今日の予定については特に聞いてなかったが、多分ナミの事だから俺の為にと予定を開けてるだろうと思って部屋のドアを叩く。中から出て来たナミは俺の姿を見て不思議そうにしてから、ハッとした顔をする。
「今日、クリスマス!?」
「あァ、だから出掛けよう」
「でも、私それに合わせられる服が今は……」
俺がタキシードを着てるからだろうが、困った顔をするナミに、とりあえず寒くない姿をしてくれたらいいと伝えれば小さく頷かれる。俺もコート買わないと流石に寒いと呟けば、その瞳を落としそうな程に見開いてから、クスクスと笑うナミ。
「なら、見繕ってあげるわ。ロシーなら、何着ても似合うと思うけど……いっそ、ペアルックにでもする?」
可愛らしい笑顔でそんな事を言われて、頷かない奴が居るだろうか。いや、いる筈がねェ!
コクコクと頷く俺にナミは楽しそうに笑うと、そっと俺の腕に手を伸ばして軽く引っ張る。それに誘われるように中に入ると、部屋の中には手作り感満載のプレゼントの山が置かれていた。
その中から1つの箱を手にしたナミが俺に差し出して来た。ほぼ無意識でそれを受け取ると、俺に着替えてくるからそれ持って外で待っててなんて言い出す。
部屋の前でそれを開けてみれば、中からネクタイピンが出て来てた。それをよくよく見てみれば、ネクタイピンには音符の飾りがついている他に、音符の丸い部分に1味のマークが彫られていると気付く。
特注かとそれを眺めて、そっとネクタイに付ければそのタイミングでドアが開いた。振り向くとナミがコートを着て立っていて、俺にもコートを差し出して来る。
「お店までコート無しだと風邪ひいちゃうわよ」
「それもそうか。よし、行くか」
そう言ってコートを着た俺に、ナミは笑いながらそっと手を伸ばして俺の腕に自らの腕を絡めて来た。甘えるように擦り寄ってきたその行為に、頬が緩む。
蜜柑の香りが、ふわりと漂えばそれに幸せだと感じる。本人にそんな香りを纏ってる自覚はねェみたいだけどな。
「ナミ」
「ロシー」
互いに見つめ合って名を呼び合う、それだけで自然と笑顔になれるのだから不思議なものだ。共に船を降りて、服を買いに行けば店内は程よく暖められていて、ナミに似合いそうな物はと見渡して困る。
唸る俺をナミと店員が不思議そうに見て来るが、何故分からないのか。どれを見てもある意味で同じだ。
「ロシー?」
「全てナミに似合いそうで、選べない。寧ろ似合わない物なんか無いんじゃないか?」
その瞬間ナミが顔を赤くして、俺の腕に抱き着いて顔を隠してしまう。どうしたのかと思いながら頭を撫でれば、小さくロシーのばぁかと言われてしまった。
変な事を言ったつもりは無いと言うのに、何なのか?
「今日は、クリスマスだから、赤い服にしようと思うから……その、待ってて?」
「俺は選ばなくていいのか?」
「……だって、参考にならないと思うもの」
「まァ、確かにどれを着てもナミなら似合うだろうし、誰がそれを着るよりもよりも綺麗だろうからな」
そう言ってナミと視線を合わせたら、泣きそうな顔で真っ赤になっていて、熱でもあるのかと心配になる。どうした?と問い掛けると、天然誑しめ!と何故かつのられた。
首を傾げている間にナミは店員と話をして2着のワンピースに候補を絞ると俺の前に持ってくる。それから、どっちが好み?なんて首を傾げるから、それのうち片方を迷わずに示す。
それに頷いて、着替えてくるわと言ったナミの残したワンピースを片付ておく。……こっちも可愛いとは思うが、露出が多過ぎて変なのに狙われたりするのでは無いかと気が気じゃねェんだよ。
更衣室から出て来たナミは美しく、つい見惚れてしまう。それから近くにあった同じ色合いのヒールを持って行けば、ナミは素直にそれをはいてくれる。
「……本当に、似合うな」
「ロシーのそれに合わせなきゃって思って、これでも考えたのよ。良かったわ、気に入って貰えて」
俺がそれに頷くと、それぞれに合わせたコートも用意して貰い、着ていた物は船に届けて貰うように手配すれば後はまた外に出る事となる。外は雪が降っていて、どうしたって寒い筈なのにナミが俺の手にその身を寄せて来るから、寧ろ温かくさえ感じる。
「足元が悪いからな、俺から離れるなよ」
「……そうね、本当は優秀なのにドジ要素が強過ぎて階級が低かったロシーを、1人には出来ないわ」
「なんだそれ、俺が危ないのか?」
「当然じゃない。何も無い所でも転ぶんだから、雪の日なんて危険極まれりよ」
そんな事を言い合いながらクスクスと笑う。甘えるように擦り寄ってくれるのは、寒いからかそれとも甘えてくれているのか。
どちらにしても2人で過ごせる時間が貴重な事に変わりはない。だからこそ、僅かな隙間さえ厭うような気持ちになる。
「ロシー、何か食べたい物ある?」
「何でも良い」
「……ふぅん?なら、ピザに「悪かった。俺が悪かった!」」
俺の反応にナミは可笑しそうに笑い、冗談よと言う。それから洋食のレストランにでも行きましょうかなんて言うから、頷くと優雅にエスコートして来る。
おいおい逆だろうと騒ぎたいような気持ちにさせられるが、同時に手馴れた様子のそれに見惚れる。動作の1つ1つが美しくて、思わずその手を掴み甲に口付けを落とせばナミがその顔をほんのりと赤く染めた。
「なんなの、突然」
「可憐な天女に、俺の想いが伝わる事を願って……」
「いつも、伝わってるわ。大好きよ、ロシー」
「足りないな。俺はナミを愛してる。……ナミは、大好き、か?」
「……もぅ、ロシーのばぁか!」
子供のように言って唇を尖らせたナミは、けれども耳まで赤く染めているからただ恥ずかしがっているのだと分かる。可愛いそれに笑いながら、入ったレストランはそれなりに混んでいて……。
「予約しておりましたナミと申しますが、用意は?」
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
予約してたのか。ならなんでさっき食べたい物聞いたんだよ。
そう思うが、席だけの予約という可能性に気付いて1人で納得する。案内されたのは個室で、窓の外は相変わらず雪が降っているのが見える。
「予約してたのか」
「……ロシーと、来たかったのよ。誰にも邪魔されないで、2人で過ごしたかったの」
「ナミ」
名を呼べば少し苦しそうな笑顔を俺に向けて、それから少し俯いた。本当に、どうしてこうナミは自分に自信がねェんだろう。
「分かってるのよ。ロシーの能力があるから、何をしても声とか音で気付かれたりしないんだって。でもね、2人きりじゃないでしょ?」
言われてみれば確かにそうだ。俺は副船長として常にクルーやローを見ているし、ナミも参謀として忙しくしている。
2人になれる僅かな時間だとて、何かがあれば即座に終わりを告げるのだからゆっくり2人きりなんてのは基本的に無い。それに不満なんて言われた事は無かったから、当然のように無いのだろうと思っていたが……。
「寂しい想いをさせて、悪かった」
「我儘な私がいけないのよ。過ぎるくらいに、幸せなのに……」
「無欲だな、ナミは」
思わず呟いた俺にナミはキョトンとした顔を向けて、それから首を横に振る。当然の事を願って、贅沢だと言うナミが、俺には少し悲しい。
「私は誰よりも傲慢で強欲よ。……私は、誰も何も喪わないで、ロシーと幸せでいたいと願ってるもの」
「ナミ?」
「ロシーの全てが、私のものだって、信じてるの。ね、傲慢でしょ」
「俺も、それなら傲慢だな。俺も、何も喪いたくはねェし……ナミは俺のものだと決めている」
互いに互いを見つめ合い、テーブル越しに手を取り合った時、店員が料理を運んで来た。いつ注文したのかと思っていたら、入口でと笑われてしまう。
目の前に出されたのはレタスをふんだんに使っているサラダに、赤いドレッシングが掛けられているものと、メイン料理のロールキャベツで……俺の為に選んだと即座に理解する。細かいところ、良く見てるよな。
「ドレッシング、梅にして貰ったから……」
そう言って笑うナミは、穏やかで暖かい。いい歳したオッサンを甘やかすなよ。
「俺の好きな物だけと言えそうな感じだな。良いのか?」
「肉を頼んだらレタスかキャベツは着いてくるけど、メインに持ってきてる物って多くないでしょ?折角のクリスマスだし、楽しんで欲しくて」
「俺は……ナミがいればそれだけで充分なんだがな」
「私は強欲だから、ロシーが居るだけじゃ嫌なの。ロシーには、笑ってて欲しいわ」
そう言って妖艶に微笑むそれは、本当に10代の少女なのかと息を飲まされる程。更にはその瞳が、俺への愛情に満ちているとわかるから、俺は笑ってしまう。
この先の為に、ホテルだけは予約してあるのだとどうやってナミに伝えるか。今夜は、俺だけのナミでいて欲しいと願いつつ、用意された食事に手を伸ばす。
Merry Christmas……恋人達の聖夜に見詰め合う。傲慢でも強欲でも、互いに望みが合致するならばそれはただの幸福な恋人達の夜でしかないのだから。