大した事の無い相手との取引のついでに、海でも見せてやるかとナミを連れ出しては見た。それにしても、船の上にいるナミは陸の上とは明らかに別人だな。
陸の上では美しく賢い人形のようだが、船の上では歴戦の戦士を思わせる横顔を見せる。知的な瞳に自信を漲らせて、天候を読む姿は女神を思わせる程だ。
そんなナミがクリスマス終了と同時に始めた執筆と掃除で、中々触れ合えなかったのは少々ではない誤算だ。だがナミの書いた物のお陰で珍しい事も多く、楽しい気持ちで正月を迎えられそうだと笑えばナミも嬉しそうにしていた。
今は俺の部屋である筈なのにも関わらず、実質はナミの書斎となっている部屋を片付けている筈だが、そろそろ終わった頃か?
ドアを開けるとその瞬間にナミが飛び付いてきて、可愛い奴だとそれを抱き締めてやる。それに嬉しそうな顔をするから、船に乗せたのが良かったのかと笑みが零れた。
「掃除は終わったか?」
「大体ね。どうしてこんなに、勝手に本が増えるのかしら?」
「そりゃナミが新たに生み出すからだろ」
当然だろうと言葉を口にすればナミは成程、勝手に産まれてたら増えるわよねなんて言い出す。待て違うぞ、お前が生み出してんだぞと言っても何故か通じない。
本が子作りしてたまるかと思いながらも、ナミの中ではもう決まっているらしい。なので俺は諦めて、余計な事は言わずにおく。
「……今日は後何か予定はあるのか?」
「レシピは渡してあるから、食事はプロが作ってくれるでしょ?なら、私はやる事なんてないわ」
可笑しそうに笑ったナミに、ならお前は何を食うつもりだと考えて……俺の名で用意出来る最高級のホテルを予約するかと決める。俺が1口食べてからなら、ナミも食えるだろう。
「ドフィ、幾つかお正月遊びに使えそうな物作ってみたのだけど、確認してくれる?」
突然の言葉に構わねェがと言って見てみれば福笑いだとか、凧だとか言いながら披露されたそれは確かに大人数で楽しめそうだ。問題は羽子板か。
……下手したら死人が出るぞこれは。そう思って言葉を口にしたら、能力の使用は禁止で和服を着て行う事が条件よなんて言われる。
それならば死人もでねェかと笑えば、ナミはどうして羽子板で死人が出るのよと怒るが……どう考えても出るだろう。ファミリーは全員負けず嫌いだ。
これがあるなら、揃って遊ぶ時間を作るしかないかと考えながら、なら、今夜はどうするかと少し悩む。どこかへ連れ出せば、ナミが寂しがるかと思ったからだ。
とりあえず、初詣とやらに連れ出すか。そこで何か買い食いさせてやろうと思い、今の内に少し休んどけと頭を撫でると、ナミは嬉しそうに笑って頷いた。
「何処かへ行くの?」
「初詣に、2人で行くぞ」
「……皆は?」
「ファミリー全員で動けば色々と問題があるからな。それに……俺はナミと2人で過ごしたい」
俺の言葉に全身を赤く染めたナミはうっとかあっとか言語では無い言葉を口にするだけで、拒絶はしない。ならば良いという事だなと判断して笑えば、ドフィは狡いなんて言い出す。
「ファミリーとは、元旦とは別に皆で過ごす日を作ってやるから、初詣くらいは2人で行くぞ」
「うん」
クリスマスの日に漸く想いが通じ合ったばかりなのだから、少しは恋人らしく過ごさせてくれと願う。それから部屋で少し休むように再度言い聞かせて寝かしつけた後、ナミが知れば泣いて嫌がるだろう子供を使った実験の成果を尋ねる為にモネへと連絡する。
今更辞める事も出来ねェし、辞めるつもりも無いが、ナミに泣かれるのは嫌なんだよと溜息を落とすと、電伝虫の向こうでモネが笑う。私もそのナミって子に会ってみたいわなんて嘯くモネに、良い年を迎えろよと言って通話を終える。
今の所順調に事が運ばれているのは確認出来たが……さて、本当にナミは気付いていないのか。気付いているのならば、いつか俺に辞めてくれと言い出すだろうと分かっている。
その時俺はナミをどうするのか。閉じ込めるのか、騙すのか、それとも……?
その時ナミのレシピで作った正月料理が出来たので、試食をナミに頼みたいと言う連絡が入る。仕方なく俺はナミを起こしに向かった。
俺に起こされると素直に意識を浮上させたナミが、俺からの説明を受け1瞬その身を強ばらせた後、頷いてくれた。まだ、警戒心は抜けねェか。
厨房に向えば、料理長が俺の目の前で試食皿を数枚用意してそれに盛り付ける。それからその1つをナミに選ばせ、自らも手に取った。
そこ迄して料理長が先に口に入れてから、漸くナミもそれを口に入れるのだ。その様子に苛立ちが募る。
……インペルダウン迄、始末しに行きたくなるな。あの魚共め。
恐らくナミはそんな事は望まないのだろうが、それを俺が望んじまうくらいにはナミが愛しい。まァ、俺がスッキリするだけで、ナミが知れば嘆くだろうからしねェがな。
毒されているとしみじみと思う。その儀式のような重苦しい試食会を終えたナミは、優しく笑うと1つ1つ丁寧に改良点を伝えたり、想定よりも美味しいと言って褒めたりする。
飲食に関しての警戒心と、眠る事に怯えるそれが他の警戒心を奪ったのか。もしくは元々持ち合わせていなかった警戒心を、魚共が無理に植え付けたのか。
どちらにしてもその2つを除けば警戒心の欠けらも無いナミに、自然と苦笑がもれる。そんな俺に気付いたらしいナミが、美味しくなかった?なんて聞いて来た。
なのでそれに、食ってねェと答えると慌てて全種類が用意された。その早業に小さく笑っちまう。
それを心配そうな顔で見てくるナミに、お前が作った訳じゃねェだろうと笑いながら食べてみれば、全体的に甘い。ロシーは喜びそうだなと思ってから、まだ〝暖かな家族の思い出〟とやらに縋っているのかと自嘲する。
「思ったより甘いな」
「甘さ控える?」
「入った甘味は消せねェだろう」
「醤油足せば良いのよ。大丈夫だから、素直に教えて」
「なら、甘さを抑えてくれ」
俺の言葉に料理長は即座に反応して、ナミに対応方法を確認している。それに笑顔で応えるナミは優しい顔をしていて、それが少し不快でナミの腰を抱いて外へと連れ出す。
カイドウから送られてきた大量の和服を見せて、好きなのを着ろと言えば、物珍しそうに幾つか手に取った。そうして何処か弾んだ様子で、出掛けるなら振袖かしら?なんて言って微笑む。
和服に身を包んだナミは筆舌に尽くし難い程に美しく、何故か俺にも服を見繕う。そして、着た事ねェよと言う俺に手馴れた様子で着せてくる。
「私だけ振袖なんて、寂しい」
「分かった。好きにしろ」
ナミの言葉に逆らえずに袴姿になった俺は、ナミの右手にナミから貰った手袋を嵌めて、自らの左手にもう片方の手袋をしてから、手袋の無い片手ずつをしっかりと握る。その状態で船を降りれば、ナミは不思議そうに俺を見つめてくるから、その額にそっとキスを落とす。
「繋いで無い手が寒いからな。ナミの編んでくれた手袋をすれば、ちょうどいいだろう」
「でも、そうしたら、こっちの手は」
「ずっと、俺と繋いでろ。……寒いのは嫌いだろう?」
俺の手を塞ぐ事を恐れるような顔をするが、手袋をしていても能力は使える。ナミの手は、死んでも離さねェぞと思いながら道を歩く。
歩き始めて少しすると降り出した雪に、俺は思わずナミの体を抱き寄せる。冷気にだって、ナミを触れさせたくは無い。
「……寒く、ねェか?」
「ドフィが優しいから、心まで暖かいわ」
「……ナミ、Happy new year.何があっても俺の傍に居てくれ」
「ドフィが悪い人なのは、知ってるのよ。それでも、私はドフィから離れられないの。……いつか、少しずつでも悪い事を辞めて貰えたら、私は幸せだわ」
ナミの言葉で全てが分かる。分かっていてナミは俺と居るのだと。
覚悟を決めて居るのだと分かれば、後は俺の心1つ。神だの仏だのを信じるつもりはねェが、ナミの為に何が出来るか、何なら叶えてやれるかをゆっくり考えていこうと心に誓う。
壊したくないと想える大切な存在を、愛しい温もりと笑顔を守る為に。今年も共に、生きる為に。