていて、なんだろうなと思う。
腹拵えも済んだところで、財布をナミに返してその体を強く抱きしめると、ナミは何も言わずに俺に抱き着いてきた。俺のやりたい事を何も言わなくても分かってるナミに小さく笑ってから、俺はさらに上を目指してビヨンと腕を伸ばす。
頂上にはまだそれ程人が居なくて、俺はそれに小さく笑う。ナミはそんな俺の頬にそっとキスをして、視線を太陽が登る方へと向けてしまう。
俺からもと思った時、何人かの足音が聞こえて小さく舌打ちしてから、俺も仕方無くそれに視線を向ける。
「今年も1年、ルフィや皆とずっと1緒に居られたら良い。ルフィを少しでも支えていけたら……」
「これ以上どうする気だよ。ナミは俺をいつも支えてくれてる。寧ろもっと俺に甘えろ。俺は海賊王になるって決めてるけどよ、その隣には無傷のナミがいる予定なんだから、無理はしないでくれ」
思わず零れる俺の本音に、ナミは驚いたような顔を向けて、小さく迷惑かけてない?なんて聞くから、後で怒られるのを覚悟でナミの唇を塞ぐ。
本当に馬鹿なんじゃねェかと思う。ナミ無しで、どうやって俺に海賊王になれって言うんだか。
俺の心も、未来も、幸福も、全てナミが支えてくれて、護ってくれてる。感謝と信頼と愛を込めて、俺は言う。
「Happy new year今年も、いやこれから先ずっと、1緒に居てくれ」
嫌だと言われても、逃がすつもりなんて無い癖に、俺はにししと笑ってナミに再びキスをした。その髪を纏めて居る髪飾りが、クリスマスに俺が贈った物だと言う事に気付いたのは、もう少し時間が過ぎて宿に到着してからの事だった。