コック達とナミが何やら最近忙しそうにしていたが、今は部屋の掃除をしている筈だと思い出してナミの様子を見に行く事にする。ナミの部屋のドアを1応ノックしてから開ければ、中から人魚……いやいや、ナミが飛び出して来た。
甘えるように抱き着いてくれた俺の天使をそっと抱き締めれば、部屋の中に本がまだ少し積まれているのが見える。本の整理は珍しく苦手なんだよなと笑いながら、その頭を撫でてやる。
「手伝ってやるから、早く終わらせてゆっくり過ごそう」
「掃除が終わったらお風呂入る。なんか埃っぽい」
「そうか?いつもと変わらずに可愛いと思うが」
「ロシーはそういう意味では、本当に全く当てにならないわね」
何故か深々と溜息を落として、けれども俺から離れようとはしない。スリスリと甘えて来るそれは、猫がマーキングして来るのと良く似ている。
まァ俺はナミのものだから構わないが、本当に珍しい事もあるもんだなと笑う。今なら喉も鳴るんじゃ無かろうか。
「ロシー……掃除疲れた」
「どうした。熱でもあるのか?」
「本が私に読んでって言ってるのに、読めないとかつらすぎる!」
「嗚呼、本を読みたくて色々超えただけか。嘆くなよ、後で何か新しい本買ってやるから」
その瞬間ナミが良いの?と言いながら潤んだ瞳を向けて来て……それに頷こうとしたら背後から地を這うような声が聞こえた。
「駄目だ。本を増やすな馬鹿が。本の重みで沈んだらどうしてくれる」
「ロシー!ローちゃんが反抗期よ!」
「ロー!ナミを虐めるな!」
「虐めてねェよ!コラさんこそナミを甘やかすな!本当に沈んだらどうしてくれる!」
「うぅぅぅ……」
ローの言葉にナミが半泣きになるから、その頭を撫でつつ耳元で1冊だけな?と囁くとパッとナミの顔が華やいだ。うん、可愛い。
思わず笑顔を向けた瞬間にローがいい加減にしろと呻くように言ったので、とりあえずナミを解放して背後に庇いつつ笑って誤魔化す。今はこれ以上、本の話題には触れない方が良さそうだ。
「ナミの掃除手伝うから、またな!」
「何を言ってるんだコラさん。ナミの仕事を増やすっていうんだそれは。コラさんには別な仕事を任せるからついてきてくれ」
その言葉に俺が逆らえる筈もなく、ナミにごめんなと言ってからローの後に続く。それをまた後でねと見送るナミは、相変わらず優しい笑顔を向けてくれている。
少し離れたところでローが呆れを隠さずに、俺に視線と共に言葉を向けて来る。だがその言葉に不安の色が見え隠れしているのは、長い付き合いだからこそ分かっちまう。
「コラさん、あまりナミを甘やかすな。……ナミをなんの為にこの船から基本的に降ろさずに、閉じ込めていると思っているんだ」
「無人島の他は、俺かローと2人、もしくは3人でしか降ろさない理由は分かってる。だからこそ、甘やかしたくもなる」
「コラさん!ナミは、世界とアイツから狙われている。それから守る為には多少の「それは、ナミが望んだ事か?」」
俺の言葉にローは黙り、そして小さくその拳を震わせる。本当は、ローとて分かっているのだろう。
俺やローに守りきるだけの力があれば良いだけの事だと。そして、ナミは何も悪くは無いのだと。
「世界を見たいと言うナミを、人が多い、治安が悪いと言い訳して直接の測量はほぼさせずに閉じ込め、その上本まで奪うのか。歌っていいのは、海底でのみとして自由を奪い……それで守れるのは、肉体だけだろう」
「俺は……もう、コラさんやナミを喪う可能性を少しだって、感じたくねェんだよ」
弱々しく言葉を口にするローに、思わず手を伸ばした時、俺の背後から声が聞こえた。それは聞き慣れた、優しい声。
「ローちゃん、ロシー、ありがとう」
「「ナミ」」
俺とローは同時に振り向き、そして、声が同時に音となった。そんな俺達にナミは微笑みを浮かべて言う。
いったいどこから聞いていたというのか。そして、話を聞いていてどうして笑えるのか。
「2人が私の為にって頑張ってくれてるのは、ずっと知っていたわ。だからそんなに自分達を責めないで。私はね、2人が笑っていてくれる事が、幸福なの。守られなくていいくらい、強くなれたら良かったのだけど……。ごめんね、弱くて」
「ナミは、強い。勝手に不安になってる俺が……悪いんだ」
「ロー、それは「ローちゃんは、優し過ぎるのよ。さぁ、顔を上げて。私はクルーよ。ローちゃんが……船長が決めた事に従うから」」
俺の言葉を遮ってそんな事を言ったナミは、ローをそっと抱き締める。幼いローにそうしていたように。
それが気恥ずかしかったのか、それともまだナミを諦めていないのかローが妙な事を言い始める。
「なら、コラさんと別れて俺と「私、コラさんしか愛せないけどそれでもいい?」」
その瞬間俺とローは言葉を失う。いやいや、ナミはローを過ぎる程に愛してるだろう。
「私はローちゃんを弟や息子として愛してるけど、だからこそ襲われたら舌噛んで死ぬわ。私は男としては、ロシーだけを愛してるの」
俺はナミの言葉が嬉しくて、同時に真剣にローと向き合うナミの態度に心臓を掴まれたような気持ちにさせられる。それに対してローは苦しそうな顔で、溜息と共に言葉を吐き出した。
「相手がコラさんじゃなけりゃ、監禁してでも俺のモノにしたんだけどな」
「そういう所は、ローちゃんの方がドフラミンゴと近いわよね」
「五月蝿ェな」
そんな会話が終わる頃、ナミがそっと俺の手に触れた。そして、優しく笑い掛けてくれる。
その笑顔が、全てを分かっていてのものだったと知った今、どこかへ連れて行くくらいしないとバチが当たるよなと思わされる。実際この先も閉じ込めて守るか、自由にさせてそれでも守れるのか、そんな葛藤が俺の中で渦巻き出口を見失う。
そんな俺をナミは笑いながら受け入れて、それから初詣だけ行かせてと言う。今居る島にある風習を何で知ってるのかと思いながら、見れば不安そうな瞳とかち合った。
その不安は、迷惑を掛けていないかと言うものだと伝わるから、俺は息をゆっくりと吐き出した。そんな顔させたい訳じゃねェ事だけは、確かだから。
「ナミが望むなら、何処へでも連れて行くさ。いいよな、ロー?」
「コラさんが守ってくれるなら、構わねェよ。……任せたぞ」
昔から想い続けていた事を……ローの気持ちを知っていてナミを手に入れたのだから。それだけは絶対と心で誓い頷くとその瞬間に、シャチが空気をぶち壊す勢いで蕎麦出来ましたよなんて呼びに来た。
蕎麦って、何でこんな時間にと思ったらナミが嬉しそうに頷いて俺から離れたので、何処かの風習をナミが教えたらしいと知る。本当にどこの風習だよ、それ。
「天麩羅もある?」
「あァ、海老とかき揚げと他幾つか用意してあるらしいぞ」
「良かったわ」
そんな会話がなされて、それについて歩く俺達にナミは振り向くと年越し蕎麦について説明してくれる。成程とそれに頷いて皆と共に蕎麦に手を伸ばせば、優しく笑ったナミがかき揚げを箸で器用に切って差し出して来た。
「はい、あーん」
無意識でそれを食べると美味い。俺もお返しにと海老を切って差し出せば、ナミが素直にそれを食べてくれた。
「なんでそれぞれで食べないんだ?」
ペンギンが問い掛けてきたそれにナミは当然のように返事をしながらも、その視線は俺から離れない。しかもその眼差しは優しい。
「だって、ロシーってばドジで何でもひっくり返すんだもの。でも、何故か私に害が出るようなドジってあまりないのよ。だから、食べさせ合うのが1番安全なのよ。はい、あーん」
「……他に人がいない所でやってくれよ」
ペンギンの何処か疲れたような声が聞こえた気がしたけど、俺としてはナミに次何を食べさせるかの方が重要でそれどころじゃない。年越し蕎麦を楽しく美味しく食べ終えてから、ナミがお年玉と言う名のお小遣いを配ってくれた。
なので、それを持ってクルーがそれぞれ飛び出して行く。なので俺もそれに便乗して、ナミの望んでいた初詣に連れ出してみた。
だが、その時にナミが着ていたのがドレスで……似合うが不思議に思い首を傾げる。和服じゃなくていいのか?
「……ロシーが、クリスマスの日に着ない分まで買って送ってたんだから、着なかったら勿体ないじゃない。それとも似合わない?」
不安そうに聞いてくるが、ナミに似合わないものが存在するとは思えない。何を不安になるのか、既に俺には理解不能だ。
「似合わない物を探す方が難しいのに、似合わないとか、有り得ないだろう」
「……ロシー、誰にでもそんななの?」
「よく分からないが、俺はナミ以外に服の感想を言った事はない。他には興味が無いからな」
「…………ロシーは、私をどうしたいの?」
言いながら真っ赤に染まったナミに、可愛いなと言って抱き締めれば腕の中で馬鹿馬鹿と言い続ける。何が理由かは知らないが、照れてるらしい。
ドレスなら裾が汚れてもと嫌だろうと思って抱き上げたら、転ばないでよと心配そうに言われてしまう。俺はそこまでドジじゃ……あるな。
そんな俺達が目的地に到着すると、ナミは無言で手を合わせて即座に何かを熱心に祈り始める。ナミは、どちらを望むのだろうか。
隠され続ける事か、自由に出歩くことか……。そう思って横顔を眺めていたら、笑顔で振り向いてゆっくりと唇を動かした。
「あけましておめでとう。クルーの皆が健康で無事に生きていてくれる事が、私の望みよ」
「ナミを今後も隠してても、良いのか?」
「皆の安全が保たれるのなら、当然でしょ。測量はさせて貰えてるし、不満なんて元々無いわよ」
笑うナミを抱きしめて、ごめんなと謝るしか出来ない。もっと強くなって、必ずナミを守れるようにならなくては。
Happy new year……君がいる未来だけを、俺は望む。ただ出来るならばどうか、今年もずっと変わらぬ笑顔を見せて欲しい。